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エセ勇者は捻くれている  作者: 星長晶人
第一章 最初の街

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エセ勇者は救わない

いきなりですが、サブタイトルを特徴的に変更します


異世界転移をいくつか書いてると被ってしまうので、特徴を持たせます

冒険者登録とかですね

つい最近被りました(笑)


特徴的と言っても奇抜ではありません、探せば同じようなサブタイトルの小説があるかと思いますが


一話から決めるので最初はまだ普通のサブタイトルにしときます

「何だてめえ……!」


 良いところで邪魔が入ったからか、宿屋メナードに乗り込んできた男二人の内さっきから喋っている方が俺に怒鳴ってきた。

 俺はそれを無視してカウンターに盆を置く。


「……ただの、客だ」


 それから答える。男とカウンターとの距離はほとんどないので間に割って入ったような形になってしまったが、俺にそんなつもりはない。ただ丁度完食したので盆を返しに持って来ただけだ。


「ただの客が何の用だ? 言っとくがここは今日で潰れる――いや潰れないかもな。だがもうてめえは出てけよ」


 男は俺を睨んでいたが、本来の目的を思い出したのか、嫌な笑みを浮かべて言った。


「……それは困るな。折角見つけた宿なのに」


 俺は絶対そんなこと思ってないだろう無表情で呟く。


「へへっ。こんなボロ宿より良い宿紹介してやるよ」


 俺を口先だけのヤツだと思ったらしい男は、押せばいけると踏んで交渉してきた。


 ……ボロ宿、ねえ。


 俺は昨日から今日まで一通り『観察』した結果を思い出す。客が来てないから掃除をしてない訳じゃない。部屋には埃一つ髪の毛一本なかった。寧ろ手入れが行き届いている。食堂もそうだ。床板の間にさえ埃や髪の毛がない。どれだけ愛情と誠意がこの宿に込められているか、容易く分かる。

 確かに赤字に次ぐ赤字で厳しい状況だが、ボロ宿とは言えない。


「……一泊風呂付き二食付きでいくらだ?」


 俺は交渉の余地があると思わせるため、聞いた。俺の介入に驚いていた美女が俯く。


「中間で三千からだ」


 男はニヤニヤと値段を言う。……ここと比べるとどうしても高いなぁ。妥当なのかもしれないが。それにからってのが信用ならない。ぼったくられるのがオチだろう。

 日本ではボロ宿でも一万ぐらい取られる。そう考えるとこの世界の宿泊費はかなり安いのかもしれないが。


「……設備は?」


 俺は更に畳み掛ける。……それに男は口端を吊り上げる。


「いずれも名人が作る高級料理、二人部屋と思ってしまうような広々とした部屋、大の字に寝られるベッド、防音完備、広い風呂場、露天風呂。どうだ? 得だろう?」


 ……確かに良い。それが本当なら、な。

 名人が作る高級料理? 詐欺にも程があるだろ。中間の宿でそんなモノが食べられる訳がない。美女の作った料理は滅茶苦茶美味かった。

 広々とした部屋? 独りでそんなに広い部屋は要らないだろ。ここは丁度良い独り部屋の広さだ。

 大の字で寝られるベッド? そんなに大きいベッドがあっても意味ないだろ。独りで使うには無駄すぎる。

 防音完備? 何だよさっきから、女でも連れ込む前提じゃないか。不要。俺モテない男子筆頭だし。

 広い風呂場? ここの広さで充分。座って脚を伸ばせるぐらいが落ち着く。

 露天風呂? ……ちょっと良いじゃねえかよ畜生。


「……高すぎて手が出ないな」


 説明させておいて、煽っておいて、サラッと断った。


「てめえ、喧嘩売ってんのか!」


 そのせいで怒鳴られるが、俺はいつも通り濁った眼を向けるだけだ。


「……別に。ただ客の視点から見て、評価しただけだ」


 俺は無表情に言う。美女は俺が移動の話を断った事に驚いて顔を上げている。


「……チッ。珍しく客が来てると思ったら、たぶらかしてんじゃねえかよ。どうせこいつが五年前に旦那を亡くして身体を持て余した未亡人だって知ってここに来たんだろ? おい、どうやって誘惑したんだ? メランティナさんよぉ」


 すると男は舌打ちしそんな事を言って美女――メランティナと言うらしい――にニヤニヤと嫌な笑みを向ける。


「どうせその身体使ってこいつの相手してやったんだろ? 男を知ってんだから一人とヤるぐらい出来るもんなぁ」


 ……こいつ、妄想癖でもあるのか。


 俺がそう思うのも仕方がない。どんどん妄想に耽ってニヤニヤを深めている。……同じ男としても引くし、やっぱ同じ人間としても引く。人間に生まれたくなかったぜ、畜生。


「あんた『人化』のスキルが使える凄腕の獣人冒険者だったそうじゃねえか。それもスキルの効果だろうが、噂に聞けば豹の獣人ってのは満月の夜は獣の本能が目覚めるんだろ? そん時高まった性欲はどう処理してんだ? どうせ夜中に一人ヤってんだろ?」


