73.ドキュメンタリー
王妃付きの侍女として日々を過ごし、やがて休日が訪れる。特にこれといった休日の予定はなかったため、私は魔法宮に暇を潰しに行くことに決めた。
以前、印刷を見に魔法宮に訪れたとき、訪ねてこいと散々言われていたから、一度顔を見せに行った方がいいだろうという判断だ。
ただ、私に割り振られている休日は、一週間の中でも前世でいう日曜日に該当するような日だ。魔法宮に詰めている人も少ないかもしれない。
これで誰も居なかったらどうするかなと考えながら、私は普段着で魔法宮に向かった。
魔法宮の中に入り、この間ナシー達と一緒に訪れた部署へと足を踏み入れる。
「ごめんください。キリンです」
休日と言えども現在の身分は侍女のため、敬語でそう言葉を投げかける。すると、室内にまばらにいた魔法使い達が一斉にこちらへと振り返った。
「うわ、魔女さん来た!」
「いらっしゃい魔女姫様!」
「遊びに来たのかい?」
魔法使い達がこちらへと集ってくる。ふむ。さすがに休日だからか、人の数は少ないな。
「ええ、休日なので、顔を見せにまいりました」
「魔女さん、この日が休日かー」
「休日勤務でよかったわ俺」
「お菓子食べるかい? 頭脳労働だから甘い飴、常備してるんだ」
どうやら歓迎ムードのようだ。よかった。
私は受け取った飴を口の中で転がしながら、集まった魔法使い達を見る。ふむ、年齢はまばらだが、前回居た責任者らしき“おじさま”はいないな。まあ、彼らから私が来たことは伝わるだろう。
「せっかく来てくれたんだし、何しようか」
「魔女姫様、ティニクランドの設計者なんだろう? 例の施設の魔法設計見てもらおうぜ!」
「お前天才だな。よし、持ってくる」
わいわいと魔法使い達が騒ぎ、そして私の前になにやらファイルが置かれた。
「これ、今度作る競技場の魔法設計仕様書。魔女としての観点でちょっと見てみてよ」
「……はあ、部外者の私が見てもいいものなのでしょうか」
「魔女さん、王族付きの侍女でしょ? それもう名誉宮廷魔法師みたいなものじゃん! 大丈夫大丈夫」
なんだその飛躍した理論は。後で怒られても私は知らんぞ。
そうして私は渡されたファイルを見る。へえ。今ある競技場を取り壊して、高度な魔法を随所に使った新施設に作り直すと。
「道具協会と話は付いているんですか?」
「競技場は娯楽施設に分類されるから通るって。まあ、使ってる技術が外に漏れないのが大前提だけど」
「なるほどなるほど」
そうして私はファイルを確認し、文系魔法使いとしての視点で彼らに色々と意見を言ってみた。
私は前世から一貫して文系なので、理系魔法使いのように理路整然とした魔法術式は組めない。だが、妖精言語のようなファジーな魔法は得意だし、理系ではない一般市民としての視点を魔法使いながら持てているつもりだ。
「なるほどなるほど、確かにこうした方が一般人には使いやすいか」
「魔法で動くって言われても、普通の人には分かんないかー」
「こういう考えから、あのティニクランドが作られているわけだね」
どうやらここの魔法使い達は皆バリバリのエリート理系だったらしく、文系というか一般市民視点には立てていなかったようだ。相手はエリート農民じゃなくて普通の市民なのだから、あまり頭はよくないぞ!
