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「うわぁぁぁぁ!!!!」

「ほら、さっさとああげないとヤラれてしまいましてよ!」

「ふっざけんなぁ!くっそ、ファイアーストーム!」

「そんな焚き火クラスの魔法で私をどうにかできるとでも?」

「卑怯モノォォォォォ!!」

「ルールに則っていますのに、卑怯者呼ばわりは失礼じゃありませんこと?」


  ピッと指を横に流すと、ドカーンッと派手な音を立てて地面がなくなりました。


「うわぁぁぁ!?落ちるぅぅ!!」



 こんにちは、イリーナです。

 ただいまセルアと、絶賛スパルタサバイバル鬼ごっこをしている最中でございますの。

 ルールは簡単。鬼である私に半日間捕まらなかったらセルアの勝ち。捕まったら負け。罰ゲームは大地の精霊くーちゃんを乗せての腕立て100回3セットと腹筋100回3セット。範囲は屋敷敷地内。

 子犬サイズのくーちゃんは非常に可愛いのですが、大地の精だけあって重量や重力を操る事に長けているので、とりあえずひたすら重くなれるのです。

 セルアに対する錘の役割を嬉々として受け入れてくださいました。

 かくしてクロエ先生監修の下、魔法や体術、罠など他者の力を借りない戦法であれば何でも使っていいので、とにかく自分の得意分野を駆使してひたすら逃げてください。追いかけます。というお遊び(・・・)

 今日で5回目のになりますが、いつも開始1時間程度で呆気なく捕まえてしまえるので、ちっとも私の鍛錬にならなくて少々不満です。

 今日はなかなか上手く逃げているほうですが、物理的に能力制御をかけられているので、1/10の力も出せていませんが。


「はい、捕まえましたわ。罰ゲームがんばってくださいね。」

「くっそぅ。卑怯くせぇ。」

「ですから、ルール違反はしてませんよ。」

「強さが卑怯だっていってんだよ。くっそ、今回はもうちょっとイケると思ったのに。」


 本当に悔しそうに地面に拳をぶつけるセルアに、追い打ちをかけるようにクロエ先生が鬼ごっこの評価をします。


「どーこがイケるだ、未熟者。イリーナ嬢は能力制御かけてるのに開始三時間で捕まってんだぞ。まだまだ研鑽が足りん。大体セルアは無駄な動きが多すぎる。避けるのにあんなにオーバーアクションする必要はない。もっとギリギリで小さいモーションで避けろ。ルール上攻撃対象はお前だけで、他者には迷惑やとばっちりを与えるのは禁止だ。それを考慮すると、あまり派手な攻撃やトラップはかけられない。そうなると範囲は限定的になり、お前自身もよけやすくなるのがセオリーだ。」

「イリーナのキチガイな強さと精度だと避けることなんかままならないよ。」

「アルフレッドは避けていましてよ?セルアと同じルールで鬼ごっこしましたけど、三日三晩決着がつかなくて中断しましたもの」

「化け物級の二人と凡人を一緒にするな!!」


 ムキーっという音が聞こえてきそうなぐらいわかりやすく拗ねるセルアはとても可愛らしく、その素直な仕草がさらに揶揄の的になるのに気づいていないのでしょうね。


「ま、だんだん逃げられる時間が増えたり、体術の技術も目に見えて向上してるのがわかるし、まぁ、精進しろや。」

「っ、そんなこと言われなくても分かってる。まだまだなのもわかってる!イリーナのハイスペックなんかすぐに抜かしてやるんだからな!」

「ツンデレか。魔法も性格もスペック高いな。お〜、身体能力も高いな。早い早い、あ、コケた。ほんとお前さんの周りは愉快な奴が集まるな。」


ダダーッと走って去って行ったセルアの背中を見ながら、クロエ先生がニヤニヤ笑いながらそう言いました。


「ということは、先生も愉快な方の認識でよろしいですわね。私の周りにいらっしゃるんですから。」

「相変わらずの減らず口だな。」

「目の前にいい先生がおりますもの。」

「・・・・・・。」


勝ったわ。最近はクロエ先生との舌戦は勝率三割まで上がってきたのが嬉しいです。


「にしてもセルアは随分とイリーナ嬢に懐いたな。最初は無反応無感情の可愛くねぇガキだと思ってたが、最近は面白いガキになってきた。湖に突き落としたと聞いた時は大爆笑したぜ。」

