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エセ勇者は捻くれている  作者: 星長晶人
第一章 最初の街

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豹獣人は黒魔人を圧倒する

活動報告にて、他作品の更新状況を記載しました

「「……」」


 草むらで対峙するメランティナとナヴィ。二人の間にはピリピリした空気が流れている。


「……うーっ」


「うーっ」


 俺は胡坐を掻いて対峙する二人を丁度中間地点で横から眺めるように座っている。ニアとミアの二人を膝の上に乗せて抱え、尻尾をパタパタさせ唸る二人を撫でて落ち着かせる。


 ……もしかしたら、メランティナの放つ獣の気迫に影響されて内なる獣の本能が刺激されているのかもしれない。


 今まで見ていない落ち着きのなさに、俺はそんな事さえ思ってしまう。


「……いくわよ?」


「ああ、いつでも良いぜ」


 メランティナがグッと脚に力を込めて腰を沈めると、ナヴィは上等とばかりに拳を胸の前で打ち合わせた。


「っ……!」


 確認した言葉通り、メランティナから動く。地を蹴って猛スピードでナヴィに突っ込んでいくメランティナ。その瞳には肉食獣特有の獰猛さが現れていた。……もしかしたら久し振りに戦えるからテンションが上がってるのかもしれない。


「まだまだ、師匠には及ばないなっ!」


 かなりの速度で地を跳ねるように駆けるメランティナだが、『模倣』で既に黒魔人と豹獣人の体躯を体験してしまっているナヴィは、少し嬉しそうに言った。


「……へぇ。じゃあこう言うのはどうかしらっ!」


 メランティナは互いに拳が届く距離まで突っ込み足を止めて踏ん張ると、面白いと言う風に笑って、しなやかな長い左脚を振りナヴィに膝蹴りをしようとする。


あめえよ!」


 ナヴィはそれを右手で払おうとするが、


「っ!?」


 弾かれた。


 ……人間と人間ならこの結果は当然のことだろう。腕力より脚力が高いなんて、常識だ。

 だが黒魔人赤種と豹の獣人では違う。


 勿論メランティナのステータスが豹の獣人にしては高いと言う事も有り得るのだが、メランティナは「こう言うのはどうか」と言った。ならただの蹴りじゃないだろう。ハッタリと言う可能性もあるが、俺の『模倣』した感覚では黒魔人赤種の腕力は豹の獣人の脚力をも上回る。

 と言う事は、何かをしたと言う事だ。


「隙ありよ」


 ナヴィは信じられないものを見たような顔で、呆然として弾かれた右手と弾いたメランティナの左脚を見るが、その隙を逃すメランティナではない。鳩尾に容赦ない拳打を叩き込み、ナヴィは苦悶の表情を浮かべ、身体をくの字に曲げて吹き飛んでいく。


「……ってぇ」


 それでも持ち前の身体能力で宙に居ながら体勢を立て直し、両足を踏ん張って着地する。……身体のしなやかさや身体能力、反射神経等はメランティナよりも上だろうに、何でこんな勿体ないんだろうか。


 圧倒的すぎるその膂力が、ナヴィから体術と言う工夫を奪ってしまったのか。


「黒魔人ってホント無知よね。自分の体内で循環する魔力を一点に集め身体能力を向上させる、魔力操作でさえ知らないんだから」


 メランティナは呆れて言うが、この場でその『魔力操作』とやらを知っているのはメランティナだけだったようで、俺含め四人共首を傾げた。……だがしっかり『観察』させてもらった。もう『模倣』出来るだろう。


「ニアとミアは兎も角、クレトまで知らないなんて……。魔力操作は冒険者なら誰でも出来る初歩の技術よ。体内に循環してる魔力を一点に集めて身体能力を上昇させる。魔力の消費はないからこれを使って基本的な身体能力にするんだけど――膂力が桁違いなのね」


