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エセ勇者は捻くれている  作者: 星長晶人
第一章 最初の街

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エセ勇者はスキルをバラす

バラすと言っても大々的に公開したりはしません


あと、一応応募して、十万字に足りなさそうなのでもう一話か二話更新するかと思います


念のため

※本日一話目

「そんなこんなで、クレトと会えないかと思って……!」


 俺に抱き着いて澄んだ涙を流す巨乳幼女は回想をそうやって締め括った。


「……悪いな。すっかり忘れてた」


「ふえっ!? わ、忘れて……」


 幼女クリアは驚いたような声を上げると、クリクリと大きな瞳を涙でいっぱいにする。……こいつ、最初と違って面倒になったな。いや、最初から分かっていた筈だ。こいつが関わると面倒なヤツだと言う事は。


「……だから悪かったって言ってるだろ」


 俺は溜め息をついて言う。……こいつに対しちょっと上から目線になってしまっている部分があるな。


「はい。私も、黒魔人赤種如きに遅れを取った事、情けなく思います」


 クリアはシュン、と落ち込んで言う。……いや、あんな化け物を如き呼ばわり出来るお前が凄いわ。まあ話を聞くと百年も魔力を消費し続けていたらしいからな。ってか百年も魔力を消費し続けて生きてるって言うお前の方が凄い。


