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エセ勇者は捻くれている  作者: 星長晶人
第一章 最初の街
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ぼっちは死体の山を踏み越える

五時頃から寝ていて、今起きました(゜-゜)


新生活に慣れれば更新も安定してくると思いますが

「……お前は俺のために剣を選べ。良いな、クリア」


「はい……」


 何故か敬語で答えたクリアは、珍しく真剣な表情で言った俺に素直に頷き、早足で去って行った。……どうせ金持ってないだろ、とか言わない。


 ……さて。邪魔者も排除したし、冒険者的な場所に行くか。冒険者的な場所ってのがどんな場所かは分からないが。


 俺は目論見通りクリアを遠ざけると、冒険者登録を行っている場所を探していた。


 ……しかし、何だろうか、この違和感。


 俺は何かこの世界に違和感を覚えていた。……ちょっと『観察』してみるか。


 俺は人混みと『同化』しながら、街を『観察』していく。


 ……そうか、分かったぞ。


 俺は店の看板等を見て、違和感の正体を突き止める。


 俺の違和感の正体は、言語だ。聖女もどきが言うには異なる言語でも自動的に理解と変換を行うような魔法がかかっているらしいが、それはつまり元の世界と言語が違うって事だ。


 なのに、最初は違和感なく歩いていた。


 会話が通じていたからかもしれない。そこに気の緩みがあったようだ。


 文字までが、日本語だったのだ。

 店の看板が漢字と平仮名、たまに片仮名で書かれている。


 これはおかしい。地球でさえ数多くの言語が存在すると言うのに、異世界に日本語が存在するなんて。


 思えば、ガザラサイを討伐しようとアンファルの森に近付いてきた集団が、妙な事を言っていた。


 猿帝は勇者様が殺ったかも、と。


 あらかじめ神殿で勇者が召喚されるのを知っていたかのような口振りだ。


 もしかしたら、この日本語は勇者一行の使う言語を知ってから世界中に習わせたのではないか。この世界を勇者が少しでも住みやすいと思ってくれれば、魔王を倒した後でも兵器として使えるかもしれない。


 そんな思いがあるのかもしれない。……勿論、兵器として使えるってのは俺の勝手な解釈だ。世界最強の勇者として世界を統治して欲しい、って事かもしれないしな。


 とりあえず、俺は冒険者にならなくてはいけない。


 金を稼いで生計を立てる。それが俺がここでしたい事だ。その後はゆっくりと日々を過ごし老後までのんびりしたい。


「チッ。勇者だか何だか知らねえが、いきなり現れて気に食わねえな」


「ああ。俺達冒険者だって森荒らしてるガザラサイ倒そうとしてたっての」


 十字路の中心まで行くと二人の男が、不満そうに陰口を叩き合っている。……人間が仲良くなり長い時間付き合いには嫌いな事、悪口を言うと良いらしい。

 夫婦も嫌いな事が一緒だと長続きするらしいし、悪口を言い合うと仲良くなれるんだ。


 ……因みに俺は小学生の頃、一回その方法をやってみたことがある。クラスで結構嫌われていたヤツの悪口で盛り上がっているところに入っていったんだ。そしたら、そこでは微妙な空気が流れていたが、段々話していくとちょっと打ち解けた、と思っていた。

 後日俺が『観察』していると、気付いたのだ。クラス全員が嫌っているのは、俺だと言う事に。


 ……。

 …………。


 ヤベーよ。俺より下がいると思って話しかけたら次の日から俺がキモいって話になってんだぜ? ハズくて死にたくなったからな。マジで最悪だったなぁ。俺の小学校時代(遠い目)。


 俺の小学校時代はこれが日常で、トラウマレベルになると半端じゃないくらいに精神ダメージをくらう。だから思い出さない。


「……その誇らしい冒険者にはどこへ行けばなれる?」


 俺は話に乗っかる形で話し掛ける。……美女に遅れは取っても男に遅れは取らない。男に気(おく)れする程気弱ではないのだ。


「えっ……? ああ、そこを真っ直ぐ行ったところの大きな酒場みたいな建物だ。ギルドって書いてあるから分かるとは思うが……」


「……そうか」


 男は戸惑いつつもおだてられたからか、きちんと説明してくれる。俺は会釈程度に頭を下げ、男が指差した右に曲がって歩いていく。……アンファルがいた方角だ。アンファルの森対策でこっちに冒険者が集うギルドがあるって事かもしれないな。


