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エセ勇者は捻くれている  作者: 星長晶人
第二章 迷宮都市

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エセ勇者は妙案を思いつく

 ダンジョンコアのあった部屋で『ワープ』を使用すると地上に戻り、ダンジョンが消失する。ダンジョン内にいた人々も地上へ戻されるので、攻略されたらすぐにわかるのだ。


 俺達が戻ってきたことを、街の人達は喜んだ。


 そして“狩り取る旋律メロディ・ザ・リッパー”の連中は間抜けな顔で口をあんぐりと開けていた。とても笑える。


「今回私達は五十階層にてスカーレットドラゴンと交戦した」


 受付嬢など冒険者ギルドの関係者もいる中で、道具袋に入れていた死体を取り出しセレナがそう告げた。そして一連の経緯を語り、ダンジョン内が何者かによって改竄されている可能性を示唆し、警告を促す。

 ……無論、顔を青ざめたどこかのパーティ様がいたのを確認するためでもあったが。

 彼女の語った情報によって急遽会議が開かれることになったのは当然のことだろう。


 俺はとりあえず、聖剣を持ち主の下に送る方法を考えていた。なにせ聖剣・レーヴァテインだ。『聖剣召喚』で手元に持ってこれるのかもしれないが、一応本体が手元にあった方がいいだろうと思ってのことだ。

 ということでミリカに勇者一行の行き先と方角を聞いてみた。


「勇者様ですか? それならここから南西の方向に行ったセイラルの街に行くらしいですよ。もう着いているとは思いますが」


 ということらしい。なら話は早い。送り届けるにも遠く、あいつに俺が金を払ってまで聖剣を届けさせたいとは思わない。それならその辺に捨てる。または売り払う。


「……わかった。じゃあ早速持ち主の下に届けるとしようか」


 俺は道具袋から紅の聖剣を取り出すと、


「……持ち主の下まで、」


 外套の剣士の格好で、しかしある程度の人目のない場所で聖剣を持った手を振り被る。そして全ての体躯を発動させて南西、からちょっと左に逸れた地点へと狙いを定めた。


「……飛んでけっ」


 そのまま全力でぶん投げる。ひゅごぉと突風が吹き荒れてレーヴァテインは空の彼方へと飛んでいった。


「……なにやってるんですか」

「……勇者に聖剣を届けた」

「届けた、じゃないですよ! 思いっきりぶん投げてましたよね!?」

「……ああ、行くのも送るのも面倒だし、これなら楽に済むと思って」

「楽だとかそういう問題じゃありません! もし落下地点に人がいたらどうするんですか! 聖剣を他の誰かに奪われたらどう責任取るんですか!」

「……大丈夫だろ。勇者が使うべき聖剣が、勇者の下へ行かないなんてことはない」

「それっぽく言ったら誤魔化せると思ってませんか!?」

「……知らん、もう。俺の剣じゃないし。聖剣の責任は勇者の責任だろ」

「そんな責任転嫁聞いたことありませんよ! もうっ!」


 いつになくミリカが興奮している。はぁはぁと呼吸を乱していた。珍しいな、いつもは作り笑いをしているのに。なにかあったのだろうか。


 ちなみにだが、この時投げた聖剣が物の見事に勇者君の下へ飛んでいき、囲んでいたモンスターを蹴散らして参上したらしい。後々の歴史において、聖剣・レーヴァテインが最も勇者に忠実な聖剣として名を残すことになった由来である。


 そんな終わった聖剣の話はいい。


 ギルド関係者や腕利き冒険者が集まって連日会議をしていたが、なかなかいい案が出ない。そして冒険者やギルド関係者が対策を具体的な対策を立てる暇もなく、次のダンジョンが形成された。


 その日、ディストールの人々は荘厳な声を聞く。


『ディストールの街に住む全ての人々よ。汝らの日々の研鑽を称え、ここに神の試練を築こう』


 男であり女であり老人であり子供である老若男女入り混じった声がディストールに響き渡った。


『見事神の試練を踏破せしめた者には絶大な力を与えん』

『見事神の試練を乗り越えた者には素晴らしき道具を授けん』


 要は攻略したら力を与え、階層突破で装備などが貰えると。


『しかしこの神の試練は汝らディストールの民を称えるモノであり、余所者に邪魔されてはならない。故に、神の試練が制覇されるまでの期間、ディストールを外部から遮断する』


