ぼっちは異世界でもぼっち
「それでは皆様の了承がいただけたので、スキルについて説明いたします。ステータス、と念じて下さい」
聖女は上手く事が運んでいる事に満足したのか嬉しそうに顔を綻ばせて言った。
……無理に聞き出さなくても説明してくれるなら有り難い。
……ステータス。
俺は心の中でステータスと念じる。すると俺の目の前に、半透明の画面が現れた。……うおぉ、ゲーム的だな。
綺麗な水晶のような色をした半透明の画面には、名前から始まるステータス一覧が上半分、スキル一覧が下半分に書かれていた。……レベル制じゃないのか。ちょっと残念。
……おい。職業おかしいだろ。そこは普通に高校生で良いと思う。こっちにないなら学生、それでもないなら未成年とかでも良いんじゃないか? こっちの成年が十五歳とかだってんなら他の、フリーターとか無職でも仕方がないけどさ。
ぼっちって何?
職業がぼっち? そんなんじゃ俺一生ぼっちから脱却出来ないじゃん。する気はないけど希望もないってどう言う事だよ。
職業設定した神なのか誰なのかは知らないが、てめえは一生独りで居ろってか? 嘗めんな。
……まあ良いけどね。ぼっちって俺的に最も適性の高い職業だし、俺的最強職業と言ったらやっぱりぼっちだし。俺勇者って柄じゃないし魔法使いでも戦士でも微妙だし、ぼっちこそ正に俺の天職ってか?
ざけんな。
RPGは現実で出来ない事をやるから楽しいんだよ。ファンタジー異世界に来てまでぼっちしたがるヤツがいるか。……ああ、俺だ。オンラインゲームでも一生ソロプレイヤーだし。
何だよ、結局どこ行っても結果は同じなのかよ。じゃあもう良いや。諦めて異世界ぼっちライフを満喫するとするか。
そうなるとこっちの世界での俺の生き甲斐になる娯楽を見つけなければ。音楽プレイヤーを充電出来ないかもしれないし、雷系統だけはどうしても必要だな。独りで出来る趣味を見つけなければならない。更に金が必要になって働かなければならない。……そこは我慢するか。俺の人生のためだ。生き甲斐ってのは金さえあればどこかで見つけられる筈だからな。仕方がない、必要経費として頑張るしかないか。
「下半分が今皆様が持つスキルになります。勇者様、教えていただけますか?」
聖女が説明し、勇者君に笑顔を向けて聞く。……俺のは……どうなんだ? 何かパッとしない名前が並んでいる。だが、今までの俺の人生で培ってきた技術の全てが、そこにはあった。
「ああ。『勇者』、『勇者の風格』、『正義漢』、『神炎魔法』、『神水魔法』、『神雷魔法』、『神地魔法』、『神樹魔法』、『神風魔法』、『神氷魔法』、『神聖魔法』、『神闇魔法』、『剣武の才』、『気配り』……だな」
……うわぁ。神から授かった感満載のスキルですなぁ。
それを聞いた聖女は満足そうだったが、俺は内心で顔を引き攣らせた。だって勇者勇者しすぎだろ。しかも何? 最初っから最強の魔法を使える上に剣術の才能も最初っからあるってか? チートすぎだろ。まあそれを納得させるだけの勇者然とした風格が備わっているんだから、余計に性質が悪い。きっと聖剣とか使い始めるぜ? 「来い、聖剣デュランダル!」とか叫び始めるぜ? ……それでもふざけた中二っぽい訳じゃなく、様になるのが余計腹立つ。
「ではそちらの方は?」
聖女は続いて俺――ではなく、紫園に尋ねた。
「私は『絶対零度の視線』、『言葉の兵器』、『拒絶』、『白雪魔法』、『雪咲魔法』、『氷の女王』。って何よこれ。私が冷たいみたいなモノばかりじゃない」
緒沢は読み進めていき、心外だとばかりに言ったが、俺からしてみれば何で分からないのか不思議なくらいだ。例えそれが作った自分だとしても、そうした事には変わりがないのだから、『氷の女王』と言うスキルの通り、冷徹に冷酷に人を切り捨ててきたのは事実だ。スキルに現れてもおかしくない。
「流石にオリジナルのスキルばかりですね。スキルはタッチすると詳細が読めますよ」
聖女は驚いたように言って、更に説明を加える。……流石は氷の女王と呼ばれ恐れられるだけはあるな。一部ではアナと氷の女王、って呼ばれて人気を博しているだけはある。残念ながらこっちの女王様は能力を知られたくないとか思わないで、寧ろ使いまくって周囲に被害を増やして暇潰しするけどな。
「そちらの方は?」
聖女は更に続いて俺――ではなく緒沢に尋ねた。……俺、聞かれるのかなぁ。
「……あたしは『疾風迅雷』、『風神雷神』、『疾風の雷』、『一匹狼』、『破砕拳』、『天雷の遁走曲』、『風牙の葬送曲』、『孤狼』」
緒沢は聖女に言われ、面倒臭そうに呟いた。……雷と風の属性が強すぎだろ。ほぼ全部がそれじゃん。『孤狼』の技に威嚇とかありそう。教師さえも怯む緒沢の睨みは、学校でも有名だ。
……ま、俺は他のヤツのを盗み聞きしただけだが。
とは言っても三人共同じクラスなので、観察は完了している。
「雷と風の両方でかなり強い……。元々雷と風は相容れない事で唯一複合魔法が出来ないと言うのに、ここまで特化されているなんて、素晴らしいですね」
