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最強の勇者と最弱の勇者の物語!!  作者: 双月キシト
第1章 異世界者、再来!?
19/33

 出来事が起こる前日(昼過ぎ)



 キャラベット街道(エメライト王都の門前)





 「見えて来ましたよ、サクヤ様♪」


 大勢の人がごった返す街道の中を、イリスが人をかき分けて進み、異世界の勇者の名前を呼ぶ。


 だが、呼ばれた本人は頭を隠す程の大きな帽子と制服の上にマントを羽織っていたが、彼は“今の状況”に体を震わせている。


 「……何故」


 空を見上げて、暗い表情で彼はあることに疑問に思っている。


 「サクヤ様…どうかなさいましたか?」


 さっきから呼びかけているのに応答のない朔夜にイリスは戸惑っている。


 「…………何故だ」


 「何故?」


 その場で朔夜は膝をついて崩れ去る。その動きに周りの通行人が、奇異の目で見られているが本人はそれ処ではない。


 「……何故、“何も無い”んだよーー!!!」


 朔夜の叫び声が大きく響き渡る。それを聞いて数多くの人が朔夜との距離を離す。そして、朔夜の近くにいたイリスも周りの通行人の注目の的になっているため、かなり恥ずかしい。それに耐えかねたイリスは朔夜に呼びかける。


 「サクヤ様! 早く立ってください!! このままでは私達かなりの変人扱いになりますよ!!」


 いつもより焦っているイリスだが、今の朔夜はというと…


 「何故なんだ、イリス!! 普通なら道中旅をして約一日で、突発的なイベントが起こるハズだろ!! それなのに全っ然何も起こらないどころか、魔物一匹でないとはどういうことなんだ!? メインイベントが無いだけでなく、サブイベントすら無いなんて、経験値を溜め込む事すら出来ないなんてありえない!! 俺なんか選択し間違えたか!? 何か大切な見落としをしていないか!? 何処かで困っている子供とかいなかったかな!!? なあ、イリス!!!?」


 「ありませんよ、サクヤ様!! そんなサクヤ様が考えているようなイベントはありません!!」


 そう朔夜達は街道を地道に歩き、五日経った現在に…ついにエメライト王国の王都に“何事”もなく到着した。

 日の出が登り、朝食を済ませ、街道を歩き、昼食に休憩し、また街道を歩き、日が沈む前に寝床を探し、夕食を済ませ、日が沈むと眠る。そして日の出が登ると…

 このサイクルが五日間続いた。道中危険な事は全く無く、盗賊や魔物の姿の影さえなかった。朔夜は常に警戒心を剥き出しにして、通る旅人に殺気を出していた(だが旅人達は気付かない)

 そして五日後の今日ついにエメライト王都の門に着いたのを見て、朔夜は壊れた。


 「いや…ありえない! 普通なら十歩くらい歩けばエンカウントで魔物とぶつかるハズなのに…」


 「サクヤ様! ここを何処だと思っているんですか!? ここは世界で一番安全と言われている街道……キャラベット街道ですよ! 普通ならスライム一匹でもいたら、かなり珍しいくらい魔物がいない平和な道なんですよ!!!!」


 「じゃあ、俺の経験値集めはどうなるの!? 王都に着いたのに全く成長してないよ!! …やっぱりここは一回引き返して、宝箱を見つけながら魔物と戯れに…」


 「何処に行くのですか、サクヤ様!? もう王都まで目と鼻の先ですよ!!!! それに人通りの多い街道にそんな宝箱なんてある訳ありません!! 合ったら皆取ってますよ!!!!」


