表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エセ勇者は捻くれている  作者: 星長晶人
第一章 最初の街

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/104

受付嬢は全てを知って苦笑する

「……そうですか」


 俺は一旦アンファニア――アンファルの森に近いと言う事で付けられた八十年前からある街だが、今存亡の危機を迎えている――に戻り、ギルド集会所に顔を出していた。

 今丁度、ミリカへの報告を終えたところだ。


 ミリカは深刻な顔をして顎に手を当て、カウンターの上に置いてある首と右肩で千切れている黒い二メートル級ゴブリンを見つめた。


「……俺が遭遇して良かった。俺でも腕を持ってかれるところだったからな。あっさり、一度腕を千切られた」


「クレトさんが?」


 俺がブラックゴブリンキングの強さについて話していると、ミリカが驚いたように俺を見た。……因みにもう「右腕が元通りじゃねえか」と言うようなツッコミは越えている。


「……ああ。俺じゃなければ――ナヴィでも重傷だったかもしれない」


 あくまで推測かもしれないが、俺はそう言った。用心するに越した事はない。


「遂に黒まで上がるなんて……少し早い気はしますが、ギルドから緊急警報を――」


「……いや。その必要はないだろう」


 ミリカは少し焦った表情で言うが、俺はそれを遮った。……緊急警報とは、最近で言うとガザラサイのような感じだ。

 ガザラサイは俺が倒してしまったが、一般的な冒険者ではパーティでも絶滅させられる事が多いらしい。だがこちらは気性の荒いファングファングを定期的に討伐するため、奥地に住む猿帝は兎も角、ガザラサイの討伐はなるべく避けるようにギルドから指令を出していた。

 しかし遂に、ガザラサイの被害が頻発し始めた。

 そのため緊急警報を発令し冒険者総出で討伐に挑んだ、と言う訳だ。


 今回の緊急警報の場合、結果的には冒険者総出で泉の森から突然変異を駆逐、と言う方針になる。


 今はまだ、初心者が出会ったら死ぬレベルなので、高ランク冒険者に見かけたら討伐するように要請するレベルに留まっている。


 だが今はまだ緊急警報を発令する必要はない。


 俺の推測が正しければ、何者かが引き起こした事態である事は明白だ。……いや、推測に推測を重ねただけで、物的証拠がある訳じゃない。


「えっ……?」


「……俺はこの記録の腕輪の通りに、ブラックゴブリンキングと戦ってる間、ゴブリンの集団を呼ばれて殲滅したが、ジェネラルとキングに突然変異は居なかった。つまり、こいつは意図的に造られた存在である可能性が高い」


 俺は驚くミリカに言う。……これくらいの推測はして欲しいんだが。俺がわざわざ指摘しなくても、これくらいの推測なら誰でもするだろうに。それともこの世界の住人は危機感が足りないのだろうか。


「それが本当なら、この近くに魔王配下の魔族か悪魔が居ると言う事になりますね」


「……魔王配下の魔族か悪魔が、魔王の影響をより強くさせてるのか?」


 突然変異は魔王の力の影響でなると聞いた。と言う事は、魔王の力を直接注ぎ込んだりすれば、突然変異なんて容易に出来る訳だ。


「はい。ヘルヘイムでのモンスターは皆黒いと言われています。この大陸が最も低く通常の影響下にあるので突然変異と呼ぶ現象が魔王復活の目安なのですが、いきなり黒い突然変異が現れた、と言う事は何者かの手が加わったと見て良いでしょう」


 ミリカは端整な顔を歪めて険しい表情を作る。……なるほどな。状況証拠は充分って訳か。


 ……だが俺の推測より一段階少ないな。


 俺の推測には、魔王(またはその配下)から力を貰った人間、と言う可能性も考えている。人間だからと言って、魔王に与さないと言う事はないのだ。俺も関わらないでくれるなら喜んで配下になるし。

 ……最近アニソン聞く暇もなく働いているからな。少し癒しが足りない。かと言ってこれPC購入の日にちを先延ばしにする訳にもいかない。俺はまだまだ働かなければならないのだ。

 せめて税金のようにクリアから金を徴収出来れば楽なんだが。今のクリアのランクではまだ宿代も俺に借金する形なのでそれは厳しい。剣も買ってもらうように言っちまったし、クリアが儲けまくるまでそれは我慢しよう。


「……って事は、これからも黒い突然変異が現れる可能性と、この周辺に魔族または悪魔が潜んでいる可能性を示唆するだけに留めておくのが良いか。丁度勇者様も居るようだしな。俺には関係ないか」


「いえ、外套の剣士様が何を言ってるんですか? 外套の剣士を支持する会の立ち上げに応じて魔族狩りでもして下さい」


 俺が無責任なことを口走ると、ミリカはシラーッとした眼で俺を見据えた。……ちゃんと外套の剣士のところは声を潜めている辺り、良い仕事をしている。


「……俺は勇者じゃないからな。面倒なことは他のヤツに押し付けて逃げるさ」


「そんな事言って、アンファルのように勇者様に代わって討伐しちゃうんじゃないですか?」


 俺が肩を竦めると、ミリカはクスリと笑って俺をからかう。……アンファルとファングファングとガザラサイ討伐については、外套の剣士だとバレた時に明かしその時に外套の剣士がその三体を討伐した、とギルドの方には真実を伝えた。勇者側もギルド側も俺の意思を尊重してくれるらしいので、アンファル討伐については勇者一行が、残り二種については外套の剣士が討伐した事になっている。


「……そんな目立つ事をする訳がない。俺は現に今の今まで目立たずに過ごしてきただろ?」


「……まあ、クリアさんとナヴィさんとユニさえ居なければ、ですけどね」


 ミリカが苦笑して言うのに対し、俺はその通りだと頷く。……あいつらのせいで無意味な注目を集めてしまっている。面倒な事に、な。


「……まあ良い。俺はクエストに出掛ける」


「はい、ご武運を」


 俺は嘆息混じりに言って、身を翻す。

 ミリカに見送られて、ギルドを後にした。


 ▼△▼△▼△▼△


 その夜の出来事だった。


「……お前、ウザいんだよ」


 いつも通り俺にくっ付いてくるクリアにいい加減嫌気が差し、そう告げた。


「っ……」


 クリアは俺に冷たい視線を向けられて、絶望したかのように目を見開いた。


「わ、私は……」


 クリアは何か言おうとするが、


「……もういい加減邪魔なんだよ」


 俺は追撃をする。一々『言葉の兵器(ワード・ウエポン)』を発動せず、ただ言葉を、本心を告げていくだけ。


「……」


 クリアは目の端に涙を溜め込み、今にも泣きそうな顔をする。……残念ながら、女の涙に弱い程俺は優しくない。


「……」


 俺はベッドに横になり、クリアを放って目を閉じる。……慰める気はない。だって事実はありのまま告げた方が後悔がないからだ。


「クレト、私は……っ」


 恐らくはポロポロと涙を流しているクリアを無視して、俺は眠る。


 ……ああ。俺は相変わらず、最低だ。


 胸に差す嫌気を無視して、半ば無理矢理眠りに着いた。


 翌朝。


 俺がクリアの失踪を知ったのは、出て行くところを見たメランティナと会ってからだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