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エセ勇者は捻くれている  作者: 星長晶人
第二章 迷宮都市
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エセ勇者一行は迷宮都市へ向かう

 俺達は最初にいた街を出てディストールへと向かっていた。


 馬車を借りる、同行させてもらうなどの選択肢はあったが結局のところ金をケチったので自分達の足で向かっている。

 とはいえ歩いていくには馬車で二週間の距離なので……現代人の俺にはどの程度の距離なのかわからないが、自転車と徒歩の差ぐらいはあると考えても三倍はかかる見込みになるだろうか。多めに見て一ヶ月かかるかもしれないと考えると面倒だ。


 なので、走って向かっている。


 俺、クリア、ナヴィ、メランティナは問題なく高速で走り続けられるが、ニア、ミア、ユニは難しい。ニアとミアの二人は身体能力が高く足も速いので全速力でなければついてこられるのだが。

 当初の考えでは三人は誰かが背負って走ればいいかと考えていたのだが、なぜかニアとミアの二人が自分達も走ると言って聞かなかった。猫可愛い二人にそう言われたら断れない俺なのだ。


 ということで、疲れてきたら休憩するという雑な認識の下、全員でディストールへの道中を走っているわけだった。


 身体能力に任せて道なき道を行っていたこともあり、俺達は一週間後にはディストールに到着できた。


 しかしこうして人の営みから外れた場所を見ていると本当に異世界だなと実感する。

 一応街から街へは道が造られてはいるのだが、それ以外は街灯もなにもない。俺が住んでいた地域より更に田舎に行けばこのくらいは馴染みのある光景だったのかもしれないが、人の造った住宅街を中心に暮らしていた俺にとっては新鮮だった。現代はどこも人の手が入った、人によって汚された場所が多い。この世界ではおそらく、人があまり強くないとわかっているからだろう。元の世界では人が神になったかのように振る舞っていたように思う。


「……」


 ディストールも四方を巨大な壁に囲まれた街だった。大きな街では皆同じように外敵から守る壁を築いているのだろう。


 冒険者のギルドカードを見せたら難なく街に入れてくれた。この街に新しい冒険者が来ることは日常茶飯事なのだろう。……しかしナヴィとメランティナのカードを見て門番の人が驚愕してたな。二人共Sランクの冒険者だからだろう。ナヴィは白い悪魔との戦いでAからSに昇格してたらしい。

 俺? 俺はCからBに上がっただけだ。クリアも冒険者登録はしているが、こいつもBだ。俺がサボりすぎということはないだろうに、お前達はなにをそんなに生き急いでいるのだか。

 ちなみにユニは受付嬢を辞めた後冒険者として登録したらしい。依頼は受けたことがないためGからの開始だ。ニアとミアはしていない。というか俺が二人に戦わせる気がなかった。とはいえ、ダンジョン攻略中ずっと留守番してもらうわけにもいかないだろう。二人だって遊びたい盛りだろうからな。


「……おい、なんだあのパーティ」

「……知らねぇよ。見たことねぇし、最近来たヤツらじゃねぇか?」

「……ってかあれってアンファニアにいたSランク冒険者じゃね? あの街のギルドマスターとタメ張ったっていう」

「……マジかよ。しかもあれって黒魔人じゃねぇか?」

「……嘘だろ、信じられねぇ。見ろよ、どいつもこいつも可愛い面しやがって……なんだあの真ん中の冴えない男。あんなヤツより俺の方が十倍カッコいいぜ」


 そんなひそひそ声が聞こえてくるのも、仕方がないことなのだろうが。……最後の一言は余計だ。鏡見ろ、俺と大して変わらない面してるだろうがあんた。

 しかしこれでは俺の『同化』も意味をなさない。


「……外套着とくべきだったか」

「それじゃクレトと一緒に街へ行ったら外套の剣士がクレトだってバレるかもしれませんよ?」


 ぼそりと呟いた声にクリアが反応して、それもそうかと思う。


「……じゃあ逆にお前達といる時は外套着ない方がいい、のか」


 目立たないようにするつもりがこうも注目を浴びてしまったらどうしようもない。ニアとミアが手を繋ぎたがって別行動を許してくれなさそうだったので、仕方がないとはいえ。


「で、今日はどうするの?」

「……ゆっくりベッドで寝たい」

「じゃあ宿屋探しね。別行動にする?」

「……ああ。しばらくは情報収集に努めたい。今攻略中のダンジョンの情報とかがあればいいんだが、まぁそれは明日からにするか。今日は宿屋を探して終わりでいい」

「わかったわ。こっちの街にちょっとした知り合いがいるから、そこを当たってみるわ。行きましょ、ニア、ミア」

「……ん」

「くれとも!」

「……俺もか」


 クリア、ナヴィ、ユニの三人は別行動にした。宿屋はメランティナの方が詳しそうなので、三人にはこの街で最近変わったことがないかを軽く調べてもらうことにする。不穏な噂があると厄介になる可能性もあるからな。この前勇者がいるから大丈夫だと油断して俺が戦う羽目になったばかりだ。腕利き冒険者が多くいるからと言って油断しない方がいいだろう。

