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エセ勇者は捻くれている  作者: 星長晶人
第一章 最初の街
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勇者は仲間を歓迎する

「仲間?」


 聖女の「勇者の仲間を召喚する」と言う発言に対し、イケメン君は眉を寄せて訝しむようにしながら聞き返した。


「はい。本来ならばどこに居るのか分からなくとも先代勇者様の仲間達を探すべきではありますが、異世界人は召喚により元から持っているスキルを持ち越せるので、強力なスキルを持っている者を――該当するのは二名ですが、召喚します」


 聖女は勇者に微笑んで頷き、仲間を呼ぶことの説明をする。……マジか。じゃあ俺もぼっちスキル持ち越してるんかね。そしたらまたぼっちとして第二の人生を歩む事になるんだけど。嫌われ者ってのもあったら俺、人生あっちもこっちも変わらないじゃん。

 モンスターの危険性なんて、事故とそう大差ない。相手が生物か無機物かの違いだろう。いや、車や電車に悪気はない。全て人間がやっている事だ。人間が全て悪い。


「俺は話を聞いて、俺に出来る事があればと了承したが、元の世界に帰れないんじゃ召喚するのは止めた方が良いんじゃないか?」


 イケメン君は自分を勇者として世界に売り出すばかりか、これから人生を突如として変えられてしまう人の事を考えているらしい。……流石は勇者(笑)。笑わせてくれる。


 そんなの、決まってるだろ?


 召喚してしまえばもう相手に断る権利なんて与えられないからだよ。


 元の世界に帰れないなら、召喚してしまえば逃げるしかなくなる。だが右も左も分からないような状態でモンスターの蔓延る世界に独り放り出されたくはないだろう。そうなれば、もう逃げられない。

 ……人間の心理的弱さに付け込んだ良い戦略だ。


「それは問題ないでしょう。彼女達は今の日常に不満を持っているようですから」


 ゾワッ!


「……」


 俺の背筋を嫌な悪寒が這い上がった。……嫌な予感がする。当たり前だ。悪寒に良いのがある訳ない。


 日常に不満を持った、彼女達、そして強力なスキルを持っている者。


 俺が思うに、スキルってのはそいつの特性や技能を表した言葉だ。それならば、俺のぼっちやイケメン君の勇者の資質みたいなモノがあるかもしれない。どうやって確認するかは知らないが。


 俺の知っているヤツに二人、自身が既に、元の世界にいる時点で凶器だと言えるヤツが居る。


「では、召喚します」


 勇者様が何も言わないのを良い事に、聖女は早速召喚の儀の準備を始める。


 何やらブツブツと呪文のようなモノを呟くと、地面に大きな魔方陣が描かれる。……何で勇者の隣なんだよ。俺から近いだろうが。


 間もなく魔方陣が白く輝き始めると、二つの人影が座った形で現れ始めた。……俺もこうやって召喚されたのか。


 因みに勇者召喚魔法は無属性、系統外等と呼ばれる。今のとこ聖女にしか使えないので特殊系統とも呼ばれる。


「……えっ?」


「……あん?」


 二人は恐らくいきなりここに連れて来られたのだろう、キョトンとした顔で同時に声を上げた。


 片や、冷たい美貌を持ったスタイルと口だけが残念な美少女。


 片や、目付きの悪い制服を着崩した美少女。


 ……残念ながら、俺の予感は的中してしまった。


 この二人とイケメン君の三人は、俺が通う高校で最も有名な数人の内に居る。


 イケメン君はさっき説明したので良いと思うが、まあ万能イケメン八方偽善者だ。


 絶対零度の視線で近寄る男子を凍て付かせ、その整った口から放たれる心ない罵詈雑言によって心を折られたヤツは少なくない。水晶のような綺麗な瞳と長髪をしているのだが、その温度は氷の刃の如く鋭く低い。近付けば傷付くどころでは済まない。潰される。


 紫園しおん熾乃しの


 生まれ付きか視線で虫を殺せるんじゃないかって程目付きが鋭く口も悪い。いつもつまらなさそうに頬杖を着いて窓の外を眺めている。色素の薄い黒の長髪をポニーテールにしていて、その運動神経は女子にして男子筆頭のイケメン君並み。


 緒沢おさわ結香ゆか


 言葉と肉体、両方での最強カードだった。


 ……この二人がスキルとやらを持ち越して最強だと言うのは、かなり分かり易い。


 勇者然とした風格を持つイケメン君に、言葉の暴力に関しては右に出る者が居ない紫園と、男子並みの運動神経を誇り肉体の暴力に関しては右に出る者が居ない緒沢。


 そして学校唯一のぼっちである俺。……ヤバいだろ。ショボすぎだ俺。中心中心孤高孤立って、勝負にすらならねえよ。


 ぼっちにおける孤高と孤立の違いは、俺は人気と影の濃さだと思う。緒沢は確かに誰と話しているところを見た事がないくらいに独りだが、怖くても美少女であるが故に人気がある。それに、独りであるが故に注目を浴び悪目立ちする。

 一方の俺はと言えば、高校生活で雑談を誰かとした事がなく、生粋の日本人であるため黒髪黒眼だが、濁った色をしている。性格が髪と眼に影響を与えたのかと聞かれれば、否定は出来ない。顔はまあまあでも眼が全てを台無しにしている。しかも俺は目立たないようにと心掛けているので目立たない。


 よって、俺が最強のぼっちである。


 まあそれは兎も角三人と俺ではマイナスとプラスで吊り合うくらいに差が大きいのだ。


 因みに、友達が居ないと言う点では紫園も同じだが、それでいて中心として君臨しているから不思議だ。


「どこよ、ここ……?」


 半ば呆然として不安そうにキョロキョロと辺りを見渡す紫園と、険しい表情で一際豪勢な服装をしている聖女を睨む緒沢。……意外と緒沢の方が落ち着いているな。それとも紫園の反応が普通で、俺やイケメン君、緒沢が落ち着きすぎなんだろうか。イケメン君は俺が冷静そうなのを見て多少落ち着いた感があったから、あまり感情を表に出さない俺と緒沢だからこそ落ち着いているのかもしれない。

 ……いや、俺の場合異世界召喚とかに憧れるとまではいかなくてもちょっと行ってみたいようなモノはあるからテンションが上がっているのかもしれない。


 だがモンスターが居るとかよくある異世界っぽいし、何やら魔王まで居るらしいじゃん? しかも途中のアニメとかラノベとか漫画とか色々あるのに帰れないとか、超テンション下がるんだけど。……あっ。そろそろ音楽聴くのは止めた方が良いな。真面目な話の最中も音楽聴いてたからちょっとイケメン君に睨まれちゃったし。

 今更な気はするが。


「……」


 俺は聖女が二人に事情を説明している間に音楽を止め音楽プレイヤーの電源を切ってボーッとする。


 ……さて、これからどうするかを決めなければならないが、とりあえず聖女から必要事項を聞き出さなければならない。


 スキルについて。金の種類と数え方。近くの町の位置。魔王復活までの時間。禁止事項。時間。


 ……これら以外にも何か思い付いたら聞いておかないとな。これからの生活が懸かってるんだ。


「……そう。まあ良いけど」


「……」


 聖女の説得が終わったのか、二人は納得したようだった。いや、妥協したようだった。ちょっと不満そうな雰囲気がある。きっと自分達の意思とは関係なく断る事が出来ないと気付いたからだろう。……それに気付かないアホ勇者は二人に「よく決意してくれた」などと思っているような顔でうんうんと頷いているが。

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