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怪力魔法ウォーリア系転生TSアラサー不老幼女新米侍女  作者: Leni
第五章 内廷侍女

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79.喪失惑星ESP系起死回生トラベラー<1>

 巨大な飛空船に馬車ごと乗り込んだ私達は、飛空船内にある広いホールへと集まっていた。

 そこで『幹』側の乗船メンバーと顔合わせだ。


「アルイブキラの皆様、ようこそいらっしゃったでござる。拙者はこの大型探査船の船長、アセトリードと申す。アセトとかトリーとか気軽に呼んでほしいでござるよ」


 まず初めにアルイブキラの言語で挨拶したのは、ゴーレムボディの元勇者アセトリードだ。

 彼は元勇者であり、元魔王だ。魔王討伐戦で魔王ボディから魂の記憶を救出してから、『幹』にて惑星探査の任に就いていたようだが、今回の旅行でも宇宙船の船長を務めるらしい。


 そして次に前に出てきたのは、これまた見覚えのある道具協会の制服姿をした女性だ。


「道具協会所属のリネですー。今回は、惑星に失われた文明の道具を探しに同行しますー。皆さんよろしくお願いしますねー」


 その二人の挨拶する様子を眺めていた国王が、代表して挨拶をする。


「アルイブキラ国王のアン・サリノジータ・バレン・ボ・アルイブキラだよ。愛称はノジーさ。気軽に呼んでね。名高い勇者様とその仲間に会えて光栄だよ! 今日は残りの仲間二人はいないのかな?」


「エンガ氏、ミミール氏の夫妻は、ミミール氏の妊娠が判明したので不参加でござる。皆が揃う機会であったのに、残念でござるなぁ」


「おや、ご懐妊とはおめでたいねー」


「ミミール氏も二人目の子供で少しは落ち着いてくれれば嬉しいでござるな。さて、他のメンバーを紹介していくでござるよ」


 そうして、アセトリードにより蟻人の乗船クルーが五人紹介される。全員似たような蟻の顔で、同じ『幹』風のぴっちりした服を着ているので見分けが付かない。困るなぁ、こういうの。


「そして、このちっこいのが、女帝陛下でござる」


「うむ! 大地の安全がおおよそ確認されたので、今回は我も参上したのじゃ。旅行など何百年ぶりかの。気軽に女帝ちゃんとでも呼んでほしい」


「安全とは言っても、まだまだ混沌の獣が大地を闊歩しているでござるが」


「無敵最強魔導ロボットを三体も連れてきたのじゃから、問題はないじゃろ」


 混沌の獣? なんだ、それは。


「すまない。混沌の獣とはなんでしょうか。危険な生物なのですか?」


 近衛騎士のオルトが、私と同じく気になったのかそう女帝に尋ねた。

 無敵最強魔導ロボットがいるとは言っても、彼ら近衛騎士達は王族の安全を確保するのが仕事だからな。


「ふむ。まず大前提として、惑星フィーナは二千年の昔、魂喰らいの宇宙怪獣に襲われたという歴史から始める必要があるのじゃ」


 世界樹教の聖典の一つである大地神話、そこに語られている魂喰らいの悪獣のことだろうか。しかし、宇宙怪獣って……。怪獣と日本語訳しているアルイブキラの国の単語、おとぎ話にしか使わないと思っていたぞ。


「その宇宙怪獣は、星の原初の力、混沌の力を持つ獣であった。その息吹により、惑星フィーナの世界要素は混沌に汚染され、地表が原初の混沌に覆われてしまったのじゃ」


 私は以前、『幹』の秘密区画で惑星フィーナの外観を立体ホログラムで見せてもらったことがある。その惑星は、黒い雲のような物で地表が覆われていた。あの黒い雲が、混沌なのだろう。


「我々は惑星に人の善なる気を撃ち込むことで、原初の混沌から人の世へ惑星を戻してきた。そして、前回の善人砲発射で、大陸一つの混沌が払われたのじゃ」


 以前私も参加した、魔王討伐戦の成果である。


「大地から混沌は消え、元の大陸を取り戻した。今は大陸に結界を張って、外の混沌が流れ込まぬようにしておる。じゃが、大地から混沌が払われても、混沌に汚染された生物が未だしぶとく大陸を闊歩しておる。世界要素……すなわち魂は混沌から取り戻したのじゃが、魂が宿っていた器は混沌のままというわけじゃな」


