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怪力魔法ウォーリア系転生TSアラサー不老幼女新米侍女  作者: Leni
第四章 後宮侍女2

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67.会者定離センドオフ系終戦記念ウェディング<5>

 ダンスホールでの結婚披露宴、その次の日に城下町の自然公園で行われた大披露宴は、盛況のうちに終わった。


 前日の結婚披露宴に参加した人達から、またあれを見せてくれと言われたため、モルスナ嬢と私は夫妻の出会いと恋の漫画スライドショーを大披露宴でもやる羽目になった。私は幻影魔法で巨大スクリーンを作り、大音響で音声を流した。こうして、王都の民も、国王の恋のいきさつを知ることとなったのだ。

 これに触発されて、王都ではカップルの誕生が増えるかもしれない。ついでに漫画家モルス先生のファン増加もだな。漫画のいい宣伝になったとゼリンのやつは笑っていた。


 そして明くる日、私達はハルエーナ王女の青百合の宮にて、後宮解散お別れ会を開いていた。

 連日となる大騒ぎだが、若さゆえかお嬢様達の顔は元気だ。


 いや、一名大丈夫じゃない人がいた。ファミー嬢だ。

 儚い印象を与えるその見た目を裏切らず、どうやら体力が全然ないようで、二日前の結婚披露宴の疲れを今日まで残していたようだった。

 治療の魔法が使える私が、彼女の介抱に向かう。


「大丈夫ですか」


「大丈夫ではないかもしれません……」


「……司書の仕事、大丈夫そうですか? 本を運んだりと体力仕事が多そうですけれど」


「ううっ、体力作り必要でしょうかねえ」


「毎日散歩をするだけでだいぶ違いますよ」


 彼女には治療として体力回復用の妖精を一匹つけてやり、皆のところに戻る。

 すると、そこではパレスナ嬢がモルスナ嬢と酒を飲み交わしていた。

 おいおい、もうこの後宮は男子禁制じゃないんだ。あまり油断するようなことをするんじゃないぞ。

 まあ、護衛の人達は、わきまえて酒を口にしていないようだから大丈夫か。


「今日のお菓子は、タルト三昧ですよー。うちの宮殿に残っていたフルーツ全部大放出ですー」


「わー、ハルエーナちゃん、お菓子だよ!」


「タルトは至高」


 トリール嬢が持ち込んだタルトに、駆け寄っていくビアンカとハルエーナ王女。

 この国の国法で定められた飲酒可能年齢は十二歳からなので、この二人は酒飲みから離しておく必要があるな。お菓子はいい撒き餌になるだろう。


 そして菓子だけでなく、料理も各厨房の余った食材がどんどん投入され、先日の披露宴の立食メニューにも負けないものが揃っている。

 今も、青百合の宮の厨房はフル稼働中だ。


「キリンさん、頼まれていた料理できましたぜ!」


 威勢のいい女料理人が、ワゴンを押してやってきた。薔薇の宮の料理長だ。


「ああ、できましたか」


「ええ、味見しましたが美味かったですぜ!」


「なるほど。それはよかった。……トリール様! 新しい料理ができましたので、ご賞味くださいな」


 私は料理長に料理をテーブルに運ばせ、子供達にタルトを配っていたトリール嬢を呼んだ。


「新しい料理ですかっ! もしかしてお菓子ですかー?」


「食事の締めとして食べる人もいる料理です。そうですね、言うなればプリンの新しい可能性。甘くないプリンです」


「甘くないプリン! カスタードプリンに別の可能性が!」


「その名も、茶碗蒸しです!」


 ばばーんと、テーブルの上の料理を私は披露した。


「これは、フタのついたティーカップ? なるほど確かにお茶碗ですねー。蒸しということはカスタードプリンと最終工程は似ていると……」


「別に器はティーカップでなくてもいいのですが、フタのある小さな食器がそれくらいしかなかったので」


 私はトリール嬢の前にティーカップを置き、さらに食器として木さじを用意した。

 そして、トリール嬢に私は言う。


「フタを取って木さじでお召し上がりください」


「カスタードプリンみたいに、ひっくり返さないのですねー」


「ええ、ティーカップから直接すくって食べてくださいませ」


 トリール嬢は、フタを取りティーカップの中身をまじまじと見つめた。

 湯気を立てる黄色い茶碗蒸しの上に、食べられる小さなハーブがアクセントに浮かんでいる。


「見た目はすごいカスタードプリンっぽいですねー」


「卵を使っていますからね。熱いのでお気を付けて」