聖女は顎に手を当てて風神雷神的な感じで喧嘩しまくっていたって事だろうか。風神と雷神の仲が悪いのかは知らないが、雷と風は何やら複合出来ない魔法だったらしい。……緒沢の出現で簡単に覆されているが。
「しかも雷魔法は使い手が少ないのですが」
……マジかよ。俺が雷魔法を使えなかったら音楽プレイヤーの充電手段をどうすれば良いんだ? まさか一々使えるヤツに頼むとか? マジ止めてくれ。俺のコミュニケーション能力で誰かに話し掛けられる訳がない。それならもう諦めるしかないか。
「それであなたは?」
三人のスキルに感心していた聖女だが、あからさまにテンションを落として俺に聞いてきた。……そんなに露骨に嫌がるなら話し掛けてくるなよ。
「……『観察』、『同化』、『模倣』、『孤立』、『孤高』、『嫌われ者』、『動物好き』、『孤独』」
俺はスキルの説明をタッチして出現させながら、主なスキルを呟く。
……俺マジ「孤」じゃないっすか。三大孤、が俺のスキルだってことは結局俺が最強のぼっちと言うことか。
『同化』と『模倣』は俺が日常生活で身に付けた技術だが、こっちではチートだ。完全にチートだ。勇者君倒せるんじゃないだろうか。
……いや、所詮は俺。本物には勝てないか。
俺は調子に乗りかけて、直ぐに我に返った。『模倣』は確かにチート的能力だが、結局は俺が身に付けていた技術の延長でしかない。俺が目立たないように、目立たないように、と心掛けてきた成果なのだが、どこまで『模倣』出来るかが微妙だったのに、その制限がなくなっただけだろう。
「……えーっと、オリジナルスキルばかりですね」
コメントに困ったらしい聖女がぎこちない笑みを浮かべて、言葉を選んだのか少しの間を置いて言った。……聖女とか職業が笑わせられるよな。聖女って何かこう、平等なイメージがあるのにここまで勇者贔屓が凄いと引くより先に呆れが来るな。
まあどうでも良いが。
「……一番近い町はどこにある?」
俺は気まずくなった空気を払うため、と言う訳ではないが、聖女に目を合わせず尋ねる。
「……この森を抜けるとありますが」
聖女は怪訝そうに首を傾げながらも細長くしなやかな指で森を差した。……なるほどな。勇者にはきっと、手で指し示すだろう。俺には人差し指で良いって事か。
それは兎も角、森を抜ける道があるだろうが、それを教える気はないのだろう。まあそれでも問題ない。
「……この世界の時間はどうなっている?」
「一日二十四時間で、他の大陸は光球の位置が変わってしまうので時間にずれが生じています。ヘルヘイムと呼ばれる一番上の黒い大陸には日差しが差さず、魔王が眠っています」
二十四時間……。元の世界と同じだな。だがこの大陸以外はあの光の球の位置の関係で時間が変わるのか。あと闇の大陸には日が昇らないらしい。闇の大陸らしいな。
「……魔王はあとどれくらいで復活する予想だ?」
「半年以降の予定ですね」
「……一年の日数は?」
「三百七十日です」
……ふむ。半年と言うと、百八十五日か。元の世界で言う六ヶ月ぐらい、大体同じだな。時間は元の世界とそう変わりない。
「急にどうしたんだ?」
怪訝そうに聞いてくるイケメン君は、無視だ。
「……金の数え方と種類は?」
「…………単位はセンです。種類は石貨一セン、銭貨十セン、銅貨百セン、銀貨千セン、金貨十万セン、白金貨百万セン、黒曜貨億セン、一万セン、一千万センは貨幣となっていて、一万センがアルクブル貨幣、一千万センがオーラスフル貨幣となっています。貨幣の名前はアルクブルと言う大陸最大の国と、オーラスフルと言う先代勇者の故郷の村の名前から取っています」
聖女は俺が勇者様(笑)を無視したからか睨み付けるようにしつつも、いずれ説明しようと思っていたのか、渋々説明してくれる。
それくらいの硬貨と貨幣であれば、問題ないだろう。きっとどれがどれなのかは色で分かるだろう。
「……この大陸で何か禁止事項は?」
「そこまで厳しいモノはありませんが、魔族への扱いに文句を付けない、亜人を差別しない、奴隷を奪わない等の規制は存在します」
聖女は俺が勇者を無視した事をまだ根に持っているのか、尖った声で言った。
「……金を稼ぐ主な方法は?」
「農業や工業等多々ありますが、一番分かり易く無難な職業は冒険者です」
……きっと依頼をこなして報酬を貰う感じだろう。だって異世界だし。
……じゃあ、もう聞く事はないな。ここに用事はない。この世界の常識はなるべく目立たないようにしながら周囲を窺って合わせていけば良い。俺なら目立つ事なく、制服と言う格好でも影薄く過ごす事が出来る。
「……」
俺はスッと立ち上がる。聖女の鋭い視線にも、怪訝そうな三人の視線にも構わず、森に向かってさっさと歩いていく。
「どこへ行くつもりだ?」
「そちらには猿帝が……っ!」
勇者が俺を呼び止め、聖女がわざとらしく止める。
エンテイ? 大炎戒?
――そんな訳もなく、俺の前の森の草むらが、ガサッと大きく揺れた。