ぼっちは嫌われる術を持つ
俺は薄ら笑いを浮かべて、こいつらとの関わりを金輪際切るために、始動した。
「いや、関係なくはない。俺は君を巻き込んでしまった。最初だけ一緒、と言うのもおかしいだろう」
イケメン君は正義感溢れる発言をする。……ヒューヒュー。流石は勇者様、思いやりのある言葉でございますね。
クソか。
「……いや、巻き込まれたからこそ俺とお前らは関係ないんだよ。お前らは精々頑張って勇者とその仲間として魔王と戦って、俺は関係ない場所で平和に、穏やかに暮らすから」
俺は薄ら笑いを浮かべたまま真剣な表情をしているイケメン君に言う。
「だからと言ってここで別れる訳にもいかないだろう。危険だ」
「……今の見てなかったのか? 俺の固有スキル『模倣』は対象を『観察』する事でそれを真似出来る。だからもう、『神風魔法』と『言葉の兵器』と『破砕拳』と『疾風迅雷』と『風神雷神』は使える。もうちょっと見れれば良かったんだが、あんまり欲張って勇者の仲間に仕立て上げられるのは面倒だからな。それに俺の『模倣』は見たスキルの見た技しか使えない」
俺は肩を竦めて勇者に説明する。……因みに最後のは嘘だ。スキルそのものを『模倣』してしまえば全てが使える。現実世界じゃあここまで便利なスキルではないが、この世界の俺はある程度無敵と言える。
……まあぼっちの俺が無敵と言う事は、大概のぼっちも最強かもしれないが。俺みたいに生きるぼっちが多いか少ないかは分からない。
「それならせめて一番近くの町まで一緒に行くとか」
勇者君は苦い顔をして妥協案を出してくる。
「……あのさ、分かってる? 俺、お前のせいでこんな場所来てんだぞ?」
俺は薄ら笑いを引っ込めて勇者を睨むように見据える。別に睨んではいない。薄ら笑いを引っ込めたのはその方がこいつにダメージがあると思ったからだ。……そう言えば、言葉の刃で切り裂けないな。意識しないと出来ないのかもしれない。無意識でも言葉の刃だと判定されたら攻撃するとかだったら、偉いヤツとの謁見時、紫園が口を出して思わず暴言を吐いてしまい、勇者一行が貴族を暗殺、とか事件が勃発したら困るからかもしれない。
「っ……!」
勇者は苦虫を噛み潰したような顔をする。
「……お前が勇者だって事は認めるよ。そう言う性格してるしな。だが俺は違う。だからもう関わらないでくれるか? もしお前と一緒にいるのを魔王の配下とかに見られて、勇者の仲間だと勘違いされたらどうすんの? そしたら単独行動を取る俺が狙い目だと思って、お前らじゃなく俺が狙われる事になる。そんなの嫌に決まってるだろ。元々お前らと関係ないんだから」
俺はわざとらしく大きな溜め息を吐き、肉体的ダメージはないは精神的ダメージの大きい言葉を選んで告げる。俺の予想通り、勇者は俯いて肩を震わせる。
「……そうだな。だが、同じ高校なんだろう? 最初の町までは一緒に行こう。隠れていれば問題ない」
だが勇者は俺を説得出来る言葉を選んだのか数秒置いて、弱々しい笑みを浮かべて顔を上げると、俺に手を差し伸べてきた。
「……」
俺はそんな勇者を無表情の下で蔑みながら、視界の端で聖女が溜め息をついているのを見た。……そりゃあこんなヘタレ勇者は困るよな。
……あーもう! 何でこいつはこんなにも他人を救おうとするんだよ! いい加減ウザいし気持ち悪いんだが。
「……正直ウザいよ、お前」
俺は頭を掻き毟りたい衝動に駆られたが思い留まり、今までの回りくどいやり方ではなく、本心からの率直な言葉を発した。
「っ!?」