「汚染された生物ですか……どうも危険そうですが……」


 オルトが心配そうに言う。世界樹にいる魔物とは、根本的に違う存在なのだろうな。


「体が混沌でできていて、混沌を糧として生きる以外は普通の生物と同じじゃ。人を襲う獣もおれば、安全な獣もおる。まあ、草や肉を食っても糧とはならんので、放っておけば皆衰弱していくという観測結果なのじゃがな。魂も持たぬから知能も低い」


 全部衰弱死してから旅行を計画すればいいと思うのだが……まあ、大地へ帰るのは女帝の悲願らしいからな。気が逸ったのだろう。


「一部の超大型以外は、これから向かう都市の機能で排除できるし、無敵最強魔導ロボットもおる。安心してくれていいのじゃ」


「解りました。ありがとうございます」


 女帝の説明に、オルトは納得して一礼した。

 ふむ、私からも一つ女帝に尋ねておくか。


「私からも質問いいかな?」


「おお、キリンか。なんじゃ?」


「なんで旅行の行き先を王族以外に伏せていたんだ?」


「ただのサプライズじゃ! 主におぬしに向けたな! 普段から女帝ちゃんホットラインで、惑星のことをいろいろ話しておったじゃろ? 行けるとなると、驚いてくれると思ったのじゃ!」


「ええー……。惑星フィーナが極秘区画だからとかではないのか」


「地表の動植物の環境が整ったら、各国の重鎮に存在をお披露目するつもりじゃから、別に極秘でも機密でもないのじゃ」


 女帝の回答に、私は肩をがっくりと落とした。

 私に向けたサプライズか。これは、行き先を察せられなかった私が、鈍かったということかね。

 旅行に連れていく侍女はパレスナ王妃が決めたのだと思っていたが、これはサプライズを知っていたであろう国王が決めていた可能性が高いな。

 国王の方を見ると、にかっと笑顔を返された。うぬう。


「キリンは大陸再生の功労者の一人じゃからな。そんなおぬしをいたわるために、惑星旅行に真っ先に招待したのじゃ。ギリドゼンのやつに聞いたところ、魔王討伐戦の参加に乗り気じゃなかったらしいの? おぬし個人へのせめてもの報酬というやつじゃ」


 なるほど。私が魔王を浄化したことで、アルイブキラには『幹』からは惑星由来の稀少金属が下賜された。私個人への報酬は国から金一封が与えられたのだが、『幹』からは特に何もなかった。今になって、報いを与えるということなのだろう。