ちなみに、この国の識字率はかなり高い。本が市民向けの娯楽として成り立っているくらいだ。だが、前世ほどの高度な教育が施されているわけではない。金銭的に余裕がある農民は別だったりするが、王都のような大都市だと市民はそこまで金を持っておらず、教育も最低限の読み書き計算だけだ。
王都の市民が金を持っていないのは、物価が高いせいかもしれないな。まあ、スラム街のようなものはないため、極端な貧民もいないのだが。
「素人意見ですが大体こんなところです」
私はファイルを閉じて、魔法使い達にそう言った。
「ありがとう! いやー、これ今日休んでる奴が、ずっと悩んでた内容なんだ」
「助けになれたようで何よりです。ところで皆さん、ご自身の仕事はよろしいんですか?」
私がそう言うと、「うっ」と魔法使い達はうめいた。
「いやでも、せっかく魔女さんが来てくれたんだし……」
「お仕事を邪魔してまで、居座る気はないですよ?」
「はいはい、じゃあみんな仕事に戻りなー。俺が面倒見てるから」
「てめえ! 仕事はどうした!」
「午前中の業務は全部終わったんだなぁ……。いやあ自分の優秀さが憎いわ」
「くっ! 呪われてしまえ!」
そんなこんなで、集まっていた魔法使い達が自分の席に戻っていく。
そして私は、一人だけ残った魔法使いに促され、部屋の隅の事務机に案内された。
「魔女姫様が来たなら、せっかくだからアーカイブでも見ようか」
「アーカイブ、ですか?」
「ああ、通称じゃ分かんないか。軌跡だよ、軌跡」
「軌跡……?」
私が謎の言葉に首をひねっているうちに、魔法使いは机の引き出しから魔法道具を取り出し、操作を始めた。
どうやら、幻影魔法で映像を再生する魔法道具のようだ。
魔法使いがそれを操作すると、幻影魔法でモニターが出力された。
そこに映っていたのは、私だ。
……はあ?
本気の装備で完全武装した幼い少女。魔法で限界まで強化した鎧に、巨大な斧。金属糸で紡がれた服。
数ヶ月前の魔王討伐戦でも使っていた愛用の装備達だ。
そんな武装をした私が、真面目な顔で映っている。
そして、そんな映像にテロップが表示される。
『魔女ウィーワチッタの軌跡!~悪竜討伐編~』
なるほどなるほど。災厄である悪竜討伐の時の映像か。
「って、なんでですか。いつのまにこんなの撮ってたんですか」
「あれ、魔女姫様ご存じない? 軌跡シリーズ」
「シリーズなんですかこれ!?」
「魔法宮で大人気のシリーズだよ。俺も悪竜編は初めて見るけど」
「なんなの……」
私はわけが分からないまま、映像を眺めた。
映像では、災厄と悪竜について、前世のドキュメンタリー番組のように音声付きで解説されていた。
その音声は、聞き覚えのある男性の声だ。この声は、音声魔法に使われる『デフォルト音声』だ。音声魔法の術式を初期値で使った場合、この声が出力される。通りのいい、解説に使うのはうってつけの声だと言えた。
解説音声によって、私ことキリンが災厄に集っている魔物の露払いを担当することが説明される。この解説は事実だ。悪竜と直接対決するのは、勇者とその仲間達。庭師や世界各国から集められた戦力は、災厄のもとに集まろうとする魔物を退治して、勇者の活路を作ることが仕事だった。
『時間だ、行くぞ』
庭師の仲間が、号令をかける。そして、映像の中の私が言った。
『本気で斧を振り回すから、私には近づくなよ』
『おお、怖い怖い。巻き込まれたら肉片も残らねえや』
庭師が、そして世界の戦士達が魔物の群れに突撃する。カメラアングル上手いなこれ。
カメラがズームインして、再び私が映る。
映像の中の私が、斧を振り回すと、魔物が真っ二つになり光へと変わる。浄化されたのだ。
そんな私に周囲の魔物が次々と襲いかかってくる。それに対し、私は斧を縦横無尽に振り回し始めた。
これは、剛力魔人百八の秘技の一つ、旋風斬り。
魔人としての腕力を使って全力で武器を振り回し続けるという、単純かつ乱暴な技だ。制空圏に入った者は武器に触れた瞬間、とてつもない力で破壊される。何者も寄せ付けない、接近戦では無敵の技である。
過剰な腕力を使って問答無用で相手を破壊するので、対人戦では使えない技でもある。戦闘でも可能ならば人殺しは避けるべきなのが、悪意を善意に変える庭師だからな。