「……俺が独りで行くって言ってるのに何で止めるんだよ。空気読めよ。大体俺がどこの誰かも知らないヤツに心配される言われはねえよ。何が同じ高校だろう? だよ。俺の名前は兎も角、俺の所属クラスさえ知らないヤツが何言ってんだよ。二年二組所属唐澤勇輝君?」
「っ……!」
唐澤は驚いて目を見開く。……何に驚いているって? 勿論俺がこいつの名前と所属クラスを知っていたからだよ。俺からしてみれば、それは当然の事だ。
そして、俺に言わせてみれば唐澤が俺の存在を知らないのは当然の事だ。
「……俺のスキル『同化』。スキルは魔法以外、元の世界で培った技術が反映されてるのは、お前らも分かると思う。俺の『同化』は風景や概念と俺自身を『同化』させるスキルだ。言ってしまえば、カメレオンの擬態のような能力だな。俺は常に風景に、日常に『同化』して生活していた。それはお前らが俺を知らないのも無理はない。――なあ、クラスメイト諸君?」
「「「っ!?」」」
俺は『同化』のスキル説明をしつつ、ニッコリと慣れない笑顔を浮かべて、三人に告げた。……三人はクラスメイトだと言う事を聞いて驚いていた。
……俺のスキルすげー。クラスでも人気者且つ気配りにしか興味がないような唐澤にも、誰が誰でも同じ反応しかしない紫園にも、独りでつまらなさそうに日常を眺める緒沢にも気付かれていないとは。
……どんなヤツでも俺の前では俺の存在を認識出来ない。いや、認識はしていても意識出来ない。何故なら俺の影の薄さは風景に居る小さな虫や微生物と同じ。そこに居ても、そこに居るとは思われない。
極限まで影の薄さを追求した俺のぼっちスキルだ。
独りでいても決して悪目立ちする事なく周囲と『同化』して日常を過ごしてきた。
周囲と合わせる事で自分の存在を『同化』させる。俺が長年のぼっち生活から編み出したスキルだ。こうする事で苛められる事も、叱られる事もなく。
人と接する事を拒んだ結果だ。
後悔はしていない。このスキルのおかげで俺は、面倒事に一切巻き込まれずに済んだ。それに、俺の存在が知れ渡らない事で生活は平和の一言に一変した。
厄介事に巻き込まれて日常生活が非日常に一変するラノベの主人公の中で、束の間に訪れた平和を慈しむヤツがいる。
なら最初から変わらぬ平穏を慈しむ俺は、寧ろ正しい。
俺はオタク趣味があるので異世界召喚なんて憧れた時期もある。だがそれは一時の感情に過ぎなかった。結局俺は、そんな面倒な事に巻き込まれたくない、と言う結論に至るのだ。
「……さて。俺の『観察』、『模倣』、『同化』は一連の流れとして存在する、他人と関わらないためのスキルだ。分かったら関わらないでくれるか? ウザいんだよ」
俺は冷たい声音になるように意識して、唐澤に突き付ける。最後の一言には言葉の刃を発動するように意識して、だ。
「最低ね」
俺の放った言葉の刃は、勇者側から聞こえた冷たい声によって阻まれた。
俺と唐澤の中間で、視えない刃二つが衝突したのだ。……ふむ? この現象を見るに、『言葉の兵器』ってのは相手を視えない武器で攻撃するスキルではなく、相手に見えない武器を放つって事なのか。残念ながらスキル説明までは『模倣』出来ないからなぁ。牽制しといて良かった。もう二度とこいつらと関わる気はないからな。
「……自覚があるから問題ない」
俺は肩を竦めて答える。
「……じゃ、もう俺に関わるなよ、勇者一行様方」
俺はヒラヒラと手を振って、さっさと歩いて森の方へ歩いていく。
結局俺は、いつも通りに最低で、それは異世界に来ても変わらないようだった。
だが俺はそんな自分に嫌気が差しながらも、いつもの無表情で何かが潜む森へと足を踏み入れた。