戦乙女達はそれなりに強い
明けましておめでとうございます(遅い)
年末年始は更新できませんでしたが、これからまた週一更新していきます
とりあえず俺が“水銀の乙女”に同行している経緯と目的は話しておいた。
……結局あの後戻ってきたクリアにも現場を見られて文句を言われた。
兎も角、翌日になって俺は“水銀の乙女”達と共にダンジョンへ来ている。
昨日踏破した四十七階層の次、四十八階層から開始した。ちなみにだが例え俺が途中参加で階層を突破したとしても俺がワープでそこまで行くことはできないらしい。一階層から踏破していった者しか適応されないのだ。
まぁ当然と言えば当然だ。急遽協力関係になった者が夜の間に仲間とダンジョンを攻略してしまいました、では済まされないからな。
……しかし風鈴亭にいると厄介事に絡まれる。
あそこには“狩り取る旋律”も泊まっている。どうやら彼らは女性だけの“水銀の乙女”を狙っていたらしく、一緒に酒を飲んでいた俺が標的にされたのだ。煩かったので一人か二人殴ったような気がしなくはないが、まぁ大丈夫だろう。
ここディストールでトップとされるパーティは三つだ。一つが噛ませ臭のする“狩り取る旋律”。そして俺と今行動を共にしている“水銀の乙女”。そして残る一つが男女混合リア充パーティの“進化し続ける頂点”。
最近は噛ませ共がトップとされていたが、その理由は“水銀の乙女”のアタッカーが呪いにかかったことと、“進化し続ける頂点”のリーダーが腕を怪我して治療中だから。
呪いは徐々に生命力を吸い取っていく類いのモノで、絶対安静の呪いらしい。解呪できる者に心当たりはあるが依頼には莫大な金が必要らしい。そのためにはダンジョンを攻略し続けるしかない、と。呪いはダンジョンで受けたモノらしいが、そのダンジョンの難易度から考えれると強すぎる呪いだったらしい。……要はメロディの連中を疑っているということ。
もう一つのリア充パーティのリーダーが怪我をしたのもその前後だったらしく、怪しんでいるがダンジョン内に細工できるような証拠がなくて訴えるようなことはできないそうだ。
証拠がないならでっち上げればいいんじゃないかと提案したところ、引かれてしまった。なぜだろう。確実に潰すなら不確かな証拠より確かな証拠を作った方が楽だろうに。
「行って!」
エルサの声がダンジョンに木霊する。今の言葉には二つの意味があった。
一つは、彼女の放った矢に対して言葉による加速を付与するためだ。彼女が持つスキル『言霊』は口にした現象を、魔力を消費した上でだが実現することができる。
びゅん、と奔る矢に光が灯り更に速度を上げた。
俺は矢が標的へと向かうのを見届けながら二つ目の意味、俺に先行しろという指示に従って駆ける。
「ギュアァ!」
俺の向かう先にいたリザードマン一体の目に矢が突き刺さっていた。流石はSランク冒険者。見事な精密射撃だ。その隙に懐へ潜り込んで剣を一閃する。しかし先頭のリザードマンを倒したところで後ろからまだ二桁のリザードマンが控えていた。そして死体となったリザードマンを押し退けて、俺へと押し寄せてくる。
「下がれ!」
後方からセレナの声が聞こえて役目は完了したかと思い、リザードマンと同じくらいの速度でくるりと背を向けて走り出した。そんな俺を鳴きながら追いかけてくるリザードマン達の足音を聞きながら走っていく。
そして下がる道中で、一人と擦れ違った。
「プロテクション・シールド!」
その者はリザードマンと俺の間に割り込むと、左手に持つ丸盾を掲げて半透明な障壁を展開する。リザードマン達は障壁にぶつかり苛立ったように手に持ったシミターを叩きつけ、ブレスをし、道を阻む障壁を破壊しようとしていた。
「――炎は全てを燃やす。生物も、建物も、魂さえ焦がし得る」
フィランダの平静な声が響く。
「――雷は全てを滅す。地を焦がし、生物を壊し、天をも切り裂く」
