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最強の勇者と最弱の勇者の物語!!  作者: 双月キシト
第1章 異世界者、再来!?
23/33

赤マント

 


 

 宿屋を出た朔夜は(髪を隠す帽子とマントを着て)表通りを歩き出す。



 王都は深夜になっても、賑わいは消えない。魔法石の光が街中を照らす為、ある程度明るく見える。とりあえず朔夜は気晴らしに夜の王都の街並みを見ながら散歩する。

 だが朔夜は一つ気にしておかなければならないことがある。それはイリスが宿屋に入る時に言っていた事である。


 『夜の王都(他の街でもそうだが)危険』


 どんな街にもゴロツキの類いはいる。だが祭で盛り上がっている今の王都のゴロツキは、他のゴロツキとは訳が違う。

 街には今数え切れない程の観光客が数多く押し寄せている。更に観光客の中には富裕層の観光客もかなりいる。そして、その観光客の金目当てに毎年多くのスリ、強盗、カツアゲといった犯罪行為を繰り返している輩もこの王都に押し寄せたりもする。

 たからこそ犯罪のしやすい夜には観光客どころか王都に住んでいる住民もこの時期には夜の外出を控えている。


 当然ながら、朔夜もそんなゴロツキと仲良くはしたくはない。しかも朔夜は数日前のゴブリン戦闘をしてわかる通り、ケンカ等はからっきし、戦えば朔夜の敗北は揺るがない。更に逃走するだけの体力もない。そんな朔夜が一人危険な夜の外出をしているのは知る人がみれば自殺行為にも見える。



 だが朔夜にはある秘策があった。



 確かに夜の王都の散歩をするにはかなり危険。だが、それでも対策さえしっかりとすれば危険な目にあう事はまずない。


 ①人気のある表通りから出ない事


 ②周囲の警戒を怠たらない事


 ③お金を持っているように見せない事


 ④警邏している兵士の周囲にいる事


 ①はまず人気のない道…裏道は絶対に入らない。まずゴロツキが犯罪行為を行うであろう選ぶ場所は人がいない所が絶対である。②はそのままの意味であり、③はゴロツキが狙うのはお金を持っている人しかないからだ。そして④は効果的だろう。どんなスリ師でも、治安を守る人の前でスリ等をするのはあまりにもリスクが高い。


 以上の四点を守れば、ゴロツキに襲われる心配はないだろう


 「と思っていたんだろ、にいちゃん♪」


 「…………」


 そして朔夜が今いる場所は、暗い裏道の一角。周りには屈強な肉体を持ち、まるで漫画に出てくるような悪役顔のゴロツキが五、六人だった。

 

 「まあ、にいちゃんの対策は悪くはねぇよ」


 「つーか、それが一般的な俺達の対処方だと思うぜ」


 男達はニタニタと笑いながら、朔夜に視線を向ける。


 「だがな、にいちゃん。そんな事していたら、俺達も稼ぐことが出来なくなっちゃうだろ?」


 「俺達も常日頃から成長しているんだよ。カツアゲするにはどうすればいいかをいつも考えているんだよ」


 「ははは、そうなんですか……」


 乾いた笑い声が朔夜から漏れる。何故こうなってしまったのか? 



 ……朔夜は数分前の出来事を思い出す。



 数分前、朔夜は大通りを歩いていた。真夜中だが大通りには通行人が何人もいた。更に巡回中の兵士も朔夜の近くを歩いていた。この状況下で朔夜に手を出すゴロツキは皆無だろう。


 だが一瞬、深夜の街中に何かが割れる音が響きわたる。それを大通りにいた誰もが音のした方に視線を向ける。そこには大きな壷を落とした老人がいた。老人は割れた壷を集め、通行人に迷惑をかけた事を謝りながら裏道に入る。視線を向けていた通行人は興味をなくし、兵士の人達もその場を後にした。

 

 だが先程まで大通りを歩いていた朔夜の姿を見かけた者は誰一人いなかった。





 「わかったか? 俺達の仲間が他の街の連中や兵士の注意をそらしている間にお前を野路裏に連れて来たんだよ」


 ゴロツキが指を指す先には、先程壷を割った老人がいた。朔夜が壷を割った老人を見ていると突然背後から誰かが口を塞ぎ、体を掴まれ一気に路地に連れて行かれた。この間、僅か一秒もかかっていない。

 そしてしばらくすると今いる場所に、連れて来られた。


 「まあ、方法は他にもあるが今回は“獲物”があまりにも弱そうだからな。普通に拐った方が早いと思ったが、見事に成功したな」


 「よ、オヤブン頭いい!!」


 「世界一!!」


 「一生ついていきますぜ!!」


 子分?達が親分?らしい人に歓喜な表情をして楽しそうにハイタッチしていく。そんな仲良くしている中で、朔夜は身体中から汗が滝のように出る。「これからどうなのか…」朔夜の頭にはそれしかなかった。


