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エセ勇者は捻くれている  作者: 星長晶人
第一章 最初の街

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ぼっちは弟子を持った

 ……はぁ。


 俺は内心で溜め息をつく。勿論表でも嫌な顔をする。


 だってこの街――今はまだ名前は付いていない――でも一番の問題児と言える黒魔人赤種のナヴィを弟子にしてしまったのだ。


 憂鬱にもなる。


 一方のナヴィはと言えば、上機嫌に軽い足取りで俺の隣を歩いている。時々俺の呼び方を考えているようで、「師匠?」や「先生?」と言いながら首を捻っている。……本気の弟子になる気満々なところ悪いが、俺はさっさと強くしてどっかやりたいんだが。


 ってか黒魔人がこれ以上強くなるには、黒魔導の応用を使いこなせるようにする、体術を覚える、程度しかない。前者は兎も角後者は俺じゃあ無理だ。武闘家でも居れば良いんだが、俺の知り合いには居ないだろう。メランティナと二人の猫の獣人は分からないが。


 もしかしたらメランティナは高い身体能力を活かした近接戦闘を得意としているのかもしれない。


「師匠!」


 ナヴィが急に声を掛けてきた。……師匠は嫌だな。何かこう、むず痒い。


「……師匠は止めろ。で、何だ?」


「師匠! これからどこ行くんだ?」


 ……こいつ、人の話を聞かないタイプか。


 まあ人前では名前で呼ぶようにさせるしかない。


「……俺が泊まってる宿だ」


「えっ? 師匠は宿に泊まってないんじゃ?」


「……そんなの嘘に決まってるだろ」


 驚くナヴィにしれっと答える。


「じゃあまさか、師匠はホントにあの……何とかかんとかってのを持ってんのか?」


 ナヴィは真剣な表情でゴクリ、と生唾を飲み込む。……真剣な表情をしてるとこ悪いが、名前は全く覚えてないのな。


 オルマリファナ。地球にもマリファナと言う薬物がある。大麻と言った方が分かり易いだろうか? 兎も角、そう言う薬物は多く存在している。植物には多種多様な効能を持ったモノがあるのだ。

 このオルマリファナと言う薬物も、様々な効果を持つ。幻覚作用、方向感覚の喪失、身体調整作用の欠如等があり、勿論の事中毒性が強い。一度摂取したら二度と忘れられなくなると言う、よくある薬物だ。


 だがそれだけではよくある薬物なので、所持まで禁止し、口に出すのも憚られるようにはならない。


 一度摂取したら、二度と元には戻れない。それはその強い中毒性と、長期使用者に現れる症状が関係している。無気力になる、虚脱感が抜けない等がそれに当たるが、それが酷い。糞尿さえも、トイレに行くのさえ面倒になってその場でしてしまうのだ。それが、この薬物が嫌悪され忌み嫌われる所以である。


「……持ってない。家宅捜索までされたら面倒だからな」


「かたくそうさくって何だ?」


 俺が嘆息混じりに言うと、キョトンとして聞いてきた。……やっぱりこいつ、アホだ。


「……家に押し入って色々漁ることだ」


 俺は適当に返す。……大体は合ってる筈だ。その筋の人からすれば「勝手なイメージだ」と言われるかもしれないが、庶民のイメージなんてそんなもんだろう。いや、もしかしたら俺のイメージが偏ってるのかもしれない。警察ってイマイチ信用ならないからな。犯罪を取り締まる組織が犯罪を犯す――果たして信じられるだろうか? いや、否だ。警察とは厳格であって然るべきだと思うのに、まさか犯罪を自ら進んで犯すとは、世の中の大半を信じるな、と言っているようなもんだろう。


 まあ、俺は元々嘘と偽善と欺瞞で塗り固められた世界なんざ、最初っから信じちゃいないが。


「ほうほう。そりゃあめんどいな」


 ナヴィは納得したように頷く。……ホントに分かってるんだろうな?


「……ああ。だから嘘をついた。話を戻すが、宿に行く。お前はどうする?」


「そりゃあ弟子は師匠に一生ついていくもんだろ!」


 ……一生は止めてくれ。


 俺は思わずそう即答したくなるが、こらえる。……最悪の場合、必要以上に冷たく当たって失望させて、こいつの方から弟子を辞めたいと言い出したくなるようにすれば良い。


「……じゃあ俺が泊まってる宿に泊まることだな?」


「ん? 違うぞ? オレは師匠の弟子だからな。勿論同じ部屋だ!」


 ……はあ?


 俺は表面上は少し眉を動かす程度だったが、内心では「こいつ何言ってんだ」と言う怪訝な思いでいっぱいだった。


「……何でだ?」


「何でって、そりゃだから、師匠の弟子だからだろ」


 俺が聞くと、何故か何で分からないのかと言うような顔で首を傾げられた。……そうか。男女の仲になる事がない分、クリアよりはいくらかトラウマが刺激されないだろう。そう言う点ではクリアよりも良い。よしっ、ちょっとポジティブシンキングだ。それに、俺にはナヴィとクリアの憂鬱さを補って余りある程に二人の猫の獣人が可愛い。


「……はぁ。分かった。だが宿代は自分で払えよ」


「ああ、分かった!」


 ナヴィは心底嬉しそうに頷く。……こいつの長所にして短所は、素直すぎる事だな。素直で無邪気で信じ易い。こう言うヤツが詐欺の被害に遭って人生を破綻させるヤツだ。


 と言う事で、アホだが力は強いナヴィを連れて、宿屋メナードへと入っていく。

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