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最強の勇者と最弱の勇者の物語!!  作者: 双月キシト
第1章 異世界者、再来!?
26/33

それぞれの夜 中編

中編なんてあるのだろうか…。本当は前編後編で分けたかったけど、長くなりそうなので三つにしました。





 「ここがおっさんが言ってた宿屋か…ボロいな…」


 ジークは騎士団の隊長から貰った地図を便りに、宿屋に着いた。


 「まあ、寝られるな何処でもいいか」


 ほぼ寝らずに不眠の状態で走っていたせいか、かなりの疲労が溜まっていた。

 そのまま宿屋に入ろうとすると、白いフードと白いマントを羽織った人と入れ替わりに入る。


 「あ、ごめんな!」


 「…………」


 そのまま白いマントを羽織った人は、暗い夜道を歩いていく。


 「なんだ、あの人?」


 ジークは特に気にする様子はなく、宿屋に入る。




――――――――――――――――――――――




 白いマントは、暫く歩くと誰もいない裏路地に入る。普通の人ならまず、深夜に入る道ではない。また少し進むと白いマントの前には壁があり行き止まりになっていた。

 だが白いマントは歩みを止めない。そのまま壁に吸い寄せられるように壁に激突…



 されず、まるで壁の中に溶け込むように壁の中へ消えた。



 壁の向こうには道があった。その道をまっすぐ進むと広場のような場所に着いた。そして広場の中央に探していた男がいた。


 「…ん、結界を抜けて来たのはあなたでしたか、宰相」


 「宰相は止めろと言ったハズです。ここは王宮ではない。二人の時は敬語いりません」


 白いマントはフードをどける。そこには白い髪をした女性だった。髪はもみあげの部分が長く、後ろの髪はショートだった。


 「だが…それだと部下の示しがつかないんだが…」


 「…見た所あなた以外部下の姿が見えませんが、どうせあなたの事です。作戦までのんびり遊んで来い、とか言って部下を追い出したのでしょう」


 「何故それを! まさか心を読む魔術か!?」


 「…そんなの使わなくても、あなたの考えそうな事くらい分かります。………一体何年の付き合いだと思っているのよ」


 マントを羽織っているユギリは何処か遠い目をしながら、目の前の男に言う。男は腕を組んで考える。


 「確か…子供の時だからもう20年くらいは経ったか…」


 「正確には二十五年と二ヶ月です。あれからあなたはかなり大きくなりましたね。前は私の方が大きかったのに…」


 「当たり前だ、種族が違うんだからな。元々俺達の種族のサイズはこれくらいは成長するんだよ」


 「まあ、頭はあの頃と変わっていませんが…」


 「……お前のその毒舌が全然変わらない事に俺は驚きだ。少しは大人になって変わるかと思えば全く変わらないな」


 昔からユギリは悪びれもせずに周りの人を貶していた。そのせいか彼女はいじめられる事が多かったが、いじめられる度に守ってくれたのは“彼”だった。

 そんな昔の光景が頭の中に流れるように浮かび、ユギリの顔が僅かにほころぶ。


 「で、何のようだ? ここは隠れ拠点なんだぞ。あまり用もないのに来たら、この国の連中見つかる可能性があるだろうに…」


 「私は今日行われる作戦の準備が終わっているか様子を見に来たのです」


 「それならもう終わっている。街中の仕掛けた細工は出来ているし、この国とギルドの勢力の調べは終わった。部下のポジションと連携もいい感じでデキ上がっている。何も問題はない」


 彼はどうだ、と言わんばかりに胸を張っている。その態度にムカついたのかユギリは眉をひそませる。


 「ふん。あとあなたがサボッていないか見に来ただけです」


 「んなことするか!! 何時サボッたんだよ!」


 「新米だった頃に訓練サボッて、私を街に無理矢理連れて行ったのは何処の誰でしたか!!」


 「あれはお前が街で買い物したいと言うから…」


 二人の口論は激しさを増すが、夜中にこれだけ騒げば見回りが来るだろうが、いくら待っても彼らー前に見回りは一人も来なかった。約三十分もした頃には、二人の息は上がっていた。


