剣の邪精霊はぼっちを主とす
今日はオールです……orz
執筆作業じゃないのがまた辛い(笑)
「らっしゃい!」
クリアに案内され、街中の一角にある鍛冶屋へと辿り着いた。そこには口髭を蓄えた若いおっさんが居て、元気良く挨拶をしてきた。
「……で、クリア。どの剣だ?」
俺は早速クリアにどの剣か尋ねる。
「あれです」
クリアは店の奥に並んでいる内、漆黒の剣を指差した。
……鍔が鳥の翼のような形をしていて鍔と鍔の間の部分に菱形の赤い水晶のようなモノが埋め込まれている、刃先から柄の先まで真っ黒の片手両刃直剣だった。
「あんたら、これを買ってくつもりか? 止めとけ。所有者だって認められないと喰い殺されるぞ。これは邪精霊なんだ」
するとクリアの指差す先にあるその剣を見たおっさんが忠告してくれる。
「……ふむ。それは面白そうな剣だな」
「良いんですか? 邪精霊は私と違って善意で動くような存在ではありません。寧ろ欲望のままに動くような存在ですよ?」
俺が頷いて剣に近付いていくと、クリアが少し不安そうな声で囁いてきた。
「……欲望のままに、か。その方が操りやすくて助かる」
俺は言って更にその剣へと近付く。……漆黒の剣、か。そのままじゃ俺まで黒の剣士とか呼ばれかねないな。まあその呼び名だったら嬉しいぐらいだが。
『――へえ? 私を操ろうなんて良い度胸じゃない』
俺がその剣の前まで行くと、俺の目の前に烏のような漆黒の羽根が無数に出現し、人一人を覆う大きさで風を巻き起こした。……それが収まると漆黒の羽根は消え、代わりに美少女が居た。
深い闇のような漆黒の膝裏にまで届く長髪に、血のような赤い瞳。漆黒のドレスを纏っているため、スタイルはよく分からないが、出るとこは出ていて締まるとこは締まる感じだろう。背中に烏のような漆黒の翼を生やしていた。
どこか湿ったような声は艶かしく、弓状に細められた瞳は獲物を狙う猛禽類のようで、端が少し吊り上がった形の良い唇は妖しさを湛えている。
「……『実体化』か」
魔力を消費しない、精霊であるクリアが常に発動しているスキルだ。
『ええ、そうよ。そこの精霊から聞いてる? 私は剣の邪精霊・夜魔烏』
美少女はそう名乗る。……漢字名なのか。ってか剣の癖に烏なのか。
『私自身の名前はミスティ。私の姿はそこの人間には見えてないから話さない方が良いわよ?』
……それは俺が話す前に言って欲しかったが。
「……それで、俺と契約とやらをしてくれるのか?」
もう面倒なので普通に尋ねる。おっさんは怪訝そうな顔をしながらも理解のある表情で店の奥に消えていった。
『どうしようかしらね。そこに居る聖泉の精霊からあなたを奪うのは面白そうだけど』
「むっ」
ミスティがクリアの方を見やってフフッと微笑むと、クリアがムッとした表情で睨んだ。
「……それは別にどうでも良いが、契約しないならしないで早く決めてくれ。別に普通の剣を買うだけでも良いからな」
俺は嘆息を混ぜつつ言う。……俺は確かに剣が欲しいと言ったが、命の危険があるようならここで手を引いても良い。
『契約する気、あるの?』
するとミスティが半眼で尋ねてきた。……勿論ある。
「……あるにはあるが、契約するかどうかはお前次第だな。命を賭けるくらいなら他の普通の剣を買って使い回した方が得だからな」
俺は無表情に言って、ミスティの目の前から移動して他の剣を物色しつつ『鑑定』のスキルを使って良質の物を探していく。……ほう、これは良い代物だな。俺が今使っている鋼の剣とやらの元の値段の倍するだけの事はある。良い剣だ。だが今の剣と違って無駄に重い気がする。攻撃力、頑丈さ共に良いのだが、俺を躊躇わせる何かがある。
『分かったわ、契約してあげる。その代わり、愛人として私を扱って』
ミスティはそう言うと、他人には見えないのを良い事に、俺に近付いてきて腕を取り絡めてくる。……柔らかい膨らみが二の腕に当たった。見た目以上に大きいのかもしれない。
……クリアがムッとした顔で俺を睨んでくるが、俺に否はない。
「……愛人か。別に良いぞ。そんな事で良ければな、おばあさん」
俺は無表情に言うと、皮肉たっぷりに続けた。
『なっ……! わ、私はまだ四百年しか生きてないわよ!』
ギョッとしたミスティは余程焦ったのだろう、実年齢を暴露していた。……四百歳か。人間からしたらとっくの昔に死んでいる年齢だが。
「……クリアはいくつだ?」
「二百年ちょっとしか生きてません」
年齢を聞かれたからか、プイッとそっぽを向いて答えた。……これは後で頭を撫でるかしてやらないとダメだな。女ってのは機嫌を損ねると厄介だ。
「……今まで何人の持ち主が居た?」
更に俺はミスティに尋ねる。……ギョッとしていた隙にスルリと腕を抜いている。
『居ないわよ。私を扱えるような人物で剣士をやってる人が居なかったのよ。だからこの店でも八十年ぐらい買われてないわ。だから暇なの。連れていって』
俺の質問に、ミスティは唇を尖らせて言った。……本音がやっと漏れたか。精霊ってのは余程暇らしい。クリアといいこのミスティといい。
……ってか八十年って事はこの街が出来てからずっとここに居る訳か。きっと暇だっただろう。
「……まあ良いが、ちゃんと使える剣なんだろうな?」
俺は言って、ミスティの本体(?)である剣の柄に手を伸ばす。
「……っ」
その柄に触れた瞬間――左手に強烈な熱を感じ、頭の中にこの剣の基本的な使い方が流れ込んでくる。
……左手の甲に漆黒の烏を象ったような丸い紋章が現れ、漆黒の光を放っている。頭の中に使い方が流れ込んでくるとは、何とも便利な事だ。だが秘奥義と思われるような強力なモノはない。まだ教えてくれないのか、それともそういう強い能力はないのか。
『私が許可してないのに契約するなんて、意外だわ。本当に、私の使い手が現れた――!』
ミスティは少し驚いたような顔をすると、心底嬉しそうに笑って、無数の漆黒の羽根となり散っていく。……丁度良いタイミングで、おっさんが店の奥から顔を出した。
というかまだ許可してなかったのか。そっちから誘った癖に。まあ、今回は俺が無用心だったという事にしておいてやろう。