「では、まずは一口。……! これは、なかなか。もう一口……。ううーん、なんでしょうこの味わい。もう一口……。あ、具がありました」


 熱いというのに、するすると茶碗蒸しを食べていくトリール嬢。それを興味深そうに見つめるビアンカとハルエーナ王女。


「甘いんですか? プリンの仲間?」


 そうビアンカがトリール嬢に聞く。


「いえ、甘くはないですねー。でも、深い味わいがあって、美味しいですよー」


「どうぞ、まだありますので召し上がってください」


 私はそう二人に料理を促す。


「わーい」


「楽しみ」


 ビアンカとハルエーナ王女が、茶碗蒸しに挑戦するようだ。くれぐれも火傷には注意だ。

 そして、茶碗蒸しを完食したトリール嬢がコメントする。


「美味しかったです。これが、甘くないプリンですかー」


「プリンという単語は本来、プディングと発音するのですが、このプディングとは熱して固める料理の総称です。今回の茶碗蒸しは、卵とキノコのだし汁を混ぜたものに、具材を入れて蒸しあげたものですね」


「私は甘いお菓子が好きですけれど、この国のお菓子は甘くない物も多いので、結構好まれそうですねー」


「タルトも様々なオリジナルの品を作っているようですし、トリール様だけのオリジナルプリンを目指す一助になればと思いまして」


「そうだったのですねー。感謝感激ですよー」


 トリール嬢は満足してくれたようだ。

 どうやら茶碗蒸しは美味しくできたようなので、どうせなら熱いうちに食べてもらおうと他の人を探す。

 お、ちょうどミミヤ嬢がこちらに来た。


「ミミヤ様、新作料理です。いかがですか?」


「あら、ティーカップを器にするなんて、斬新ね」


 そう言って、ミミヤ嬢は茶碗蒸しを優雅に食べ始めた。うーん、木さじの使い方からして、何かが違うな。

 そして、しばらくの後、ミミヤ嬢は茶碗蒸しを完食した。


「美しい料理でしたわ」


 料理の感想に美しいって、なかなか出ないぞ。

 食事一つ取っても優雅なお方だ。


「ところで貴女に一つ頼みたいことがあるのですけれど……」


「はい、なんでしょう」


 ミミヤ嬢から頼みとな。結婚披露宴も終わった今となって、いったいなんだろうか。


「実は、披露宴で見せていたあの幻影魔法をまた見せていただきたいのです」


「ミミヤー! ちょっと貴女、もう二回もやったのだからいいでしょう!」


 酒の入ったパレスナ嬢が、耳ざとく聞きつけて、そう拒絶の言葉を発してきた。


「パレスナ様の恋物語、気に入りました?」


「いえ、内容ではなく、あの斬新な絵物語の形式が気になって仕方がないのです」


「マンガ! 私のマンガね! ファンになった!?」


 今度はモルスナ嬢が話に食いつく。


「マンガというのでしょうか、あの絵物語は。台詞と絵が一体になった、不思議なものでしたが……」


「マンガよ! ちょっと誰か、私のマンガ本持っていない?」


「持っていますよ」


 モルスナ嬢の言葉を受けて、私はそう言いつつ空間収納魔法を発動。作者に接する機会も多いので個人用に買っていた、『令嬢恋物語』の一巻を取り出した。

 それをはいどうぞとミミヤ嬢に渡す。


「『令嬢恋物語』ですか……作者はゼンドメルのモルナ・エヒメル様」


「私のペンネームよー」


「ちなみに私のペンネームはパレスよ!」


 酔っ払いの茶々を入れる声がうるさいな。


「では、失礼して……、っ! これは……」


 ミミヤ嬢が本のページをめくると、目に飛び込んできたその内容に彼女は驚きの表情を浮かべた。

 初めて読む漫画本。彼女はたどたどしくページをめくっていく。


「これは、新しい……。今までにない表現ですわね」


「気に入ったなら差し上げますよ。続きはティニク商会の一階で売ってます」


「! よろしいのですか。これは何か、お返しを考えませんと……」


「大丈夫ですよ。少女向けの漫画本は、安い紙とインクを使っているので比較的安価ですから」


「高級路線の愛蔵版もあるわよ!」


 そう横から口を挟むモルスナ嬢。愛蔵版は私は別にいいかな……。

 そうしてミミヤ嬢は漫画の続きを読み始めたので、私はファミー嬢の具合を再度確認しに戻った。


「お加減はいかがですか」


「だいぶ調子が戻ってきましたわ。それにしても、マンガですか……」


「ファミー様にとって漫画本はどんな位置づけですか?」


 前世の読書好きには、漫画は邪道って扱いよく受けていたからな。


「新基軸の書籍の形式でしょうか。私の書庫にもいくつかありますわ。でも……」


 でも?