 「あの~ちょっと、いいですか?」


 「ん、なんだ?」


 「いや、俺を拐う手際は中々良かったと思うんですが…」


 「そうだろ、そうだろ」


 ゴロツキの親分は肉体を魅せるように、胸を張って自慢する。


 「ですけど、俺の所持金の額知ってます? ゼロですよ、ゼロ。悲しいくらい無一文ですよ」


 「ははは、そうか、そうか!! ……へっ?」


 普段からお金はイリスが管理している為、朔夜がお金を持っている事はない。今回の王都に来てから多少の金銭を渡されたが、そのお金は宿屋に全て置いていた。そのため今の朔夜は、パンを買うお金すらない。


 「ですから、お金は持っていませんよ。一応調べても構いませんが、金目の物は一切ないです」


 「なんだと……」


 ゴロツキ達は笑っていた顔は一瞬で凍りつく




 「「「「ははは、はは、はははは!!」」」」




 …事はなく、更に大きな笑い声が響きわたる。そのゴロツキ達の様子に朔夜は驚く。


 「あの……聞いていました? 俺、お金を持っていないんですよ」


 「ああ、聞いているぜ。安心しろ、別にお前の所持金ゼロについて笑っているんじゃないからな」


 全く理解できないという顔で朔夜はゴロツキ達を見る。そしてゴロツキの一人が朔夜に言うので


 「まあ、所持金ゼロには驚いたが、まあそれもある程度予想の範囲内なんだよ」


 「えっ…」


 「俺達はな、別に大金が欲しい訳じゃないんだよ。それなら商人を狙った方が稼ぎはいい。だが商人達は夜中に外出なんてまずしない。したとしても、護衛がいるからお前と違って下手に手を出す事さえ出来ないんだよ」


 「俺達は微々たるお金で今日を生きて生ければそれでいい。だからお金をあまり持っていなそうなお前でも俺達の標的になる」


 商人に下手に手を出すと、後のしっぺ返しが痛い。そのため、彼らのようなチームは金のない旅人でも手を出す。


 「なら、どうするんだ? 言っとくけど、本当にお金はないよ」


 「そうだな。本当ならお前を裏の奴隷商人に売りつけるのが一番手っ取り早く資金になるんだが…」


 その発言で朔夜の心と体が硬直する。このままでは朔夜は奴隷として売られる。

 その朔夜の様子に気付いたのか、親分は朔夜の肩を叩く。


 「安心しろ。別に俺達はそこまで鬼じゃねえ。折角のお祭りの時に、奴隷として売られるのは流石に俺達の良心が痛むぜ。それにお前を売ったところで得られる金なんて無いにも等しいくらいの価値しかなさそうだしな」


 朔夜は今の話を聞いて少し安堵する。とりあえずは奴隷として売られる心配はなくなった。


 「まあ、捕まったのが俺達でよかったな。他の連中なら迷わず売り飛ばす奴もいるから、これから街中を通る時は気いっつけろよ。さて…」


 ゴロツキの親分は話が終わると朔夜に近づいてくる。


 「え、え、何っ、何!?」


 「別に命を取ったり、奴隷として売るのは勘弁してやる。だがそれでも金になる物は置いて貰おうか」


 「いや、だから金目の物なんてない……」


 嘘偽りなく今の朔夜は無一文である。お金なんて持ってはいない。


 「…確かに現金は持ってはいなそうだな」


 「そうそう」


 「だったら、お前の“服”を頂いておこうか」


 「そうそう、お金がないから服を……って、服?」


 ゴロツキの言葉に朔夜は耳を疑う。聞き違いや冗談なら嬉しいが、ゴロツキの目は真剣だった。


 「ああ、見た所…お前のマントや帽子やよく出来ている。それなら高く売れそうだ。そんなマントを羽織っている下に着ている服も期待出来そうだ」


 「いやいやいやいや、おかしいだろ。山賊か、お前達は!! ある意味街中でスッポンポンで放り出されるのもかなり辛いわ!!」


 「心配するな。着替えは用意してある。服はボロボロだが着れない事はない。どうせ着替えくらいは宿屋に置いているだろ」


 そう言ってゴロツキ達は朔夜に近づいてくる。朔夜も後ろに下がるがすぐに後ろの壁にぶつかる。朔夜の逃げ場はなかった。


 「いや、他になんかないか!? ある程度なら要求を応えれると思うんだけど、無理かな!?」


 そう朔夜が説得を試みるが、ゴロツキ達は一切話を聞いてない。あと少しで朔夜に触れられる位置まで近づいた。


 「……かなり、ピンチ」


 そうしてゴロツキの一人が朔夜のマントに手をかける


 









 その瞬間、マントを掴もうとしていたゴロツキが宙を舞い、親分の数㍍後方にある壁に叩きつけられた。


 「えっ…」


 「「「なっ…」」」


 「なんだと…」


 朔夜とゴロツキ達は唖然として、吹き飛ばされた人を見る。どうやら叩きつけらたショックで意識を失ったか、致命傷を与えられて死んだかのどちらかだった。

 そして朔夜は吹き飛ばされたゴロツキから目を放すと目の前に赤マントを羽織った人がいる事に気付いた。


 「…あんたは誰?」


 「……………」


 赤マントは何も言わなかった。全身に赤いマントを被せ、更に顔もマントを深く沈めているためか全く見えなかった。たがそんなのはお構い無しと、赤マントはゴロツキ達の前に立ちはだかる。


