エセ勇者は剥ぎ取りが苦手
「……」
俺がやっと門まで辿り着くと、門の端に立っていた衛兵二人が槍を交差し俺の行く手を遮る。
「……」
だが俺が軽く左手を挙げ手首に嵌めている記録の腕輪を見せると、冒険者の証でもあるのであっさり槍を手元に引き寄せ通してくれる。
俺は草原まで来た訳だが、まだここからアンファルの森まで行くとなると少し憂鬱だ。
自然に和まされ、ああ俺はやっぱり田舎者なんだな、とか思いながら門まで来たものの、草原を歩いてアンファルの森まで行くのは更に長い道のりを歩かなければならない。もう夕方だし、夜の森は危険だ。いくら俺に『観察』のスキルがあって適度に夜目が効くとは言え、夜の森はいくら備えても足りない程の危険度を孕んでいる。
仕方なく、俺は脚に雷を纏って速度を上げ、疾走した。
門番に異常だと思われない程度の速度で、しかし急いでアンファルの森に向かう。
門番が距離感を掴めなくて俺の速度が曖昧になっただろう頃合いを見て、俺は全力でアンファルの森へと走った。見て分からない程度に追い風で速度を上げ、計十分程でアンファルの森へ辿り着く。
クエスト内容は、恐らく定期的に出されるのだろう、ゴブリン十体討伐のクエストだ。
アンファルの森には様々なモンスターが存在しており、あまりにも大量発生した場合は街を襲って来る可能性もあるので定期的に狩らなければならないようだ。……因みにこの辺の話はクリアから聞いたモノなので、百年以上も前の事だし、今もそうなのか怪しい。まあそんなにモンスターの発生事情が激変する事はないだろうから、合っているとは思う。
……それでさ、誰か答えてくれないかな。
ゴブリンって、どんなモンスター?
俺のイメージだと小鬼って書いてゴブリンと読む、みたいな感じで、小さい身体で緑っぽい色に黄色いギョロ目をした棍棒とか振り回すヤツなんだが。
……まあ、記録の腕輪がある事だし、適当に倒しまくってどれがゴブリンが調べてみよう。
俺はそう考えて、一旦雷と風を解除する。
……薬草については何も分からないが、適当にそれっぽいヤツを毟って道具袋に入れておけば、後で鑑定か何かをしてもらえるだろう。ついでにそれを『模倣』してしまえば良い。
「ギュィ!」
思考していると、アイスのコーンみたいなトゲがいっぱい生えた全長三メートル程の鋼色のアルマジロみたいなヤツが草むらから飛び出してきた。……何か、防具とかに使われそうな素材持ってそうだな。特に甲羅の部分は使われそうだ。
「……金になりそうだし、狩っておくか」
俺はそう呟き、試してみたい事が色々と――街に入って『模倣』したスキルが多いため――あるんだが、どれにしようかな。
「ギュイッ!」
俺は黒魔人の攻撃を受けてしまったせいか、目の前の敵よりも大きく強いアンファルとその仲間達と戦ってしまったせいか、大して脅威に感じない。寧ろ雑魚だからこそ実験体として使える。
トゲの付いた巨大アルマジロは身体を丸めて俺に向かって転がってくる。……おぉ、刺さったら痛そう。
「……アンファルの腕」
だが俺は直径にして俺よりも大きなトゲトゲの球体が迫って来ようとも、危機感を感じなかった。
――試したいことその一、アンファルを『模倣』したらどうなるか。
俺の呟きに応じて俺の前の虚空から出現した泥の腕がアルマジロを飲み込んだからだ。
「ギュッ!?」
泥の腕は俺の右腕を『模倣』しているのか、下を向きダラリと垂れている。
大きさは大体五メートルってとこだな。肘までの半ばから出ている感じだ。
泥に呑まれたアルマジロは驚いて球体を解くが、意味はない。泥の腕は俺と連動しているようなので、俺は左腕をアルマジロを掴むように伸ばしてみた。すると虚空から泥の左腕が出現し、アルマジロを握る。
「……これは良い」
全身を出現させた場合、俺が独り変な動きをするので人前では遠慮したいが、戦略の幅は広がるだろう。第一、身体を『模倣』しなくてもアンファルが使う技は『観察』により手に入れている。
アンファルがやった泥の触手もその一つだからな。『模倣』出来る。
「……死ね」
俺は左手でアルマジロを掴みつつ、右手を引き戻してからアルマジロに伸ばし、完全に泥でアルマジロを覆う。……これで窒息死してくれれば良いんだが。
「ギュ……」
最期に一鳴きして、アルマジロが事切れる。俺の手の中でもがく感触がなくなった。
「……」
俺は腕を下ろし、アンファルの腕を解除する。
するとアルマジロを覆っていた泥も全て消え去り、剥ぎ取りがし易くなった。……『観察』しても問題ない。アルマジロは絶命していた。
……さて。早速剥ぎ取るか。
俺は左腰から剥ぎ取りナイフを抜くと腰を屈め、そして固まった。
……何を剥ぎ取れば良いんでしょうか?
甲羅とトゲを剥ぎ取るのは勿論だが、耳とか肝とかもいるのかもしれない。何を剥ぎ取れば良いのか見当も付かないが、とりあえず甲羅と爪を剥ぎ取り、肉はそのまま道具袋に入れて持って行けば良いだろう。
――と言う事で、俺は四苦八苦しながら巨大アルマジロを捌き、全て道具袋に収めた。
……いつか、剥ぎ取り技術も『模倣』してやる。
俺は血塗れになった両手を眺め、そう決意した。