 ……逃げられないのは困るんだが。いざとなったら夜逃げ一択だと思ってたのに。


『ディストールに集いし力ある者達よ。汝らが百階層ある神の試練を突破し、栄光を掴み取ることを願っている』

『では、汝らの健闘に期待している』


 声はそう締め括るとその後一切聞こえなくなった。


 声を聞いた時は半信半疑だったものの、人々は街から出られないと悟ると現実だったのではないかと思い始める。

 神の試練がかなりの難易度を誇っていることは皆知っていた。なにせダンジョンと共に暮らす街の人々だ。途轍もない難易度であることは予想できる。


 そして、今の街にいる冒険者達で果たして攻略可能な難易度なのか、と。


 仮に攻略できるとして、果たして何日かかるのか。この街の備蓄全てを使ったとして飢え死にする前に攻略し切れるかがわからない。

 外部からの物資の補給が望めないならタイムリミットがつき纏う。


「……外套の剣士様」


 俺が声を聞いて街を覆うように出現した赤いドーム状のなにかを『観察』していると、こそっとミリカが声をかけてきた。


「あれ、破壊できませんか?」

「……無理だろ。魔力の種類が違う。強引な力業で破れるような代物じゃないな」


 ドームから感じ取れる魔力はなんというか、生物の放つそれとは全く別物に思えた。それらしき名前を、先程の声と合わせてつけるなら。


「……さしずめ“神の檻”ってとこか」


 なにより攻撃したら反射されるような気がする。


「クレトさんでも無理なら不可能ですね。……とか言ってホントはいけるとか」

「……ないな。運良く壊せたとして、俺は死ぬ」

「クレトさんが死ぬなんて想像できませんけど」

「……過大評価しすぎだろ」


 ミリカが普段とやはり違うように感じる。しかし『観察』しても違和感はない。俺の気のせい、ではないと思う。


「……お前、ホントにミリカか?」

「酷いこと言いますね」

「……外套の剣士に寄せる期待が本心みたいに聞こえるんだよ」

「……」


 今までミリカは実力として俺を認めつつも過度な期待はかけてこなかった。冗談混じりなら兎も角、できもしないことを期待するのは違う気がしたのだ。


「……クレトさんは、よく見てますね」


 少し驚いたように、薄っすらと微笑んだ。それは作り笑いではなく、本心からの表情に見える。


「……ああ、癖だからな」

「なら、きっとクレトさんにはわからない(・・・・・)ですよ」

「……そうか」


 俺には複雑な心境を全て読み取るような力はない。ただの『観察』結果なのだから、間違って当然だ。


「では、私はこれで。数日中に神の試練対策会議で召集されると思いますので、ちゃんと出席してくださいね」


 ミリカは作り笑いに戻って立ち去っていった。……もしかして選ぶ言葉を間違えたか? まぁミリカの好感度なんてあってないようなモノだし、いいか。


 そんな適当なことを考えながら、今後の方針を決めるため一旦風鈴亭へと戻った。


「なんだと!?」


 そこで入り口の扉に手をかけると、中から怒鳴り声が聞こえてくる。……この声はセレナか? 珍しいな、セレナが取り乱すなんて。


「この街からは事実出られない。出ようとしたらこうなる」


 机に掌を叩きつけてセレナが睨む先には、表情の変えないリエルがいた。両腕を見せるようにしていたが、その両腕は衣服がなく肌が切り刻まれていた。それを見てセレナが怯み、アリエーラが慌てた様子で治療する。