 「ぜぇ…ぜぇ…ここは一応結界張っているから、ぜぇ…音が聞こえる事は…ぜぇ…ないが、いい加減にしろよ」


 「はぁ…はぁ…」


 「たくっ、本当に何しに来たんだよ“お前”は! 少し淑女としての…」


 「ユギリ…」


 「あん?」


 自分の名前を言い出し、困惑する。だが、彼女は鋭い目で彼を睨んだ。だが、その瞳は悲しみに満ちているようにも見える。


 「“お前”じゃない! 私は“ユギリ”です! きちんと呼んで下さい!!」


 「は、はい!!!」


 いきなりキレた為、反射的に答えてしまう。何故キレたのか彼は分からなかった。

 それをよそにユギリは、彼の大きな体に抱きつく。


 「なっ!! ユギリ!!」


 「動かないで!!」


 そう言ってユギリは力強く腕を回した。だが彼からすれば、少し体を引くだけで簡単に引き剥がしてしまう程に弱々しかった。


 「…ユギリ」


 「…駄目です」


 「駄目?」


 「今日の作戦に出たら駄目です。あなたは急な体調不良により作戦を辞退して下さい…。医師診断書は私が偽造しますからっ」


 彼は抱きついている女性を見る。そこにはかつての強気で毒舌な幼馴染みの姿はなかった。


 「あなたの部下には私が説明します。あなたの部下は優秀ですから、あなたがいなくても作戦は見事成功させてくれますよ」


 抱きついているユギリの体が小刻みに震えている。その震えはまるで彼女の心の支えが崩れる前兆にも見える。


 「今回の作戦の離脱は色々と陰で言われたり、もしかしたら軍法会議に出されるかもしれません。でも私がきちんと弁護しますから。最悪揉み消してあげます…」


 「ユギリ…」


 「最悪クビになっても大丈夫です。私は高級官僚の頂点の宰相ですから、一人くらい養えます…いえ、その内新しい家族が出来るかもしれませんが、それも私が…」


 「もういい、ユギリ!!」


 「!!」


 男はユギリの肩に手を置き、ゆっくりと自分から剥がす。自分から離れた事により、ユギリの顔がよく見えた。


 その綺麗な顔は涙で汚れていた。


 「もういいよ、ユギリ…お前の気持ちはよく分かった」


 「“分かった”? 何が“分かったんです”…。いえ、あなたはちゃんと“分かっていますよね”。あなたが今日行う“作戦”がどういうものなのかを…」


 「……ああ、分かっているさ」


 二人はその場に崩れるように座り込んだ。街灯がない裏路地の結界の張っている場所だが、曇りのない夜空から、星の光が二人を優しく包み込む


 「ユギリ…。今回の作戦が俺達魔族にとってどれだけ大切な作戦か知っているだろう。なら、分かるよな…」


 「知りません。私は作戦なんか知りません…」


 嘘だな、と彼は確信を持って思った。ユギリは若くして史上最少で宰相にまで登り積めた聡明で博識ある子だ。なら彼女ならこの作戦の“表”と“裏”…そして“真の目的”を理解していなければおかしい。

 男はユギリを後ろを向かせ、後ろから抱き締めた。いきなり抱きしめた事で、ユギリはビクっと驚くが嫌がる様子はなく、後ろから回した男の腕をそっと寄せる。


 「答え合わせでもするか、ユギリ」


 「答え合わせ…ですか?」


 「ああ、昔よくしていただろ。もしかしら俺が読み違えている内容があるかも知れないからな。答え合わせだ」


 「…そうですね、良いですよ。ちゃんと魔王様の作戦の意味を理解しているか試してあげます」


 男の提案にユギリは応じた。まるで昔のようになぞなぞの答え合わせをしているような気分になり、ユギリは鼓動が高鳴った。


 「では“サイモン”。あなたがこのエメライト王都でする作戦とはなんですか?」


 「ああ、俺がこの人間の国…エメライト王国で行う作戦は…」


 そして星明かりが二人を照らす中、二人だけの答え合わせが始まる。


 その第一門目が明かされる。


 「俺は…いや俺達魔族がエメライト王国に、五大王国に、世界に対して…宣戦布告する事だ!」




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