「ノジー夫妻の新婚旅行とかいうものと、ナギーの治療はまあそのついでじゃな」


 先王の治療? ああ、世界樹から離れることで、樹人化症が治るというやつか。


『世界樹の保護領域より離脱します。ご注意ください』


「おお、とうとう世界樹から本格的に離れるようじゃ。さすが最新の宇宙船は速いのう」


 アナウンスが船内に響き、女帝が嬉しそうにはしゃぐ。

 そう、この会話の間にも、私達の乗る宇宙船は惑星フィーナに向けて飛んでいたのだ。

 前世では宇宙旅行など夢のまた夢だったが、まさかこんな形で実現するとは思わなかった。


 前世の子供の頃は宇宙飛行士になるなどと、兄がしきりに言っていたものだがなぁ。と、そんな感慨深い思いをしているときのことだ。


『いってらっしゃい!』


 そんな言葉が、突如頭の中に響いた。


「えっ……」


「ん? どうしたのじゃ、キリン」


 思わず漏らしてしまった声に、女帝が反応する。

 私の声は音声魔法で思考を音に変えているので、こういった声がどうにも漏れやすい。


「今、突然頭の中に『いってらっしゃい!』という言葉が響いてな……」


「ああ、世界樹の声じゃな。いわゆる神託じゃよ」


「これが神託……」


 何故、世界樹は、私に声などかけたのか。今まで私は神託など受けたことはない。世界樹教への信仰心などもないし。


「がはは! もしやキリン殿は、神託は初めてか! めでたいのう!」


 先王が私の隣に来て、強く肩を叩いてくる。世界樹を深く信仰している先王なら、普段から神託も聞いていそうだな。


「キリンと世界樹のやつの相性がいいのじゃろうな。それなら、これから起きることもよく感じ取れるじゃろう」


「ん? って、うわ……」


 女帝の意味深長な言葉を聞いていると、突然、力が抜けた。

 体にみなぎっていたはずの何かが、スッと抜け落ちたような感覚におちいり、思わず膝をついてしまう。


「わはは。世界樹の祝福が、効果範囲外になった影響じゃな。キリンは庭師として、様々な祝福や加護を世界樹から受けておったようだからのう」


「ああ、そういう……。確かに色々受けていたよ」


 私は軽く気合いを入れ、立ち上がった。祝福は失われたが、庭師として大成するより前はそんなもの一切無く生活していたのだ。動けなくなるようなものではない。


「拙者なんかは特大の祝福を受けているでござるから、毎回なかなかつらいでござるよ」


 と、ゴーレムボディの元勇者アセトリードがそんなことを言う。肉体も魂もない記憶だけの存在なのに、世界樹の祝福が効いているって不思議だな、こいつ。

 他のメンバーはというと……パレスナ王妃、国王、王太后、侍女一同、あと近衛騎士の皆はけろっとしている。

 だが、先王は一人、膝を突いて涙を流していた。


「うおお……神の祝福が失われた……。なんという喪失感なのだ……」


「やれやれ、世界樹から離れるのは治療の一環なのじゃから、早々に慣れてもらわんとの」


 先王の様子に女帝は、肩をすくめている。

 女帝になだめられた先王、さらに王太后にあやされてようやく立ち上がった。

 その様子に安心した女帝は、その場で片手を上げた。


「さて、ここから先は宇宙……つまり、世界樹でも大地でもない、何もない空間を進む。旅行の最初の見所じゃ!」


 女帝が指を鳴らすと、宇宙船の壁、天井、そして床が透明に透きとおり、宇宙船の外、すなわち宇宙の様子が映し出された。

 黒く何もない空間。そこに、膨大な数の星々の光が輝いている。


「世界樹に住んでいては見えぬ、星空じゃ。たんと眺めておくのじゃ」


 その美しい光景に、アルイブキラの面々から、わあっと歓声が上がる。

 星の海。そして、段々と遠ざかっていく……月だ。


「陛下! あれ! あれが世界樹なのかしら!」


 パレスナ王妃が国王の腕を取りながら、楽しそうにその月を指さす。

 その月からは……巨大な木が生えていた。太い幹があり、枝があり、その枝の上に大地が載っている。青々とした木の葉は生えていないが、まさしく木であった。あれが、世界樹か……。どうにも、月の半分くらいの大きさがあるように見える。自転とかよく狂わないな。

 そして、そんな巨大な木の側面にある、巨大な砲身が目立つ。あれが善人砲だろう。


「世界樹って、あんな形をしていたんだねぇ。世界樹教のシンボルは普通の木のマークだけれど」


 国王も感心したように世界樹を見つめる。

 そんな人々の様子を女帝は満足そうに眺めると、こちらを見て口を開いた。


「ほら、あっちは惑星フィーナじゃぞ。浄化された大陸がしっかり見えておる」


 女帝の指が指し示す方角には、青と黒のまだら模様をした惑星が鎮座していた。そして、惑星の真ん中に見える巨大な大陸には、黒い模様はかかっておらず、代わりに白い雲が渦を巻いていた。

 雲かぁ。あれも、世界樹にはないものだな。雨は天候管理システムが魔法陣から降らせるものだったからな。

 私達は、そんな未知の星と宇宙の様子を楽しく眺めるのだった。


「しかし、宇宙を進んでいるというのに、重力制御しっかりしているなぁ。宇宙船と言えば、無重力かと思っていたよ」


「なんじゃキリン。いつの時代の話をしておるのじゃ。そんな船はもう骨董品レベルじゃぞ。世界樹の地上も重力制御されておったじゃろう」


 私のつぶやきに、女帝が反応する。

 そうか。世界樹は月に生えている。それでいて地上の重力は月のそれじゃなくて、人の住める惑星レベルの重力だというのだから、世界樹全体が常日頃から重力制御をされているということか。