私が前へと進むたび、魔物達はことごとく光へと変わる。
そしてカメラがズームアウトすると、どうやら人類側が優勢のようで、魔物が次々と消えていっている。
だが、それも悪竜が戦場に現れるまでのことだった。
木の葉でできた鱗を全身にまとった、緑の巨竜。その竜が咆哮すると、人々の動きが止まった。
映像の中の私も斧を振り回すのを止め、首をすくめている。その表情は、恐怖に染まっていた。
そして、悪竜が前へと歩き始めた。周囲にいる魔物も気にせず踏み潰し、前線へと近づく。
やがて悪竜は、一人の人間の前で動きを止めた。
悪竜の前にいたのは、私だった。
「うはっ、魔女姫様ピンチ!」
魔法使いが手に汗を握るといった様子で、その映像を眺めている。
映像の中の私は、竜を前に身を縮こまらせ、小刻みに震えている。この時は本当に怖かった。咆哮に乗った魔力が、今までに感じたことがないほどの威圧となり、その存在の大きさと邪悪さに圧倒されたのだ。
やがて、映像の中の悪竜は、その巨大な首を下げ、するどい牙が生えそろった口で私を噛み砕こうとする。
そのときだ。
映像の中の私は、引きつった顔のまま斧を振り上げ、悪竜の顎を上へと吹き飛ばした。
「おお!」
その快挙に、映像を眺める魔法使いが小さく歓声をあげる。
悪竜はさらに食いつこうと勢いよく頭を振り下ろしてくるが、そのたびに斧が舞い、悪竜の顔が上へと跳ねる。
浄化の魔法をまとった斧により悪竜の顔に傷がつき、牙がへし折れ光へと変わる。
噛みつくのを諦めたのか、今度は悪竜はその巨体で踏み潰そうと前足を私に向けて振り下ろした。
だが、それすらも私は斧で迎えうち、悪竜の巨体は大きく上空へと吹き飛んだ。
そこで、ナレーションが入る。
『恐怖で身を縮めた魔女ウィーワチッタ。しかし、彼女はその戦士の本能と戦闘経験で、反射的に悪竜を迎撃したのだ』
この時の私の記憶はおぼろげだ。こんなことになっていたのか。よく生きていたな私。
そして、吹き飛んだ悪竜は、そのまま両翼を羽ばたかせ、空へと飛んだ。悪竜は地を見下ろしながら、その場で大きく息を吸い込んだ。竜のブレスの兆候だ。
下にいる私、そして戦士達は咄嗟に防御体勢を取る。
だが、突如、悪竜の口が閉じ、行き場をなくしたブレスが悪竜の口の中で炸裂した。
轟音を立てて悪竜の頭部が爆発し、そして悪竜が地に落ちてくる。
『待たせたな!』
魔法障壁を出して地にへたり込む私の背後から、そんな声がかかった。
勇者である。
勇者は糸使いだ。その糸を使って、悪竜の口を閉じた。そんなナレーターによる解説が入る。
そして、勇者が言う。
『悪竜は俺達に任せろ』
そうして勇者とその仲間達は、悪竜との戦闘を開始した。
尻餅をついていた私はへろへろと立ち上がると、悪竜の周囲へと集っていく魔物に向けて再度突撃していった。
戦闘は続き、そして勇者達の活躍によって悪竜は倒れた。
悪意の塊である悪竜の身体は、勇者の持つ浄化の力によって光へと変わる。そして光は弾け、エメラルドグリーンの光の粒となって周囲に降り注いでいった。
『こうして魔女ウィーワチッタの活躍もあり、災厄は無事浄化されたのであった』
そうナレーションが入り、終わりとテロップが表示される。
全部で二十分ほどの映像だった。
「いやー、すごかったね災厄。俺が入団する前でよかったよ。こんなのに駆り出されたくない」
「……こんな映像がシリーズであるんですか」
「ああうん。魔女ウィーワチッタの軌跡シリーズ。魔女姫様の活躍の映像記録だけど、庭師の活動だけじゃなくてね。最新のは結婚披露宴で着飾った魔女姫様の映像だったよ」
「え、侍女の仕事も映像撮られているんですか」
「侍女の仕事は王城の中だから、撮影は魔法宮が魔法で妨害してるよー。俺としては侍女の仕事もシリーズとして見たいんだけどねぇ」
「魔法宮が妨害……これ作ってるの魔法宮じゃないんですか?」
「違うよ。魔法宮の魔法師は全員閲覧できるけどさ。作ってるのはセリノチッタの塔のゴーレムさん」
「塔のゴーレム……あの世界樹ゴーレムか!」
私は勢いよく立ち上がり、その場を去ろうとした。
「ちょっとちょっと、魔女姫様どうしたのさ」
「塔まで行ってクソゴーレム締めてくる!」
「ええっ、今から!?」
「往復に半日もかかりません」
