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最強の勇者と最弱の勇者の物語!!  作者: 双月キシト
第1章 異世界者、再来!?
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それぞれの夜 後編





 「五大王国で行われる救世祭。その救世祭の最中に、我らが魔王様のメッセージを世界に伝えるのが俺の任務だ。これだけなら危険など無い」


 普通に考えればメッセージを送るだけ。気配を殺す諜報活動向けの魔族を数人放てば、すぐに終わる任務だった。


 「メッセージの内容は前に魔王様が言っていた内容だが、ただメッセージを送るだけでは魔王様の宣戦布告に面白みがないと思うだろう?」


 「…………」


 ユギリはサイモンからの言葉を黙って聞いていた。その言葉の一つ一つを大切に心に留めるように。


 「そこで魔王様は宣戦布告した…その日の内に五大王国の一つではあるエメライト王国を侵略しようと考えた訳だ…どうだ合っているだろう?」


 「ええ…そうね。でも普通に考えれば分かりますよ、それくらい」


 「だろうな、だがユギリ。じゃあなんでこの任務が俺に任されたと思う?」


 「それは…」


 何故なのかそれはユギリが一番知っている。何故なら、このエメライト侵略任務の幹部を選んだのは他でもない“ユギリ”自身だからなのだから。


 「確かにこの任務の仕事を俺に流したのはお前だ。たが、最初にこの任務の幹部を指名したのは俺じゃないよな? むしろ最後に指名されたのが“俺”なんじゃないか?」


 「くぅ……」


 「この任務は、少数人数で五大王国の一つを侵略しろという話しだ。そんな荒唐無稽な出来る奴は魔王軍には何人いるだろうな、ユギリ」


 そのサイモンの言葉に、彼の腕の中にいるユギリの口元が歪む。


 「いないと思っています? 残念ですけど私が知る限り、サイモンを抜きにしてもそれなりの人数が…」


 「そりゃいるよな。俺もそう思っている。じゃあ、なんでそいつらは手柄欲しさに志願しなかったんだ?」


 的が外れたと思っていたユギリだったが、すぐにサイモンは言葉を遮った。

 

 「エメライトを侵略すれば、それ相当の手柄を貰えるハズだが奴等はしなかった…。それがこの任務の“裏の理由”だ」


 「裏の理由ってなんです。そんな幹部クラスの人が任務を断る程の理由が」


 「異世界の勇者」


 「!!!」


 “異世界の勇者”という発言を聞いた瞬間、ユギリはサイモンの腕を強く掴んだ。その行動がサイモンに正解を告げていた。


 「へぇー、やっぱりあの噂は本当だったのか。記念すべき千回目の救世祭で、新たに来た異世界の勇者が現れるというのは…」


 「あの話は噂でしかありません! 確証は何処にもないんです! ただ…」


 「…我らが魔王様が信じているんだろう。遠くない未来に必ず現れると魔王様は考えていた…。それが今日の救世祭なんだな」


 「……はい」


 魔族の中で最高位にいる魔王の言葉は絶対であり、その的中率は高いと言われている。


 「その魔王様が言っているからな。そして作戦の最中に、もしも…異世界の勇者が現れたらどうする?」


 「それは…」


 「魔王様のエメライト侵略任務に邪魔になる存在は排除するのが当然だろう。そして勇者だぞ。もしそこで勇者を倒してしまえば、魔王軍に逆らう者は居なくなる。そうなれば出世間違いなしだな、ははは…」


 その場で笑うサイモン。だがその笑い声は元気がなく乾いた笑い声だった。その態度にユギリは再度サイモンの腕を強く引き寄せる。


 「……本当に出来ると思っているんですか?」


 「さあな。でもやるしかないだろ。俺は…そのために戦うんだかな」


 「…本当にわかっているんですね。貴方の“やるべき事が”…」


 表向きはエメライト侵略の任務


 裏の任務は異世界の勇者を倒す任務


 そして…


 「俺は軍人だ。魔王様のためなら俺の命なんて喜んで差し出そう。例え、それが捨て駒としての扱いでも…俺は構わない」


 「……サイモン…」


 彼は全てを理解していた。今回の任務の真の目的は“今世紀の勇者の実力を測る事”なのを。勇者と戦い、その実力を測るだけの使い捨ての物差しでしかないと…。だからこそ魅力的なこの任務に志願する者はサイモン以外にいなかった。