「小説にカテゴライズしていいのか悩ましいのです……」


 ああ、そういえば彼女はレシピ本すら読む乱読家だ。漫画を忌避するわけがなかった。


「漫画は漫画とカテゴライズしてよいのではないでしょうか。いずれ、多くの漫画家が育って、世に漫画が溢れてきますよ」


「それはそれは、素敵なことですわね」


 そう言って、ファミー嬢は笑った。

 うん、本のことなのに早口にならないようなので、まだ調子が悪いようだ。くれぐれも安静にしていてもらおう。


 私はファミー嬢の側についている妖精に追加で魔力を渡すと、主であるパレスナ嬢のもとへと向かった。

 パレスナ嬢は、なにやら天使猫に絡んでいる。


「ほら、貴女も本当は人みたいなものなのでしょう。ぐぐいーっと」


 猫に酒を飲ませようとしていらっしゃる。

 完全にできあがっているな。


わらわは端末じゃぞ! 冷たい飲み物など飲まぬわ!」


「あら、ホットワインとは通なものを好むのね。フランカ、ホットワイン一つ!」


「……厨房に頼んできます」


 普段なら叱っているであろうフランカさんも、今日ばかりはお目こぼしをしているようだ。

 そして届けられるホットワイン。深皿に注がれたそれを天使猫は舌でちろちろと舐める。


「うむ、やはり食事は熱いスープに限るのう」


 それ、スープじゃなくてお酒だけどね。天使って酔ったりするのか?

 それよりも、天使猫に渡しておくものがあったんだ。


「ネコールナコール。ハルエーナ王女についていくなら、これを持っていけ」


 私は、空間収納魔法から一つの物品を取り出した。私の背丈を超える大きな物。それは、魔法で作成した全身義体だ。その義体には、首から上だけが存在しない。


「お、おお! おぬし、まさかそれは」


「あんたの新しい胴体だ」


 ぎりぎりまで製作がかかってしまった。間に合ってよかった。

 女性の身体に極限まで似せた、柔らかいボディ。それでいて、人間をはるかに超えた動きを可能とする、戦闘用の義体である。今は適当に買ってきた街着を着せているが、服は好みに合わせて着せ替えてほしい。


「うおおお!」


 天使猫は義体の上に飛び乗ると、変身を解き生首へと変わる。そして、義体とドッキング。義体が自動で稼働し、首と胴体がしっかりとくっつく。


「動力は天使の火の力。つまり、あんたが生きている限り永久に動くぞ」


 悪魔に堕ちたら出力が低下するように作ってあるが、それは言わないでおいたほうがいいだろう。


「おお、おお。美しい妾の復活なのじゃ」


 義体を動かして何やらポーズを取っている天使猫人型バージョン。プロポーションが美しくなるよう作ったつもりだ。


「そしてこちらのチョーカーを。義体を空間収納できる機能がついている」


 そう言って、私は天使猫の首にチョーカーを巻いてやる。


「いたれりつくせりじゃのう」


「状況に応じて人モードと猫モードを駆使して、ハルエーナ様を守ってくれ。あと、チョーカーの中に仕様書とマニュアルが入っているから、修理する際はそれを一流の魔法使いに見せてやってくれ」


