エセ勇者は剥ぎ取りが上達した
俺はギルドでいくつかのクエストを同時受注すると、早速街の外へと向かった。だが門までが遠い。そこまで歩いていく時間が惜しい。
俺は目立つ事がないよう街中では外套を道具袋に入れているが、街を出て人から見えない場所で外套を羽織り、『疾風迅雷』の風で全力疾走をした。
ものの数分で門まで着くと左手首に嵌めた記録の腕輪を見せて通る。きちんとフードで顔を隠しているため、誰かは分かっていない筈だ。
そして俺は、そのままの勢いでアンファルの森へと突っ込む。
「ギッ!」
早速ゴブリンの群れと遭遇した。『鑑定』してみるとゴブリン四百七十一、上位ゴブリン数体、ジェネラルゴブリン二体の大軍隊だった。
「……俺の邪魔を、するなっ!」
俺は鋭く叫んで右腰から剣を抜き去ると、ゴブリンを片っ端から葬っていく。徹底的に頭を狙い一撃で確実に仕留めていく。途中で騎士鎧を着て盾と剣を持った二メートル級のゴブリンや、弓矢を手にした二メートル級のゴブリンや身体が細く短剣を二つ持った二メートル級のゴブリン等が居たが、関係ない。俺の行く手を阻むモノは全て排除する。
昨夜戦ったゴブリンジェネラルが二体同時にかかってこようとも、『疾風迅雷』を使っている俺が捉えられる訳もなく、心臓と頭を一突きして仕留める。……殲滅してから耳と爪を剥ぎ取り装備を奪い取る。ついでに昨日持って来たが結局要らなかったゴブリン達の死体も捨てておく。
ゴブリンの群れが全滅し、血の臭いが辺りに立ち込めている中、バッファレオンと言う鬣と牙を持つバッファローが群れで駆け付けた。肉食なのでゴブリン達を食いたいんだろう。……だがバッファレオンは食肉としても売れる良いモンスター。しかも俺の視界に入ったんだから、既に俺の標的だ。
バッファレオンはただ突進してくるだけなので適当に『疾風迅雷』を使わずにあしらい、剣で切って刺して討伐していく。角と毛皮と肉と蹄と牙。余す事なく売れるから全て逃がさず狩り尽くす。
出来るだけ一撃で、頭を狙う。無駄に傷付けずに倒すためだ。傷付いて劣化すれば買い取り金額は減る。
バッファレオンの骨だけを残しその場を後にする。
そこに、パキッと地面に落ちている枝を踏み折って赤毛の鬣をした体長五メートルはある大きな獅子が現れた。……また血の臭いに釣られてやって来たモンスターか。
俺は面倒に思いながらもかなり大きなモンスターなので、この『鑑定』すると炎獅子と言う名のモンスターが、金になる事を祈りつつ、見据えた。
「ガオオオオオォォォォォォォ!!」
炎獅子は咆哮すると、口から火を吹いた。
「……っ」
俺は少し驚いて『疾風迅雷』を発動させ、範囲外へと逃げる。……驚いたな。まさか、猿帝、ガザラサイ、ファングファング、ゴブリン、トゲマジロ(ゴブリン十体討伐の時最初に戦ったトゲのあるアルマジロ)ときて、アンファルだけが属性攻撃を使ってきたってのに、まさかアンファルの部下でもないこいつが属性攻撃を使えるとはな。
……まあ、火力が弱ければ泥のアンファルに勝てる訳がない。
俺は剣を左手に携え、腰を低く構える。……こいつは油断出来ない。人間の身体の構造上、この世界には酸素とか窒素とかがあるんだろうが、さっき吹いた火で森が燃え酸素が失われていく。
「……風神剣」
俺は剣にそよ風を纏わせると、炎獅子に向けて上段から振り下ろした。すると剣に纏うそよ風が一瞬で暴風へと変わり、切っ先から巨大な風の斬撃を放った。……『風神雷神』の技の一つで、神と名に付くだけの威力がある。
炎獅子は、綺麗に真っ二つになっていた。ドスン、とゆっくり倒れ血を流す炎獅子を眺め、俺はさっさと素材を剥ぎ取る事にする。『鑑定』で剥ぎ取り部位も分かるからマジで便利。
炎獅子の剥ぎ取り部位は多い。大きいし、金になりそうだ。爪、牙、鬣、瞳、火を生み出すらしい臓器、尻尾、毛皮、肉。……ちょっと目を刳り貫くのはグロテスクだったが。
本格的な剥ぎ取りが多くなってきたが、トゲマジロでかなり鍛えられているのでかなり慣れてきている。
「……さて、次行くか」
俺は剥ぎ取り終わって何の未練もなくその場を去る。……こうも次々とモンスターが現れては、息をつく暇もない。少し休憩するぐらいはしても良いだろう。現れた敵の討伐とクエストで必要なモノの採集は即行で終わらせるが。
「……」
森の中で『鑑定』を使うと木の名前や草の名前が表示される。……植物の名前には興味がないんだが、その備考に何か書かれていれば採集する。
とあるモンスター狩っちゃう系ゲームで言えば、蜂蜜が回復薬をグレートにするとかの効果説明になる。
それ自体にどんな効果があるか、若しくは何と組み合わせると効果を発揮するかが分かる。……まあ調合出来ないからアイテムの作成は出来ないが。
クエストにある薬草や他の薬草等も毟り採る。……金だ。今の俺には金が必要なんだ。
「キャー!」
近くで悲鳴が聞こえた。……モンスターか? 丁度良い、俺にそのモンスターを寄越せ。
俺は直ぐにその悲鳴の下に駆け付けると、宝石が埋め込まれたバイソンが居た。……見るからに高そうじゃねえか!
俺は『疾風迅雷』でそのジュエルバイソンと怯えて腰を抜かした少女との間に割り込み、剣で突進を受ける。……チッ。結構強いな。腕が痺れちまった。
とは言っても人前で力を見せびらかす程バカではないので、腕を軽く振って痺れを弱めると、雷を刃に纏わせ切れ味を上げる。
そのまま頭を一突きして、ジュエルバイソンを仕留めた。
唖然と俺を見上げる少女は無視し、ジュエルバイソンからテキパキと宝石や毛皮を剥ぎ取っていく。俺が討伐したんだから、俺が貰って良いだろう。
骨と頭部分だけを残して俺はその場を去る。特に留まる用事もない。
「あ、あの、ありがとうございました!」
後ろで少女が頭を下げる気配がする。……礼を言われる事じゃない。ジュエルバイソンがこいつを殺した場合、血が付着してしまうから、殺す前に殺しただけの事。
俺は速やかにその場を去ると、更に薬草採集を行った。