 四人で歩きながら街を眺めていると前の街との違いをいくつか発見した。


 この街には、鍛冶屋などが多い。

 おそらくこれは冒険者がダンジョン攻略のためによく利用するからだろう。鍛冶屋や道具屋、そして宿屋が多く見受けられた。鍛冶屋が多いのだろうと思う理由は他にもあり、街の所々にある煙突から煙が出ていたからだ。無数にあるので儲けも多いが競争率も高いのだろう。


 また、街に暮らす人々の違いもある。

 冒険者が多いとは聞いていたが、前の街とは明らかに戦える人の数が多いと思えた。


「……活気、というよりは血気だな」

「ええ、そうね。そういう街だから」

「……この街に滞在していて、有名な冒険者に心当たりってあるか?」

「そうね……何度かダンジョンを攻略してるパーティならいくつかあったと思うわ」

「……そんなに挑むってことは相応の旨みがあるってことか」

「ええ。ダンジョンにはモンスターを狩って得るお金と、ダンジョン内に眠る金銀財宝があるから。中には途轍もない装備やアイテムがあるから、安定攻略ができるようになれば得られる報酬は莫大になるでしょうね」

「……安定攻略か」


 ダンジョンには難易度がある。別に難易度が冒険者のランクのように決まっているわけではないが、全部で何階層あるかや出現するモンスターの強さなどで難易度が設定される。ダンジョン内の情報からギルドが挑戦する冒険者に制限を設けるのだ。

 階層は最も少なくて三十階層まで。神の試練とされる究極難易度を誇るダンジョンが百階層まであるらしい。神の試練とやらは神級クエストを挑める冒険者のパーティでなければ踏破は不可能とされるほどの難易度とか。まぁそんな無理ゲーみたいな難易度のダンジョンは数百年前に一度現れたきり出現していない。


「ここに出るのは大抵三十階層か五十階層のダンジョンばかりだから。七十階層のダンジョンは……私の知る限りでは出てきてないわ」

「……五十階層のダンジョンが安定攻略できる腕前があれば、大抵のダンジョンで稼げるってわけか」


 三十階層が大体ソロならBランクでパーティならDランク程度。五十階層がソロならAランクでパーティならCランク程度。七十階層がソロならSランクでパーティならBランク程度の難易度とされている。

 もちろんこれは目安であり、中に出てくるモンスターの厄介さやダンジョン内の環境の過酷さなどで変動する。

 とはいえ上記の目安は「ダンジョンに挑んでも良いとされる基準」であり「ダンジョンを攻略できる基準」ではない。攻略するならもうワンランク上げて考える方がいいか。


 俺達はB二人、S二人、G一人のパーティだと考えれば平均Bランク相当になるか? 実力を考えればユニもクリアも俺も今以上の可能性が高いので、七十階層攻略も可能だろう。なにせSランクが二人もいるからな。最悪二人に攻略を任せて俺はニアとミアを可愛がりながらPCでアニメでも視聴していればいい。


「そうね。この街で有名なパーティだけど、っと。着いたわ。ここよ」


 メランティナが話し始めようとした時、目的の宿屋に着いたようだった。レンガ造りで三階建てはあるだろう大きな宿屋だ。名前は風鈴亭。名前の割りに彼女が扉を開けても風鈴は鳴らなかった。からんからんとドアベルが鳴っただけだ。


「いい加減にしてもらうか!」

「ンだよいいじゃねぇか、一晩くらいよぉ」

「……騒ぐなら他の場所にして欲しい」

「気品がないな、気品が。僕を見習いたまえっ」

「てめえを見習ったら世の中なよなよした野郎ばっかになっちまうだろうがよ」


 ……なんだか取り込み中のようだ。


「騒ぐなら他の場所にしなさい!」


 扉を開けて目に入ったところにいる複数人の男女が言い合い、それを一喝する女性の姿があった。……『観察』したくもないが、どいつもこいつもそれなりの強さを持っていそうだ。


「ユリーシャ!」


 一喝した女性を目にしたメランティナが、喜色いっぱいの笑顔で女性に跳びついた。


「えっ? め、メランティナ!? なんでこの街に!? あんた宿屋は!?」


 この人が知り合いだったらしい。目をぱちくりとさせて驚いていた。


「ま、いいわ。なにはともあれ久し振りね」

「ええ。ユリーシャも元気そうで良かったわ」


 離れたメランティナと女性――ユリーシャが笑い合う。


「……久々の再会のところ悪いが、ここ部屋は空いてるのか?」

「えっ? 誰この人。ってかその子供達も誰……ってまさかあんた……っ」

「ち、違う違う。彼はちょっとその、助けてもらった恩人だけど。あの子達はその、養子? みたいな」


 俺が話を進めようと口を出したら、余計にこじれてしまった。あたふたと首を振るメランティナの頬は染まっている。まぁ、あんなことをした仲だからな。死んだ夫のことを知っている人物には説明しづらいだろう。