「でも、無重力体験もしてみたいものだな」


 重力魔法は自前で使えるが、宇宙を行く宇宙船内で無重力というものも体験してみたかった。一人でやっても迷惑になるだけだろう。


「それはいいのう! よし!」


 女帝は、蟻人の乗船クルーのもとへと向かい、何やら指示を出し始めた。そしてその場で手を叩いて皆の注目を集める。


「これから皆には、無重力というものを体験してもらうのじゃ。重力とは物が空の上から大地の下に落ちる力じゃが、今、我らの足元には大地がない。よって、本来は重力が存在しないのじゃ。今は擬似的に重力を発生させておるが、それを無くすとどうなるか……是非楽しんでもらいたいのじゃ」


 女帝がまた片手を高く掲げて、指を鳴らす。すると、段々と体にかかる力が失われていき、体が軽くなった。

 おお、これが無重力! 不思議な感覚だ。

 そしてまた女帝が指を鳴らすと、床からポールが複数生えてきた。手すり代わりに使えということだろう。


「このホールは無重力空間になったのじゃ! わはは! 皆、楽しんでくれたも」


 ひょいと飛び跳ね、慣性のまま天井に向かって真っ直ぐ進みながら、女帝が言う。女帝本人が早速楽しんでいる。


「あわわわわ、体が浮きます……」


 先ほどまで隣に立っていた侍女のメイヤが、宙に浮かんで手足をバタバタとさせている。


「キ、キリンさんー。助けてくださいまし!」


「おおう……」


 せめて最初は、低重力から始めるべきだったかもな。

 私は、軽く床を蹴ってメイヤに近づいていき、その手を握ってやった。


「メイヤ、落ち着いて。動けば動くほど、変な方向に飛んでいってしまうよ」


「あわわわわ……」


 床を蹴った力で、私とメイヤはゆっくりと天井方向へ飛んでいく。そして天井につくと、天井を蹴って床へと降りた。

 私も無重力は初体験だが、意外と上手くいくものだ。


「はわー、ちょっと楽しいかもしれませんわー」


「それはよかった」


 そうして漂うこと二十分ほど。女帝が飽きたのか、合図を出して少しずつ重力を戻していき、皆床へと戻った。床から生えていたポールも引っ込んでいく。


「いやあ、楽しかったのじゃ。無重力など、何千年ぶりに体験したかの」


 女帝陛下が楽しそうでなによりです。


「では、着陸まではまだかかるので、食事にしようかの」


 またもや女帝が合図を出すと、床からテーブルと椅子がせり上がってきた。

 そして、宙を浮くワゴンがホールへと入室し、テーブルの上に皿を自動配膳していく。


「さ、席に着くのじゃ。食事は『幹』名物、ペースト型完全栄養食なのじゃ」


 女帝に促され、皆席へとつく。私はメイヤと一緒に、国王と先王夫妻の連れてきた侍女と固まって一つのテーブルに座った。彼女達王族付き侍女も、普段から侍女宿舎で顔を合わせている仲なので、見知ったメンバーだ。


「これは……食事なのでしょうか?」


 メイヤが皿を前に、困惑したように言う。以前、世界樹トレインでも食べた、ペースト飯である。歯磨き粉のようなペーストを皿に平らに盛った料理だ。私達のような動物人類種でも、蟻人達のような昆虫人類種でも、種族関係なく食べられる万能食品である。


