決意は約束に…
やっぱり短いし、そんなに進まない。
多分これからは、このくらいの文量になるのかな?
あれから夜が明け、日がうっすらと昇る。その日の光に朔夜は目が覚める。普通ならまだ眠っている時間だが、昨日から眠り過ぎているため、朔夜はいつもより早く目を覚ましてしまった。
「……こんなに早く目が覚めるのは何年ぶりだろうか…」
いつもの彼なら深夜までゲームや漫画をしているため、朝のこの時間帯は確実に眠っている。
朔夜は自分に被せていた布を畳み、周囲の状況を観察する。夜の時は暗闇で殆ど見えなかったが日が出て周囲が明るくなる事で、周囲の状況が分かる。
朔夜がいるのは昨日も確認したように、草木が生い茂る草原だった。だが規模は朔夜が考えていたより遥かに広く、地平線のように広がっている。
「流石はファンタジー世界。見事なまでの大草原だ…。これはもうドッキリとか嘘ってレベルじゃない」
朔夜は異世界に来た事に実感しながら後ろを振り向くと少し離れた場所に街道らしき道が見える。
「そういえば…イリスは『王国に行く街道』を歩いていたって言っていたな。あれがその街道か?」
街道はアスファルトのように頑丈に出来ていないが、デコボコは一切なく綺麗に整備されている。
そして街道の反対側には森が広がっている。
「森…そうか、昨日いた森はあれか…」
森での出来事が朔夜の頭の中で駆け巡る。
初めて異世界に来て、
初めてのイリスに会って、
初めて自分を受け入れてくれて、
初めて魔物を見て、
初めて剣を取って、
初めての戦闘して、
初めて…ではなく、“また”負けてしまった。
特に最後の出来事が朔夜の頭の中から消えない。まるで録画したビデオテープのように何回もリピートされていく。そんな事を考えていると後ろからイリスの寝起きの声が聞こえる。
「ふわぁ~…。んん~良い朝です…♪」
「イリス…」
「うん? あ……サクヤ様!! おはようございます…じゃなくて、お怪我の方は大丈夫ですか!?」
「えっ…あ、怪我!? うん、もう大丈夫だよ。もう痛みは無くなっているし」
朔夜は昨日ゴブリンに傷つけられた所を見ると不思議な事にあんなに腫れていた足も綺麗に治っていた。もしかしたらこれが異世界の力…自然治癒が上がっていたのでは? と思った朔夜だが…
「それは良かったです。昨日サクヤ様倒れた後に、私が持っていた薬草を傷に練り込みました。 傷はそれほど酷くありませんので、薬草を塗れば“普通の方”でも“一日もかからずに”回復すると思っていましたが、回復してなによりです!」
「ああ…そう…なんだ…。うん、…ありがとう…」
自然治癒の向上は全く関係ない事は分かった。そして異世界者の力でないことに朔夜は落ち込む。
とりあえず朔夜は昨日の件について謝罪をする。
「イリス…あの、助けてくれてありがとう…。ごめんな。“あんな失態”をして…」
「サクヤ様…いえ、私の方こそすいません。私が戦いを勧めたばかりにサクヤ様に傷を負わせてしまって…。私…どう謝罪すればいいか」
イリスは頭を下げて、朔夜に謝る。その光景に朔夜は固まる。今回件でイリスが謝ることなんてない。
「別にイリスのせいじゃないよ。俺がゴブリンを雑魚扱いしたのが間違っていたんだし…」
「いえ、サクヤ様はまだ異世界から来たばかりで、まだ何も知らない内に私がお願いして戦闘などをさせたばかりに、サクヤ様に怪我を…」
(それは確かに…いや、そんな事思ったら駄目だ!!)
