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エセ勇者は捻くれている  作者: 星長晶人
第一章 最初の街

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外套の剣士は白を切る

 モンスターを狩り薬草を採集する。


 そんな冒険者生活を続けて一週間が経った。既にランクはGから昇級試験を経てF、E、Dと上がってきている。


 そろそろDランクからCランクへの昇級試験が受けられるだろう。

 昇級試験はそのランクで充分な成績を修めたと担当受付嬢が思ったら受けられる。既に俺は冒険者になって四日でEまで上がり、翌日の午後にはDに上がっていた。流石に俺のシュケジュールが決まってきているので、ランクが上がる毎に必要な日数が上がっていく。

 だがその分難易度の高い(報酬の高い)クエストを受けられるようになるので問題ない。


 因みにだが、一週間で三回の昇級を経た俺だが、特に話題にはなっていない。珍しくないと言う訳ではない。俺が『同化』で風景と化している訳ではない。極力目立たないようにしているが、風景と『同化』するには受付嬢とも話さずに過ごすのが一番だからだ。だが冒険者とは受付嬢とは話さないといけないので無理に『同化』しようとはせず地味なヤツを演じている。いや、元々俺は地味なヤツだが。


 新人冒険者としては異例の昇級だが、俺よりももっと早いペースで昇級した化け物が居るから目立たないのだ。


 最強の種族黒魔人の最上の種類赤種最後の生き残りらしい、ナヴィ。


 初日でFランクへ昇級すると、二日目、三日目、五日目、七日目と順調に上がっていき、既にBランクだ。一週間で五回の昇級を経た化け物新人冒険者が居るので俺が例え目立っていても大して注目を集めなかっただろう。大体俺の存在をちゃんと認識しているのはナヴィと俺の担当受付嬢――ミリカだけだ。しかもこの二人もちょっと話すだけなので特別仲が良いと言う事はない。


 更に俺が目立たないのには、理由があった。


 最近(ちまた)で噂になっている、外套の剣士と言うヤツが居るからだ。


 何でも外套で頭から足首までを覆い、何の変哲もない片手剣を左手に持って一刀の下数多のモンスターを斬り捨てる最強の冒険者だとか。

 今もこの街でこの先の方針や装備を整えたりと本格的な旅の準備をしている勇者様なんじゃないかと言う噂もあるくらいの強さらしい。

 ある者が言うには、珍しく数が少ない薬草をサラリと採っていた事から、ベテランの冒険者だと言う。

 またある者が言うには、誰もギルドでその姿を見ていない事から、冒険者ではないのかと言う。

 しかし衛兵が言うには、記録の腕輪を着けているので冒険者だと言う。


 ……その噂の真実を知る者は、たった二人。


 俺とその担当受付嬢ミリカだけである。


 ……いや、実際の事情を知っているは本人である俺だけだ。


 悪かったな、勇者様じゃなくて。


 ミリカが外套の剣士の正体を知っているのは俺が何となくとたまたまで助けた他の冒険者が、外套の剣士が討伐したモンスターを知っているので、そう言う情報が受付嬢には集まるのだ。「~~が一撃で」とか言われた後で俺の記録の腕輪を見ればそいつを討伐しているのが分かる。一回なら偶然かもしれないが、それが毎回続けば怪しまれ、遂にはバレた。


 別に害意はないので俺の要望通り黙ってもらう事にしている。……特に日頃から戦いたい戦いたいと言っている戦闘狂には知られたくないし。

 俺もちゃんと街中では外套を着ないように注意をしている。換金しているところは、ギルド内での俺の影はかなり薄いので見られる事はない。ギルドにとって俺はただの一冒険者であり、俺がいつ来たかも定かではないので俺が来てから外套の剣士と呼ばれるそいつが現れた事に気付かない。更に勇者一行が俺と同時期にここに来たのも功を奏した。上手い具合に俺から外してくれる。


 世界の一人一人が、俺の身代わりだ。俺が目立たないようにするための一つ一つの要素。


 と言う事で様々な要素が重なり、俺の仕組んだ通りに事が進み、俺の目立たなさを一層引き立ててくれている。


「あの、お願いがあるのですが」


 そして今日再び昇級試験を受けられるかな、と思っているとミリカが遠慮がちに声を掛けてきた。


「……何か用か?」


「はい。実は一週間前ナヴィさんが水で出来た身体をした相手を倒したと言う話がありましたが、丁度その場所で夜な夜な啜り泣く女の声が聞こえるとの事で、その近くに住んでいる金持ちの方が金貨一枚を報酬にクエストを出しました。受けてもらえますか?」


 ミリカが遠慮がちに言ってくる。……あー。そう言えば、供養くようしてなかったな。


 俺は一週間経った今日、やっと思い出した。音楽プレイヤーとイヤホンの恩人を忘れているとは何とも失礼な事だが、生憎と俺は忙しかった。今も忙しい。だが供養するだけで金貨一枚は有り難い。受けるか。


「……分かった。昇級試験はまだ受けられないのか?」


 俺は受注することを了承すると、ミリカに尋ねた。


「あといくつかの討伐クエストをこなしていただく必要がありますね。討伐数は超えていますが、クエスト受注数が足りませんので」


 夜な夜な啜り泣く女の声の謎を解き明かし止めるクエスト用紙に受注判子を押しながら答えるミリカ。


「……分かった」


 俺は頷きDランクのクエストを五つ掲示板から接ぎ取りミリカに渡す。


「はい、承りました。ご武運を」


 クエストを計六個受けた俺を、ミリカが営業用のスマイルで見送ってくれた。

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