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怪力魔法ウォーリア系転生TSアラサー不老幼女新米侍女  作者: Leni
第五章 内廷侍女

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75.マテリアル

 この国における王妃は、国王と並んで国の顔とも言うべき存在だ。

 国王と王妃以外の王族は、ほぼ人前に出ることがない。王宮の奥底に引きこもって国土の調整をちまちまと続ける、研究者のようなものがこの国の王族だ。

 そんな引きこもりの王族と、臣下や国民との橋渡しとなるのが、国王そして王妃だ。


 侍女である私の主は、そんな王妃様である。

 パレスナ王妃が王妃となって一ヶ月弱。私は彼女に付き添って何度か式典に参列してきた。

 本日行われるのも、そんな式典やイベントの一つである。


「いやあ、楽しみだねえ」


 昼の練兵場。そこに、用意された席で国王がのんびりと言う。

 今回行われるのは、赤の宮廷魔法師団による研究成果のお披露目である。

 普段ならば、国王に対しては書類でやりとりされるだけの研究発表。わざわざ国王夫妻を呼んで大々的にお披露目をするのは、とある理由があった。


「キリリンの頑張りの結晶、どうなってるかなー」


 国王のその言葉に、私は王妃の席の横に佇みながら苦笑する。

 確かに今回のお披露目の内容は、私の頑張りの結晶が元だ。


「確か、キリンが持ち込んだ物の研究発表なのよね?」


 パレスナ王妃が国王にそう尋ねる。


「そうだよー。キリリンが魔王を浄化してくれて、その成果として『幹』からすごい金属を下賜されたの」


 そう。数ヶ月前、私は世界の中枢『幹』に協力をして災厄の獣、魔王を浄化した。

 そのとき、『幹』に協力する見返りとして、この世界樹に存在しない、滅んだ惑星から産出される特殊な鉱物を貰えることになった。

 私自身、見たことも聞いたこともない謎の鉱物。国王はそれを魔法宮、すなわち赤の宮廷魔法師団に研究させていたのだ。未知の物質を使った、国益を左右するかもしれない研究発表。それが、国王の前で大々的に披露する理由であった。


 魔法宮は『幹』と連絡の取れる機関だ。

 おそらく『幹』から鉱物の使い方を聞いて、研究に励んできたのだろう。その成果の一部が本日お目見えとなる。


 私は練兵場を見渡す。

 王城の一部であるこの野外施設。広さはさほどでもない。そこに、近衛騎士が散開して国王夫妻を守っている。王城の中で何をそこまで警戒する必要があるのかと思うが、お堅い式典とも思えば一応納得はできた。


 国王夫妻の席とは別に、王宮の官僚達の席も用意されている。今回は重要品目ゆえの国王へのお披露目という名目だが、お披露目された物は官僚達が実際の運用等を考えるのだろう。