「あら、クレト」


 俺に気づいたのはフィランダだった。そして俺の方に中の視線全てが集まってくる。……凄く居心地が悪い。だがクリア達もここにいたようだ。


「クレト。貴殿ならこの街から出る手段を思いつかないか?」


 つかつかと歩いてきたセレナが俺の両肩を掴んで真っ直ぐに俺を見つめてきた。……どいつもこいつも表情が暗い。なるほど、呪いに侵された仲間がいるからか。解呪できる人物を呼べない、呼んでも入ってこれない状況ということか。そりゃぴりぴりもする。


「……全力でぶった斬れば、通り抜けるくらいはできるだろうな」

「そうか!」

「……反動で俺が死ぬから、一回きりしか使えない手だ」

「っ……!」


 俺の答えに喜び、次の言葉で唇を噛み締めて俯いた。


「……ちなみにその呪い、クリアとユニにも解けないのか?」


 聖泉の精霊と聖獣の力を宿す獣人だ。解呪ぐらいできると思うのだが。


「無理ですね。メランティナ経由で頼まれてもう試しましたけど、私もユニちゃんもダメでした」

「お力になれずごめんなさい」


 クリアが首を横に振り、ユニは俯いた。……精霊、聖獣、神への祈りでも不可能と来たか。


 ……ん? 待てよ?


「……なぁ、アリエーラ。『神聖術』って一応魔法に分類されるんだよな?」

「えっ、あ、はい。そうですよ……?」

「……クリア。お前の解呪は」

「『聖泉魔法』でできますけど。所謂精霊魔法の一種ですね」

「……ユニは」

「わ、私の力も魔法です。契約によって使えるようになった魔法の一つですから」


 全部魔法か。これならいけるか?


「クレト、なにか思いついたのか?」


 セレナが真面目な表情の下に縋るような感情を抑えて聞いてくる。


「……まだ、足りない可能性はあるな。他の種類の魔法で解呪できるモノはないか?」


 俺なら、全てを『模倣』できる俺なら実現可能かもしれない。


「魔導図書館になら他の解呪方法が載ってる本があるかもしれないわ」

「あと回復役を担う冒険者が使える可能性はある」


 フィランダとリエルが言った。彼女達はもちろん積極的だ。なにせ仲間の命がかかっている。


 ……仕方がない。これも俺の目的二つ目を達成するため。見殺しにしてはゴーレムを好き込んで研究し、実用段階にまで持ってくだけの物好きをまた探し出さなければならない。


「……できるだけ多くの書物、使用者を集めてくれ。同じモノを使えるなら片方でいい」


 俺が『観察』と書物の読解で再現できるなら問題はない。書物を必要とするのはより深く理解することで効果を高める糸口を掴めるかもしれないからだ。


「た、助けられるのか?」

「……やったことがないことをやるんだ、そんなモノ知らん。だが犠牲者を出さずに街を出る、神の試練を速攻で踏破するよりはマシな確率だ」

「……わかった。お前の言う通りにする」


 期待を抱きすぎないよう指摘する。セレナは真剣な顔で頷き、即座にパーティメンバーへ指示を出した。


「人の命がかかってるなら、僕が活躍しないわけにはいかないよね」

「お前が活躍できるならこいつらもこんな困ってないな」

「酷い!」


 そこに男女三人ずつのパーティらしいき者達が近寄ってきた。


「私がこの“進化し続ける頂点ヴォルテックス・エヴォリューション”でヒーラを務める者です。あなた方のお力になれると思いますよ」


 柔和な笑顔を浮かべた優男が言う。……こいつらがメロディとワルキューレに匹敵するパーティか。


「ああ、よろしく頼む。では解呪のできる者は三階の十人部屋に集まってくれ。ユリーシャ、一時一部屋借りたい」

「ええ、どうぞ」


 どうやらセレナは三階に解呪効果のある魔法が使える者を集めてくれるらしい。そこで俺が全員の解呪魔法を『観察』し、『模倣』で使えるようにする。

 そして『魔法融合』で全ての解呪効果を掛け合わせつつ、『魔法詠唱』で効果を高める。加えて『言霊』で解呪の効果を後押しすれば、今考え得る限り最高の解呪が可能なはずだ。少なくとも俺はこれ以上のモノは思いつかない。


 さて、俺の目的のためにも上手くいってくれるといいんだけどな。

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