「っ……!」


 あまりにもオープンな男のセクハラに、メランティナさんは憤りと羞恥で顔を赤らめ、殺気を放った。……流石は元凄腕冒険者。ゴブリンジェネラルが雑魚に思える程の殺気だ。怒りのせいか髪が逆立ち始めている。


「……へへっ。おー怖い怖い。良いのか、俺達に手を出して。この宿潰しちまうぜ?」


 殺気を向けられ少し怯んで冷や汗を掻く男だったが、人質があったので遠慮なくそれを使いメランティナさんの怒りを抑え込む。


「……あっ、そうだ」


 張り詰めた空気に挟まれた俺は今思い至ったように声を上げ、右手を道具袋に近付ける。


 念じてそれらを取り出すと、


「……これ、この先泊まる金」


 メランティナさんを向き、左手で右手首を掴み持ってくると、右手に持っていたモノをチャリン、と落として渡す。


「これって……っ!」


 メランティナさんは驚愕して目を見開く。


「……昨日は中途半端に払ったからな。飯も美味いし文句はない。追加分、五十九日分の金だ」


 そう。俺はただこの宿が気に入ったので追加分を払っただけに過ぎない。五十九日分――即ちアルクブル貨幣五枚と銅貨一枚銭貨五枚を払っただけだ。


「っ! てめえ……!」


 男が俺の身体をグルリと回し、胸ぐらを掴んでくる。……何をそんなに怒っているのやら。俺の『観察』を以ってしても理解出来ないな。


「……俺はただ、独りの客として前払いをしただけだ」


 俺は男の手首を捻って外すと、無表情に告げる。


「チッ!」


 男は思いっきり舌打ちして捻られた手首を擦りながら、メランティナさんの手からアルクブル貨幣五枚を奪い取って去っていく。


「……壊した扉とカウンターの修理費、払わないのか?」


 俺は苛立たしげに立ち去ろうとする男二人に尋ねる。……残念ながら、主導権と正当性は俺と共にある。


「クソッ! これで良いんだろ、これで!」


 男は忌々しげに吐き捨てると、金貨一枚とポケットから銀貨三枚をメランティナさんに放り投げ、今度こそ宿屋メナードから去って行った。


「……これで一ヶ月ぐらい住む場所があると良いんだが」


 俺は溜め息をついて呟く。


「……あなた、他人の事情には突っ込まないんじゃなかったの?」


 俺の後ろから、そんな声が聞こえた。


「……泊まる場所がなくなったら困るからな。正直旦那がどうとか宿屋がどうとかってのはどうでもいい。だが俺の生活が関われば別だ」


 俺は後ろを振り向いてメランティナさんを見る。メランティナさんは流石に緊張していてそれが解かれ、腰が抜けたのかカウンターにそのムッチリとした尻を載せている。


「そう。でも――」


 だがメランティナさんは微笑むと、俊敏な動きで俺に突進してきて、そのまま抱き着いてきた。


「……っ」


「この宿を守ってくれて、ありがとう!」


 恐らくは満面の笑みでそう言った。メランティナさんは押し付けるとかそんなことは気にせず俺の首に腕を回して抱き着いてきたので、その豊すぎる胸が当たっている。クリアのしっとりとした柔らかさではなく、手を離されたら俺が後ろによろめくんじゃないかってくらいの物凄い弾力だ。

 女性特有の甘い匂いが鼻腔を突くし、当たっている胸や太股に理性は刺激されるし、ヤバい状況だ。


「あっ」


 メランティナさんは突如声を上げる。……ピン、と頭に獣耳が生え、服の上下の間からは尻尾が生える。そして髪と耳と尻尾が豹柄に変わる。……『人化』が、切れた?


「ごめんなさいね。つい変化が解けちゃって」


 そう言うとメランティナさんはパッと離れる。……その頬は大胆な行動からか、赤く染まっている。


「……借金でもしてるのか?」


 俺はなるべく平静を装い、質問した。……くそっ。人間の美女ならグッと来ないが、獣人の美女は可愛いじゃねえかよ! しかも猫科とか。猫めっちゃ可愛い。流石は俺の心の友よ。


「え、ええ。色々あって――されて三千万程」


 メランティナさんは頷いて答える。……きっと、少しでも早くモノにするために試行錯誤したんだろう。冒険者として稼ぎに出ないのもそこら辺が関わってくるのかもしれない。


「……そうか。じゃああと十年くらい前払いしなきゃいけないな。長く世話になりそうだ」


 俺はこれから一週間毎にやってくるあいつらにやれやれと思いつつ、独り言を呟いた。……結局宿を失うピンチは乗り越えられてないんじゃん。


「っ……」


 何故かメランティナさんが顔を嬉しそうに輝かせていたが、よく分からない。……女ってのはやっぱよく分からないな。笑顔の下で「死ねよクソブタが」とか思っているようなヤツらだしな。男とは生き物として別物なんじゃないかって思う。


 ……残金銀貨四枚銅貨七枚銭貨八枚石貨四枚。


 ちょっと、前払いしすぎたな。


 俺は宿屋メナードを出つつ、溜め息をついた。

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