外套の剣士は再会する
俺はギルドで受注した五つの討伐クエストをこなし、昇級試験でアンファルの森――この一週間でアンファル討伐によりアンファルの森ではないと言う意見が多数出たため、百年前に使われていたと言う泉の森が正式名称に変わった――でゴブリン大軍隊を独りで相手にしていた。
ゴブリンキング率いる、二千強の大軍隊である。本来ならば数人の冒険者の徒党――パーティで挑むクエストだが、俺には仲間なんて居ないので独りで挑んでいる。
いつもの外套で全身を覆った格好で、左手に鋼の剣を携えて。
最近深緑色をしている筈のゴブリン達の中に、赤や青と言った別の色――所謂突然変異ってヤツが増え始めている。魔王はモンスターや配下に強い影響を及ぼすと言うので魔王復活が近付いている証拠だ、と言う噂が立っている。
実は色違いゴブリンを最初に発見したのは俺。レッドゴブリンと言うらしいそいつは大して強くなかったのだが、ミリカの話によると魔王の影響を真っ先に受けるのが一番弱いモンスターの種族であるゴブリンで、ゴブリンに突然変異が出始めると周囲の強いモンスターにも突然変異が現れる事が出てくると言うのだ。
厄介な事に、Cランクへの昇級試験はゴブリン大軍隊の討伐。突然変異の数を減らしてこいと言う事だ。
こうして四方八方をゴブリンに囲まれている今も、赤青黄色と信号みたいなヤツらや白や黒や茶色まで、多種多様な色のゴブリンが居る。……影響受けすぎだろこいつら。
色での強さは魔人と一緒なので黒が一番強い。だが所詮はゴブリン。俺はモンスターを狩る毎に上がっていくステータスに物を言わせ、特に使えば使う程上がる魔力に物を言わせ、雷で一掃した。
まだ魔力の最大値は五桁で体力の最大値は三桁。魔力は跳ね上がるが、体力はまだ二百ちょっとと心許ない。逆に魔力は五万を超えていて、当初の五倍ぐらいだ。
勇者ユウキが鍛練しているところを見て『剣武の才』を『模倣』してやったので、剣の腕は一流に近い。最初に買った鋼の剣でも硬いモンスターを両断出来るんだから、やっぱ勇者ってのは恐ろしい。
勇者に何があったかは分からないが、どこか吹っ切れたような、追い詰められたような顔をしていた。きっと俺が投げ掛けた心ない言葉から立ち直り、しかし自分はまだ未熟だと言う事を実感したのか早く強くならなければと言う想いが強いのか焦りを生んでいるようだ。
……ま、頑張ってくれたまえよ。
俺は少し上から目線で思う。……だって勇者が頑張んなきゃ世界破滅するんだぜ? 俺の関係ないところで世界の命運を賭けた戦いでもしてて下さい。俺はアニメ観て漫画読んで音楽聴いて、のんびり過ごしたいんだから。
……今のところ、まだまだ先の話だが。だって俺の泊まっている宿屋メナードで借金返済のため前払いを増やさなきゃいけないからって、金貨五枚を渡しちまったからな。
メランティナ(さん付けして呼んだら何故か怒られたので呼び捨て)が言うには、メランティナの不在を狙ってあいつらが金を取り立てに、金を払ってもうしばらくは来ないかと安心していたところ、まだ冒険者として働いて地道に払おうと考えていたメランティナがギルドに行ってクエストを受注し外に出ると、宿が燃えている事に気付いて至急駆け付けた。
そこでは、男二人が火を放っていた。
聞けば金を受け取りに来たら居なかったから壊して良いのかと思ったとか。そこで燃えた宿を直すのにも金を使い、宿を切り盛りしていくために貯めておいた財産がついこの間尽きてしまったと、そう言う事らしい。
食材は知り合いに頼んで運んで来てもらい、そこで購入してやりとりしている。
……随分とゲスなやり方だが、良い手と言うしかないな。目的のためには手段を選ばない。俺好みと言えば俺好みだ。だが、目的がクズだ。女一人をモノにするためにあれこれやって追い詰めていくと言うのは、どこか感心出来ない。そこはやっぱり純愛をした事がない故に純愛に憧れを持ってしまっているのかもしれないからだった。
眼や心は死んでいても、身体は十代の少年なのだ。押し倒されたら逃げられない。そう言うところも、まだ俺の死んでいない部分に関係してくるのだろう。
ところで話は戻すが、上位ゴブリンとゴブリンジェネラルとゴブリンキング、色違いは減ってきたが上位には居る。ゴブリンキングは一体だけだしゴブリンジェネラルは三体で通常のヤツ。
『疾風迅雷』の速度と『剣武の才』があれば簡単に倒せるので、三分で始末して装備と剥ぎ取り部位を回収していく。
俺はその後もしばらく薬草採集やモンスター討伐をしてから、一旦街へ戻っていく。
Cランクへの昇級が認められ、ミリカにギルドカードの更新をしてもらってから、夜になるまで宿屋メナードでのんびりし、飯を食べてからナヴィが水で出来た身体をしたヤツを倒したと言うポイントへ向かう。
……確かに啜り泣く声が聞こえる。少し子供っぽい気もするが、絶対あいつの声だ。
俺は溜め息をついて声のする方へ歩いていく。
「……ふえぇ」
初対面の時「あら」とか言っていたのが嘘だったかのように、泣きじゃくるクリアの姿があった。
いや、クリアと言って良いのかは微妙だ。
何故か、クリアをそのまま幼少期に戻したような美幼女で、その割りに胸は俺の知るクリアそのままと言うアンバランスなロリ巨乳だった。
「……何で泣いてんだ」
俺は溜め息を混ぜて後ろから尋ねた。
「ふえっ? く、クレト……?」
キョトン、として振り返ったクリアは、信じられないと言う風に俺を呼ぶ。
「……全く。死んだって聞いたから供養しようかと思って来たのに、生きてるじゃねえか」
ナヴィのヤツ、ちゃんと生死を確認しないとこがあるからな。一部逃したんだろう。
「クレトっ!」
幼女クリアは笑顔で俺に突っ込んでくる。……俺は仕方なくそれを受け止める。
「良かった、生きてた!」
クリアは心底嬉しそうに言う。……どう言う事だ? 俺が死んだと思っていた?
「……何があったか、説明しろ」
俺は疑問を解明するために、聞いた。
クリアはコクン、と頷いて、語り出した。




