ぼっちはぼっちのままでいたい
バレンタインデーに想い人と死別する話を更新してから音沙汰もなく、すみませんでした
毎日更新って大変ですね、ストックないと結構厳しいことがわかりました
息抜きに書いてた新作に現を抜かしていたとかそういうわけじゃありません、ええ
書いたところで投稿はしませんけどね
二、三作は完結させないと
まだ朝ですが、少し暗めでグロいシーンもあります
苦手な方はご注意を
あと夕方以降に読むことをオススメしておきます、一応ですが
どれかを一話毎日更新宣言はしましたが、三日更新ぐらいで構えてもらえるといいかなと思います
誰もが地面に倒れて顔を青褪め、涙してトラウマの再現に苦しんでいる。
歴戦の猛者もいる中で勇者含む数人に向けて放たれた悪魔の技は、多大な効果を発揮していた。
どんな物理的な技よりも効果的であったと言えるだろう。
心の弱い者は精神崩壊を招きかねない技だ。そして一般人よりも強者である方が色々な事件を引き寄せることが多いため、まともに戦うと面倒な相手などによく使っていた。
泉の街に突如現れた白い悪魔。勇者一行が交戦するも押され、街に被害が出始めたところでギルドマスターや腕利きの者達が集まった。流石に面倒になり、とっておきのこの技を放ったのだが。
「いや、すげぇ効果あったな」
この事態を引き起こした当人は尖った犬歯を見せてにやにやと笑う。
最強の獣人と名高い二人のS級冒険者に加え、魔王様を倒すために異世界から呼ばれた勇者一行までいる。さらには外套の剣士と聖泉の精霊、黒魔人赤種を加えた顔ぶれが全員倒れて苦悶している。
なんといい眺めだろうか。
白い悪魔の奥の手であるこの無限の絶望は本人の本質を体現したような技だ。
崩壊を引き起こす破滅の波動でも、肉体を蝕む久遠の侵蝕でもなく。
悪魔は彼を役立たずと呼んだ。
ただの精神攻撃では敵を蹂躙することなどできないと。
それは確かな事実であり、本来の彼の戦闘力は他の悪魔と比べても劣っていると言っていい。
しかしそんな彼に手を差し伸べてくれたのは、性悪女ことメフィストフェレスである。
兎に角相手の嫌がることを思いつくのが得意な彼女は、白い悪魔の能力をいたく気に入り、側近に仕立て上げた。
認められることに飢えていた悪魔はその日から彼女に全てを捧げている。
力を崩壊させ戦闘力を半減させてきた赤い悪魔には、永く続く絶望の渦で精神崩壊をさせてやった。
悪魔でありながら獣に魂を売り、本来以上の力を手にした。
自らの力を誇り思い、尚且つ彼女からの命令があれば彼に成せないことはない。
そう思っていたのだが、誤算があった。
「ああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――!!!」
自分の技にかかった者は誰もが泣き叫び、喚いて我を失っている。それは違わなかったのだが、独りだけやけに大きな絶望を抱えた者がいた。
そいつの叫びが、他の者を現実に引き戻していたのだ。
予想外、と言う他なかった。
「ったく、俺の絶望にそんな弱点があったとはな」
白い悪魔は少し悔しげに呟く。
仰向けに倒れ大きな絶望を味わいながら絶叫しているのは、外套の剣士こと暮人だ。一見地味で気にも留めない雰囲気を持ってはいるが、正真正銘本物の外套の剣士である。
その強さは未知数であり、どれほどの実力を秘めているのかは不明だ。
暮人は馬乗りになった幻の人物を見上げながら喉元に両手をやっている。誰かに首を絞められているような恰好だ。
普段感情を抑えつけている者ほど心の奥底に埋まっている絶望を引き出した時の反動が大きいのはわかっていた。
「それがまさか、これほどとはな」
一体どれほどの絶望を抱えて生きてきて、それら全てを奥底にしまい続けてきたのだろうか。
美味い、非常に美味い絶望ではあるが――些か溜め込みすぎている。
パニック状態になった者が一人いるとその人を見て落ち着きを取り戻す、という現象がある。それと似たようなことが起こり、独りの深い絶望が周囲の絶望を打ち消したのだろう。
大体、トラウマを抱えている者は多いが、それをいつか乗り越える日が来る。つまり動きは封じられても精神崩壊までは至らない可能性もあるのだ。
