予告文 各社新聞折り込み記事より
拝啓
親愛なるミミル国民の皆様。再びこうして、全国に出回る新聞にて皆様にこうしてメッセージをお伝えできることを、喜んでおります。
ところで、過ぎたる満月の晩、私は、カルキノス州立美術館での盗みに失敗してしまい、あまつさえ私の罠を見破った名探偵、エルメス・スロックノールに追い回され、背中を向けて必死になって逃げ去るという、情けない結末を迎えてしまいました。
『怪盗・満月の夜、盗みに初の失敗。探偵少女スロックノールの大手柄!』というタイトルで、その記事をご覧になった方も多いと思います。私も、スロックノールの冷静な対処には脱帽するばかり。この場をお借りし、スロックノールへの賛辞をお送りいたしましょう。
しかし、転んでもただでは起きないのが、この私、満月の夜。
当日のターゲットであった、ライガーの牙の宝剣の謎を、私は解き明かしました。そう、私の真の目的は、宝剣に隠されし、その謎の正体だったのです。とは言え、盗めなかった事実は事実。真摯に受け止め、次への反省とする所存です。
さて、長い前置きはこのあたりにして、次回の捕り物を予告しましょう。
ところで、覚えていますでしょうか。私がミミル国民の皆様の目の前で、天文学、天気予報をひっくり返し、我が写し身たる満月を盗んだ日のことを。誰もが無謀だと思ったことでしょう。しかし、私はやってのけました。不可能を可能にしてご覧に入れました。
今回も、似たようなことをやってみたいと思います。
誰もが盗むことなど不可能だと思うであろう、とてつもないもの。
……水です。
大陸中の、すべての水を盗みます。
たとえ当日、漆黒の雲が夜空を覆い隠し、雨を降らそうとも、その1滴とて逃さず、私は盗んで見せましょう。皆様の目の前で、かつて誰もなしたことのない、そして今後誰にもなしえない、今世紀最大の捕り物ショーを、ご覧に入れましょう。
実行場所は、トクソティス州カウス・アウストラリス市に位置する、国会議事堂オルドー。かの地にて烽火を上げ、水辺に居ずして大陸中の水を盗んで見せましょう。つきましては、大陸共同軍および全州の自衛団は、くれぐれも万全の警備にて、私めをお出迎えくださいますよう、お願い申し上げます。
それでは、ごきげんよう。また、夜空に満月輝く夜、お会いいたしましょう。
敬具 怪盗・満月の夜
追伸
今度の捕り物を最後に、私こと怪盗・満月の夜は、泥棒を引退したいと思います。
是が非でも捕り物を成功させ、皆様をあっと言わせて見せましょう。
1年半という短い間でしたが、ご声援、ありがとうございました。