出会い
遅れてすいません。
色々と掛け持ちをすると、執筆が遅くなりました。できる限り早く書き上げます。
朝七時
グロッグ宿屋
◇ ◇ ◇
時刻は七時。朝の日差しがゆっくりと窓から部屋全体に広がる。更に外からは鳥の鳴き声や人々の活気溢れる声が聞こえる。
「……もう朝か…。ヤバい、あんまり眠れなかったな」
ソファーで寝ていた朔夜は、外から聞こえる物音など目が覚めていた。
「あれ、イリスは何処行った?」
眠りから覚め、起き上がりベットを見るとイリスの姿はなかった。周りを見ても小さな部屋なので隠れるスペースはない。
「もしかして、朝食を食べに行ったのか?」
そう思い腰を上げ、一階の食堂に行こうと立ち上がると部屋の扉が開き、イリスが入ってきた。
「おはようございます、サクヤ様」
「ああ、イリスおはよう。何してたの?」
「はい、この宿屋にはお風呂があるそうなので、お風呂に行っていました♪」
確かにイリスの髪をよく見てみると水分が付いており、肌も若干赤くなっているように朔夜は見えた。その姿が色っぽく見えたのは言うまでもなく。
「確かにここの所は野宿ばかりで、水のタオルで肌を綺麗に拭くだけったからな」
「はい。やはりお風呂は気持ちいいですからね。お風呂がある宿屋で本当によかったです」
普通の宿屋にはお風呂はないが、この宿屋にはお風呂が存在していた。ここ数日の間は野宿ばかりでお風呂に入っていなかっため、イリスを見ていると朔夜も無性に入りたくなった。
「俺も食事が終えたら入ろうかな。とりあえず食事に行こうか、イリス」
「はい、サクヤ様。参りましょう」
朔夜は軽く身支度をして、部屋を出る。この時帽子も忘れずに被り、黒髪を隠した。
(まあ、一応念のために)
部屋のカギを閉めて、イリスと一緒に一階の食堂に向かう。廊下を歩いている途中にまた部屋から声が聞こえる。
『……あと、少しここを調整すれば……あ、駄目…かなり眠い…。よく見たら…朝じゃ、ない……ガク……スゥ…スゥ…』
『レイナ、起きろ!! もう朝だ!! いつまでも布団にしがみつくな!!』
『……ふぇ、あと…二時間…』
『出来るかああああーー!!!! 早くしないと口に赤くて辛い食べ物を詰めるぞ!!』
『おはよう、ハニー愛しているぜ』
『駄目よ、レオナルド…朝からそんな…あぁ…』
「………………」
「どうしました、サクヤ様?」
朝から凄いなこの宿屋、と思ったが口にせずに階段を下りていく。
――――――――――――――――――――――
一階の食堂に着くと朔夜とイリスはカウンターに座り、店員にいくつか注文する。店員は笑顔で受けると店の奥に入る。
朝食が来るまで世間話をする事にした。
「で、イリスはこれからどうするんだ?」
「これから、というと?」
「ほら、俺が…王城に行って、もし勇者と分かったら…その後、イリスはどうするんだ?」
朔夜が異世界から来た勇者と分かれば、王族の人達は歓迎するだろう。何かしら利用される可能性もあるが、冷遇されはしない。もし勇者にそんな事すれば国の評判は悪くなる。
だからこそ、朔夜には勇者としてのそれ相応の待遇が約束されている。
だが、イリスは?
イリスはただの旅の仕立て屋である。精霊が見え、精霊の力を使える精霊使いだが、精霊使いは殆どの人が見えないため、実証されていない。
朔夜とイリス。この二人の立場、位はかなりの差がある。一度二人が別れれば今後出会う事はないだろう。
イリスは朔夜にとっては初めて異世界に出会い、助けてくれた命の恩人でもある。そのイリスが自分の側から離れていく。多少なり、そんな不安が朔夜を襲っていた。
「私は…そうですね。もし、良ければサクヤ様とご一緒したいのですが、私はサクヤ様とは違いただの仕立て屋です。王族の方が必要としているのは“勇者だけ”です」
イリスは笑顔で朔夜を見る。その笑顔はいつもの優しいイリスの笑顔。
「…ですから、私はサクヤ様をお城に案内を最後に私の役目は終わります。もしかしたらサクヤ様が現れた時の経緯を詳しく聞かれるかもしれませんが、すぐに終わると思います」
「イリス…」
「その後は、また仕立て屋としての修業ですね。まだ私の腕では立派な洋服は作れませんから勉強して、練習して、仕立て屋としての…」
「なあ、イリス。俺と一緒に来てくれないか?」
朔夜の言葉に一瞬、イリスは固まってしまった。
「私はサクヤ様にお役に立てる程の力はありませんよ。サクヤ様には…私なんかよりも優秀なパーティが付くハズです」
「俺は、イリスと組みたい。イリスでないと俺は頑張れない」
「サッサクヤ様!」
