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エセ勇者は捻くれている  作者: 星長晶人
第一章 最初の街
31/104

聖泉の精霊はぼっちに近寄る

九万九千字でした(笑)


ギリギリいかなかったので、今回は二話更新


※本日二話目

 クリアが正式に付きまとう事になったその夜。


 俺は言い争うクリアとメランティナを置いて部屋に戻り、風呂は明日に持ち越して寝る事にした。

 その際クリア対策に天井から床まで雷の柵でベッドを囲っておいた。


「……クレト?」


 暫く経つとクリアがノックもせずに入って来た。……チッ。鍵を閉め忘れたな。


「むぅ。これじゃあ私がクレトに添い寝出来ないじゃないですか。あっ……でもこれがあるって事はクレトは私と同じ部屋になる事を見越して」


 クリアはソロソロと部屋に入って来ると、不満そうに唇を尖らせたが、何を勘違いしたのか両手で顔を挟むようにして身体をくねらせた。

 ……正直言って今直ぐ飛び起きて罵詈雑言を浴びせたいところだが、俺は我慢し心の底からの軽蔑を寝顔のフリの下に隠して寝たフリを続ける。


「本当に寝てるんですね。相変わらず眼を閉じてるとカッコ良いです」


 クリアは落ち着いた雰囲気を取り戻すと、優しい微笑みを浮かべて言った。


「しかし、むぅ。この雷を越えられれば添い寝出来るんですが……」


 クリアは再度唸ると雷の柵を物色し始めた。


「やってみますか」


 クリアは意を決して両腕を伸ばす。……バリバリバリッ! と激しい雷電が侵入者を阻もうと迸るが、


「相変わらず、クレトの雷は良い感じで私を攻めて来ますね……!」


 クリアは最初こそ苦悶の表情をしていたものの、直ぐに恍惚とした表情になるとゆっくりとだが、足を踏み出した。


 ……止めてくれ。どれだけMっ気を出したら気が済むんだ、お前は。


 俺は嫌気が差しつつも寝たフリを貫く。雷は激しさを増すばかりだが、クリアはゆっくりとベッドに近付いて来ている。


「あ、あれ……? クレトのとこに来たのに力が……」


 クリアはフラフラと力が込められていない足取りでベッドまで来ると、仰向けに寝転ぶ俺の横に倒れ込んできた。


 ……やっとか。


 俺はクリアが静かに寝息を立て始めたのを視認し、ゆっくり起き上がる。


「……全く。本当に突破するとはな」


 俺はやれやれ、と首を横に振り、雷の柵を解除する。


「……今日ぐらいは見逃してやるか」


 その無意味な頑張りに免じて。


 俺はそう思って、クリアを出来るだけベッドの端に押しやると、俺もクリアのいない左側を向いて眼を閉じる。勿論布団を掛けてやったりはしない。女だからと言ってベッドを譲ったりも、しない。

 だって俺が金払ってんだぜ? なのに何で俺が居候いそうろうよりも酷いこいつにベッドを譲らなければならないんだ?


 ……俺は、明日も忙しいな、と思い襲って来た睡魔に身を委ねた。


 ▼△▼△▼△▼△


 ……。

 …………。


「……んっ。クレトぉ……♪」


 何故か、朝目が覚めたら背中に柔らかい二つの膨らみが押し付けられていた。……おかしいな。昨夜俺はちゃんとこいつを端に押しやって眠った筈なんだが。どうしてこいつは俺の背中に抱き着いている。


 しかも朝から美女に豊かな胸を押し付けられると言う状態。……生理現象二つが重なって起きたりはしていなかったので、こいつに変な目で見られる事もない。しかし誰かからも言われ自覚もしているが、俺はおきている間は『観察』等で警戒心を強く保っているが、寝ている間は無防備なのだ。震度四以上の地震が起きても寝ていられる自信がある。その場合、俺の家では見捨てられるが。


「……」


 後ろから抱き着く形で俺の腹に腕を回し、顔を綻ばせて俺の背中に頬擦りするクリア。……正直言って鬱陶しい


「……離れろ」


「ひゃうっ!」


 俺が言うと、クリアは可愛らしい声を上げて顔を真っ赤にし、俺から直ぐ様離れる。……そうだ、それで良い。だが俺の寝込みを襲うとは良い度胸だな?


「……俺が寝ている間に、何をしてた?」


 俺はクルリと寝返りを打つと、あうあうと焦っているクリアを真っ直ぐ見つめた。詰問でも拷問でもなく、ただ質問しただけだ。


「あうぅ。そんな、クレトは意地悪です」


 クリアは質問に対し顔を真っ赤にしたまま潤んだ瞳を上目遣いで向けてくる。……残念ながら、猫科獣人の魅力を見出みいだしてしまった俺には通用しない。きっと俺以外だったらたじたじだっただろうな、と思っただけだ。