既に解決している者でも効きはするが、効果が薄まってしまう。
つまり、平然としていながら心にどす黒いトラウマを抱えた者がそれらの絶望を越えて本人に悲鳴を届けてしまうのだ。
「……ちっ」
結果として、暮人以外の全員が目覚めてしまうという事態になってしまった。
まだ目覚めたばかりで現状へと理解が追いつかないだろうが、魔力の消費が大きすぎる。このまま戦っては勝ち目がなくなってしまう。
「クレト? クレトっ!」
ただ独り未だ目覚めぬ少年に、聖泉の精霊・クリアが駆け寄って肩を揺さぶる。それでも目覚めない。意外とこの技を破るのは簡単だったりするのだが、暮人のような溜め込むタイプにとっては天敵と言ってもいい力だった。
絶望に囚われたまま絶叫し続ける彼を見て、誰もが驚愕していた。
短い付き合いとはいえ、今までこれほどまでに彼が感情を露わにしたところを見たことがない。貴族への怒りを見せたことはあっても、我を失うほど乱れたことはなかった。
というより、暮人の人生の中で今以上に感情を見せたことはない。
ぼっちがただのぼっちであるためには、弱みを見せてはいけないからだ。
ぼっちはただでさえ、認識されれば「いつも独りでいる可哀想なヤツ」と思われてしまう生き物だ。
一度弱みを握られてしまえばぼっちはぼっちでなく――いじめられっこになってしまう。
暮人は胸を張ってぼっちと名乗っていられるように、目立たず弱みを見せず他人を頼らず生きてきた。
そうやって溜め込んできたモノが今放出されている。
「まぁいい、こうなりゃ次の一手といくぜ」
絶望の中から出てきてはいるが、その時の恐怖が思い起こされて短い。それなら今の布石を活かす次の技が使えた。
白い悪魔が魔力を高めていくのを感知して、ようやく暮人に集中していた者達が今の状況を理解する。
しかしそれでは遅い。
無限の絶望は悪魔自身の能力だが、それを攻撃に活かすため獣と契約を交わした。
悪魔は両腕を広げ、なにかを歓迎するようにその名を唱える。
「絶望の再現!」
次の瞬間、全員の目の前にトラウマを具現化したような存在が現れた。
メランティナの前には死別した想い人であるメナードが、というようにその人にとってトラウマを刺激する相手を実体化させているのだ。
前の技は解除されてしまうが、トラウマを刺激されたばかりの状態でそんな相手に襲われたら対処できるだろうか――できない。恐怖で身体が竦んで動くことすらできずに殺されるだけだろう。
さらに魔力の消費が大きい技だが、これで確実に敵を葬ってきている。
「……」
暮人は絶望から逃れ、無言で立ち上がった。
目の前にいるのは、どこか暮人の面影を感じさせる橙がかった長髪をした小柄な少女だ。
顔立ちは息を呑むほどに整っており、しかし未熟すぎる肢体が本当の年齢をわからなくさせている。明らかにサイズの合っていない白いTシャツを着ているため肩が出ていた。二の腕辺りに引っかけて着ているが今にも落ちそうだ。およそ必要ないと思われる黒いブラの肩紐も見えている。
下は太腿が丸出しになるデニムのショートパンツで、ラフな恰好と言えた。
くりくりした大きな瞳をしているが、目の前に立つ彼の姿を認めた途端、雰囲気が一変する。
まるで獲物を見つけた獣のように瞳を細め、形のいい唇を歪めて嗤った。
これが彼女の持つ二面性、暮人だけに見せる表情だった。
白い悪魔にそれらの内情はわからない。それでも彼にとってあの少女があれほどの絶望を抱いている相手だと察していた。だからこそ、これからどれだけ無様に殺されてくれるかを楽しみに見る。
だが、
「――は、はははっ、はははははははははははははははははっ!!!」
暮人は笑った。
悪魔は遂に狂ったかと訝しむが、彼の表情を見て考えを改める。
心底嬉しそうに笑っていた。
好きな猫を可愛がる時に少し表情が和らぐ程度だったというのに、心から嬉しそうに笑ったのだ。
聞いたこともないくらい嬉々とした笑い声に、恐怖から動けなかった他の者達もそちらを向いてしまう。
「……嬉しいな。こんなに心が湧いたのはいつ振りだろう。まさかこんなところでお前と再会できるなんてなぁ!」
言いながら、暮人は少女の懐に入り右手で首を掴むと小さな体躯を持ち上げる。実体化した幻覚でありながらも少女は苦しそうに呻いて足掻くが、暮人は逆に首を絞めるため力を込めていく。
