ぼっちは計画殺人を開始する
計画殺人はゲームと読んで下さい
……さて。
俺は大貴族のおっさんを三回殺すと決めた訳だが、どうするか。
見るも無惨な惨劇を巻き起こしたいが、まだ何も決まっていない。
肉体的に殺すのは簡単で、これを最初にしてしまうと他二つが出来ない。だから必然的に最後へと回る。
精神的に殺す。これは肉体的に殺す次に簡単だろう。俺の他人を人間とも思わない精神において、人を奈落の底に突き落とすのは容易い。
貴族のあのおっさんなら、地位、名誉、財産、家族。この辺を次々に失わせてやれば精神的に殺せるだろう。権力と金にモノを言わせるタイプのヤツは、それらを失くすと脆いもんだ。後は心の拠り所になる家族を亡くせば、もう終わりに近い。
精神的に殺すと言うのは、所謂鬱病にさせる、と言う意味に近い。
一番難しいのは社会的に殺すだ。俺からしてみれば、俺はもう既に社会的に死んでいるのではないかと思う。ぼっちだからな。ぼっちはぼっちでも、俺みたいなぼっちは社会的に死んでいると言えるのではないだろうか。俺みたいな、と言うは、周囲の誰からも注目されず、見放されたヤツの事である。……最近はそれが薄れている節があるのだが。いじめを受けている間はまだ生きている。他人に認識されている訳だからな。それが社会的に死ぬとなると、話は別だ。いじめは受けていないのだが、誰からも相手されなくなる。
それが社会的に死ぬ、と言う事であると、俺は思う。
……う~ん。超残酷だなぁ、って思ったのはあれだな。操り人形のように人間を操って同士討ちさせるヤツ。とある人気漫画にあるヤツだな。それで家族に手をかけた、となれば精神は崩壊まで一気に突っ走ってくれる事だろう。じゃあパクリになるが、そう言う方向性で家族を殺ろう。
社会的に殺す、と精神的に殺す、は似通ったところがあるので一緒にやれれば良いと思う。幸いにして資金は山程ある。まあ人を操るなら糸の能力が欲しいな。「寄生糸!」ってやりたいし。糸魔法とかそう言うのはないんだろうか。ないならないで、二人羽織りみたいな感じでやるしかないが。それでも良いだろう。操るのは一人で良い。
社会的に殺すには、まず地位と名誉と財産を失わせてやろう。それには権威失墜をしなければならないが、これが面倒だ。不正を暴いて――みたいな事をするには緻密な事前調査が必要となる。それは流石に面倒だ。どうせなら不正をでっち上げた方が早い。だがただ不正をでっち上げてもあっさり否定されて終わり。策を弄するなら徹底的に、だ。
……よくよく考えてみると、俺の手札は少ないが、いざとなれば力尽くで全て解決出来る。それに、少ない手札はかなり優秀な部類に入る。トランプで言えば手札がジョーカーのみって感じだ。
戦略の幅は広くないが、俺は有言実行の男だ。いや、言葉に出してないので有言ではないか。
無言執行の男だからな。
口には出さないが、心で思う。実行するが、この場合は執行の方が似合う。
無言執行。
新たな四字熟語の誕生だ。
それは兎も角、早速行動を開始しよう。とりあえず白金貨がどれくらいあるのか数えて、PCが買えるか調べる。それから資金を集める。いつも通りクエストをこなしながら、必要なモノを揃えていき、殺す。
……詳細な計画は今から練っていこう。出来れば今日から実行したいしな。
……何か使用禁止薬物とかってないんだろうか。日本で言えば、覚醒剤や偽札を持たせて犯人にでっち上げるって事も可能だと思うんだが。書庫に忍び込んでそこに使用禁止薬物を隠し、衛兵に密告して社会的にダメージを与え、何が何だか分からない内に捕まり、そして金で何とか釈放してもらい、しかし次々と傘下にある商売が失敗に失敗を重ね赤字続きになっていく。何とか挽回しようと思うが借金が増えるばかりで事態は悪化するばかり。しかもある日、更なる悲劇が襲う。何故か身体が勝手に動き、使用人や家族を殺していくのだ。泣き叫んでも喚いても、止まる事のない殺戮。社会でも精神でも死に、絶望して自殺しようとしていると、俺が現れる。そこで縋るように白金貨を返せと言ってくるおっさんだが、この事態の全ては俺が起こしたと告げられ、怨念に駆られる。だが外套の剣士として強者である俺とデブのおっさんでは身体能力に差がありすぎて、直ぐに追い詰められる。気絶させられたおっさんは目が覚めると、自分が拘束されている事に気付く。しかもそこは、鋼鉄の処女の中だった。恐怖と絶望がベッタリと張り付いた顔に、無数のトゲがある蓋が閉められる。
その日、大貴族が生涯を終えた。
……これが俺の理想とする三回殺しな訳だが、些か地球の知識に偏りがある。充分とは言えない理想だ。
この理想を実現出来るように動いていく事にしよう。
とりあえず、金を数えて必要なモノを揃えるところから始めなければならない。
さあ、計画殺人を始めよう。




