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永遠の意味

 僕たちは再び元のベンチに座った。空を見上げると銀色の光を反射させていた飛行機はすでに飛び去っている。そして飛行機雲は拡散し青空に溶け込もうとしていた。

 君はしばらく飛行機雲が消えかかった空を見つめていた。まるでそこに大切な宝物が隠されていて、それを必死に探し出そうとしているみたいだった。

「ねえ河村君、ひとつ訊いていい?」

 突然君は僕の目を見つめながら問いかけた。君の瞳は脅えているように見え、少し低い声は緊張していた。

「うん」

 僕は息を飲み込んだ。

「河村君は大学に進学する予定でしょ?」

「うん、一応東京の大学に行く予定だけど。今のままだと浪人するかもしれないなあ」

「ふーん、やっぱりそうなんだ」

 君は僕から目を離し、ぼんやりと屋上の風景を眺めた。僕らの高校は高台にあり街を展望できる。

「私は地元の看護学校に行くんだ」

「そっかあ」

「弟のこともあるし、私この街好きだし・・・・・・」

「うん」

 僕たちは再び黙りこんでしまった。そのとき僕も君も語るべき言葉を見つけることはできなかった。

 僕たちは静かにベンチに座っていた。

 乾いた九月の風が君の柔らかな前髪を少しだけ揺らした。

 周囲には物音ひとつ無かった。

 まるで時間が止まったように、僕たちのまわりの世界は静止している。

「ここが東京だったらいいのにね」

 君はそう言うと僕の右肩に形のよい頭を乗せた。僕の右肩には君の暖かな体温と確かな重みを感じていた。

 そのとき僕はセンター試験も大学入試も文化祭の準備も、そんなことどうでもいいと思った。こんな風に君と同じ時間を過ごせたらと願った。

 だけど僕たちは高校を卒業すれば、それぞれ離れた街で暮らすという現実があった。

 僕の右手に暖かいものが落ちてきた。それは君の涙だった。

 僕の胸は鋭く痛んだ。

 君のことを想い僕自身のことを考えると、現実は理不尽だと感じた。せっかく掴んだ大切なものが徐々に消えていく―そんな喪失感が僕の胸の内にあった。

 そのときの僕は君に頼りない右肩を貸し、何の力もない右手で君の左手を握ることしかできなかった。

「ウン!」

 君は小さく叫んで顔を上げた。僕はズボンのポケットからハンカチを取り出し、それを差し出した。

「アリガト・・・・・・」

 君はそのハンカチで瞳をそっと押さえ、「ゴメンネ」と謝った。

 僕は首を振るだけだった。

 君は無理やり微笑をつくろうとしたけど、上手くいかなかった。

 僕は小さく震えている君の唇を僕の乾いた唇でふさいだ。君は何かを確かめるように、僕の首にまわした手に力をこめた。僕は君の冷たくてやわらかい唇に触れることで、君の存在を感じた。

 僕はそのとき初めて永遠という言葉をほんの少しだけ信じられる気がした。


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