エセ勇者は装備を整える
サブタイトルはこんな感じに変更してあります
「……」
俺はとりあえず武器でも買おうかと、街の中を右に行ったり左に行ったりとうろちょろしていた。
……民家も多いから武器屋か鍛冶屋を見つけるのはちょっと時間がかかったが、装備がこれ見よがしに並べられている店を見つけたので、今は物色している。
……ステータスで確認済みだが、受付嬢が使った『鑑定』と言うスキルは便利だ。見たモノが何なのか、素材やモンスター、武器に至るまで詳細を表示出来る。しかもこの鍛冶屋の前で、とりあえず一通り視界に入れて『鑑定』したらどんな武器が何個ずつあるのかが分かった。
……魔王の剣とか何だろうな。いや、『鑑定』は詳細まで表示出来るので分かっている。魔王が幼少の頃使っていた剣だ。普通の剣と同じ値段で売ってある。拾ったとかそんなとこだろうか。いや『鑑定』を持っていれば分かっている筈だ。って事は、わざとか。
値段は柄に貼ってあるので分かるが、銀貨二枚以内に抑えたい。……となると、二千セン以内か。安物しかないが、まあ良いだろう。仕方がない。
「いらっしゃい。あんた『鑑定』持ってんだな。ま、持ってねえと色々不便だしな。なら遠慮は要らねえ、目利きだし銀貨一枚くらいサービスしてやるよ」
俺が眼を光らせて『鑑定』した事が分かったのか、店の奥から出てきたおっさんは気前の良さそうな笑みを浮かべて言った。……ただの親切心か。『鑑定』を持ってるなら騙せないって言う事もあるだろうが。
「……じゃあ銀貨一枚以内で一番頑丈なヤツ」
俺はサラッと無料で武器を寄越せと言った。と言っても武器の詳細表示を見てどれだけ攻撃力がプラスされるか、どれだけの耐久値なのかは分かっている。だがどれも耐久値百かそれよりちょっと低い程度。どれが一番頑丈なのかはよく分からない。
「遠慮ねえな、兄ちゃん。俺の作った武器はどれも魔法で加工する事を魔工っつうんだが、それで作ってるからどれも見た目以上に頑丈で刃毀れしにくく魔力を通し易くなってるぜ」
確かに、このおっさんの言う通り、備考の欄に魔工を書かれている。
……実際に発動しているところを見ないと流石に『模倣』出来ない。今はまだ銀貨二枚程度しか使いたくないな。
「……じゃあこれで」
俺は店に入り、適当に二千と書かれた値札が貼ってある剣を手に取る。鋼の剣と言う代物で、攻撃力はプラス十七、耐久値は百。魔工済み。
「あいよ。銀貨一枚分サービスで銀貨一枚だ」
おっさんは「もうちょっと高いの買ってくれたって良いのによ」と言う顔をして言った。
俺は道具袋に手を翳し銀貨一枚を念じて手の中に出現させると、おっさんが差し出した手に落とす。
「これは鞘な。毎度あり」
おっさんは銀貨一枚を受け取ってチラリと確認しつつ、店の奥の筒の中に入っていた革の鞘の一つを取って俺に渡してくる。俺はそれを受け取ると、鋼の剣を差し込んだ。……ピッタリだな。どの鞘がどの剣のモノなのか覚えているのか。いや、今瞬時に『鑑定』を使ったんだ。鋼の剣の鞘って表示される。
俺は鞘に収めた剣を右腰に吊るす。
「……」
さて次は、何か服でも見るか。
俺は直ぐに切り換えて、鍛冶屋を去る。ここは鍛冶屋だったのだが、装備の服とかはないらしい。
……因みに俺が今着ているアンダーシャツとパンツは装備に加算されないようだが、ズボンは防御力零だったが装備になっていた。つまり下着と思われるモノは装備と認定されないらしい。タンクトップがどうか微妙なところだな。
いつまでもアンダーシャツだけじゃあ、あまりにも心許ない。攻撃を受ける事は然程ないが、痛いのは嫌いだ。
俺は来た道とは逆を歩いていき、数分で雑貨店のようなモノを見つけた。色々な道具やちょっとした装備等、様々なモノが並んでいる店だ。
……おぉ、外套があるぞ。これでも羽織ろうかな。
俺は早速かかっていた黒い外套を見て『鑑定』を使う。……ふむ。銀貨三枚と銅貨五枚か。それで防御力プラス五十三、『隠蔽』と『自動洗浄』のスキル、俊敏性プラス十の効果がある。これは良いモノを見つけた。
「……これをくれ」
俺は外套を手に取り、店の奥に声を掛けた。
「ん? ああ、悪い。ボーッとしてたわ。それ買うんだな? 確か銀貨三枚銅貨五枚だ」
店の奥の椅子に座っていた店主のおっさんが適当な感じで言う。……さっきの鍛冶屋のおっさんと違い消極的な商売だな。
「……」
俺は仕方なくそっちへ歩いていき、道具袋に手を翳して銀貨三枚銅貨五枚を念じ、おっさんが差し出した手に出現させたそれらを落とす。……これで全財産二百ちょいか。俺の財産は小学生のお駄賃かよ。
『――』
そこで、俺の耳に少年の咆哮が聞こえてきた。……何だと? この声は確かにあの人の声だが、何でここで聞こえる……?
