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満月の夜  作者: 旅わんこ
15/15

報告文 各社新聞折り込み記事より

 拝啓

 親愛なる、神々の大陸にお住まいの皆様。

 私、怪盗・満月の夜が、最後の犯行報告文を、皆様にお届けいたしましょう。

 私が求めた水は、確かに私が求める形で頂戴いたしました。私はそれに、とても満足しています。

 私は泥棒。国にあだ名し、法に背く、目立ちたがり屋のアウトロー。ならば、歴史にその悪名を残すほどの馬鹿をやってのけようではありませんか。そして盗んだ水で、泥棒気取りの力の及ぶ限り、皆様に夢をお届けしようではありませんか。

 私が破壊したダムのお近くお住まいの皆様の中には、ご覧になられた方もいらっしゃるかと思います。私はどうにかこうにか、国家の最重要建築物と引き換えに、空に満月輝く夜空に、雨を降らせることができました。そして月の女神様は、私を祝福してくださいました。月夜に降り注ぐ雨の中、女神様は月の虹を輝かせてくださったのです。

 月の虹が輝く景色。それを新聞でご覧になった方もいらっしゃるのではないでしょうか。めったに見ることのできない虹、その中でも月の虹は特に希少な存在。古来より、それを見た人には幸せが訪れると言われています。私は、どうかひとりでも多くの人に、そんな幸せを届けられればと思い、盗んだ水を雨に変え、その奇跡が起こることを願いました。


 ダムを壊すことで、歴史に我が悪名を残すこと。

 月の虹の輝きを皆様にお届けすること。

 それが、私が泥棒働きをする、最大の目標でした。

 その目標を成し遂げた今、こうして国に背きに背いたことを後悔せず、胸を張って未来を見つめ、今を生きることができます。

 私の願いは、皆様の幸せです。希望を抱き、今を生き、夢を描き未来を開く、そんな輝かしい未来が訪れることを、そして皆様が作ってくださることを、心から願っています。


 それはさておき。

 これまで国中の皆様をお騒がせしたことを、この場を借りてお詫びいたします。申し訳ございませんでした。また、犯罪者である私を応援してくださった皆様にはお礼を申し上げます。ありがとうございました。皆様の声援は、とても暖かいものでした。

 その償いの一部というわけではないのですが、私がやりたかったことのひとつとして、私は『怪盗』の名を捨て、皆様の社会の中で、ストリートチルドレン、ホームレス、低待遇低所得者の支援をいたしております。

 愚痴のようですが、こちらはなかなかうまくいきません。家や家族を失った人に再び生きる気力を持っていただくのは、そう簡単なことではないことを知りました。たとえ温かいご飯でおなかが膨れても、明日に生きる活力を見出せなければ、心が満たされることはないのです。

 それでも、私が手伝わせていただいている炊き出しの近くにいる子どもたちは、近頃、少しずつ笑顔を取り戻しているように思えます。

 最近、私はひとりの男の子から、今日もご飯がおいしいね、ありがとう、という言葉をもらいました。私はうれしさのあまり、その日はその後の仕事が手につかず、帰ってからも眠れなくなってしまいました。そのくらい、私は幸せでした。

 私は願います。あの男の子のような明るい笑顔が、ご飯を食べてとても幸せそうな笑顔が、たくさん生まれ、それが未来にも続いてくれることを。


 余談と私情が入ってしまいましたが、私、怪盗・満月の夜の、最後の犯行報告を終わります。

 最後にひとつ、申し上げます。

 ヨルムンガンド元首相をはじめ、政界全域の不正が暴かれ始め、国は今、機能していない状態にあります。さらに、ここまで広がった貧富の格差を埋め、すべてを人々がよりよい生活を送るためには、更なる時間と、今を生きようとする皆様の力、元首相に代わり国を導いてくれる指導者が必要です。

 今はまだ、つらい日々が続くかもしれません。盗賊気取りの私に、皆様を導くことはできません。

 だから、せめてこの声が届けばと思います。

 あなたは、あなた自身のために生きています。しかし、あなたひとりのために生きているのではありません。あなたを必要とする人が、すぐそばにいます。たとえあなたが今に絶望し、未来に希望が持てなくなっても、未来があなたに期待しています。

 あなたには、生きるべき理由があります。未来を作ってゆくのは、あなたです。そして私が、皆様に生きてゆくことを、心から強く願っています。私が、皆様に未来を作っていってほしいのです。

 それでも何も見えなくなったときには、私に手紙を書いてください。あなたにしか作れない未来を探す、そのお手伝いをさせてください。


 過去の人々が思い描き、築き上げた現在に。

 今を生きる人々が夢を見、いつの日か切り拓く未来に。

 永久とわなる栄光があらんことを。


 敬具 怪盗・満月の夜

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