「……俺も他人ひとの目を気にしてわざととは言えナヴィには負けたからな。別にそこは気に病む必要はない」


 俺はいつまでも泣いて抱き着かれていても面倒なので、頭を撫でてなだめる。


「……ナヴィ……?」


 ……何故か、クリアの声が底冷えしていた。


「……名前を呼び捨てだなんて、随分仲が良いんですね?」


 ……ちょっと怖い。思わず頭を撫でる手を止めてしまう。


「……いや、一回目を付けられたからちょっと話す程度だ」


 俺は何故か全力で仲の良さを否定しなければならない気がして、否定する。元々そんなに仲が良い訳ではない。


「本当ですか?」


 ムッとしたような顔で俺の顔を見つめてくる。……子供が拗ねているような感じなので、あまり怖くはない。


「……当たり前だ。それより、元の姿に戻れないのか?」


「戻れますけど、まだ時間がかかります。水分と魔力が足りないので、どうしても時間が必要です」


 クリアはよいしょっ、と俺から下りると言った。


「……」


 ……まあ、仕方がないか。いつかこいつとの縁は切らせてもらうが、今は利用するだけ利用してやろう。ちゃんと剣も見つけてくれたみたいだし。


「……水があれば、元の姿には戻れるか?」


「はい。でもこの一週間雨が降らなくて、全然大きくなれませんでした」


 クリアはションボリして言う。……そう言えば、雨は降ってないな。


「……じゃあ、お前が自分が使える魔法とかスキルの中で、一番吸収し易いモノを見せてくれ」


「えっ? それは良いですけど、魔力を使っちゃうと元に戻る時間が増えますよ? 自分で放ったモノは回収出来ても吸収は出来ませんし」


 クリアはキョトンとした様子で聞いてくる。


「……良いから早くしろ」


 俺は面倒なのでクリアを問答無用で急かす。


「……はい。キュアボール」


 クリアは渋々と言った感じに頷くと、壁に手を向けて白い魔方陣を展開し、白く輝く透き通った水の球を放った。それは壁に当たりビシャッと弾ける。


「……」


 俺はステータスと念じ確認すると、『観察』して得た『模倣』スキルを確認すると、『聖泉魔法』と言うモノが増えていた。クリア固有の魔法を使ったらしい。


「……ホーリースプラッシュ」


 『聖泉魔法』の中から一つの技を選び、使う。


「えっ……?」


 クリアは呆然としたように俺を見上げるが、無視。クリアの足元に白い魔方陣が展開され、上に向かって白く輝く水流が噴出された。


「あぁ……!」


 噴き出されるそれはクリアを覆うかと思われたが、クリアの腹辺りで止まっている、いや、吸収されている。


 白く輝く水流が収まると、そこには俺の知るクリアの姿があった。……吸収早いな。流石最も吸収し易いと言った魔法だ。


 これでクリアは元の姿に戻った。


「今のは私の『聖泉魔法』ですか……? どうしてクレトが……?」


 クリアは元に戻った自分の姿を見下ろしながら呆然として言った。……今更隠す気はない。そのために見せたんだから。


「……対象を『観察』し『模倣』する。それが俺の固有スキルだ」


 俺は簡潔に説明する。


「す、凄いですね。クレトは勇者とかよりも強いんじゃ……?」


 得体の知れないモノを見るような視線を向けてきても良いと思うが、クリアはほぉ、と感心したように目を輝かせて言った。


「……いや。俺は勇者には勝てない。勇者からは『神風魔法』と『剣武の才』を『模倣』してやったが、所詮は偽物でしかない。俺は、エセなんだよ」


 別に寂しそうな表情はしない。いつも通りの無表情だ。


「そんな事はないです」


 クリアはいつもの濡れた声音に優しさを加え、普通に立っている俺の左手を胸の前で両手で握る。……しっとりとした温かさが手に伝わって来た。


「クレトは勇者なんかよりも立派です。私は勇者ではなくクレトに命を救われました。クレトは真っ先に逃げ出した勇者一行とは違い、アンファルを倒してくれました」


「……いや、俺はちょっとあいつにキレただけで、お前を助けようとした訳じゃ……」


 クリアが妙な事を言い始めるので、俺は否定する。……大体、存在すら知らなかったヤツをどうやって救えと言うのか。


「分かっています。クレトは自分のために戦った。でも結果として私を助けてくれた。結果論ですよ、クレト。百年間、諦めずに耐えた甲斐がありました」


 クリアは百年以上も生きてきた年上のお姉さんらしく優しい微笑を浮かべて言う。

 ……クリアは微笑んだまま、涙を流していた。月明かりに照らされ僅かに光るとても澄んだ涙を流す美女は、息を呑む程綺麗だった。


「……」


 そして、分かってしまった。俺にとってアンファルを助けたことが些細な事であるように、クリアにとってたった一度俺の命を救い、ちょっと役に立った事が些細な事であると、百年間の苦しみを受け続けてきたクリアは思っているのだ。


 それが返せない限り、こいつはしつこく付きまとってくるだろうと思い、


「……分かった。クリア、暫くの間お前には傍に居てもらう」


 妥協した。……もしこの『観察』が偽りだったとしても、その時に対処すれば良い。


「暫くじゃなくて、一生でも良いんですよ?」


 クリアは俺の右腕に絡み付いて来ると、ニッコリ笑って言った。


「……お前、最初会った時と口調変わりすぎじゃないか?」


 俺は引き剥がそうかと思ったが、あまりにも嬉しそうにしているクリアを見てそんな思いは失せ、聞きながら宿屋メナードに向かって歩き出した。


「はい。それは私のクレトへの忠誠心の表れですから」


 クリアは俺の行く足に沿って歩きながら、俺の肩に頭を載せた。


「……まあ良いか。それより今から俺が泊まってる宿屋に行くんだが、お前の分の宿泊費は俺持ちになるな?」


「はうっ! だ、大丈夫です! 明日からは働いて自分で払いますから! 後で返金しますから!」


 水の美女って、何か艶かしい感じがするのに、何でこいつはこんなに可愛らしい反応をするのだろうか。


 ……俺、猫可愛いメランティナの魅力に揺れてきてるからなぁ。ちょっと残念だ。


 そんなこんなでクリアと雑談しながらここ一週間での様子を伝えつつ、冒険者としての常識も叩き込んでおく。あと人前では俺にくっ付かないように言っておいた。


「あら、おかえり――誰その女」


 宿屋メナードに着くと、いつも通りの笑顔でメランティナが迎えてくれた――筈が、何故か据えた眼で見つめられた。その視線は俺に向けられているが、聞いたことは俺に並んで入って来たクリアについてだ。


「誰でも良いんじゃないの? おばさんには関係ないわ」


 クリアはピクッと反応し、初めて会った時と同じような顔と口調で俺の右腕に抱き着いて来る。……メランティナのこめかみがピクッと反応した。


 ……怖い。何だこの板挟み状態。いや、人が人だけに布団に挟まれているような柔らかな感触なんだろうが、そんな下らない事を思っている暇はない。


「……離れろ。メランティナ、こいつの借りる部屋を一つ」


 俺はクリアに抱かれている右腕を抜くと、カウンターにいるメランティナの方に歩み寄り、言った。


「ええ、分かったわ。一泊八百五十センよ」


 メランティナはそれで機嫌を直してくれたのか、満面の笑みで頷いた。


「……支払いは今まで払った分の中からで頼む」


「いいえ、私とクレトは二人で一部屋使うのでもう一つ部屋は要りません」


 俺とメランティナが話を進めていると、クリアが割り込んで来てキッパリと言った。


「悪いけど私の宿では男女一部屋は認めてないのよ。一人一部屋にして頂戴」


 だがメランティナも一歩も引かず、ニッコリと笑って言った。


「いえ。私とクレトは一心同体なので問題ありません」


 だが対するクリアも負けてはいない。……って何だこの争い。不毛すぎる。


「……分かったから二人で相談して決めろ。俺はもう寝る」


 俺は呆れて言い、道具袋から自分が借りている部屋の鍵を取り出すと、階段を上っていった。


 ……これ以上俺を疲れさせないでくれ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 知り合いが殺されても忘れてた。加害者と普通に会話します。捻くれではなくただのクズでは?
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