まるで告白のような言葉を聞かされ、顔を真っ赤にするイリス。そんなイリスをお構い無しに朔夜はイリスを見つめる。
「俺はまだ勇者としての力はない。まだ覚醒とかしてないからかもしれないけど、俺は本当に勇者とかになれるか心配なんだ…」
自分を“知っている”から。
自分という“底”が見えているから。
自分の“力の無さ”を痛感しているから…。
だからこそ朔夜は、期待される自分を…勇者として活躍する自分をイメージ出来ない。
「でも、俺は約束したよな、イリス。“必ず、お前が求めていた勇者に成る”って。」
異世界に来て、初めて負けた悔しさを味わったあの夜を忘れないように。
そして、彼女に誓ったあの約束を守る為に。
「だから、イリスには俺が勇者に成るまで、隣で見守って欲しい」
「…私で、いいのですか?」
「イリスでなきゃ駄目だと思う。あの時、俺に“希望”をくれたイリスでないと、俺は約束を果たせない」
これまで自分自身で何をしたいのかわからなかった朔夜だったが、イリスに出会い、イリスが願っていた勇者《希望》になろうと決めた。
「駄目…かな?」
「いいえ、サクヤ様! 私なんかには勿体無いお言葉です! どうかサクヤ様と一緒に居させて下さい!」
不安そうな朔夜だったが、目の前にいるイリスは朔夜の言葉に感動している。
「ありがとう、イリス。これからもよろしくね」
「はい! よろしくお願いします」
二人は改めて仲間になった。
朔夜は精霊使いを仲間に、イリスは勇者?の仲間になる事が出来た。
話を終えた二人に店員が朝の食事を運び、一緒に楽しく朝食を頂いた。
――――――――――――――――――――――
「うっうーーーん!! よっく寝たぜ♪」
グロッグ宿屋の屋根裏部屋にて、ジークが目を覚ます。
服は昨日までボロボロの服を着ていたが、今は茶色の革ジャンと青いジーパンを着て、腰にはショートソードをぶら下げている。
「さて、久しぶりにゆっくりと朝食を楽しむとするか」
この三日間、食事や睡眠を人としての最低限も取っていない。それでも普通の人では一週間かかる道のりを約三日で走り抜いた。
そんなジークは疲れた様子も見せずに、軽快に一階に通じる階段を下り、食堂に向かった。
「あまりいないな。俺とあそこのテーブルにいる二人だけか」
食堂を見ると、テーブルの二人以外に人はいなかった。ジーク自身あまり騒いだ所で朝食を取るのは気が向かないが、これだけ人がいないのは寂しく見えた。
(一人で朝食を取るのは嫌だな。あそこの二人に挨拶して気が合う人なら、話をしながら食事をしよう)
と、ジークはテーブルの二人に近付く。とりあえずこの王都の事やギルドの事を聞いてみようと、情報収集も兼ねて誰かと食事をしたかった。
「おはよう♪ 俺はジーク・ミラニスタだ。良かったら一緒に食事をしていいか?」
初対面の人に対してフレンドリー過ぎると思うが、テーブルに座っている二人の男女は多少驚きをしたものの、ジークをにこやかに迎えた。
右隣に座っている男が頭に被っている帽子を取り自己紹介をする。
「レオナルドだ。宜しくな、ジーク。お前みたいなフレンドリーな奴は好きだぜ♪」
「私はフーリエよ♪ 一緒に食事を取りましょう、ジーク」
と、髪の毛が“青い髪”をしているレオナルドと、彼の隣に座っている“赤い髪”をしたフーリエ。ジークはテーブルに座り、店員にいくつか注文して、一緒に楽しく食事を取っていく。
「それにしてもジーク。さっきのはギャグのつもりか? あんまり面白くないぞ」
「え? なんか言ったか俺?」
何か変な事言ったか、と考えたが思い付かなかった。そんな悩んでいるジークをフーリエは笑ながら教える。
「ほら、さっき私達に声をかける時にジークったら、私達に“おはよう”っていったじゃない。それよ、それ」
「普通言うだろ。朝なんだから」
と、ジークが真面目に答えながらサラダを口にほうばる。その表情から嘘を言っていないと、分かったレオナルドは胸元から懐中時計を持ち出し、ジークに見せた。
「今何時だ?」
「何時って、七時過ぎ…」
と、ジークは時計を見て止まった。ジークの見た時計には
十一時二分
と、針が指している。
「…………あれ?」
「食堂に誰もいない理由が分かった? こんな時間に誰も食堂に来るわけないだろう」
「私達は八時頃には何人かいたけど、みんなお祭りのパレードを見に外に行ったわよ、寝坊助さん」
ちなみに二人は八時頃から祭りには行かずに喋っていたという。
ジークは記念すべき千年祭を大幅に遅刻してしまった。
勇者とは、出会わずに違う人と出会ってしまった。
ちなみにあの二人はほぼ無関係な人達ですので、これからの出番はありません。