 ゴロツキ達はいきなり現れた赤マントに仲間の一人を倒され、憤怒の表情をして睨み付けた。


 「貴様っ…自分が何したか分かっているんだろうな!!」


 「俺達を敵に回して生き残れると思うなよ!!」


 「マークの仇…取らせて貰う!!」


 「………」


 ゴロツキ達の脅迫と殺意を混ぜ、鋭く睨みつける。朔夜は後退りをするが、赤マントは何も喋る事はなくただその場に立っていた。


 「「「ウラァァァ、死にさらせ!!!!」」」


 下っぱらしきゴロツキ達三人が赤マントに飛び付く。その手にはナイフ、木の棒、メリケンを持っていた。いくら相手が街中を這いずるゴロツキでも三人一片に相手にするのは、ケンカが強い相手でも無傷では済まない。


 「……………」

 

 だが、そんな数による暴力を無視し、赤マントはゴロツキを対峙する……その瞬間を朔夜とゴロツキの親分は見る事は出来なかった。



 何故なら、赤マントは何も動作をすることなく、飛びかかって来たゴロツキ三人を一瞬で叩き潰したからだ。


 

 「「……えっ!?」」


 二人は“今の一瞬の出来事”が理解できないようすだった。赤マントがしたことは単純であった。


 相手を自分の拳で殴り飛ばした。ただそれだけである


 ゴロツキ二人は赤マントの左右の壁に叩きつけられ壁にヒビが入り、最後の一人は赤マントの頭上で顔から血を流しながら、住民が使う洗濯用の紐に引っ掛かり吊るされているような状態だった。


 赤マントは何事もなかったようにゴロツキの親分に近寄る。その表情はマントのせいで見えない。


 「くっ…いいだろう。相手になってやる!! 子分達の仇は俺、『札付きのチャーサー』が取らせて…! ゴハゥ!!」


 その後の赤マントの行動は非情であった。まだ喋っていたゴロツキに一瞬で近付き、相手の頭を持って力任せに地面に叩きつけた。その力のせいか、ゴロツキに叩きつけられた地面は亀裂が走り、地面が数センチ沈下した。

 そんな地面が沈むほどの力を受けて親分の体はピクリともしていなかった。


 「………」


 その様子を見ていた朔夜はその場で座り込んでしまった。あまりの出来事に腰が抜けてしまっている。


 「………」

 

 誰も喋る人がいなくなったため、辺りは静寂が包み込む。

 すると赤マントは視線をゴロツキから、朔夜に変えた。いきなり視線を変えた事により、朔夜は身の危険が高まる。先程のゴロツキに絡まれた時とは格段と違う危険なアラームが身体中に響きわたる。

 一歩一歩赤マントは朔夜に歩み寄る。なんとか朔夜は逃げようとするが、恐怖のせいで体に力が入らず這って逃げる事すら難しかった。


 そして赤マントは朔夜の目の前まで来て立ち止まる。


 「………」


 「あ…えっと……その」


 赤マントの沈黙が続く。朔夜はなんとか喋ろうとするが、恐怖に舌が回らず、何を喋っていいかわからなかった。

 赤マントは朔夜に手を伸ばす。その様子は先程潰したゴロツキの親分と同じような仕草だった。朔夜は目をつむり、自分の走馬灯が見えたのを確信した。


 (俺の人生もここまでか…。短い人生だったな)


 そんな事を思った時、頭に何かが触れた。それは相手の手だとわかる。その手で一気に潰されるのだと朔夜は思っていた。

 だがすぐに手は退けられた。しかし頭が少しひんやりした空気を感じた。目を開けるとさっきまで被っていた帽子が赤マントによって取られていた。

 そして帽子がなくなった事により朔夜の黒髪が露出した。この世界には少ない髪の色をした髪が。


 「えっ…と、何を?」


 「…やはり、そうか」


 ここにきて初めて赤マントは口を開いた。顔は分からなかったが、背の高さや立ち振舞いを見てなんとなくと思っていたが、声を聞いて男だと確信できた。


 「…なるほど」


 赤マントの男は、朔夜を舐め回すよう身体中を見えていた。その視線が朔夜にとっては不快で仕方なかった。


 「なんだよ、さっきから」


 「………」


 朔夜の質問など眼中にないのか、赤マントは答えなかった。


 「おい、お前は何なんだよ!!」


 「……か」


 一瞬何か答えた。だが朔夜には小さ過ぎて聞こえなかった。そして赤マントはある“質問”をぶつける。


 「…お前がそうなんだな」


 「何がだよ?」


 暗い路地裏のためか、これだけ近づいても顔が見えない。相手の真意が全く読めなかった。そして…


 「…お前が異世界から来た異世界人なんだな?」


 「!?」


 朔夜とイリスしか知らない秘密を、赤マントの男は朔夜に問う。


 深夜三時…朔夜の好きな言葉で言うなら、物語のメインイベントに突入した。






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