 二人の話が苛烈さを増そうとする時、門の所にいた全身に鎧を着けた兵士が二人の前に立つ。


 「コラ、お前ら!! 王都の門の所で何をしている!! これ以上騒ぐようなら王都行きを牢屋行きに変えるぞ!!!!」


 「「えっ!!」」


 兵士の言葉に、朔夜とイリスは固まる。流石に牢屋に入れられるのは嫌な為、二人はすぐに争いを止める。


 「王国の入口で騒がせてしまい、申し訳ありません!!」


 「元々は俺が騒いでいたんです。ごめんなさい!! ですから牢屋行きだけは何とぞ、お慈悲を!!」


 懸命に謝る異世界人兼勇者と仕立て屋兼精霊使い。それを見た兵士はため息をつく。


 「まあ“今の時期”は君達のように昂っている人は多くいるから、今回は不問しよう」


 「「ありがとうございます!!」」


 「ああ、だが次は気をつけろ!“祭り”だからといって、私達の仕事を増やさないでくれ。それとついでに入場手続きをしてやろう。お前達のギルドカード又は身分証はあるか?」


 兵士の言葉に朔夜は心臓が跳ね上がる。異世界から来た朔夜はギルドカード処か身分証すらない。

 入れないのでは? と思った朔夜だがイリスは間に入り…


 「すいません、兵士さん。私達初めて来る田舎者ですので、どちらもありません。ですので、身分証の発行をお願いします!」


 「発行だな。では、名前と職業を言え。書類には私が書いてやる」


 「はい、わかりました!」


 と、兵士に自分の名前と職業を答えていくイリス。身分証なのにそんな簡単でいいのか、と朔夜は思った。

 イリスの話が終わると、兵士は朔夜の前に立つ。


 「で、君の名前と職業は?」


 「俺ですか? 俺十六…いえ、サクヤ・イザヨイといいます。職業は……なんだろう?」


 逆に問われてしまい、兵士はため息をつく。


 「まあ…君のような子はいない訳ではないが、あまりあの子に迷惑をかけるなよ。あまり遊んでばかりでは、将来後悔する事になるかもしれないからな!」


 「えっ…いや、あの」


 書き終えると兵士は屯所の方へ戻っていく。そして朔夜の横にいたイリスが小さな声で語りかける。


 「どうやらサクヤ様を“遊び人”と勘違いしてるようでしたね」


 「まあ実際、職に就いてないから仕方ないけどな。それより、さっきあの兵士が言ってた“今の時期”とか“祭り”ってなんだ? 何かあるのか?」


 「それは王都に入ればわかりますよ、サクヤ様♪」


 意地悪い顔をしてイリスは朔夜に言う。朔夜はかなり気になっていたが、屯所に戻った兵士が帰って来た。さっきの兵士の威圧に恐怖してか、二人は背筋を伸ばし会話を止めた。

 兵士は朔夜達に名刺のような白いプレートを渡す。


 「よし、これが身分証だ。次からエメライト王都に入る時はこれを使え。まあ入る時に荷物検査等を受けるが、それは仕方ない事だ」


 「今回はいいのか?」


 「今の時期は王都に観光客がわんさか来るから俺達の兵士だけでは、対処が難しいんだよ。お前達も観光に来たんだろう?」


 「えっ! いや俺達は「はい、そうなんです! 私、一度でいいからグロープ時計台を見て見たかったんです!」


 朔夜が話していると、イリスがまたしても間に入る。それを聞いて兵士は納得する。


 「そうか時計台を見にな。あれはエメライトを代表する建造物の一つだ。門をくぐれば、すぐに見えるぞ」


 「そうなんですか!? 楽しみです!」


 「そうか、楽しんで来い。明日にあるパレードも見物だ。しかも…『エメライトの宝石』といわれている王女様も見に来られる。良かったな……私はここいるから見れないが…」


 盛り上がっていた筈の兵士がいきなりテンションか下がってしまった。兵士から微かに「あそこでパーを出していれば勝っていたのに…」と声が聞こえる。その姿を見て、朔夜達は哀れだと思ってしまった。


 「では、サクヤ様。時間もありませんし、行きましょうか!!」


 「そうだなイリス!! 早く行こうか!!」


 「……楽しんでこいよ…しくっ…しくっ…」


 ついには泣き声が聞こえる。顔は見えないが多分涙目のだろう。それを聞こえないフリをしてその場から、駈け足で走り去る朔夜とイリスだった。




はい、何もなかった勇者ご一行でした!


だが、次からは果たして…

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