我が儘姫と王の悩み
遅くなりました。風邪引きながらも書き上げました。私の趣味全開キャラクターにこうご期待。
8月20日に改変しました。
◇ ◇ ◇
出来事が起こる三週間前
???王国
とある王国の王宮内。そこの謁見の間にてある男が玉座に座り部下の報告を聞いていた。
男は二十代前半の年齢見え、短い銀髪に燃えるような隻眼に顔立ちがわりと整っていた。見る人が見れば美少年に見えないこともないが苦労しているのか疲れが顔に出ており、若干老けて見える。
服装は黒を基準した王族服で、派手な刺繍や高価な宝石類を身に付けていた。
そんな男は玉座から離れた所にいる部下の報告を真面目に聞いていた。
「……となっており、軍についてはほぼ全ての配置は完了しております。あとは陛下のお言葉次第ですぐにでも進撃を始める事が可能です」
その言葉を聞き、玉座に座っている男は笑みを浮かべた。そしてすぐに元の真剣な顔に戻る。
「ご苦労。軍については申し分ない。だが、まだ進撃はしなくていい。暫くはそのまま待機と伝えておけ。けして他の王国共やギルドに気付かせないようにしろ」
「御意でございます」
部下は男の命令に忠実に従う。
「あと、例の工作員部隊はどうなっている? もう選別は終わったか?」
「はい、それも終わっています。部隊の者達は全部で30名。ランクはBBB 。部隊長だけはAAですが実力はAAAランクに入る程の実力を持っております。彼らになら熟練冒険者相手でも問題はないと思われます」
「そうか。フフッ、確かに“だだ”の冒険者達と相手にするなら問題はないな」
男は笑ながらそう言う。その言葉に一体どのような意味が隠されているか部下はある程度察しはついていた。何処かの町を襲ったりする分なら問題ない戦力だか、彼らが狙うのはそんな所ではない。彼らがその作戦がどんなに危険なことも、彼らがもう戻って来ない事も分かってしまう。だか部下は顔には出さず、玉座に座る男に対して報告した。
「では、その部隊を現地まで行かせる指示を私から通達しておきます」
「うむ、頼むぞ。そろそろ出発しなければ間に合わなくなってしまうからな」
「では、私はこれにて…」
そして部下は男から離れ、扉から出ようとする。
すると玉座に座っている男が呼び止める。
「ユギリ」
「はい、なんでしょう?」
部下は振り返り、玉座に座っている男に目を向ける。
「部下達に言っておいてくれ。『済まない』と」
部下は一瞬驚いた。だが部下はすぐに何事なかったような顔で男に言う。
「いえ、陛下。私達は貴方の手足であり、盾であり、剣でございます。陛下が気になさる事ではありません。ただ……」
部下は笑みを浮かべる。とても優しく、儚いほどの。
「陛下にそのように想われる彼らはきっと幸せであり、誇りに思うことでしょう」
部下はそう言って、扉を開けて出ていった。男は溜め息をつき少し休もうとしたが、さっきの部下と入れ替わりで兵士が入って来た。
「陛下、御前失礼します」
「どうかしたか?」
「先程、姫様が到着しました。こちらまでお呼びしましょうか?」
「来たか。直ぐにここまで呼んでくれ。大切な話があるからな」
「はっ。すぐに呼んで参ります。少々お待ち下さい」
そして兵士は扉から出ていく。それから十分もしない内に女の子が扉から入ってきた。
女の子は14歳くらいだが身長は低く、140もないくらいの背に顔は幼く実年齢よりも幼く見える。しかし、彼女の綺麗な銀色に輝くブロンドの長い髪と赤よりも紅い真紅の眼が彼女を魅力的な女性に変貌させている。服装は白と黒をベースにフリルのついた可愛らしい洋服である。初めて彼女を見る人の感想は「お人形さんみたい」と言う人は少なくない。
そして彼女は玉座に座っている男に近付き、男に向けて言う。
「お呼びですか、お父様。私に何かご用ですか?」
女の子は毅然な態度で玉座に座っている男をお父様と呼ぶ。そう、この女の子はこの国でただ一人の王女、ソフィーナ・ゼフ・アイジストスである。