 他の幹部の皆は前回現れた勇者の逸話を恐れ、実力もわからないこの初戦に勇者と戦うのは避けたかった。


 「サイモン…貴方は死んでしまうかもしれないのですよ。ただの殺られ役として、惨めに…」


 「かもな。だが俺達一族は魔王様に恩がある。今さら帰った所で一族から罵声を浴びせられるだけだよ」


 それにな、とサイモンは一呼吸置き


 「そんな尻尾巻いて逃げたら“惚れた女”に見放されてしまう。それだけは避けたいんだよ」


 「! えっ…それって」


 誰と聞こうとした瞬間、ユギリは引き寄せられ言葉を言えなかった。ユギリは彼の胸に張り付いているように隙間なく抱きついていた。

 いきなり抱きつかれた事によりユギリは顔を真っ赤にしてあたふたと驚いている。その姿はまるで恋する、ただの女の子にしか見えなかった。


 「サ、ササっ、サイッモンン! い、いったい何を!!」


 「すまんな、ユギリ」


 「えっ…」


 顔を赤くしながらユギリはサイモンの顔を見る。その顔はいつもと違い大人っぽく、優しい目でユギリを見ていた。


 「出来れば惚れた女と寄り添って人生を終えたいと思っていたが無理のようだな」


 でもな、とその後の言葉を紡いだ。



 「ユギリ…次の世代では俺と一緒に人生を歩んで欲しい」



 その言葉を聞いた後、ユギリの表情には喜びと悲しさでいっぱいだった。

 その後ユギリは彼を抱き締め、愛しい人の名前を叫ぶ。その目には涙が溢れる。


 「サイモン…サイモン! 嫌だ!! 私は貴方と別れたくないです!! また一緒に馬鹿な話をしたいです!!?また一緒に買い物をしたいです! 貴方といつまでも、いつまでも…」



 ―いつまでも一緒にいたい―



 ただ彼がいるだけで、彼女は幸せだった。


 ただそばにいるだけで温もりを感じた。


 そんなささやかな願いで彼女は救われた…。



 だが、そんな彼女の願いは届くことはなかった。サイモンは彼女の耳元で一言「ごめんな」と言うしかなかった。


 「でもな、ユギリ。俺だって負ける気は更々ないさ。もしかしたら俺が勇者に勝ってしまうかもしれないしな♪」


 彼女を励ますようにサイモンは言うが、ユギリの表情に変化はない。あまりに効果はなかった。


 「もういいです。喋らないで下さい」


 「あ、はい。すいません」


 「ただ今は、そばに居させて下さい…」


 ユギリは彼の大きな体に寄り添い、彼からの温もりを感じていた。その温もりをけして忘れないように。

 サイモンもそれに応えようとユギリを抱き締める。


 夜空の星光の中、二人はひとときの幸せな時間を共有した。



――――――――――――――――――――――



 「……なあ俺達どうする?」


 「どうすると言われてもさ~」


 「とりあえず、隊長とユギリ宰相の仲を邪魔しちゃいけないよな…」


 二人が寄り添っている中で、結界の外からサイモンの部下達が二人を見ていた。

 部下達は夜の露店を巡って帰ってきたら、結界内にいる二人が仲良さそうに抱き合っているため、中に入れずにいた。そんな事をしていると続々と仲間達が帰って来る。


 「…これ結界作った意味なくね?」


 「確かに…。こんな所を大所帯で見つかったら色々と問題になりそうだな」


 「言うな! 我々は隊長の幸せを邪魔してはいけない」


 「それはいいだけどよ~。いちゃつくなら他でやって貰いたいのだが…」


 部下達がそれぞれ意見を言い、二人を温かく見守っていた。


 「隊長、そこはもっと引き寄せて口づけを!」


 「えっ!! 隊長大胆な…」


 「いや無理だろ。あの奥手な隊長だぜ」


 「ですね。僕達から見ていても分かりやすい癖に、全然進展しない人ですから」


 「実力はあるのに、恋愛に関してはからっきしだもんな」


 部下達は訓練の間に彼ら二人が話し合っている姿を何度も見ており、焦れったい二人にいつも苛ついていた。


 「でも、やっと隊長の恋が実ったのに…」


 「これが運命って奴かね」


 「まだ隊長が死ぬと分かった訳ではないですよ、皆さん!」


 「確かにな。よし! 隊長が生き残れるように俺達が頑張るんだ! いいな、お前ら!!」


 「「「「「「おーー!!」」」」」」


 部下達は隊長を尊敬していた。他の部隊と違い決断力は人一倍強い。それがこの部隊の強みでもある。

 『一人は皆のために、皆は一人のために』と隊長であるサイモンの理念を守り抜く三十人だった。


 「…で、俺達はいつまでここで待機すればいいんだ?」


 「「「「「「……………」」」」」」


 「………また、街に繰り出すか」


 こうして彼らもまた、星光に照らされながら夜の王都を歩く。



―――――――――――――――――――



 同時刻



 エメライトの高級宿屋の最上階で彼女は街を見ていた。


 「もうそろそろですか」


 右手には果汁のジュースを飲みながら、今日起こる出来事を考えていた。


 「特に私は興味ありませんが、お父様の命ですし、見届けなければなりませんね」


 不意に風が彼女の銀色の髪が揺れる。そして彼女の紅い目が今日の作戦の場所である“街の一点”を見つめる。


 「でも、要るなら見たいものですね…異世界の勇者とやらに…」


 彼女は微笑む。その表情は新しいおもちゃが手に入るかもしれない子供のような笑みだった。







一体…主人公が誰かわからなくなるような展開

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