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エセ勇者は捻くれている  作者: 星長晶人
第一章 最初の街

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外套の剣士はゴミ処理を行う

「……て、てめえ、がっ、外套の剣士だと……!?」


 元冒険者から借金取り立て屋に成り下がったヤツらの集まりが、外套の剣士の素顔――俺の顔を見て驚愕に目を見開く。


「……クリア。『硬化』しておけ」


「えっ……? あっ、はい……」


 俺はクリアに嵌められた金属製の枷――魔力封じの枷を黒魔人の体躯によって得た脚力で蹴り砕き、命じる。


 クリアは戸惑ったような声を上げるが、無視だ。だってクリアに用事はない。


「てめえ……っ! てめえら、こいつだ! こいつが俺達の計画を邪魔しやがったヤツだ! 殺っちまえ!」


 宿屋メナードに金貨五枚を徴収しに来る男二人の内、道端で死んでいた男とは違う、よく喋る方の男が俺を指差して(人を指差すとは失礼なヤツだな)他九人に命じる。……こいつらが元冒険者な。確かAランクがこのリーダーっぽく振る舞うヤツで、Bランクが五人、Cランクが四人だったか。俺以上のランクじゃねえかよ。ヤベー、俺ボッコボコにされるわー。


 な訳(笑)。


 俺は左手の鋼の剣を無造作に振るって、一人の首を狩る。確かCランクのヤツだ。


「……なっ!?」


 生首がゴロリと地面を転がり首のない身体から赤い鮮血が飛び散る。それを見た男達の顔色が青いモノへと変わる。……冒険者やってたんなら仲間の死ぐらい経験してるだろうに。それとも経験する前に手を引いたのか? まあそんな覚悟じゃあ、こんなクソみたいな職業に身を落とす筈だ。


「……」


 俺はいつもの無表情で、人を一人殺したと言うのに無感動に、腰と腹を『液体化』して触手のように伸ばし、先を尖らせ『硬化』させて五人の首を刺し貫き殺す。


 鮮血が俺や他の男達やクリアにかかるが、クリアが『硬化』しているため鮮血がかかっても地面へと流れていく。……俺がクリアに『硬化』していろと言ったのは、このためだ。俺も鮮血が飛び散っている間は『液体化』した部分を『硬化』して下賤な血が混ざらないようにしている。

 『液体化』すると言う性質上、不純物が混ざり易くなってしまうのだ。『硬化』させれば血の臭いが染み付くようなこともなく、染み込むこともない。


「チッ! 死ね!」


 男の一人が六人もの仲間が瞬時に殺されたことに逆上したのか剣を抜いて切り掛かってくる。


「……」


 俺はそれを無視して他三人を鋼の剣を振るって両断する。勿論その三人も形は異なるが剣を構えていたが、『剣武の才』を『模倣』した俺にとっては棒切れも同然なので、武器ごと身体を切り裂いた。


 九人を殺し終えて、俺は最後に残した宿屋メナードでしつこくメランティナに迫っていた男を、何の感情も込められていない瞳で見据える。


「ひっ……! こ、殺さないでくれ! もうあんたにも宿にも手は出さねえから、もう許してくれ!」


 男は怯えた様子で、仲間の血で染まった床に尻餅を着く。ピチャッ、と音を立てる程に流れる鮮血は、俺も男もクリアも死体をも彩っている。


「……」


 俺は無言で剣を振り上げる。……まだもうちょっと、みっともない命乞いが出来るだろ?


「……か、金! 金もやろう! あそこの宿屋の客を追い払ったりも金を徴収したりもしねえ! だからどうか、命だけは!」


 男は血に染まった床に額を着け土下座する。……ヤバいな。嗜虐性に駆られて頭をグリグリ踏みつけたい気分になる。


「……」


 猿の糞が入った水溜まりに顔を突っ込んで土下座する史上最低辺の土下座よりはランクが低いが、まあ仲間の血に埋もれてみじめなので許してやらない事もない。俺は振り上げた剣を下ろした。


「っ……!」


 土下座から恐る恐る顔を上げた男は剣が下ろされたのを見て、「助かった……!」と言う顔で俺を見上げる。


「……殺す価値もないしな」


 俺は右回りで踵を返して男から背を向ける。俺の言葉に悔しげに唇を噛み締めるが、命を握っているのはどう考えても俺なので、背後から襲って来るような真似はしない。引き際は心得ているようだ。


「……殺す価値がないって、殺さないヤツ居るけどさ」


「えっ……?」


 俺が呟くと、男は驚いたように顔を上げる。てっきりこのまま去ると思っていたのだろうが、俺がこのまま帰るなんて、有り得ない。


「……それって生きる価値もないって事だよな」


 俺は再び右回りで振り返ると、その勢いのまま鋼の剣を一閃した。


「はぇ……?」


 生首が最期の力で怪訝そうな顔を作るが、直ぐに目がグルリと回り白目を剥いて宙を舞ってドチャッと血溜まりに落ちる。

 土下座した形の身体も力なく地面に崩れ落ちる。


「……クリア」


 俺は十人全員を始末し終え、『硬化』したままじっと横たわるクリアに声を掛けた。


「は、はいっ!」


 クリアは勢いよく返事をして『硬化』を解き身を起こそうとするが、


「……良い。そのままで居ろ」


「は、はい」


 俺はクリアに命じて血塗れのクリアを抱える。


「あっ……」


 『硬化』しているため身体がいつもの女らしい柔らかさではなく、ひんやりした金属を触っているような感触だったが、そんな事に構っている暇はない。『実体化』では気管等から他人の血液を取り込んでしまうとかなり浄化するまで体調が悪くなるらしいので、風呂で血を洗い流さなければならない。服も硬いのでどこか不思議な感じがする。


「……傍に居ても居なくても迷惑をかけるとは、面倒なヤツだな」


「……ごめんなさい」


 俺がその建物から出て呟くと、クリアはシュンとして謝った。……はぁ。今日ぐらいは、少し意識して優しくしてやっても良いかもしれない。優しくして「ウザい」とか「キモい」とか言われるのは精神的ダメージが大きいのだが、クリア相手ならばその後強気に出て逆に心をズタズタにする事も可能なので、問題ないだろう。


 ぼっち主人公の独り、俺も尊敬する比企谷先生は自分を傷付けて他人を助ける事が出来る。だが俺は既にそんな神の如き精神とはかけ離れていて。


 自分が傷付くくらいなら、全員が傷付けば良い。


 と言うような思考になっている。


 同じぼっちと言う存在でありながら、決定的に違っている。


 俺は、最低な俺が最も嫌いな人物である。

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