「あれは苦肉の策でしたの。突然命の危機を感じたらなにかアクションをしてくれるのではと思いまして。」

「で、まんまと策に乗っかっちまったわけだ。詰めが甘いな。」

「先生も気づいていらしたの?」

「ん?」

「セルアが自分であのようないわば演技をしていたことを。」

「いんや。だが、貴族として王都で暮らし下手に知識を詰め込んだガキが、小煩い身内から身を守る術を取る場合、大抵は殻にこもることだろ?」

「そうなのですか?」

「自分のせいで両親が死んだ。一緒に死んでくれれば楽だったのに。財産が手に入らない。そう言われたら誰だって逃げたくなるさ。で、吐き出す相手がいなきゃ自分でそう思い込んでしまうだろうな。」


 そういう先生の表情はなんとも言えない複雑なもので、先生にもそう言った苦い経験があるのだろうかと考えてしまいました。

 でも、それを確かめる権利は私にはないですし、傷をえぐるような選択はすべきではないでしょう。


「ふっ、やっぱりお前さんは達観してるな。思考回路が成熟してるよ。同じ目線でモノを共有できて楽っちゃ楽だが、何処かで吐き出さねぇとお前さんが暴発しちまうぞ。」

「きゃっ」


もっと子供になれ、損するぞ。と言いながら、私の髪をぐしゃぐしゃにかき回してもしゃもしゃにすると、早いが今日の授業は終わりだ。と去って行きました。


 私はセルアを探しながらクロエ先生の言葉を反芻していました。

 子供らしくないのは、転生によりイリーナの器の年齢より五倍ほど生きているから。

 達観しているのは、過去五回の人生の記憶からどうしても同世代のようにはしゃげないから。

 王都ではパーティーに出席して同世代の子達と交流を持ったりするのでしょうけど、このメルティウス領はのどかな田園風景が続く田舎なので、貴族の子供は私たちだけなので比較ができません。

 同世代の子達はいますが、使用人家族の子供たちは野山を駆け回ったり泉で泳いだりして遊んでいるので、私も自然と一緒に遊ぶようになりました。

 そしたらクロエ先生曰く、じゃじゃ馬令嬢が出来上がったのです!

 アルフレッドは散々心配し、私の後を追ってましたが、いつも巻き込んで一緒にずぶ濡れになったり気に登ったりさせられて、体力はお互いバッチリ。野生児ツインズと先生にからからかわれることになりました。

 そんな子供の遊びを全力で楽しんでいたため、セルアに関してもそこまで大事になるとは思っていなかったのです。

 濡れ鼠だと流石にまずいと思って乾かして何事もなく、二人で手を繋いで屋敷に帰ったらじいやとばあやはもちろん、屋敷の面々が私達を探してくださっていました。

 なんでも、鬼の形相でセルアの腕を強引かつ無理矢理に引っ張って屋敷を出て行ったと聞いて、やはり遂に起きてしまったか…、と青ざめたそうです。

 私をどう思っているのかしら。いくらんでもそこまで殺気立っていたつもりは毛頭ないのですが。


 何はともあれ、あの一件以来、セルアは心を開いてくれてどんどん元気になり今ではあんなに生意気な言葉遣いになりました。育て方を間違ったかしら。

 くーちゃん達に助けられたからか、魔法に興味を持ち始めたのでクロエ先生に掛けあって授業に同席させてもらえるように頼んだら先生は面白がって許可してくださいました。そして、今では立派にクロエ先生()教材を務めてくれています。

 それを気に入らない振りで拒否しますが、結局最後は教材利用させてくださるのですから、やっぱりツンデレなのでしょうね。


 さて、なんだか少しセンチメンタルな気持ちになってきました。

 明日は気持ちを切り替えて、元気にセルアで遊びますわよ!!


 明日はセルアと一緒に王都に行きますの!初めての王都なのでワクワクします。

 これからネブラワレースは社交シーズンに突入します。私もデビュタントを迎えるのです!



 ・・・・大切な舞踏会でコケませんように。



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