 練兵場の隅には、その物品が布を被されて隠されている。

 別に隠す必要はないと思うのだが、様式美というやつだろうか。


 そんな様子を眺めているうちに開始の時間になったのか、国王の秘書官が前に出て、開始の宣言をする。


「それでは、特殊金属のお披露目を執り行います。今回のお披露目は、昨年七月に行われた魔王討伐戦にて、我が国の代表者が目覚ましい活躍をしたことにより――」


 と、秘書官が今回の経緯を説明していく。

 そして、秘書官が言うには、研究開始からもうすぐで一〇〇日が経つので、試験的に成果発表を今回行うということだ。


「それでは、特殊金属一番からお披露目いたします」


 秘書官がそう告げると、宮廷魔法師が練兵場の中央に台座を運び、その台座に金属のインゴットを載せる。

 台座から魔法師が離れると、魔法師が今度はインゴットに向けて手をかざした。すると、インゴットから空中に向けて、紫電がほとばしった。

 おお、いきなりすごそうな金属がきたぞ。


 インゴットから放電が続き、空気を切り裂くような特有の音が鳴り響いている。

 その光景に、官僚達の席からどよめきが起こる。


「特殊金属一番、雷の力を溜められる金属です」


 秘書官がそうこの金属について説明した。

 なるほど、蓄電池のすごいバージョンか。今も放電し続けているから、容量は大きいのだろうな。


「雷ってなに?」


 席に座ったままのパレスナ王妃が、そう疑問の声を上げた。

 この世界では雨は降るが、雷は降らない。天候管理の賜物だろう。だから、雷は身近なものではない。パレスナ王妃が知らないのも当然であった。

 そんな疑問に答えるのは、王妃の隣に座る国王だ。


「雷っていうのは、あのばりばり光っているやつだね。主に攻撃用途の魔法で使われるよ」


「攻撃の魔法ってことは、あの光っているのは危険ってことね」


「そうだね。冬に毛糸の服を脱ぐときにバリってするよね? あれがすごい強くなったものだよ」


「ああ、あのバリっとして痛いやつね。なるほど!」


 この世界で、電気の平和利用は存在しない。電気文明じゃないのだから当然だな。

 それゆえ雷とはなんぞやと説明するのが難しいのだが……国王のやつは静電気で上手く説明したな。国王はインテリなだけあって物知りだな。


 そんな会話をしているうちに、放電は止まり、インゴットと台座が片づけられる。代わりに、金属球が取り付けられた台車が運び込まれ、そこから離れた場所に射的の的のようなものが置かれる。

 それに合わせるように、弓矢を持った兵士が入場した。


「特殊金属一番を使った、雷撃の試作兵器です」


 そう秘書官が宣言すると、兵士が弓を引き絞り、的に向けて矢を放つ。

 見事に的へと矢が命中する。すると、兵士は一礼すると退場していく。


 そして次に、台車を運んできた宮廷魔法師が台車から距離を取り、台車へと手をかざす。

 次の瞬間、雷鳴が轟いた。

 太い稲妻が、台車の金属球から的に刺さった矢に向けてほとばしったのだ。

 稲妻が命中した的は、大きく破損し炎上し始めた。


 強烈すぎるその一撃に、観覧席の官僚達、そしてパレスナ王妃は首をすくめている。

 一方、国王はというと、何事も無かったかのように、笑顔で雷撃を放った台車を見つめていた。


「いやー、すごいね。説明お願い」


 国王が秘書官に説明を促すと、秘書官は頷き言葉を続けた。


「金属の矢に向けて、強烈な雷の一撃を放つ兵器です。巨獣討伐への使用を想定しています」


「なるほどなるほど」


 国王は満足そうに頷いた。

 そして、衝撃から立ち直ったパレスナ王妃がまたもや疑問を投げかける。


「矢がないと駄目なの?」


「現状、矢は必要なようです」


 秘書官が問いに答えた。

 あの矢に誘雷したのだろうが、一度矢を命中させる必要があるのは、兵器として問題がある。


「うーん、前に宮廷魔法師が使ってた攻撃用の雷は、何もなくても真っ直ぐ標的に向かっていたはずだけど……。キリリン分かる?」


 そう国王が私に話題を振ってくる。ううん、今の私は侍女であって、技術顧問とかではないのだけれどな。仕方なしに私は答える。


「雷の魔法は高度な魔法です。雷というのは空気中では真っ直ぐ進みません。術者は、風の魔法で進みやすい道を作って、その真っ直ぐ進まない雷を上手く誘導するのですよ」


「あの兵器はその風の魔法が使えないと」


「ええ。誘導には高度な計算が必要なため、頭脳部の存在しないあの兵器では、風の道を作ることができないのでしょう」


「なるほどなー」


 そう説明している間にも、魔法師の手により的の火は消し止められ、台車が撤去されていく。

 その様子を眺めながら、国王が言った。


「この特殊金属があれば、キリリンの言っていた電気文明の再現ができそうだねぇ」


「電気?」


 これまた聞き慣れない言葉だったのか、パレスナ王妃が疑問符を頭に浮かべた。

 私は横から、簡単に説明する。


「雷の持つ力やエネルギーのことです。色々な物を動かす動力になります」


「ふうん、雷の力の文明……。キリンの前世のことよね? 火も魔法も使わない照明のおかげで、眠らない街があるって。それって、この雷の力を使っていたのね。確かに明るいわ!」


 いやあ、雷の発光現象と、電気文明の照明はなんの因果関係もないのだけれども。いや、蛍光灯は関係あるんだったか。

 私自身よく分からないのでそこには突っ込まずに、私はパレスナ王妃に向けて言った


「このような金属が産出されていたということは、もしかしたら、滅んだ大地神話の旧惑星では、電気文明が存在したのかもしれませんね」


 私のその言葉に反応したのは、パレスナ王妃ではなく国王だ。


「じゃあうちらも電気研究しちゃう?」


「研究する分にはいいですけど、それを道具として市井に広めようとすると道具協会が止めるでしょうね」


「じゃあなんで『幹』は、そんな文明の礎になりそうな金属を渡してきたんだろ」


「別に電気がなくても、魔法の力だけで高度な文明は成り立ちますからね。一律に禁止してしまえばいいのです」


 私のその返答に、国王は「ふーん」と返す。

 ただまあ、いずれ技術規制が緩和されることを見越して、研究することだけは許す姿勢なのかもしれないな。この世界が抱える土地面積の限界による人口問題は、広大な大地があれば解決するわけだし。すでに旧惑星の大陸の一つは、『幹』の手によって再生済みだ。