本来魔法は詠唱する必要など全くない。ただ魔法の名前を呟くだけで発動することができる。そもそも魔法に詠唱なんていう概念はないのだ。
ならなぜ彼女は詠唱を行っているのか。
「――炎と雷が混ざればその破壊力は天地をも焼失させる一撃と化す」
セレナが築いた障壁の向こう側で赤と黄色で描かれた魔方陣が輝く。地面に描かれたそれはリザードマン全てを呑み込める大きさだった。
「フレイムボルト・ピラー」
その魔方陣から炎と雷の混じり合った柱が発生した。こんな狭い通路でそんな魔法を使えば、通路に逃げ場はなくなる。しかも一つの魔法だったがリザードマン全体に効果範囲があったので問題なく殲滅できた。
魔法が収まったらリザードマンの焼け焦げた死骸だけが転がっているのみだ。
柱とか言う割に効果範囲が広すぎる。
だがそれは彼女が詠唱を行ったからに他ならなかった。
『魔法詠唱』のスキル。詠唱を行うことで魔法の威力や範囲などの効果を高めるスキルだ。本来必要のない詠唱をそれっぽい言葉を並べて発動することで発揮される。
更に複数の魔法を一つに融合させる、『魔法融合』のスキル。異なる属性を掛け合わせることで効果を倍増させたり、同じ効果の魔法を掛け合わせて効果を高めたりするスキルだ。
これらのスキルによって少ない魔力消費で絶大な威力を誇る魔法を放つことができる。
ただ詠唱という余計なモノを加えるせいで速さがなく、彼女はまだAランクだった。スキルを使わなければ魔法使いとしては一流、スキルを使えば補助ありで超一流だからだろう。
Sランクになると個人での強さも大事になってくるらしい。俺はその辺り気にすることはなかった。ぼっちだからな。
悪魔との戦いで共闘したとはいえ、連携が必要なパーティ戦は今日が初めてだ。『観察』で周りを見ながら邪魔にならないように立ち回る。その上で自分のやるべきことをやらなければならない。パーティ戦は考えることが多いな。やはり独りが落ち着く。
「……これなら俺がいなくても進むペース変わらないんじゃ?」
「冗談はよせ。純粋な物理攻撃役がいなくては苦戦する戦いの方が多い。私の剣やエルサの弓だけで対処し切るのは負担が大きい」
セレナが説明してくれる。魔法が効かず物理も軽減されるような敵がいた場合に苦戦するということか。それでもこのメンバーなら乗り越えられると思うのだが。
これが万が一に備える、ダンジョンの安定攻略を定着させた結果だろう。
作品内での言葉だが「冒険者は冒険しない」とはよく言ったモノだ。
「……なるほど。余程もう一人の仲間は強かったんだな」
そう言うと揃って苦笑された。
「彼女は確かに強い。だが敵を見ると突撃する癖があってな」
「ゴーレムパーンチッ、とか言いながら敵に殴りかかるのよ? 奇襲もなにもあったもんじゃないの」
「本来防御よりなのに火力に変換するんだから驚きよね」
「えっと……でも楽しい人ですよ?」
四人が口々に言い合う。……しかしゴーレムパンチ、か。
「……もしかしてそいつ、ネオンって名前じゃないだろうな」
「そうよ? 知ってたの?」
俺がある種の予感を抱いて言うと、あっさり肯定されてしまった。
「……まぁ、風の噂でな」
「へぇ? あいつは噂で聞いてて、Sランクの私は知らなかったんだ」
なんの張り合いだとツッコみたくなる。
しかしそうなると、幸か不幸かわからないが。俺達とこいつらには元々縁があったということになるな。
「次の階層最後がボス戦だ。できる限り温存し、余力を残して進むぞ」
セレナの言葉に四人が頷いた。そうして俺達は六人でダンジョン内を探索し、時に財宝を獲得し、時に罠を発動させてしまい、ダンジョンというモノを味わいながら先へと進んだ。
流石に実力が推奨より高いことと、万全の準備を整えているだけあって不測の事態にも対応し、危なげなく踏破していく。
ここまでの探索は順調だった。
――そう。最後に待ち受ける異変すらなければ、なんの問題もなく地上へ還れただろう。