「……?」


 右に曲がると、人混みが見えた。……何か騒動か? 関わりたくないな。


「おら、さっさと歩けよ!」


 集まる野次馬から少し離れて様子を見ながら歩いて行くと、そんな怒鳴り声が聞こえた。


「……」


「あ!? 歩けっつってんだろ!」


 野次馬達の間から見ると(これ二回目だぞ)、恰幅の良い高価そうな服を着た中年の男が怒りを露に、上に曲がった黒いひげしきりに撫でながらわめいていた。


「……」


 だが怒鳴られている方はだんまりを決め込んでいるのか反応しない。


 だんまりを決め込むヤツの方が、汚い身形みなりをしていても目立っていた。

 首には金属製の首輪がめられ、後ろから伸びた鎖は中年の男の右手に繋がっている。ダラリと下ろされた両腕には、手首に金属性のかせが嵌められ鎖で繋がっている。足首にも枷が嵌められ鎖で繋がっている。


 まるで、奴隷のような格好をしたヤツだった。


 だがそいつ自身の姿が目立っている。


 この街には耳が尖ったヤツも獣耳が生えたヤツも今のところ見てないので、人間の街なんだろう。

 そいつの耳の上端は細く尖り目は人間で言う白目が黒、黒目が赤だ。血のような赤黒い髪(汚れているため今はかすんでいるが)をしていて、頭部の前上部分の両側から一本ずつ真っ直ぐ前に伸びた黒い角が生えている。


 明らかに、人間ではない。


 そいつは汚れているせいでボロボロのイメージを受けたが、痩せこけている訳ではない。身に纏っているのは首と腕を出す穴が開いている、下の破けた袋みたいな布だ。恐らくそれしか着ていない。

 男だったら腰巻きだけかもしれないが、そいつは女だ。しかも汚れていなければ美しい美女であると言える。

 肌は黒く、日焼けしすぎた日本人と同じくらいだろうか。女性では長身の方で、百七十はある。身体つきは細いがスタイルは良く、巨乳と言う訳でもないが貧乳でもない、美乳と呼べる大きさだろうか。


「……もう飽きたんだよ」


 そいつが小さく呟く。


「ああ!?」


 恰幅の良い男は何を言っている、と鎖を引っ張り女の首を引き寄せる。


「てめえみてえなクズの相手すんのは、もう止めだ」


 女は呟くと、両手を首輪にかけ、力を込めていく。……何をする気だ?


 俺は女が何をする気は分かっていながらも、そう疑わずにはいられなかった。明らかに金属製の首輪を、まさか――。


 バキッ!


 血管が浮き出る程力を込められた首輪に、ヒビが入った。


 そして、バキャッ! と言う音を立てて遂に首輪が砕け散った。……嘘、だろ? 金属をただの握力で砕いただと?


