ぼっちは愛する子猫のために怒る
俺はまず人気のない場所で商売をしているような怪しい商人に話を聞き、俺がこれから集めるべきモノに見当を付けた。
貰った金は白金貨百枚。一億センだ。……賄賂であっても賄賂すぎる金額だ。
折角なのでこの金はPCを買うのに使わせてもらう。必要経費は俺がPCを買うために貯めている貯金の中から出せば良い。それで事足りる。
今日は危険薬物と鋼鉄の処女だけで良いだろう。
それらについても商人から買うように話は付けてある。
あと今日する事は、あの野郎の家の警備の調査だろうか。あとは何か重要なモノが隠された部屋とか場所を探っておこないと、俺が侵入して場所を探す前に見つかってしまう。
……あと、あれだ。俺が危険薬物を持っているって知れたらマズい。早々に野郎の家に置いておかないといけないな。
と言う訳で俺は、行動を開始した。
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翌朝。
「……ふあぁ」
俺はようやく買う事が出来たPCで溜まったアニメを観ていたので夜更かしをしてしまった。……眠い。でもやっと目的を達成したぞ。これでこの街の用は子猫救済のみとなった訳だ。
今日も黒い突然変異が単体で、しかもオーガで見つかったと言う。
オーガってのは、ゴブリンを小鬼とするなら大鬼。抹茶色をした脳味噌が筋肉で出来ているようなパワーバカだ。ゴブリンは上位になるとある程度の装備や弓矢を扱う等をしてくるが、オーガはハイオーガと言う上位種も、オーガジェネラルと言う上位種も、オーガキングと言う上位種も、大きさと筋力以外は大して差がない。
雑に振るって攻撃出来るような武器か素手だ。
ゴブリンよりもパワーはあるのだが、如何せんパワーだけなので大して苦戦することもなく倒せるのだ。
俺がゴブリンとばかり戦っているせいで今まで言わなかったが、オーガも泉の森に住んでいる。泉の森はモンスターが数多く跋扈するモンスターの楽園でもあるのだ。他にも色々な種類のモンスターが居たりする。
一般的によく知られているヤツとしては、オーク――豚鬼ってヤツだな。
顔が豚(俺が見た限りじゃあ豚より猪に近い気がするが)で、基本茶色の毛に全身を覆われている。主な武器は槍で、ゴブリンやオーガよりも知能が高いようだ。槍捌きはかなり良い。『剣武の才』は剣しか超一流にならないので多様性は低い。槍捌きは(剣が主流ではあるが)オークのを『模倣』するのが今のところ一番良い。……俺、ぼっちだから槍使いの一流冒険者とか知り合いに居ないし。
オーガ、オークの防具は腰巻のみだ。……モンスターにも生殖機能は付いているので、そのためだろう。オスとメスがどう違うのかは見ただけじゃ分からないし、『鑑定』しても♂や♀と言った表記は見られない。雌雄一体のイメージはないので、もしかしたら特別な一体のメスが居て、他のオスが輪姦して生殖活動を行うのかもしれない。その辺は知らんが、蜂や蟻のような女王体制なのかもしれない。
それは兎も角、無事に朝起きられたので少し安心し、腕に抱き着いて寝ているクリアを引き剥がすと、道具袋、剥ぎ取りナイフ、鋼の剣を腰に提げ部屋から出る。
その後、いつものようにメランティナの手料理に舌鼓を打ってから、宿屋メナードを出る。
「……っ」
「っ!」
すると、外に二匹――いや二人の幼女が居て、俺の足に抱き着いてきた。……可愛い。
俺はその可愛らしさに思わず、顔が微妙に綻んでしまう。……だって猫の獣人だぜ? しかも昨日と同じようなシチュエーションで、昨日と同じ子猫の毛と瞳の色をした――って、まさか……?
「……二人は、昨日の子猫か?」
俺は目を見開いて二人に尋ねる。二人は戸惑うように視線を交わし、こくんと頷いた。
「……そうか。よっと」
俺はあっさり頷くと、二人を抱えて上まで持ってくる。
「……ん」
「温かぁ」
左側に居る無表情な幼女はシルバー・ブルーのショートカットから三角に尖った突起物、即ちネコミミがピコッと出ていた、時折ピクピクと反応していて可愛い。二人は布を巻いただけのような格好だったが、尻の辺りから細く長い尻尾が出ていて、ピン、と伸ばされている。……これは猫が懐いている証。嬉しいな。
右側に居る明るい笑顔を見せる無邪気な幼女は茶色のフサフサした髪からネコミミを覗かせ、狐のようにフサフサした尻尾をピンと伸ばしている。
二人共幼女らしくぺったんこなスタイルをしている。ロリ巨乳はユニだけで充分だ。
「……どうしたんだ? 迷子になったのか?」
「……ちがう」
「痛かったの」
俺が出来るだけ優しい声音で聞くと、二人はふるふると首を横に振った。……まさかとは思うが……。
俺はある嫌な予感が思い浮かんで、出来れば違って欲しいと願い、一旦宿屋メナードの中に戻る。
「あら? クレト、その子達は?」
と首を傾げたメランティナが尋ねてくるが、無視だ。今はこっちの二人が優先だ。
「……二人共、放してくれ」
俺は耳元で囁きつつ、腰を屈めて二人を食堂の椅子に下ろす。
「……」
そうしてから俺はおもむろに二人の布を捲る。ちゃんと大事な場所は見えないように、腹を見る。
「……っ!」
そして俺は、ブチ切れた。
「……そうかよ。そう言う事かよ……!」
血が沸騰しているかのように、身体が熱くなる。ギリッと奥歯を噛んで、自分の不注意を悔いる。
しかし今は、憤怒の方が強かった。
「っ! どうしたの、その子達? 怪我してるじゃない! こっち来て、治療とお風呂と新しい服と、してあげるから!」
横目で二人の腹を見たメランティナが、慌てた様子で駆け寄ってくる。
「……メランティナ。二人を頼む」
「……いかないで」
「一緒が良い!」
俺が立つと、二人がギュッと俺の服の袖を掴んできた。そして縋るような目で俺を見上げてくる。
「……大丈夫だ。この人は俺の知り合いだからな。良い子で留守番しててくれ。俺はこれから、ちょっと出掛けてくる」
俺は慣れない微笑みを浮かべると、二人の頭を優しく撫でてやる。
「……ほんと?」
「……ああ」
「この人優しい?」
「……ああ」
尋ねてくる二人に笑って頷く。
「大丈夫よ。――ほら、私もあなた達二人と同じ獣人だから」
不安がっているのが分かったメランティナは『人化』を解いて獣人の姿になる。
「……ん。おんなじ」
「一緒!」
無表情な方がこくんと頷き、明るい方がニッコリと笑って言った。……これでもう大丈夫だろう。
「……じゃあ俺は行ってくる」
「ええ。行ってらっしゃい」
俺の見せた憤怒の表情が理解出来るのか、メランティナは二人の手を取って何も言わずに俺を見送ってくれた。
俺は踵を返し、宿屋を今度こそ、出る。
……あのクソ野郎! 子猫に痣が出来るまで暴力を加えただと!? しかも、何度も!
俺は二人の身体に出来ていたいくつもの痣を思い出してギリッと歯軋りする。
……そんなヤツが生きていて良い筈がない! いや、そんな事どうでも良い。
あれが死ぬ理由なんて、俺の怒りを買った、ただそれだけで充分だ。
憤怒から、今までで一番冷め切った表情へと変わっていくのが分かる。
……どんな惨い殺し方をしても、良いよな?
俺の心にはドス黒い感情が渦巻いていた。