「……良いから言え」


 俺はゆっくり起き上がってクリアを見下ろす。……そろそろ風呂入ろう。それと服を着替えないと。あと何故パンツはあってもブラや中シャツはないんだろうか。パンツもそんなに良いモノはないし。服は買ってあるが、三つ買ったトランクスっぽいヤツの内、最も多く使っているのはどれでもない、俺が最初に穿いていたヤツだ。それ以外はどうしても違和感を感じてしまう。何かこう、ザラザラしていると言うか。貴族は良いパンツを穿いていそうだが。


「……寝ているクレトに抱き着いて、背中におっぱいを押し付けて自己満足を得なが頬擦りしてましたっ!」


 ……何もそこまで正直に言わなくても良いのに。


 俺は若干躊躇した後、思い切った様子で自棄気味に言うクリアに、若干引いて思った。


「ひ、引かないで下さい。クレトが聞いたんですよ?」


 うぅ、とクリアは唸る。……こいつ、ホントに別人じゃないのか? 最初会った時と全く違う。


「……良いからお前は先に食堂行って飯食ってろ」


 もうこれ以上こいつを追及しても気まずくなるだけだ。俺は素っ気なく呆れたように溜め息をついて言う。


「クレトはどうするんですか?」


 クリアは俺が俺の事を言わなかったからか、キョトンとして聞いてきた。


「……風呂に入って服を着替える」


「それなら私も――」


「……お前は水だから湯に浸かっても意味ないだろう」


「いえ、意味はあります。お湯に浸かる事で体内の不純物を取り除く事が出来ますから。そうする事で魔力の回復を促進出来ます」


 クリアは打って変わって真剣な表情をして言った。……嘘は見られない。本当のことらしいな。


「……分かった。だが俺が入った後だからな」


「はい」


 クリアはニッコリと邪気のない笑みを浮かべた。……こう言う無邪気な笑みの奥に、何か黒い企みが隠されているんだが、それが何か分からなかった。


「……ふぅ」


 と言う事で、俺はさっさと脱衣所に行き全裸になると、念のためタオルを腰に巻いて身体と頭を洗いタオルの泡を洗ってからタオルを腰に巻いたまま風呂に浸かった。


 俺は天井を見上げ、唯一リラックス出来る場となった風呂場でボーッとする。……最近のんびりするのが風呂に入っている時だけだからな。クリアが居なければ部屋ものんびり空間なんだが。


「良い湯ですねぇ」


「……ああん?」


 俺は前から聞こえた声に頷いて(ああ)、怪訝に思った(ん?)。


「……何でお前がここに居る」


 俺は下半身を『液体化』し、上半身を『実体化』させ風呂桶に寄り掛かっている俺の胸元に寄り添うようにピッタリとくっ付いている。……勿論最初からここに居た訳ではない。俺は誰も居ない筈の風呂に浸かった筈だ。

 ……『液体化』して潜伏していやがったのか。いや、脱衣所はちゃんと閉めていた。

 ……そうか。こいつは水。どんな細かさにもなれるんだった。だから俺が『観察』しても分からない程に、湿気に塗れたこの風呂場で水蒸気に紛れて移動し潜んでいたと言う事か。


「勿論、クレトと一緒にお風呂に入るためです」


 ニヤリ、に近いニッコリとした笑みを浮かべてクリアは素っ裸の上半身を、俺の首の後ろに腕を回して押し付けてくる。……っ。何で上半身だけ『実体化』してるんだよ。

 温かな湯の中に居るのに、ひんやりしっとりとした柔らかな膨らみ二つが俺の胸元に押し付けられる。……勿論クリアも風呂の中で服を形成するような邪推な真似はしていないので、胸の柔らかさとは違う感触が二点あったりして。


 ……クソッ。好みか好みでないかで言えばストライクだが、今の俺は猫科獣人が可愛いと思っている。だと言うのにこうも理性を刺激されては敵わない。


「……何だ、一緒に入りたかったのか」


 だが俺は、これは自分が危ない、と思わせるため、ソッとクリアを抱き寄せた。


「あっ……」


「……全く。そんなにコソコソしなくても入れなかったが、入ったら仕方がないな」


「そうですね。仕方ないです」


 俺が適当な事を言っていると、クリアは何故か手を俺の背中に回して抱き着きを強くした。


「……やっぱ止めた。じゃあ俺もう上がるから」


 俺は流石に理性が危なくなったので、暫くしてクリアを突き放し、さっさと風呂から上がる。……良かった、念のためタオルを巻いておいて。タオルを巻いていなかったらクリアの『液体化』した下半身に包まれている――と言う、微妙にエロい状況になってしまっていたかもしれない。


「えっ?」


 驚いたような声を上げるクリアを他所に、俺はさっさと風呂から上がり脱衣所で大きなタオルを使い全身の水滴を拭う。腰に巻いたタオルを外して、こっちで買ったトランスのようなパンツを穿き黒いズボンと黒いシャツの袖を通していく。右腰に剥ぎ取りナイフと鋼の剣、左腰に道具袋を提げ、そのままクリアを待たずに部屋を出る。


「ま、待って下さい!」


 そう呼び止めるクリアは全裸だったが、直ぐに水を纏い服を形成した。


 だが俺は無視してそのまま部屋を出た。

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