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エセ勇者は捻くれている  作者: 星長晶人
第一章 最初の街
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エセ勇者はクエスト報酬を貰う

寝落ちしました、すみません

 ……ああ、結局真夜中になってしまった。


 俺はレンガの街並みの中で空を仰いで星空を眺めた。工場等で排気ガスが出ないせいか、星は綺麗だ。こんな星空は日本の田舎でしか見えないだろう。


 光の粒が、星なのかどうかと言う問題は後にして。一際大きな淡い光を放っているモノが月なのかどうかも分からないしな。


 街灯は少ないだろう。これも日本の田舎と同等だと思う。街灯が一定の間隔で並んでいて、ポウッと誰かが街灯の下に居ると怖い。


 異世界でも深夜は静かだ。……いや、一角だけ煩い場所があったが。歓楽街とかそんな感じの場所だろう。俺は特に興味がないのでそっちには向かわない。


 俺は雷で門まで、風で街まで走った後、一直線にギルド集会所へと向かっていた。金がないので宿にも泊まれない。それを解決するには兎に角ギルドでクエスト達成と換金により金を貰わなければ。


 青い血で汚れたYシャツのままだが、金がないので仕方がない。それに武器もないから手で戦うしかないし。


 大十字路を歩いていると、やっとギルド集会所に到着する。……やっと、と思ってしまうのは、生産力をカバーするためとは言え街の外側に広大な牧場と畑があるせいだろう。


 ギルドに入っていくと(ドアはまだ壊れたままだ)、ガヤガヤと騒がしい賑やかな声が響いていた。外にも光と声が漏れていたので、予想はしていた。

 だが、これは酷い。


 酒を飲んで暴れるヤツ、完全に酔っ払って愚痴を零すヤツ、暴飲暴食を繰り返すヤツ、仲間内で楽しく語らい歌い出すヤツ。


 兎に角滅茶苦茶だった。……完全に酒場じゃねえかよ。もう真夜中なんだぞ。


 ギルドの奥を見やると、俺の接待を受け持ってくれた受付嬢が呆れ気味に欠伸をしていた。……裏表が激しい同情の余地がないヤツだとは言え、これは流石に言っておこう。

 お疲れ様。


「……」


 俺は喧騒の中を、出来るだけ注目されないよう気配を隠しながら受付に向かう。受付嬢は俺に気付いて驚いたように目を見開き、慌てて笑顔に取り繕うとペコリと頭を下げた。


「……クエスト達成だ」


 俺は何に驚いていたか容易に想像出来ていたが、いつも通り無表情で受付嬢の前に立つ。


「はい。記録の腕輪をお見せ下さい」


 俺は受付嬢に言われ左腕を差し出す。


 受付嬢が右人差し指で記録の腕輪に触れると、記録の腕輪と同じような青黒い色をした半透明の画面が出現する。ステータスウインドウと同じようなモノだ。


「なるほど、そう言うことでしたか。ゴブリンの討伐をしていたらゴブリンの群れに遭遇したと。それでこんな時間に」


 受付嬢は納得したような呆れたような顔で言う。俺も確認したが、ゴブリンの討伐数は三百十二体。ゴブリンの群れで一番最後に戦ったでかいゴブリンはゴブリンジェネラルと言う上位種だったらしい。

 ゴブリンウォーリアーとか色んなヤツが居るらしいのだが、持っている武器で変わる訳ではないらしい。どんな武器を持っていようとゴブリンはゴブリンだった。


「群れでもゴブリンジェネラルが率いているとは言え、比較的弱い方で良かったですね。ゴブリンは通常の一メートル級ゴブリンから二メートル級の上位ゴブリン、三メートル級のゴブリンジェネラル、五メートル級のゴブリンキングといますが、ゴブリンジェネラル以外は全てただのゴブリンだったので良かったです。流石に上位ゴブリンばかりの群れに遭遇すると、CかBランク相当になってしまうので」


 受付嬢はホッとしたような息を吐くと、精算を始めた。ゴブリン十体の討伐報酬が銅貨三枚――恐らく三百円程度なので、それ掛ける三百十二割る十――三十一で、銀貨九枚と銅貨三枚。計九千三百円ってとこか。……一日の稼ぎとしてはかなり良いんじゃないか? 明日からは午前午後の二回で二万程、稼げる訳で。

 ……まあそこまで頑張りたくはないが。俺は生活が出来ればそれ以上稼ぐ気にはならない。俺が欲しい物はこっちの世界にはないのだ。


「それでは報酬の、銀貨九枚と銅貨三枚になります」


 受付嬢は精算を終え三十一回分の報酬を茶色い巾着に入れて渡してきた。……なるほど。こうやって渡されるのか。場合によっては金貨めっちゃ多いとかあるかもしれないしな。上の硬貨が大量にあればないかもしれないが。