「……ま、後でじっくり聞かせてもらうわ。で、なんだっけ? 部屋なら空いてるけど、ここはSランクの冒険者がいないと泊まれないよ? まぁメランティナがいるんだから別にいいんだけど」

「ありがと、ユリーシャ。それでちょっと人数が多いから大部屋を借りたいんだけど」

「わかったわ。五人部屋と十人部屋どっちがいい?」

「十人部屋でお願い。あと三人いるから」

「さ、三人もいるの? この顔で?」


 ……こんな顔で悪かったな。もしかして俺が複数人の女を侍らせてるように見えたんだろうか。確かにそう見えなくもない。迂闊だった。


「おうおうおう! なんだてめえいきなり入ってきて喧嘩売ってンのかあぁ!?」

「……煩い」


 俺は睨みつけながら近寄ってきた男の顎を殴って昏倒させる。


「……二人が怯えたらどうしてくれる」


 全く。俺に喧嘩売るなら独りの時にしてくれ。ニアとミアのいるところで来ないで欲しい。


「……嘘。あの“狩り取る旋律メロディ・ザ・リッパー”のモンクを一撃で……」


 ユリーシャが驚いた様子で俺をまじまじと見つめてくる。……初対面の綺麗な女性に見つめられると目を合わせたくなくなるのは俺がぼっち故か。

 しかしそのダサい二つ名のパーティだか個人の男はそれなりに強かったらしい。

 浅黒い肌に筋肉隆々の鍛え抜かれた身体。髪の毛が一本もない剃髪で左耳に複数、左唇に一つピアスをしている。グローブなどはしているが、腰などに武器が見当たらなかった。モンクというからには拳で戦う類いの冒険者なのだろう。

 今は白目を剥いて倒れているので、威厳もなにもないが。


「彼、私より遥かに強いから」


 メランティナは少し得意気に、にっこりと笑って言った。

 先程まで言い争いをしていた複数人も唖然としてこちらを見ている。……居心地が悪いな。


「……部屋を貸してくれるなら早くして欲しいんだが」


 荷物も置きたい。

 俺はユリーシャの方を見て言った。


「え、あ、ええ。すぐに鍵を持ってくるわ。一泊一万五千センよ」

「……滞在期間は未定だから、金貨三枚で三十万払っておく」


 ダンジョンを攻略する速度にもよるのでそこは仕方がない。ある程度俺の下に金を集めておいたので、道具袋から念じて金貨三枚を取り出して手渡した。とりあえず二十日分だ。


「了解よ。部屋は三階の三○一号室だから」


 カウンターへと戻っていって鍵を放って寄越してきた。俺はそれを受け取り、奥にある階段へ向かって歩き出す。その途中。


「……おい。寝たフリはいいが二人に手を出すなよ。次は殺す」


 俺は右腰に提げていた剣を抜き放って先程殴ったヤツの喉元へ突きつけた。


「……バレてンのかよ。わかった、もうしねぇよ」


 観念したような声が聞こえたので剣を鞘に戻し、二人を連れて二階へ上がっていく。


「くそ、ありゃ化け物だな。強化使ってないとして通常状態のメランティナぐらいパワーあンぜ」

「当然よ。私より遥かに強い、って言ったでしょ」

「……悪いがそれは聞こえてねぇよ。僅かとはいえこの俺が一撃で意識持ってかれちまうとはなぁ」

「それで意識ないフリして襲いかかろうとしたってわけか。セコい上にダサいな」

「うっせぇよ。俺だってあンな強いとは思ってなかったンだよ。『気配遮断』上手くいってねぇはずねぇンだが」


 ……丸聞こえなんだが。それとあれは『気配遮断』って言うのか。ちゃんと『観察』しておいて良かった。できれば目立ちまくりな今の状況からでも俺の存在を隠せるスキルだといいんだが。


「クレトだもの。当然よ。それより、あの子達に手を出そうとしておいて、私からなにもないとは思ってないわよね?」

「えっ!? あ、いや、俺だってちょっとあン野郎を試そうとしただけっつうかぁ」

「一発、本気で殴らせてくれるだけで許してあげるわ。心広い処置に感謝して、反省しなさい」

「嘘だろ!? てめえの本気くらったらいくら俺でも死ぬって!」

「大丈夫。死なない程度には加減してあげるわ」


 その後、男の悲鳴が宿の外まで響き渡るのだった。……ホントに手加減したんだな。メランティナが本気で殴ったらこの宿屋崩壊するだろうに。

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