「……本物じゃないのはわかってたが、まぁいいストレス発散にはなるだろうな」
めきめきと少女の首の骨が嫌な音を上げ始めた。苦しみ必死にもがく少女を見て、暮人はさらに笑みを深める。
「……この程度で苦しんで俺に殺されるようなお前じゃねぇよな。なにせお前は化け物だ。その化け物じみた身体能力で毎日毎日、毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日――」
延々と、次第に熱くなりながらも手に力を込めていく。
すると遂に少女の首に限界が訪れてぐしゃりと捻り潰された。赤黒い鮮血が飛び散って暮人に降りかかるが、気にした様子はない。
「……毎日、殺しかけながらしたくもない行為を繰り返しやがって。一回殺したぐらいで俺の気が晴れると思うよ?」
動かなくなった少女の死体には目もくれず地面に放り投げる。その振動で首が捩じ切れるが、完全に死亡すると噴き出した血も死体も全てが消滅した。
「……お前のおかげで幻とはいえあいつを殺せた。感謝する」
そう言いながら、左手で落とした漆黒の剣を拾い上げる。
「……そのお礼と、あとは思い出したくもないヤツのことを思い出させた仕返しだ、受け取れ」
暮人は腰を低くし剣を構えた。
「……《羽を開け、心を喰らえ》」
『え、あ、いや、今の状態だと食べる量が多い――あああああぁぁぁぁぁぁっ!!』
静かに呟いた言葉に反応したのは、彼の持つ片手剣に宿った剣の邪精霊・夜魔烏ことミスティだ。
邪精霊として契約者がその時に抱いていた感情を貰うことで、貰った感情に合わせて力を与える能力を持っている。ただ、今はトラウマが刺激されて恐怖が、殺したかった相手を殺せて嬉しさが、普段以上に溢れ出していた。
それら暮人の感情を、彼の許可を得ることで喰らい始めた彼女は恍惚とした悲鳴を上げる。
剣が怪しげな黒い光を放つと、暮人の身体に力が送り込まれていく。左手から入って左半身の全てが黒い筋のようなモノで覆われる。左目だけが赤く染まり、彼の肩甲骨の辺りから黒い紋様のような翼が出現した。
「……全ての体躯」
無感情な声で最大の身体強化をし、踏み込んだかと思うとその姿が消える。
「がっ、あああぁぁぁぁ!?」
どこへいったかと視線を巡らせる前に、白い悪魔の口から苦悶の声が上がった。
その左腕が半ばから綺麗に切断されている。ついでとばかりにそれぞれの前にしたトラウマを具現化した存在も首を飛ばされて死に、消滅していった。
「……終わりだな」
白い悪魔の後ろに回った暮人が、漆黒の刃を首に突きつけていた。
その顔に先程までの乱れは存在せず、一切の感情が見えない。
「くそ、がぁ!」
屈辱と怒りに染まった顔で悪魔が振り返り様に残った右拳を振るう。しかし既に暮人の姿はなく、魔力を感知して再び振り向いた白い悪魔の右目に切っ先を突き刺した。
「があああぁぁぁぁ!!」
「……一思いに殺した方がいいか」
その方が手っ取り早く終わるとでも言いたげな暮人は、剣を悪魔の目玉ごと抜き取ると、血などを払ってから右肩から左脇腹にかけて袈裟斬りをした。
数センチ残して切断されなかった悪魔は血を大量に噴き出しながらも後ろによろめく。
「獣、よ! 力を寄越せ! こいつらを殺す力を、俺に寄越せぇ!!」
瀕死の状態で内に眠る獣に呼びかけ、その力を発現させた。
悪魔としての姿から変化し始める。骨格から変わっていき、筋肉が膨れ上がった。二メートルほどまでしか大きくはならなかったが、人の形を保っていた顔が獣のそれに変わる。動物で言うなら熊に近いような顔だ。毛深さが増し、爪が長く鋭く伸びていく。
「お、オォ、オオオオォォォォォォォ!!」
悪魔の中にいた獣が目を覚まし、空気を震わせて咆哮した。
「……」
目の前で獣へと変貌した悪魔を、暮人は変わらぬ無表情で見上げる。
かと思われたが、
「……ん、あ? なんで戻った?」
普段と同じ口調に戻り、翼や筋が消えていった。
『ご、ごめんなさい。もう無理。これ以上食べられない』
その原因となったミスティは、恍惚とした表情で喰い倒れていた。
次回、決着
そろそろ次の章に移るかなー、と思います(たぶん