「換金はあちらで行いますので、どうぞ」


 受付嬢は巾着を渡すと換金のカウンターを差し俺を誘導する。俺は大人しくそれに従い、換金所と言うプレートが下がったカウンターに向かう。


「ゴブリンの剥ぎ取り部位は爪と耳ですが、剥ぎ取りましたか?」


 受付嬢はそう聞いてくる。……爪と耳で合っていたのか。


「……爪は全部剥いできたが、耳は損害があってほとんど剥ぎ取れてない。ゴブリン達の装備は良いのか?」


 俺は剥ぎ取ってきたモノを思い浮かべ、尋ねた。耳と爪は合っていたのだが、装備の方が高いかと思って装備を優先し全て回収してきた。よって頭を狙い続け、耳が損害を受けてしまう事があった。なので装備を買い取ってくれないとなると、大赤字なんだが。


「いえ、装備は剥ぎ取るモノではありませんので。別途で換金します」


 受付嬢は「そんな事も知らないのかよ」と言う表情を作り笑顔で上書きして答える。……まあそう言われるとそうだな。装備は剥ぎ取るモノではなく奪い取るモノだろう。


 俺は仕方なく自分の無知を呪って、道具袋からゴブリンの爪と耳を出す。出し方は簡単で、道具袋を腰から外し逆様にしてゴブリンの耳と爪を念じれば良いだけだ。これは散々試した結果得た情報だ。聞けば良いんだろうが、「そんな事も知らないのか」と言われ見下されるのが嫌なだけだ。先程の事もあるからな。


 ドサッ、と一気に黄ばんだ爪と上の端が尖った深緑色の耳が山のように積まれたまま道具袋から落下してくる。


「かなり多いですね」


 受付嬢は驚いたように言い、眼をキラリと光らせる。……描写的な意味ではなく、実際にキラリと眼が光っていたのだ。『観察』していたので分かるのだが、スキルの発動だろう。


「小鬼の爪が千五百二十三個、小鬼の耳が三百四十七個。計四千四百三十四センで、銀貨四枚と銅貨四枚と銭貨三枚と石貨四枚になります」


 何かしらのスキルで瞬時に数を数えた受付嬢は、精算をしていき再び茶色い巾着にそれらを入れて渡してくる。……便利なスキルだな。受付嬢って言うか、換金には必ず必要なスキルじゃないか? これがないと相手が数を誤魔化しても分からないし、数えるのにも時間がかかる。受付の必須スキルになるのかもしれない。


「……次はゴブリンジェネラルの部位になりますが……装備の方がメインですのでニセンからになりますね」


 「どうしますか?」と受付嬢は聞いてくる。……装備の方が金になるから、みみっちい事は気にするなと言う事だろうか。まあ良いけど。この世界の一般的な宿の価格ってのが分からないが、一万以上持ってて泊まれない訳がないだろう。


「……分かった。じゃあ装備を頼む」


 俺はそう言って道具袋を逆様にし、ゴブリンとゴブリンジェネラルの装備を念じる。


「……凄い量ですね。まさか、全て持って来ました?」


 受付嬢は呆然と見上げつつ聞いてくる。

 受付カウンターとは違い幅が広く長いカウンターが埋め尽くされる程に、綺麗に立ててゴブリンの革鎧がズラリと並びその上に同じように並べて積まれ、更にその上には一際大きいゴブリンジェネラルが装備していた革鎧とボロボロの上着が載せられていて、端に武器が積まれている。……危ないな。綺麗に整えられて出てくるのは良いが、ちょっとの衝撃で倒れそうだ。


「……ああ」


 俺は受付嬢の言葉に頷く。


「えーっと、小鬼の革鎧が三百十二個、将軍小鬼の革鎧と将軍小鬼の上着が一つずつで、計二万二千百五十セン、アルクブル貨幣二枚銀貨二枚銅貨一枚銭貨五枚になります。小鬼の棍棒が百七十、小鬼の剣が九十三、小鬼の短剣が二十、小鬼の槍が二十九で二万三千四百セン、アルクブル貨幣二枚銀貨三枚銅貨四枚になります。将軍小鬼の斧が銀貨五枚で、計アルクブル貨幣五枚銅貨五枚銭貨五枚になります」


 再び眼を光らせると、直ぐに精算を終える。さっきよりもジャラジャラとふくよかな巾着が差し出される。……おいおい。ゴブリン自体を討伐するより装備売った方が高いじゃねえか。


「他にも換金出来るモノがあれば承りますが」


 そう言われ、俺は逆さにした道具袋から色々な素材を出して、更に換金を進める。再び精算し終え金を受け取ると、


「……で、何かさっき来た時より人が増えていないか?」


 俺はやっと換金が一段落したところで、受付嬢に聞く。


「それはですね、討伐されたアンファルの確認と、ゴーレムには中核となるコアと言うモノがあるんですが、それの回収に行っていた元ガザラサイ討伐用の部隊が帰って来たんです」


 なるほどな。だからこんなに騒がしいのか。


「……で、何であいつがここに?」


 俺が人指し指で示すその場所には、ギルド集会所の端の丸テーブルで突っ伏している角の生えた美女が居た。

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