「ひえー。ま、まあ落ち着いて。この映像装置に問い合わせ機能あるからさ」
「問い合わせ機能?」
「消費者相談窓口があって、ゴーレムさんと直接会話してリクエストとか出せるの」
なんだその万全な態勢は。
私は席に座り直して、魔法道具の前に向き直った。
「それじゃあ、連絡お願いしていいですか?」
「いいけど、何話すの?」
「無許可でこんな映像作ったことに、文句を言おうかと」
「無許可だったんだこれ……」
そう言いながら、魔法使いは魔法道具を操作し、空間投影モニターが再び出力される。
モニターには、連絡中と文字が表示されている。
そして、その文字が消え、モニターにあのゴーレムの顔が映った。
「はい、こちら消費者相談窓口。本日はどうしました」
「出たな、クソゴーレム」
「おや、あなたですか。どうしましたこんなものを使って」
「見たぞ。ウィーワチッタの軌跡とかいうの。これ、どういうことだ」
「どうとは?」
「なんでこんなものを作って配っている」
「次期魔女となるべき者の成長記録を撮り、それをお披露目しているだけですが?」
「なんでお披露目することになるんだ!?」
成長記録はぎりぎり理解できないでもない。でもお披露目ってなんだよ!
「魔女はこの国の魔法使い達の先頭を行く者。魔女に就任する前からお披露目して、その姿を周知するのは当然です」
「どうして当然なんだよ! 勝手に撮って勝手に公開するな!」
私がそう言うと、モニターの中のゴーレムは、溜息をついてやれやれといった様子で首を振った。
「映像が公開されて、あなたになにか不都合でもありますか?」
「不都合だらけだ!」
「具体的には?」
「具体的……具体的にはそう、私生活を暴かれて恥ずかしいだろうが」
「世界の人々から注目されていた『幹種』の庭師ともあろうあなたが、いまさら恥ずかしいですか?」
……む。
「戯曲にもなって、絵画にもなって、トレーディングカードゲームとかいう遊戯にもなったあなたが、いまさら映像の一つや二つで恥ずかしいですか」
「一つや二つじゃなくて、シリーズと聞いたが」
「いまさら映像の五十や百で恥ずかしいですか」
「待て、シリーズどれだけあるんだお前この野郎」
私はゴーレムを睨み付ける。が、ゴーレムはどこ吹く風だ。やっぱり直接言って物理的に締め上げるしかないか。
「あなたがこの国の魔法使い達に受け入れられているのは、この映像のおかげです。ありがたがられることはあっても、叱られる覚えはないですね」
くっ、確かに魔法宮の人達の印象はやたらといいが。
このシリーズというのが私が子供の頃からの記録ならば、魔法宮の人達がやけに好感触なのも頷ける。私が成長するさまを見守られているのだ。……やっぱり恥ずかしいぞこれ!
「というわけで侍女の仕事風景も撮影したいので、許可をもらえるようあなたも頼みなさい」
「いや、それとこれとはまた別問題だ。王妃の身の回りを撮影して公開するなんて、保安上できるわけないだろう」
「ちっ! このままではコンテンツの供給が途絶えてしまうではないですか。もっと城の外に出なさい。そして魔女になりなさい」
「勝手に魔女ウィーワチッタとかシリーズ名を付けてるけど、私は魔女ではないからな」
魔法宮の人達が私のことをやたらと魔女扱いしてくるのはこのせいか。
でも、いいこと聞いたな。私が王城で侍女として働いている以上、こいつは新しい映像を撮れないということだ。休日に外へ出たらパパラッチのごとく目に見えない撮影魔法が飛んでくるのだろうが、休日に遊ぶ様子なんて魔女の軌跡を名乗る成長記録には相応しくなくて使えないだろう。
「とにかく、私は王城に留まり続けるから、新規映像は作らないように」
「何を言っているのですか。全世界の魔女を待ち望む人々が嘆き悲しみますよ」
いつ魔女とやらはそんなワールドワイドな職業になったんだよ。
今度は私が溜息をつく番だ。私は魔法道具を操作して通信を打ち切った。動機が馬鹿馬鹿しくて、なんだか怒る気もなくなったな。
「新規映像が作られない……ううむ、暇なときの楽しみなのにそれは困るな……」
横に座る魔法使いがそんなことを思い悩んでいる。
いや、王族の保安上そこは本気で阻止し続けてくれ。この映像がどこまで拡散されているのかも分からないのに、内廷丸裸とか困るぞ。
本当に頼むぞ!