「味は保証するよ。さ、いただこう」


「はい、では、アル・フィーナ。……あら?」


 祈りの言葉を言ったメイヤ達侍女が、不思議そうに首を傾げる。


「ははは、ここはもう世界樹の加護から離れた場所なのだから、聖句を告げても光りはしないよ」


「そうなのですね……世界樹を離れたと、ようやく実感したかもしれません」


 そして私達はスプーンを手に取り、ペースト飯を口にした。


「あら、美味しい……」


「本当……。すごく深い味わいがあるわ」


 侍女達は未知の食事を前に、楽しげに食事を進めた。

 ペースト飯、好評のようだ。見た目と食感は微妙だけれど、美味しいからな。食べ進めると味が少しずつ変わるし。

 談笑しながら食事を進め、やがて皆の皿が空になった。


「面白い食事でしたわね。『幹』の料理は他にどんなものがあるのかしら」


 そんな会話で盛り上がる侍女達。

 そして、他の席でも食事が終わったのか、空浮くワゴンが皿を自動回収していく。


 女帝も食事を終えたらしく、席から立ち上がり、皆から見える場所へと移動し、そして口を開いた。


「うむうむ、皆満足してくれたようじゃの。これから毎食このペースト型完全栄養食を出すので、食事時を楽しみにしてくれたも」


「……えっ、ちょっと待て」


 さすがに聞き流せない言葉に、私は思わず女帝に声をかけた。


「なんじゃ、キリン」


「毎食ペースト飯なのか?」


「うむ」


「いや、それはちょっと、あれじゃないか。さすがにないだろう」


「なんでじゃ!? 毎食味は変えるぞ」


「いや、でも毎食同じ食感のペーストは、飽きるだろう。旅行の日程は二週間だったよな。確実に飽きる」


「そんなことないのじゃ。完全栄養食じゃぞ!?」


「栄養や味の問題じゃなくて、見た目の形とか食感とかの問題だよ」


「そうなのか。ううむ……」


 女帝は難しい顔をして腕を組み、うなった。

 女帝は人の姿に化けてはいるが、本質は蟻人だ。もしかすると、あのペースト飯が一番しっくりくる、彼女にとっての主食のようなものなのかもしれない。


「食材はペーストしかないのか?」


 考え込む女帝に私はそう尋ねた。


「いや、培養肉や培養野菜、培養向日葵麦を宇宙船内で培養して、それを機械でペースト状に加工しておる。おぬしらが連れてきた馬車のメッポー用の餌も、培養飼葉なのじゃ」


「調味料は?」


「培養したのが豊富にあるのじゃ。それも機械に投入しておるよ」


「材料は全部揃っているということか。じゃあ、その材料で別の料理を作ってもらえば……」


「料理人はつれてきておらぬのじゃ。調理機械も、完全栄養食しか作れぬし……」


 うーむ、とまた考え込んでしまった女帝。

 そんな女帝に、アセトリードが横から話に入ってきた。


「すまぬ、皆の衆。拙者が宇宙移動の問題点を挙げて一つずつ解決していっていたのでござるが、拙者、食事が必要ない身体でござるから、食事まで思い至っていなかったでござるよ。旅行のホスト役として大失態でござった」


 ああ、女帝じゃなくて、アセトリードがホスト役だったのか。

 いや、ホスト役と思っていた女帝に、料理に問題があると詰め寄る私も色々とアレだが。まあ、そこは私と女帝の仲だ。気安くしていいと散々言われている。


「すまぬが、毎食ペーストで我慢してほしいでござる」


「いや、待て」


 結論を出そうとするアセトリードに、私はまた待ったを出す。


「材料はあるんだ。ここにいる料理ができるメンバーで、料理を作ればいい。ペースト飯は、一日一回か二回にして」


「料理……作れる人いるのでござるか? まあ、リネ氏はできるでござるが」


「私ですかー。でも、さすがにこの人数を一人では無理ですよー」


 話を黙って聞いていた道具協会のリネが、そう声を挙げる。


「言い出しっぺだ。私も料理をする」


 そう私は、アセトリードに告げた。


「キリン氏、料理できるでござるか?」


「これでも前世は料理人の息子だったんだ」


「料理人だったのではないのでござるな……」


「親の後は兄貴が継いだからな」


 それでも、大人数用の料理は、作った経験がちゃんとある。


「他にも料理できる人は? 下ごしらえ程度でも構わないが」


 すると、近衛騎士が数人手を上げる。第一隊のやつらは、農村出身者とかも多いからな。

 そして、意外なことに侍女のメイヤも手を挙げた。


「実はお菓子作りがちょっとした趣味なのです」


 それは知らなかった。王宮菓子職人のトリール嬢と話が合うかもな。


「はいはーい、野営料理程度なら作れるよー」


 そう声を上げたのは、国王。

 確かに、彼も王太子時代は私と一緒に野を駆けて、野営なんかもやっていたが。


「国王は主賓なので大人しくしようか」


「ええー、面白そうなのに」


 そう私が国王と会話をしていると、女帝が会話に割り込んでくる。


「いや、そうじゃな、面白そうじゃ。我も手伝いたいぞ! 料理などもう何千年もやっておらんがな!」


 ええっ、大丈夫なのかこれは。

 そうこうしているうちに、正式に料理をすることに決まった。宇宙船内に厨房はないため、全ては惑星に到着してからだ。

 かつて人が住んでいた都市に向かうため、そこでキッチンは用意できるとのことだ。


 思わぬ方向に話が転んだが、ちょっと面白くなってきたかもしれない。そう私は思うのであった。


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