ぼっちは巻き込まれる
他人のことより下らないことを優先する捻くれ主人公の異世界物語です
とりあえず四月は毎日更新の予定です
ぼっち主人公だったのでライト文芸賞に応募してみました
本日より連載開始する『孤独で蠱毒なぼっち戦記』、『Universe Create Online』もよろしくお願いします
「「……」」
二人の間に気まずい空気が流れる。
「えーっと、ここはどこかな?」
……俺に聞くなよ。
俺は微苦笑を浮かべて尋ねてくる金髪金眼の超イケメンクソリア充野郎に顔だけで答えた。
……顔だけで答えたのは、あれだ。俺は見ず知らずの他人に、しかもこんな訳の分からない状況下で声を掛けられて直ぐ様返せるようなフレンドリーなヤツじゃないからだ。
……コミュニケーション能力の低さは自覚しているが、顔だけで答えたのはここだけの話、俺は目の前にいる超イケメンクソリア充野郎が嫌いだからだ。その理由は超が付く程のイケメンで運動神経抜群、成績優秀で女子にも(男子にも)キャーキャー言われるクソリア充で男女問わず(ここ重要)モテてモテてモテまくって仕方がないようなヤツだから。
……僻んでなんかいないからな? 俺は別に事実を淡々と述べているだけだ。
要するに、腐った性根荒んだ心廃れた精神濁った瞳によれば、誰にでも好かれる、俺とは真の意味で対極に言える存在だ。
よくアニメや漫画、ライトノベル等のヒロインで出てきそうな設定だが、残念極まることに、主人公である。
特に男女問わずモテモテなとことかな。
女子ならまだレズいのは許せる。俺が男だからかもしれないが、男性視点になってしまうが、レズは許せてもゲイは許せない。
可愛い男の娘に萌える程俺の精神は若くないし、ゴツいマッチョに萌える程俺の精神腐り切っていない。
……俺が見るに、このイケメン君は誰かを選ぶ事が出来ない。
最近人を殺せるヤツだって勇者になれる風潮が出来上がっている気がするが、元々勇者のイメージとしては人は殺せず人々を守るために人外と戦う、若しくは生物全般を殺せないヤツで、それを乗り越えていく、みたいな感じだったと思う。
最悪善悪関係なく助けるかもしれない。
そう言う点で言えば、こいつは正しく勇者だと断言出来る。
「突然の事、驚いていらっしゃるとは思います。突然お呼びして申し訳ありません。ですが、どうか、私達の話を聞いていただけないでしょうか、勇者……様………………えっ……?」
結果から言えば、超イケメンクソリア充野郎は俺に尋ねる必要がなかった。
だって君を迎えるためにスタンバイした人達に囲まれているんだから。
俺は胡座を掻いて座っている体勢から後ろに両手を着き姿勢を崩して周囲を見渡す。
周囲に居るのはどこの国だよ、と思うようなカラフルな髪と瞳の色をした人達。
イケメン君(笑)に声を掛けて俺を視認し、戸惑って可愛らしくキョトン、としているのは他より一際服装が華やかな美少女だ。
美少女から一歩引く形で控えながらも俺の存在に戸惑っているメイド服に身を包んだ美少女達。
更にその後ろで長い杖を着きながら何やら神聖そうな白い服――恐らくは神官服だろう――を身に纏った男達。
……特撮か幻覚か夢かCGじゃなければ、異世界だな。
俺はいくつかの選択肢がありながら、最も確率の低いモノに、予感に近い確信を持った。
何故なら、直前まで違う曲だったのに、ここに来てから異世界に行く類いのアニメのオープニングテーマになったからだ。
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俺――灰原暮人はいつも通り音楽プレイヤーに入っている五千曲以上のアニメソングをランダム設定で聴きながら下校していた。
確か何かに違反する行為だったとは思うが、バレなきゃ良い。それに田舎なので大通りを通らなければ警察とすれ違う事さえない。
田園ばかりの田舎にパトカーが頻繁にうろちょろしているのを見た事があるか? 俺はない。
よってこの辺は登下校で孤立している高校生や自転車で出勤する(若しくはパチンコ行く)大人の音楽聴きながら運転の無法地帯と言える。
俺は周囲の事など気にしないので周りがやっているから良い、とかそんな柔な思考はしていない。
ただでさえ憂鬱な学校生活を何とか一日乗り切るためにアニソンでテンションを上げる。
それだけの事。
俺の薔薇色学校生活とは掛け離れた灰色と呼ぶにも廃れすぎている黒かもう何もないと言う意味で白色学校生活に、俺は将来を見越して登校はしているが、憂鬱なのはどうしても乗り切れない。だからこそのアニソンなのだ。
俺の家から学校までは約五十分程度。俺はその時間とアニソン十曲の合計時間を考えて丁度十曲終わってから学校に着くよう調整している。
ここ一年頑張って登下校してきた甲斐あっての事だ。
閑話休題。
兎に角俺はアニソンを聴きながら下校していた。因みに今まで中学からやっているながら運転だが、事故はゼロ。何故なら他人の顔色を窺って生きる俺の習性の最終形態と言っても良いだろう、状況把握能力だ。人間観察から始まり遂には空気さえも読み取ってしまう(しかも何ら関わりないのに)俺的ぼっちスキル。
そんな訳で、俺は学校が終わって早々自転車に乗って帰路に着いて、そして、今正に角から飛び出してくるであろう自転車下校のヤツも、予知していた。
いや、予知していたってのは言いすぎだな。俺は予知能力者じゃない。俺は単に五感で仕入れた情報を統合してこれから起こり得る最も適当な可能性を予測しているに過ぎない。
俺の予想通り、俺が角で止まると目の前から二つ並んだ自転車が飛び出してきた。
……並走は邪魔になるぞ。そして自転車は左側通行だ。
俺は自分の事を棚に上げてそう思ったが、直ぐにそんな思考は吹っ飛んだ。
何やら談笑しながら横を向いて運転するこっち側のヤツが最初に、こっちに曲がってきたのだ。
俺が予測せずにそのまま突っ込んで直前でブレーキを掛ければブレーキ音で俺の存在を気付かせる事が出来ただろうが、余裕を持って一旦停止し、静かにやり過ごそうとしたのが間違いだった。
結果的に、そいつは俺に気付かないまま談笑して止まっている俺に突っ込んできた。
談笑しているヤツってのは大体速度を緩めるんだが、こいつらはちょっと速いくらいの速度だった。恐らくこんな我が学校(笑)が誇る超イケメンリア充が放課後の教室で駄弁らずに下校している事から見ても、何か急用でもあるんだろう。
そしてそのまま直前まで俺に気付かずに突っ込んでくるそいつが俺に衝突するかと思ったその時、視界の悪い角を作っている家の高い塀が輝き出した。
俺はチラリとそっちを見ると、魔方陣のようなモノが描かれていた。……粋なペイントっすね。
俺は内心半笑いでそんな下らない事を考えていると、魔方陣から放たれる光が、俺とそいつの自転車が衝突した瞬間に俺とそいつを覆った。
……ほら、左側通行しないから。
俺は光に包まれながら感じた衝撃に身体が傾くのを感じながら、やはり自分のことを棚に上げてそう思った。
そして、気付いたら制服姿でイヤホンをしたまま、住宅街ではなく神殿のようなモノが背景にある、草むらへと転移していた。