俺は呆然とした頭を納得させるために、声がした方を向く。そこには美少女としか思えない髪の長い黒髪の少年が、雄叫びを上げて突っ込んでいく映像が流れていた。……おい。これってまさか、いや。土曜の深夜にやっている筈のアニメじゃねえの……?
俺はショートしかけた頭でそう考える。だがそんな筈がないと否定する。確かに映像と声は正しくそれだが、俺がいた世界でやっているアニメであって、異世界であるここには存在しない筈のモノだった。
「ああ、それか? それは聖女様が一回だけ、魔王が封印されて平和だった頃に使って異世界とこっちを繋ぐ魔法を常備した装置だ。異世界の装置で似たようなモノがあるらしく、PCと名付けられたモノだ。今はアニメ? とやらを映しているが、異世界で放送されたアニメを二日後辺りでこの装置に保存し、映像劣化せず永遠に観る事が出来るようにする魔法がかかっていて、他にも音楽を視聴出来るモノと漫画? とか小説? ってのを閲覧する事が出来る」
……。
…………。
マジかよ、めっちゃ欲しい! 俺がこの世界に来て唯一憂鬱だった事が解消されるじゃねえかよ! こりゃもう買うしかねえよな!
「……そんな凄いモノが、何で売れてないんだ?」
俺は湧き上がる興奮を抑え付け、平静として聞いた。
「確かに貴重だし使われてる魔法も凄い。だがイマイチ世界観が理解出来ないモノが多くてな。しかもやたら数が多くて理解出来ない。物語のようなモノだと言われてもなぁ。しかも値段見ろよ。これ以上値下げ出来ない段階まで下げてこの値段なんだぜ? 誰も買うヤツなんて居ねえって」
おっさんは苦笑して言った。……アニメや漫画、小説や音楽をバカにするような物言いが勘に障るが、ここは我慢だ。だって人気がない=俺が買えるだからな。
……さて値段だが……一、十、百、千、万、十万、百万、一千万、一、億……!?
「……一億センだと?」
何だこの値段。ここにあるこれ以外の商品全部買い占められるぞ。
「ああ。異世界とこの世界を繋ぐ魔法は聖女様にしか使えないし、映像劣化をさせないようにするのも高等技術だし、魔力バッテリーで動いているから一ヶ月毎ぐらいでバッテリー交換しなきゃいけないし。まあ世界にたった一つの商品である事には変わりないんだけどな」
「……分かった。それを買うから、金が貯まるまで待ってくれ」
俺は逸る気持ちを抑えて苦笑しているおっさんに言う。
「……良いぜ。俺、金持ちのマニアには売らない事を信条にやってんだ。普通の冒険者が金稼いで買おうってんなら、喜んで取っておいてやるよ」
おっさんは驚いたように目を見開くが、厄介な商品の売り手が見つかった事が嬉しいのか、ニカッと笑って言った。
……こうしちゃ居られない。
俺はおっさんがPCと名付けられたそれを、店の奥に持って行くのを見届けて、意を決しギルドに向かう。
……片っ端から依頼受けて、俺はPCを買う!
俺は今、今までの人生で一番燃えている。