◆◇◆◇◆
『ん? 魔女ウィーワチッタの軌跡なら我も知っておるぞ。こちらではそれなりの人気コンテンツなのではないか?』
その日の正午、私は侍女宿舎の自室にこもり、『女帝ちゃんホットライン』で『幹』にいる女帝と連絡を取っていた。
話題は、先ほどの映像についてだ。
「『幹』にまで拡散しているのか……」
『市民向けコンテンツじゃなあ』
「どういう経路で、映像が伝わっているんだ……」
『セリノチッタは幹出身の魔法使いじゃったからのう。そのコネクションを配下のゴーレムが使用しておるのじゃ』
師匠が『幹』に関わりがあったというのは、魔女の塔の地下に世界樹トレインがあることで分かってはいたが……。まさかゴーレムのやつがその関わりを悪用しているとは。
「まったく、出演料を請求したいところだな」
『無料コンテンツじゃから、それも無理じゃな』
「私の扱い安くないか!?」
どれだけ私を魔女にしたいんだあのゴーレムは。くっ、私は外圧には負けんぞ。
『初心者庭師が一流の庭師になるまでの記録でもあるので、生活扶助組合でも参考記録として扱っているはずじゃぞ』
生活扶助組合とは、庭師が所属する組織のことだ。ある程度大きな町には組合が必ずあるが、本部は『幹』にある。
「私は魔人なうえに、魔女の弟子で高度な魔法を最初から使えているから、普通の庭師の参考にはならないだろう」
私は人間離れした怪力を持つ魔人である。普通の庭師では絶対に持ち得ないアドバンテージを最初から持っていることになる。
『それでも、初心者がどういう手順で、幹種まで駆け上がっていくかの順序の記録として、映像に残っているのはやはり違うのじゃ』
「庭師の仕事が映像に撮られているってことは、きっと私の依頼人もそのまんま映っているんだよな。肖像権のない世界はこれだから全く……」
『権利というものは、もっと高度な社会になってから考え始められるものなのじゃ』
「地上が低度な社会になっているのは、『幹』の都合によるものだろうが」
『そうじゃのう。再生させた大地の開拓が済めば、人口抑制も解除になって、文明技術解放して移民させ放題なのじゃが……』
二千年前に汚染されたという惑星の一部の大陸が開放されたのは、つい数ヶ月前のことだ。
その大陸は草一個生えていない荒野になっていたというから、人が住めるようになるにはまだしばらくかかるだろう。
「まあ惑星再生は頑張ってくれ。私は死ぬまで世界樹にいると思うけれどな」
『おっと、再生と開拓が終わった大地は、観光名所としてもなかなかのものになるのじゃぞ? 楽しみにしておれ』
そんなこんなで、女帝との通信は終わった。
私は、部屋のカーペットの上にごろりと転がる。そして。
「『幹』で人気コンテンツって、広がりすぎだ!」
私はそんな今更な事を全力で突っ込んだ。
本当にワールドワイドな存在になってやがるぞ、魔女! そんなことを元ワールドワイドな庭師であった私は思うのであった。
ある意味理不尽な状況に、打ちひしがれるしかないはずの私。しかし。
「ふふっ、まるで前世の芸能人だなこれは」
有名人になったという事実に、私の顔は何故かにやにやしてしまうのであった。
元々庭師として世界的に有名だった私。いつの間にか私は、有名になることを嬉しく思うような体質になっているようだった。
まいったな。これでは、魔女の塔に帰ったときに、ゴーレムを強く叱れないじゃないか。




