パレード
遂に千年祭のパレードが始まり、王族や貴族も出席される。
朔夜達は王族に会いに来たが、一緒にイリスの目がパレードに釘付けだった為、パレードが終わるまで、とパレードを見る事にした
「パレードが始まったな」
「そうですね」
街中にいる雑踏としている人達とパレードを見ていた。パレードの観客の数は、ゆうに数万を超えている。その長蛇の列は王都の西門から、時計台がある中央広場まで続くため、かなり長い人達が見物として来られる。
その数万の人達が注目しているのは大規模に行われているパレード。
一子乱れない騎士団の大行進
華やかな女性達による華麗な円舞
有名ギルドのメンバー達が繰り広げる剣と魔法のパフォーマンス
大商人が商品を広める為の広告用のアピールタイム
様々な人達が今日という日を祝って祭りを盛り上がり、会場から熱気が溢れる。その熱気により、一層と観客達のボルテージは上がる。
そして、王族に会いに来た朔夜とイリスも当初の目的を忘れ、熱気溢れるお祭りムードにあてられたのは言うまでもない。
「凄いな、これが救世祭か!」
「はい! 私も初めて見ましたけど、これほどとは…素晴らしいです!」
二人は露店でかったフランクフルトを頬ばりながら、中央広場の一角で見ていた。
すると次は様々な楽器を使った音楽隊が歩みを始める。楽器はバイオリンから小型のパイプオルガンまで数多くの楽器が並び、それを見た朔夜は感心した。
「この世界には音楽隊もあるのか」
「普通にありますよ。まあ、私も半分くらいしか見たことある楽器はありませんが、知識としてならなんとか…。サクヤ様は見たことあります?」
「俺は一応全部知っているし、触った事はある」
「そうなのですか!? 凄いですね、サクヤ様は。楽器は高価ですから、貴族しか使えないのです。今度サクヤ様の演奏を聞いてみたいです」
「はっきり言って下手くそだぞ。練習はしたけど全く上手くならなかった…」
どんなに努力をしたも、時間をかけても、周りの人は自分よりも上手く簡単に楽器を引いてみせる。それだけで上手く出来ない自分が嫌になっていた。
「諦めが早い、根性がない、とか言われていたけど、それも正解なんだよな」
「サクヤ様…」
「あ、ごめんな。お祭りなのに暗い話をして…」
朔夜の言葉を、イリスは首を横に振る。それはけして同情や哀れみの気持ちではなかった。
「サクヤ様。誰だって苦手なものはあります。私にだってそれはありますけど、そこまで悲観するような事ではありません」
「…何故?」
「“苦手なものを克服する”。それは素晴らしい事ですが、同時に“苦手なものと向き合わない”といけないんです」
周りがお祭りの歓声を上げる中、イリスは小さな声で確かに言う。
「苦手なものと向き合う事は、生半可な事では向き合えません。そこで諦める人と諦めない人が出てきますが、そこで諦める人は別に悪い事ではないと思います」
「………」
「誰にだって克服出来ない事はあります。でも苦手なままだって良いじゃないですか。私は諦めた人の頑張りを無視する事はありません。その人にはただ…“才能”が無かった、だけの事なんです」
―才能―
それは人がある分野で極めようとする時に必ず必要な要素である。どんな天才も才能がなければ天才とは呼ばれない。たまに秀才と呼ばれる努力をして天才になった者もいるが、それは自分の才能に折り合いをつけ、才能を開花させたに過ぎない。実際には、秀才も天才と同じような天賦の才を持っている。
「イリスは…どうなんだ?」
「何がですか?」
「イリスも『才能がないから』と言って、諦めた事はあるのか?」
イリスは言っているのは“諦めた事がない人”の台詞である。確かにイリスの考えも一理はあると思える。しかし諦めた人はそこまで楽観的に考えない。いや、考えられない。
「私はまだ…“諦めた事も、諦めなかった事”もないです」
「え…?」
「私は小さい頃からの夢だった仕立て屋になる夢の途中なんです。仕立て屋として一人前になる夢を、友達のために服を作る約束も途中なんです。旅をして一ヶ月そこらでは、まだ挫折を負うような事無かったんです。でも…」
イリスの小さな手は震えるのを朔夜は見逃さなかった。まるで何かに怯えるように…。
「遅かれ早かれ私にも挫折してしまう日が来てしまいます…。まあ、昨日王都中の服屋を見て、軽く挫折はしていました。『私もこんな服を作れらるのかな~』って思ったりもしましたし、サクヤ様の着ているお召し物を見た時には、ちょっと悔しかったです」
「俺の服が…か?」
「そうですよ。こんな見習いの私ですら分かるくらい素晴らしい服を着ていますよ。一体どうやって作ったのか知りたいくらいです」
「この世界の技術で出来るか分からないぞ。特別な機械で織ったりしているし、服の素材知らないしな」
「でも頑張って作ってみたいです。そこに現物があるのですから、いつか…きっと作って見せます」
可愛い笑顔を浮かべる彼女だが、その表情は何処か無理をしているように見えた。苦しみや悲しみを顔に出さず、相手に心配させないと心で泣くのがイリスである。
しかし、彼女もたんに弱いわけでない。彼女からは何事にも負けない力強さをも感じた。これからどんな絶望的な事も、それをバネにして実力を延ばし夢を掴むだろう。
(本当に凄いよな、イリスは。俺にはそこまで頑張れないよ…)
もし自分ように「無能」や「才能がない」と言われていても、彼女は気にせず前を進むだろう。周りに言われて逃げ出した、他人と比べて卑下した人達を見たくないから後ろを向いた朔夜とは違う。出来ない事を全て才能のせいにして投げ出す。そんな今までの自分のやり方に今更ながら嫌になってきた。
そんな朔夜の手に温もりを感じる。
「大丈夫ですよ、サクヤ様」
その手を握ってくれたのは、今の朔夜には眩しすぎる輝いているイリスだ。
「サクヤ様にだって、きっと見つかりますよ。自分に自信を持てる何かを」
「俺が…自信を持てるものか。なんだと思う?」
「それはサクヤ様にしか見つかりませんし、分かりません。私が出来るのはサクヤ様の側にいて、見つかるように祈る事です。後は出来る限りサクヤ様の手助けをする事です」
一人で出来ない事は皆で、という事。そんな事を言ってくれたのは、朔夜が知る限りイリスだけだっと思った。
「ありがとう、イリス。俺も…頑張って探してみるよ。自分にとって“誇り”に思えることを」
「はい。私もご尽力させて頂きます♪ あ、サクヤ様。パレードが一区切りして、エメライト王からご挨拶があるようです」
イリスが指を指す場所…中央広場の祭壇場に髭を生やした王様らしい気品に溢れた人がいた。
そこにいるのは、紛れもない第15目のエメライト王である。
ちょっと悩んだシーンでした。
さあ、次から戦いが始まります♪