「うむ、ソフィーナよ。お前もそろそろ世の中を知り、国の上に立つ者としての自覚せねばならん。よってお前には様々な国に行き見聞を広め、人と触れあい、国の為にどうするか考えてきなさい」
「……………」
ソフィーナは玉座に座る父の言葉を黙って聞いていた……かに見えたがそうではなかった。
「で、旅の行き先だかお前にはまず東南にあるエメ…」
「嫌よ」
「そう、エメ嫌に…嫌?」
娘の発言に男は硬直する。あまりにも予期せぬ発言だったために、どうしていいか頭が回らなかった。しかし、当の王女様はそんな父の事など待ってくれずに更に事態を混乱させる発言を言う。
「私は旅に行きません。私は別に外の世界に興味はありませんし、行きたいとも思いません。私はお城の中で暮らす事に嫌とも思ったことは無いのでお城から出たくありません」
そんな娘の発言に更に男は愕然とする。今まで色んな問題児を相手にしてきたが、まさか自身の娘がここまで性根がねじ曲がってるとは思っていなかった。
一体どんな育て方をすればこうなるのか逆に興味が湧いてくる程に。
(どうしてこうなったんだ。確かに何不自由がないように城の中で思い思いに育てた。欲しい物は八割位に押さえてあげていたし、食事は豪華すぎるのはいけないので安い食材を一流コックに豪華な料理に変えていた。身の回り世話はメイドや執事を10人のところを5人まで減らして暮らしをさせていたハズなのになぜ………)
本人は不思議そうに考えていたが、普通の人から見ればかなり贅沢な暮らしだとわかる。お世話をしていたメイド達もやり過ぎでは? と言われる程ソフィーナの暮らしは裕福なものであった。
ソフィーナ自身もそれを理解し、今更外に出て旅暮らしをする気にはなかった。
「それでは、お父様。お話しが済んだようなら私は失礼させていただきます」
ソフィーナはもう話すことは無いらしく後ろを向き、扉の方に歩く。その様子を見た男は慌てて呼び止める。
「まっ待て、ソフィーナ。いいかソフィーナ。さっきも言ったようにお前は国の上に立つ者として…」
「嫌です。私は旅に行きません!」
ソフィーナは歩みを止め、男の発言を拒否する。
「そもそもお父様、旅に出ると言いますが私は一人で外に出たことすら無いのです。そんな状態で一人で今日のその日の食事を買うことや、宿を決めることすら出来ませんよ」
「大丈夫だ、ちゃんと付き添いの者をつける。身の回りの世話はそいつに任せ…」
「そんなのは嫌です、お父様。信用できません!」
父の言葉を間髪入れずに否定する。これだけ否定するのなら、旅に出すのは無理だ思うかもしれないが、男はなんとか旅に出す為の案を考えを模索する。
「それに私は一応王族ですよね。王族の者に護衛一人も付けずに旅は無理です。ただでさえ私は剣は使えず、魔術も出来て精々中級魔術が使えるくらいですよ。外で旅をするには貧弱過ぎます。絶対無理です」
ソフィーナの言う通りだった。普通に旅をするのであれば誰かとパーティーを組むなどしなければならない。剣士でも一人で旅をするのは希で、魔法使いは魔力が無くなれば何もすることなく魔物等の餌になってしまうからだ。
だが男はその言葉を待っていたと言わんばかりの顔で娘に話す。
「その辺は心配ない。お前のお気に入りの“あいつ”を貸してやる。好きにしていいぞ」
「え!“あの子”連れていって良いのですの? 本当にお父様!?」
さっきまで行きたくないの一点張りのソフィーナが目を輝かせた。さっきまでとまるで表情が明らかに違う自分の娘に若干引きながらも話を続けた。
「ああ、連れていっていいぞ。最近“あいつ”は俺になついてくれないが、お前にはなつくからな。旅をするなら護衛として最適だ」
「や、やっったーーーーー!!! お父様、ありがとうございます! 私、ソフィーナ・ゼフ・アイジストスは旅に出ます。探さないで下さいね」
「いや…親公認の旅なのだからそんな家出少女みたいに言う必要はないのだが…。あとあいつ以外にもいくつか連れていけ。旅をして必ず必要なるだろうからな」