「次は、雷の力を最小限に弱めた、暴徒鎮圧用の非致死性兵器です」


 撤去が終わり、秘書官がそう宣言すると、二人の宮廷魔法師が練兵場の中央に出てくる。

 一人は若い魔法師で、緊張の面持ちで立っている。もう一人の中年の魔法師は、片手で持てる杖を携えていた。

 魔法師達は距離を離して向かい合い、中年の魔法師が杖を若い魔法師に向けた。

 すると、杖の先からワイヤーのようなものが射出され、若い魔法師に命中した。


「ぎゃっ!」


 若い魔法師は叫び声を上げてその場に倒れ込んだ。

 そして、飛び出したワイヤーが時を巻き戻すかのように杖へと収納されていく。

 なるほど、いわゆるテーザーガンってやつか。


「うーん、わからん。解説のキリリン、どういうこと」


 国王がそう尋ねてくる。また私かあ。


「雷は空気中より金属の中の方が通りがいいため、杖の先から射出したワイヤーを通じて相手に微少の雷を浴びせ、攻撃したのでしょう。雷の力には筋肉をけいれんさせる力があります。ゆえに、雷を浴びたあの魔法師は動けなくなって倒れてしまったのです」


「へえ、雷って火の力以外にそんな効果があったんだ」


「ちなみに人間の心臓は筋肉でできているため、雷の出力を誤ると心臓が止まって死んでしまいます」


「うへえ。そりゃあ非致死性兵器として成り立たせるには、人体実験が必要そうだね。まいったな」


 そんなことを話しているうちに、魔法師達が退場する。雷撃は一瞬だったためか、若い魔法師も無事に立ち上がり、自分の足で帰っていった。

 そして、秘書官が皆に聞こえるよう言葉を放った。


「以上が、特殊金属一番の研究発表となります。続いて、特殊金属二番です」


 またもや練兵場に台座が運び込まれ、その上に一本の長剣が置かれる。


「特殊金属二番。とにかく固くて強い金属です」


 台座の横に立つ兵士が、台座から剣を手に取り、鞘から剣を抜き頭上に掲げてみせた。刀身は、青く輝いていた。

 その最中にも、秘書官の説明は続く。


「固さというものは脆さと紙一重ですが、これは非常に固いにもかかわらず、とにかく頑丈です。それなりの重さがあるので今回は剣にしましたが、工業的価値も計り知れないでしょう」