 俺はしっかりと『観察』していたから分かる。あの握力を生み出す筋力は、握力だけに特化されたモノではなく、全身の筋力を担う一つであると。


「なっ!? 魔力を封じる効果を持った首輪だぞ!? それをどうやって……!」


 男は前部分を砕かれ鎖と繋がった後ろ部分が地面に落ちるのも気に留めず、驚愕した様子で言った。


「オレ達魔人を、てめえら人間如きの物差しではかるなよ」


 そう言うと女はその凄まじい握力をって手首と足首の枷を砕き、完全に自由の状態となる。


「ひっ! 誰か、誰かこいつを止めろ! 殺しても構わん!」


 男は怯えた様子で喚く。……奴隷として女を好き勝手していたのはあの男だ。真っ先に報復されるとしたら、あいつだろう。


「殺す? てめえら人間が、このオレを殺すだと? 笑えねえ冗談だ!」


 女はニヤリ、と狂気に満ちた笑みを浮かべて尖った犬歯を見せると、拳を握り締めて脚にも力を込める。


 女が拳を、怯えて半歩下がった恰幅の良い男の顔面へと放つ。


 すると、凄まじい威力故か、弾けるように砕け散った。


「ひぃっ!」「キャー!」


 等と言う悲鳴が次々と上がる。それも仕方がないだろう。首をなくした男から、鮮血が噴き上がって野次馬達に降り注いでいるからだ。


「てめえらも、オレの八つ当たりに付き合え……!」


 何とも理不尽な事を、笑みを崩さぬまま言った女は、次々と殺戮を繰り返していく。……その先は、見るも無惨な虐殺だった。


 悲鳴を聞いて駆け付けた冒険者らしき男も、何の関係もなく傍観を決め込んでいたカップルも、全て殺されていく。


 俺も『模倣』はしたが、オリジナルは紫園が持つスキル『言葉の兵器(ワード・アームズ)』。それを兵器と呼ぶのはいささか以上に物足りないんじゃないかと思わせる程の、存在自体が兵器な女。


 俺は殺戮が始まってからも『観察』は続けていたものの、一歩、また一歩と下がって死体の山が築かれていくのを見ていた。……恐らく、今から不意打ちで戦っても負ける。俺は勝てない勝負はしない。自分が一番大事なのだ。それに、俺が死んだ後音楽プレイヤーとイヤホンはどうなる? 泉に沈んで奪われないならまだしも、俺が死んで誰かに奪われるなんて、されてたまるかっての。


 って事で、俺は殺戮の渦から距離を取りつつ傍観していた。


「……」


 五分で数十人は死んだ。そして道幅十メートルぐらいの大十字路の道路だが、半分以上に死体の山が築かれている。……その横に女が狂気の似た笑みを浮かべながらたたずみ、遠巻きに野次馬が集まっている。


 散り散りに逃げていた野次馬が再び集まっているのは、八つ当たりが終わったからか女が満足そうな雰囲気をしているためだろう。全身を血に濡らし立っているだけだ。もしかしたら戦いの余韻にひたっているのかもしれない。


 ……それで、どうしようか。死体の山と野次馬がビッチリいるせいで道路が完全に塞がれてしまっている。これじゃあ、野次馬の薄い死体の山を通るしかないじゃないか。


 脇道に入ると言う手もあるが、道に迷って無駄な時間を使ってしまうんじゃないかと思う。迷わなくても遠回りする事には変わりない。


「……面倒だな」


 俺の『同化』スキルを以ってしても目立ってしまうだろうが、一刻も早くギルドに行って冒険者になり、クエストだか何だかを受けこの街を出てクリアから離れたい。


 俺は少し苛立ちを覚えながら、密集している筈の野次馬の間を縫うように歩いていく。……これぞぼっちスキル。人混みが嫌だから身に付いた技術の一つである。


 俺の持つ『孤独』にぼっちの基本スキルが入っている。野次馬のような密集した人混みでも縫うように抜けられる。


 俺は死体の山側の薄い野次馬を難なく抜けると、死体の山に向かって直進する。


 人混みって良い言葉だと思わないか? ヒトがゴミだって言っているようで良い響きだろう? 高層ビルの屋上とかに居れば思うだろうか。「人がゴミのようだ」と。ゴミって一箇所に集められるじゃん? 人混みもそんな感じだと思うんだが。


 俺はそんな適当な事を考えながら、死体の山を無表情で登る。頂上に着いてチラリと女を見ると、驚いたような顔で俺を見ていた。

 他も同じような顔をして、平気そうな無表情で死体の山を踏み付けている俺を見上げていた。


「……」


 俺は何も言わずそのまま死体の山を下り、野次馬の中に入っていく。


「おい、待てよ……!」


 そんな女の声が聞こえるが、無視だ。そして、そいつも周囲も人混みに紛れた俺を見つける事なんて出来ない。


 人混みと言うモノに、『同化』したからだ。


 『同化』してしまえば人混みの中から俺を見つける事など不可能。人混み等の人が多い場所での『同化』しやすさは日常の比じゃない。ならば常に日常と『同化』していた俺にとって直ぐ野次馬と『同化』する事なんて造作もない。


 ……さて。ギルドとやらに向かうか。

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