「はい、お父様。それでは屋敷に戻って旅の支度をしなければなりませんので、下がらせて貰います。御前失礼♪」
ソフィーナはスカートの裾を軽く上げ礼をしてから下がった。しかし、男は忘れていたことを思い出し、ソフィーナを呼び止める。
「待て、ソフィーナ。旅の祝いだ、受け取りなさい」
男はソフィーナのところまで歩き、手に持っている物をソフィーナに渡した。ソフィーナが手に渡された物を確認する。それは紫色に煌めく宝石のついた指輪だった。
ソフィーナは軽く見て、溜め息ついて口を開いた。
「安物ね」
「違うわ。何故お前がそんなこと分かる。別に宝石鑑定とか出来ないだろ!」
「嘘よ、お父様。プレゼントありがとうございます。大切にしますわ」
ソフィーナは男から貰った指輪を手にはめて、今度こそ本当に部屋から出ていった。
………鼻歌を歌いながら軽快な歩きで。
「♪~~~~♪♪~~~♪~」
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そんな娘の姿を見ながら、男は安堵の表情を見せる。
「はあ~何とか旅に出る決意をだしてくれて良かった。あのまま押しきられたヤバかったな。まあ、俺にかかればこんなの朝飯前だがな」
男は額の汗を拭い、一安心する。だがそんな様子を柱の影から見ていた者がいた。男はそんな影から見ている者の存在に気づき声を掛ける。
「ん? ハルトか。どうした、柱の影に隠れて。何か用か?」
男は柱の影に隠れている者に、平然と言葉を掛ける。そして、柱の影から見ていた者は柱の影から出てくる。
ハルトと呼ばれる者は全身が黒色の鎧を身に纏い、その上から紅いトレンチコートを着ている。腰には剣をさし、胸元には男には不釣り合いに見える花のネックレスつけていた。見るものにはあまりにも異質な存在を感じさせていたが、玉座にいた男は関係なさそうにハルトと呼ぶ者に会話をする。
「どうした? 何か用があったんじゃないのか? 娘との話が終わるまで待っていてくれたんだろ」
「………別に、ただ見ていただけだ」
そう言うとハルトは奥の間に移ろうとする。その様子を男は寂しげに見ていた。
自分の友人がここまで変わってしまうのかと思う。
昔も無愛想は相変わらずだが、それでも仲間達と一緒にいた時はもっと楽しそうに見えた。特に“あいつ”といた時は丸解りだった。
時の流れがここまで人を変えてしまうものだと改めて実感してしまう。
「また、“あそこ”に行くのか?」
「……それしかする事が無いからな」
男はいつも思っていた。目の前にいる仲間をどうにか出来ないかと、何かすることは無いものかと、友人として何か出来ないだろうかといつも思ってしまう。出来ることなど何もないと言うのに………。
男はそんな現実に苛立ちを隠せなかった。そして、男は彼に言う。
「…なあ、ハルト」
「…………何だ」
ハルトは振り向かずに答える。
「大丈夫だ。この“計画”は上手くいく。きっとハルトの…俺達の願いは叶うさ……いや、叶えさせて見せる! 何せここにいるのは誰だと思っている!?」
男は玉座に戻り、玉座を背にポーズをつける。
「我は前の魔王を圧倒的に超える魔王………超魔王グラン・ゼフ・アイジストスである!」
ハルトは玉座を背にポーズを決めている男、グランの姿を見ていた。その目はハルトにとってどんな風に写っていたのか、彼しかわからない。
「超魔王だぞ! 魔王を超える魔王が言っているんだ。間違いなど起こるハズがないんだ。だから……信じろよ、仲間をな」
ハルトは後ろを向き直し、歩みを始めた。そして、歩きながら玉座にいる“友人”に皮肉めいたことを言う。
「ふん、俺達の中で一番弱いやつが言うセリフじゃないな、サブロウ」
「サブロォォォウーーーって言うなぁぁぁぁぁぁーーーー」
お城の中で自称超魔王の叫び声が木霊した天気な良い一日だった。
次からは遂にメインヒロインの登場です。
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