 なんとなく頭の中にアダマンタイトとかいう単語が浮かび上がってきた。前世のファンタジーものに登場した頑丈な金属だ。

 そういう類のロマンあふれる魔法金属なのだろう。ちょっと一本この金属で作った斧が欲しいな。


「では、試し切りを」


 その言葉を聞いて、国王が腰を浮かすが。


「陛下は座っていてください。あなた、鉄の剣で鉄の鎧を斬ってしまえるじゃないですか」


 そう秘書官に止められた。

 試し切りに用意されたのは、先ほど話に上がった鉄の鎧だった。それに兵士が青い剣で斬りつけると、鉄の鎧に深く剣が食い込んだ。

 鉄を斬れるような剣筋ではなかったはずだ。だが、実際に鉄の鎧には大きな切れ込みが入った。

 そして、再び掲げられた青い剣には、欠けも歪みも存在しない。それだけ、鉄と特殊金属の間には、金属としての強さの差があるのだろう。


「いいねぇ。一本欲しいねぇ」


 国王もこの金属の武器をご所望のようだ。

 国王は国内最強の戦士だ。あの長剣は献上されるかもしれないな。


「続きまして、特殊金属三番。魔力を流すことで浮遊する金属です」


 またもや台座が運び込まれ、その上にインゴットが置かれる。

 宮廷魔法師が手をかざすと、ふわりとインゴットが宙に浮いた。

 浮遊金属か。雷みたいに見た目派手じゃないけど、価値としてはかなりのものではないだろうか。


 一分ほどインゴットは浮かび続け、やがて魔法師が手を下ろし、台座に着地する。そして台座ごとまた撤収していく。

 やがて、今度は近接武器訓練用の的が運び込まれてきた。

 そこに、短剣を携えた宮廷魔法師が入場する。


「特殊金属三番に魔法陣を刻んで作った、術者の思考で飛ぶ剣の試作です」


 魔法師が短剣を鞘から抜くと、そのまま短剣から手を離した。すると、ふわりと短剣が魔法師の手から浮く。

 そして、くるくると魔法師の周囲を短剣が舞った。

 一通り短剣を舞わせた後、魔法師が指を指すと、その方向に短剣が飛んでいく。上、下、右、左と魔法師が指を指し、短剣はその通りに動く。

 一通り動かしたところで、魔法師は的を指さし、短剣は勢いよく的に向かって直進し、突き刺さった。

 魔法師が指をくい、と曲げると、的から短剣が抜け、魔法師の手元に短剣が返ってくる。そして、魔法師は短剣を掴むと、鞘にしまい一礼した。


 なるほど、術者の思考で飛ぶ剣。念動剣とでも呼ぼうか。なかなかの一品だった。


「なんだかさっきから、武器とか兵器ばっかりね」


 パレスナ王妃がそんな言葉を漏らす。

 言われてみれば、確かにその通りだ。そしてパレスナ王妃は謎の秘密兵器とか見ても、わくわくしない類の人間なのだろう。単調に思えたのかもしれない。


「大丈夫、次は武器でも兵器でもありませんよ」


 秘書官が、パレスナ王妃に向かってそんなことを言った。

 そして秘書官は言葉を続ける。


「続きまして、特殊金属三番を使った浮遊馬車です」


 練兵場に四つ足の動物、メッポーが入場する。そのメッポーが引いているのは、浮遊する馬車であった。

 その馬車は車輪がなく、車体全体が金属で作られていた。


「大気中の魔力を吸収して常時浮いています」


 魔力とは生き物が持つ不思議なパワーだが、生き物とは別に星も魔力を持つ。

 この世界樹の世界でいうと、世界樹が生えている地面、すなわち月も魔力を持っている。そのため、月とそして生物でもある世界樹から溢れる魔力が、大気中を漂っている。

 人が体内に持つ魔力と比べて大気中の魔力は微少だが、簡単な魔法道具を動かす分には大気中の魔力で足りることが多い。この特殊金属も、大気中の魔力のみで馬車一台を動かせるだけ浮けるってことだな。


「なお、重さを気にしなくてよいため、車体は鉄で作られています」


 馬車が通常木材で作られる理由は、木材が軽いからだ。メッポーに引かせるため、重量は軽ければ軽いほどよい。

 だが、頑丈さを考えると金属で作った方が信頼性が高い。前世の車だって車体は金属でできていた。

 この浮遊馬車は浮くことで重量問題がクリアできたため、鉄で作ったということだろう。まあ、この国では鉄は輸入頼みなので、鉄の馬車は原価がものすごいことになってしまうのだが。