 メランティナがどんどん呆れていく。だが俺はもう『模倣』完了しているため『魔力操作』が出来る。


「まあよく分かんねえけど、ガチでやらねえと無理らしいなっ!」


 ナヴィは理解出来なかったようだが、油断していた事を認め、本気で挑む気になったらしい。脚に力を込め、低く跳躍したそのままの勢いを殺さず一歩二歩と地を蹴って加速する。


「らぁ!」


「っ!」


 ナヴィが正面から突っ込み、右拳を振り上げるとメランティナはそれを驚いたような顔で見て、その軌道上に左腕を構え防御姿勢を取る。


「くぅ……っ!」


 ナヴィの拳をしっかり防御したメランティナだが、その脚は地を離れ数メートル後退した。


「恐ろしいモノね。まさか魔力操作を使えるなんて。今見たからかしら。それとも元から使ってたのに知らなかっただけ?」


 メランティナは綺麗に着地すると、痺れたのか左腕を振って言う。……今のが『魔力操作』を使った拳なのか。フルパワーで殴ったようにしか見えないんだが、まあ『魔力操作』を使ったんだろう。後でメランティナにどうやって見分けるのか聞いてみよう。


「何だよ、オレにも使えんのか。じゃあ勝てんな!」


 ナヴィは言って今の感覚を覚えたのか、その突進に合わせて突っ込んだメランティナと拳と脚とをぶつけ合い壮絶な戦いを見せる。……ふむ。確かに速く重い一撃だ。と言うかメランティナのステータスが高いんだろうな、最強の種族である黒魔人赤種と同等に戦っている。


「黒魔導……っ!」


 遂にナヴィが勝負を決めに動いた。手に赤黒い球体を出現させると、メランティナを倒そうと拳を振るう。……あれをくらったら流石のメランティナもヤバいだろうな。


「仕方ないわね。――『人獣化・壱』」


 メランティナは一旦後ろへ跳んで距離を取ると、そう呟いた。……スキルの発動らしい。よく『観察』しておこう。


「ッ……!」


 メランティナは獣人の姿のため豹柄の毛並みをしていたが、爪が鋭く伸び指先から肘まで、靴を履いているため分からないが恐らく爪先から膝までに豹柄の模様がある毛が生える。犬歯も更に鋭さを増した。

 その状態になったメランティナは、先程より速く突っ込み驚くナヴィの懐に入ると、右拳を捻じ込んだ。


「ぐっ……! おらぁ!」


 悶絶するナヴィだが、吹き飛ばず両足で踏ん張って耐えると、メランティナの腹に殴り返した。


「ッ……! でも、甘いわよ!」


 メランティナはまともに黒魔導を纏った拳が当たり苦悶の表情を浮かべるが、どこか楽しそうにナヴィに殴り返す。


「おおおおぉぉぉぉぉ!!」


 メランティナに再び殴られたナヴィだが、吼えて黒魔導を纏った拳を振るう。その拳から赤黒い波動が放たれ、メランティナの全身を覆った。


「くっ!」


 メランティナはダメージが大きいのか、傷付き倒れはしなかったがよろめいていた。……何だよ。俺が教えるまでもなく使えるじゃねえか。


「はっ。黒魔導にはこんな使い方もあるんだな!」


 ナヴィはしかし今まで知らなかったらしく、面白そうに笑って再び離れた場所に居るメランティナに拳を振るう。……吸収力が高い。渇いたスポンジみたいな感じなんだろう。貪欲に力を吸い込んでいく。


「仕方ないわね、もう。――『人獣化・弐』」


 メランティナは険しい表情をしながら、まだスキルを隠し持っているためそれを使う。


 さっき使った『人獣化・壱』よりも更に獣に近い。姿が完全に変わり、二本脚で立っている豹だった。ただ一つ違うところがあるとすれば、それをさらしを巻いた豊満な胸がある事だろう。服は腰巻以外は破れて散っている。


