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エセ勇者は捻くれている  作者: 星長晶人
第一章 最初の街

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豹獣人は子猫二人に認定される

「ところでクレト。どうして戻ってきたんです?」


 俺達四人がほんわかしていると、クリアがジト目を向けて聞いてきた。


「……ああ、それはだな――」


 俺はナヴィ以外の四人にギルドで何が遭ったのか掻い摘んで説明する。

 かくかくしかじかってヤツだな。


「流石はクレトです!」


 何でかはよく分からないが、クリアが目を輝かせて褒める。


「ホント、流石ね」


 メランティナはどこか苦笑気味に微笑んだ。……それは皮肉だろうか。ただ褒められている訳じゃないのは確かだ。


「それより師匠、オレに修行付けてくれよ!」


 せっかちなナヴィがいい加減にしてくれと言う顔で俺に言ってくる。……もうやるのか。俺はやりたくないんだが。


「修行?」


 メランティナがキョトンと小首を傾げて聞き返す。……一々仕草が可愛いな。何でこの人未亡人なんだろうか。


「……ああ。その件でメランティナに相談があるんだが」


「?」


「……肉弾戦は俺よりメランティナの方が良いだろうと思ってな。俺の代わりに近接戦闘の修行を付けてやってくれないか?」


「何で私が」


「そうだよ師匠。いくらオレに武術の心得がないからって、黒魔人の俺が獣人に負ける訳ねえだろ」


 メランティナが少し嫌そうな顔で言うと、ナヴィがやれやれと言った風に言う。


「……へぇ?」


「……むぅ」


「むっ」


 メランティナが獣の獰猛さを垣間見せて少し微笑み、ニアとミアの二人が頬を膨らませてナヴィを睨む。


「あなた、今噂になってる黒魔人赤種のナヴィよね? ランクは?」


「あん? Aだけど?」


 メランティナが静かだが気迫を感じさせる声音でナヴィに尋ねると、メランティナの意図が分からないのか雑に答えるナヴィ。


「冒険者になってからどれくらい?」


「十日ぐらいだな」


「十日でまだAランク? その程度で、私に勝てると思ってるの?」


 ザワリ。


 俺は空気がざわめいているように感じた。その中心は勿論、獣のような気迫を放つメランティナだ。


「ああ?」


 メランティナの、まるで自分はもっと早くランクが上がったと言うような物言いに、ナヴィがイラッとして睨み付ける。


「私は三日でSランクになったけど?」


「「「っ!?」」」


 その発言に全員が驚かされる。……凄腕とは聞いていたが、まさかそんな物凄い腕を持っている冒険者だったとは……。もしかして、この街のギルドマスターとやらと仲が良かったりするのだろうか。


「……てめえ、それマジか?」


 ナヴィが目と口を大きく開いて驚愕していた。信じられないと言ったような表情だ。


「本当よ。まあ私はあなた達と違って冒険者になったのが遅かったから」


 二十歳だったし、とメランティナは肩を竦める。


 ……今いくつなのかは知らないが、冒険者になって三日でSランクってのは、かなり凄い事なんじゃないだろうか。


「……ところで、二人はランクとか冒険者って分かるのか?」


 全員驚いていた、と言うことはニアとミアの二人も驚いていたと言うことだ。


「……ん」


 ニアが首を横に振る。じゃあ何で驚いていたんだろうか。


「何となく凄いと思ったから!」


 ミアが元気良く言う。……なるほど、そう言う事か。


「……そうか」


 俺は二人を何となくよしよしと撫でてやる。


「兎に角、修行を付けるのは良いけど、私に対して失礼な口を聞く娘を育てる気はないわ。まずは口の聞き方から教えてあげる」


 メランティナが空気を整えるように言うと、再び獣の気迫を纏う。ニアとミアの二人は「おぉ」と顔を輝かせていた。同じ猫科の獣人として、何か尊敬を加速させるモノがあるんだろう。


「良いぜ、やってやろうじゃねえか」


 しかしその気迫を受けて、戦闘狂のナヴィはニヤリと笑った。


「そう言う余裕が、黒魔人の弱点だって事、教えてあげるわ」


 メランティナは心当たりがあるのか、真剣な表情をして言い、カウンターの奥に消える。


 ……当たり前の事だが、俺ってメランティナの冒険者時代のことをよく知らないんだよな。あまり深く関わる気はないが、知っておかなければならない事もあるだろう。俺がうっかりメランティナの名前を出してしまい、ざわつくギルド集会所。とかなったら嫌だし。


「戻ってくるまでは宿を閉める事にするわ。最近はあいつらも来ないし、良いでしょう」


 永遠に来ないけどな。


 俺はメランティナの言葉にそう言いたくなったが、特に言う程の事でもないのでスルーしておく。


 メランティナは閉店と書かれた木の板を持ってきていた。二つ穴から紐を通して輪を作っているので、きっと閉店を示す看板だろう。喫茶店等によくある『CLOSE』とかの看板と同じ役割だ。


「どこでやるんだ?」


「人気の少ない草原が良いんじゃない? あまり人目の付く場所で戦いたくないわ」


「じゃあ行こうぜ」


「せっかちな娘ね」


 ナヴィがやる気満々で宿屋メナードを出ていく。それに続いてメランティナが嘆息混じりに言って出ていく。


「……じゃあ、行くか」


「……ん」


「行く!」


「私も……」


「……お前にはギルドで金を稼いで欲しいんだが?」


「仲間外れですか」


「……違う。お前には俺のためにやることがあるだろう?」


「っ! はい、では行ってきます!」


 俺は二人と手を繋いで二人の後に続く。クリアがついてこようとしたので諭すように言うと、何故か嬉々として宿屋メナードを出ていった。……良い心掛けだ。その調子で俺の剣を奢ってくれたまえよ。


 密かに感心しながら、偉そうにクリアを見送る。


「……くれとくれと」


「どっち勝つ?」


 二人がスベスベな柔らかい手で俺の手をキュッと握りくいくい、と引いて聞いてくる。


「……ま、メランティナが勝つだろうな」


 俺はブランクがあるとは言え、僅か三日でSランクになる凄さは、実際に冒険者をやっている俺もよく分かる。


「……めら?」


「ティナ?」


 だが二人はキョトンとして可愛らしく首を傾げた。……ん? メランティナが誰か分からないのか?


「……あの人は?」


 俺はナヴィ、メランティナと歩いていく二人の背中の内、およそ戦闘向きとは思えない格好のメランティナの背中を指差す。


「……おかーさん」


「お母さん!」


 ニアは仄かに、ミアは元気良く笑って答えた。


 ……何だよ。やっぱり母親になりたいんじゃないか。


 俺は内心で、メランティナに苦笑していた。


 名乗らず世話を焼いて母親認定させるとは、何とも回りくどい事だが。

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