「面白そうね! これ、もしひっくり返したら、どうなるのかしら」


 パレスナ王妃が楽しそうにそう言った。

 さすが、山賊という名の敵国の工作員に襲われて、馬車が横転した経験がある者は言うことが違う。


「では、試してみましょうか」


 秘書官が王妃の言葉に応じ、宮廷魔法師達に指示を飛ばし始めた。

 魔法師が数人馬車の横に立ち、浮遊する馬車の底を持つ。そして、掛け声をあげて一斉に馬車をひっくり返した。

 横へと倒れようとする馬車。しかし、次の瞬間、馬車は元の位置へとくるりと戻った。


 その様子に、パレスナ王妃はすごいすごいと拍手を送った。


「この馬車には複雑な魔法陣が刻み込まれていまして、姿勢制御、慣性制御がなされ、メッポーが急停止しても馬車が横転しても、自然な位置を保とうとするそうです」


 秘書官がそう追加で情報を告げた。

 最初の雷撃兵器と比べて、完成度が高いな、この浮遊馬車は。


「メッポーに引かせるのも魔法動力にしたら、もっと利便性高くなりそうだねー」


 私の前世の知識で自動車というものを聞いたことのある国王が、そんなことを言う。

 浮遊車か。なかなか面白そうだが。


「『幹』にそういう乗り物ありますね」


 そう私が言うと、国王は渋い顔をして言葉を返す。


「うーん、じゃあ、そっち方面は道具協会の技術規制を受けるかな? 結構面白そうなんだけど、浮遊馬車」


「あくまでもメッポーに引かせて、メッポーの速度を保つならば、規制はまぬがれるのではないでしょうか」


 流通は道具協会の目が厳しく入る分野だ。あまりに馬車の速度を上げすぎると、流通革命の恐れありと規制を受けてしまうだろう。

 保存の利かない食料なんかが満遍なく行き渡り、生活が満たされると人は際限なく増えるという考えのようだ。

 逆に規制が緩いのは娯楽分野で、娯楽に満たされていると、人は子作りという娯楽を優先しなくなると道具協会の者が言っていた。


 そんなこんなで、浮遊馬車は退場していった。パレスナ王妃は試乗したがっていたが、今回は試乗はなしとのことだ。


「以上、特殊金属三番でした。続いて、特殊金属四番、魔力を流すと柔らかくなる金属です」


 またまた練兵場の中央に台座とインゴットが置かれ、宮廷魔法師が台座からインゴットを持ち上げる。

 そして、そのインゴットをまるで粘土のようにこねくり回し始めた。

 奇妙な形にねじ曲がるインゴット。そして、魔力を流すのをやめたのか、インゴットは変な形のまま固まって台座の上に置かれた。

 見世物として面白いな、これ。そんなことを思っているうちに、魔法師が一礼し、台座とともに退場していく。

 そして今度は、なにやら白いシャツを持った魔法師が前に出てくる。


「特殊金属四番をワイヤーに使った衣類です」


 魔法師は、その場でシャツをくしゃくしゃに丸め始めた。

 シャツにワイヤーが入っているならば、ワイヤーはぐにゃぐにゃに折れ曲がっていることだろう。

 魔法師が手を止め、シャツを広げるとシャツは綺麗な形を保てていなかった。

 だが、魔法師がシャツの胸元に縫い付けられていた魔法陣に魔力を流すと、シャツがうごめき、正常な形を取り戻した。


「魔法陣には、ワイヤーの正しい形状が記憶されており、柔らかくなる金属の特性を使って元の形に戻ります」


 形状記憶合金じゃん。すごい。

 くしゃくしゃに丸めたことによってシャツにはシワが寄っているが、そこはアイロンをかければいいだけだ。

 そして、この国の服には、礼服やドレスなど、ワイヤーが入っている服はそれなりにある。本来ならワイヤーが歪んだら、取り外して新しく付け直しになるところだが……。


「なるほどね。いいよいいよ、こういう発想。面白いねー」


 国王が満足そうにそう言った。

 国王に声をかけられたシャツの魔法師は恐縮しながら、一礼して退場していく。

 続けて入場してくる者はいない。代わりに、秘書官の声が響く。


「本日の研究発表は以上となります。最後に、国王陛下よりお言葉を頂戴いたします」


 その言葉を受けて、国王がゆっくりと席から立ち上がった。


「これから我が国は、隣の大陸の国々と友好的な関係を構築していく。国内は安定し、国力を高めることになる。国を守るための軍備を整えることも欠かしてはいけないが、これからは魔法の平和利用も考えていく必要がある。技術の発展によって、国民がよりよい生活を過ごせるよう、今回の研究成果を活かしてくれることを期待している。以上だ」


 技術の発展によって、国民がよりよい生活を過ごせるようにする。それは、文明の現状維持を幼少期から教え込まれる、この世界の住民には持ち得ない発想だ。国王として革新的な考えであり、道具協会や『幹』からは煙たがられる考えでもある。

 この考えがどこから来たのかと考えると……きっと、高度文明出身の私と交流したことによる影響なのだろうな。

 ただ、国民によりよい生活をしてもらいたいというのは、国王として立派な考えだ。なので、国王には文明を発展させない技術の振興という矛盾した問題をどうにか取り組んでもらいたいところだ。


 こうして、特殊金属のお披露目は終わった。

 パレスナ王妃は私室に戻ってからも、部屋に残っていた侍女達に浮遊馬車のことを楽しそうに語っていた。そして浮遊馬車で一枚絵を描きたいとも言っている。


 私としては、固くて強い金属の武器が気になっている。私の本気の腕力に耐えられる武器というのは貴重なため、一本手に入れてエンチャントを重ねてみたいところである。

 ううむ、国王か女帝蟻に魔王浄化の個人報酬として、交渉してみるのもありだろうか。侍女になった今となっては、武器の使い道なんてないのだけれども。


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