「……おぉ」


「凄い」


 俺が宥めていた二人が再びバタバタと騒ぎ始めた。……メランティナの放つ獣の気迫に影響されているらしい。俺が喉を撫でてやっても収まらないようだ。


「良いじゃねえか、もっとオレを楽しませろよ!」


 ナヴィが戦闘狂らしく獣の姿となったメランティナを見てわらう。


「……」


 だがメランティナは応えず高速でナヴィの背後へと回る。……それはそうだろう。何でわざわざ自分から「行くぞ」と声をかけて獲物を狩るハンターが居る? 行動する前は静かに気付かれないように、動いたら容赦なく獲物を狩るのが、肉食獣と言うモノだと俺は思う。

 俺は客観的に見える位置で見ているから把握出来たが、残像さえ残っていない。メランティナが動いた、と思った頃にはナヴィの背後に居る感じだ。動いた先で止まってから、通った道筋に砂埃と言うか風が巻き上がる。


「っ!?」


 流石のナヴィもこれには驚き、脅威の反射神経を以って何とか防御するための腕を挟んだが、殴られたナヴィは高速で吹っ飛んでいく。だがその吹っ飛んでいくナヴィを、メランティナが走って追う。そのメランティナの途轍もない脚力から放たれる蹴りがナヴィの背中に直撃し、殴られた時より速く吹っ飛んでいく。だがその先にもメランティナが構えている。


「おおおおおぁぁぁぁぁ!!!」


 このままでは一方的に蹂躙されるだけだと理解したナヴィは咆哮すると、黒魔導を全身に纏う。強烈な空気抵抗に逆らい体勢を変えて、メランティナに蹴り飛ばされた勢いを利用してメランティナに殴りかかった。


「……ッ!」


 メランティナは少し目を見開いて驚くが、直ぐにナヴィの背後へと回って拳を構える。だがそれを目で追っていたナヴィはクルリと宙で身を翻し、殴りかかってきたメランティナの拳に自らの拳を合わせるようにして叩き付ける。


「「ッ……!」」


 そして拳と拳の衝突により生み出された衝撃が、二人を後方へ吹っ飛ばす。ナヴィの方が勢いがあったため少し速い。


「やるわね。まさか『人獣化・弐』でも相打ちにされるなんて」


 メランティナは華麗に着地を決めて言った。表情は読みにくいが苦笑しているようだ。……傍目からは獣が獰猛に笑ったようにしか見えないが。


「相打ち? これからが本番だろうが!」


 ナヴィは余程打たれ強いらしく、まだ倒れない。……黒魔導には身体能力強化の効果もあるようだ。これは分からないでもないが、まさかこれ程とはな。全身から迸った黒魔導がナヴィに呼応して一層煌めきを増す。


「そうね。でももうこれで終わりよ。――『獣化』」


 ナヴィが高速で突っ込んでくるのに対し、メランティナは新たなスキルを使う。……獣人って姿を変化させるスキル多すぎだろ。一体いくつあるんだか。

 メランティナは体長二メートル程の豹に姿を変える。……完全な豹だ。人の部分がなくなった。でかい豹になっている。『獣化』だからだろう。


「あ――」


 恐らく「あん?」と言おうとしたんだろうナヴィは、俺でも見えない速度でナヴィとすれ違った。すれ違い様に爪で切り裂いたらしく、ナヴィの右肩から左腰にかけて血が噴き出した。


 ……速すぎる。これが獣と化した獣人の強さなのか。ただの獣ベースでこれなら、ユニコーンをベースとしたユニはどれ程強くなるんだろうか。


 ニアとミアの二人が毛を逆立てて興奮しているのを宥めずに、ただ人の姿に戻ったメランティナを呆然と見ていた。

 ……何故か全裸だったのでメランティナから怒られてしまったが。ジロジロ見るなって、そりゃ見るだろう。メランティナの全裸だし。いやそうじゃなくて、俺はメランティナの強さに呆然としていただけだ。


 まあそれは兎も角、ナヴィに回復薬を飲ませつつ、気絶しているので背中に乗せて運び、宿屋メナードへと戻っていった。

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