確かに戦闘するように促したのはイリスのせいになるのかも知れないが、それは朔夜が異世界者と分かった上で戦闘をさせたのだ。異世界者はとてつもない力を秘めていると前の勇者が証明しているため、ゴブリンくらいの魔物なら倒せない訳がない。
それにゴブリンの戦闘力は普通の冒険者でも軽く倒せるレベルであるため、例え戦闘経験がない朔夜でも倒せるとイリスは思っていた。だが、現実は甘くはなかった。
そんなイリスは涙を溜めて、朔夜を見る。その表情は嘘偽りはない真剣な目で朔夜に許しを願っていた。そんな表情をされては朔夜は許す以外の道はない。
「ごめんな、イリス…心配されて」
「いえ、そんな事ありません! 全ては私が…」
「いや、俺のせいだよ、イリス。俺が…“君の憧れた勇者”なら、あんな敵なんか一撃で仕留めなきゃ駄目なんだよ。ごめん……君の望んだ勇者になれなくて…」
「サクヤ様…」
朔夜の中で悔しさが溢れた。これまでも辛い事があった多くあったが、今回の事が一番辛かった。必要としてくれた人の思いを裏切ってしまった。
だからこそ、朔夜は思う。もうこんな思いを、自分を信じてくれた人を裏切りたくなかった。
「イリス…俺、決めたよ…!」
「…何を…ですか?」
「俺は…君が憧れて、望んで、願っていた勇者に必ず成ってみせる!! どんなに厳しくても、どんなに険しくても、どんなに人から馬鹿にされようと…必ずイリスの“求めた勇者に成る”!!」
「サクヤ様…ありがとうございます……」
イリスは朔夜の手を取る。一瞬朔夜の顔が赤くなるが、イリスの涙が溢れた笑顔で正気に戻る。
「俺はさ、向こうの世界でも弱かったんだ。だからいきなり強くなれないと思うし、さっきの戦闘みたいに負ける事が多々あるかも知れない。でも、いつかきっと…」
「はい、待ちます! サクヤ様が胸を張って勇者と呼ばれる日を…待ってます!」
「ありがとう…。今度こそ約束するよ、イリス! 俺は必ず“この約束”を守るよ!!」
“この約束だけは守りたい”。例えどんな事があろうとイリスと交わしたこの約束を守っていくと決めた朔夜だった。
「…そして、これは俺の我が儘なんだけど…暫く一緒に旅をしてくれないかな? 俺…全くこの世界の事を知らないから…」
「私なんかで良いのですか、サクヤ様?」
イリスの言葉に朔夜は頷く。
「俺はイリスと一緒に旅をしたいな。こんなにも弱くて、頼りない勇者だけど…駄目かな?」
「そんな…私なんかじゃ勿体無いくらいです。私からもお願いします。どうかサクヤ様と一緒に旅をさせて下さい!」
イリスは笑顔で朔夜に同行をお願いした。その言葉に朔夜は嬉しかった。
―自分と一緒にいてくれる―
それだけでも、朔夜はこの世界で頑張れる気がした。今までに無い力が、朔夜の中から生まれるような感覚さえ今の朔夜には感じ取れた。
「それじゃ、宜しくなイリス」
「はい、宜しくお願いします、サクヤ様。サクヤ様の足手まといにならないように気をつけますので、側にいさせて下さい」
「うん、ありがとうイリス。でも、そこまで気をつけなくてもいいよ…。なんか悪い気がする…」
イリスの発言に色々と戸惑うが、朔夜は共に旅をしてくれるイリスが頼もしく見える。
「さて、イリス。早速だけど、昨日俺が気絶した後の事を教えてくれる? 昨日ゴブリンにやられた後からここにいる訳を…」
「はい、分かりました。では、朝の食事をしながらでも話しますね。それに、これからのサクヤ様の事もゆっくり話し合いましょう」
イリスは食事の準備をする。朔夜も食事の準備をしようか迷うが、手伝える事が少ないと判断して、イリスを待つことにした。
次回からは、この世界の説明などを書いていくでしょう。
では、また( ̄▽ ̄)ノ