「こんな高度なもの、直せるものがおるのかのう。まあ、壊れたらおぬしのところに持ってくるとしよう」


 壊れるような状況に巻き込まれないことを祈るがな。

 天使猫は、指の調子を確かめるように、手を握ったり開いたりしている。不具合は多分ないと思う。多分な。


「うむ、完璧じゃな。めでたい! 祝杯じゃ! 熱いスープをもてい!」


「ホットワイン追加ねー」


 パレスナ嬢がそう酒を注文した。

 そして、パレスナ嬢は私の方を向いてさらに言う。


「ほら、キリンも飲みなさいよ」


「了解しました。では、失礼して」


 私は肉体派の魔人。肝機能を意図的に弱めなければいくらでも飲めるぞ。

 義体の引き渡しという懸念事項も終えたし、後は楽しむのみだ。


 ……そして、いくらかの時間が過ぎた。


「どうしていっちゃうのよー!」


 完全にできあがったパレスナ嬢が、ハルエーナ王女に絡んでいる。

 対するハルエーナ王女は、冷静に言葉を返す。


「きっとまた会えるから、大丈夫」


「そう言ってずっと会えないのよー! みんなそうなんだからー!」


「陛下とは、ちゃんと会えたみたいだけど」


「なんでその話を持ち出すのよー!」


 また会えるよと言って、国王がゼンドメル領に足繁く通った様子は、漫画スライドショーで連日、二度も見せた。


「大丈夫、私は王族。パレスナも王族。会う機会はある」


 そうパレスナ嬢を諭すハルエーナ王女。もうどっちが年上なのか解らんな。


「離れても友達だからねー!」


「うん、友達」


 酔っ払いと素面の熱い友情が交わされた。

 これ、そろそろ魔法で酒をどうにかした方がいいな。せっかくの別れの思い出がアルコールで満たされてしまう。


 私は妖精を呼び出し、パレスナ嬢と、何やらトリール嬢のところで甘味を食べているモルスナ嬢に取り憑いて、酒精を散らすよう指示した。ほろ酔い程度になるようにしておこう。

 そんなことをしているうちに、ハルエーナ王女がみんなを見渡して、言った。


「後宮、楽しかった。こんなにも友達ができた」


「私も親友だよ! ハルエーナちゃん!」


 と、友情アピールをするビアンカ。


「ハルエーナ様は、よい読書友達ですわ」


 と、目に力を込めて懸命に言うファミー嬢。


「パレスナの友達なら、私にとっては妹のようなものね」


 と、酔いが覚めてきたのに酔ったようなことを言うモルスナ嬢。


「友人として、今後も機会があれば塩の国の文化について語り合いたいですわね」


 と、恥ずかしそうに言うミミヤ嬢。


「ハルエーナ殿下は大親友ですー。国元に日持ちするお菓子、持っていってくださいね」


 と、平常運転のトリール嬢。


「うん、みんな、嬉しい。楽しかった」


 後宮での数ヶ月の生活。そこで確かに、少女達は友情を育んだようだった。

 その縁はどこかで繋がっていくのだろう。

 だが、縁は繋がっていても、別離は悲しいものだ。私達は涙ながらに別れを惜しむのであった。




◆◇◆◇◆




 後宮解散お別れ会から十日が経った。


 私達パレスナ王妃一行は、ゼンドメル領での結婚式を無事に終えた。

 エカット家伝統の様式での婚姻の儀式も行い、そして領民が集められた結婚披露宴も開宴された。

 パレスナ嬢は領民に人気のようで、皆が笑顔で祝福してくれた。


 ゼンドメル領には地元出身のモルスナ嬢もついてきており、こちらでも漫画スライドショーの演目をやる羽目になった。

 エカット公爵は終始号泣しており、妹のモルスナ嬢はその横で彼をずっとなだめていた。

 あと、噂の公爵の後妻とパレスナ嬢は、ちゃんと仲がよい様子であった。まあ、後妻にとってはパレスナ嬢は姉の子供だからな。


 そんな結婚式が過ぎ、本格的に王宮の内廷での生活が始まる。

 パレスナ嬢付きになった侍女は増えたが、パレスナ嬢が普段から親密に接する侍女は私とフランカさんとビアンカの三人のみ。まあ、そのうち慣れて他の侍女とも会話するようになるだろう。


 そしてパレスナ嬢は今、私室で語学の勉強中だ。塩の国に鋼鉄の国が併合され、貿易が密になるとあって、早急に隣の大陸の言語を話せるようになる必要がある。

 ただ、私という教師がいるからか、パレスナ嬢は心配していないようだ。別に私、教員免許の類は取ったことないんだけれどな。


「王妃様、お客様がお目見えです」


 新しい王妃付きの侍女が、私室に入ってそう報告してくる。

 侍女の名前はメイヤ。最近私が侍女宿舎で何かと仲良くしている、侍女の一人だ。


「あら、私に? 珍しいわね」


「塩の国の王族だそうです」


「塩の国の王族って……まさかハルエーナ!?」


 パレスナ嬢は急いで勉強用のノートを閉じると、侍女に案内されて応接室へと向かった。

 するとそこにいたのは、まさしくハルエーナ王女だった。背後には、人モードの天使猫が護衛として控えている。


「来ちゃった」


 そうハルエーナ王女が言った。

 パレスナ嬢は、唖然としながらも言葉を返す。


「来ちゃったって、貴女……日数的に今頃エイテンについたばかりのはずじゃないの?」


「うん、ついてすぐ来た」


「すぐって……」


 パレスナ嬢はちんぷんかんぷんのようだ。

 私はその高速移動に、一つ心当たりがあるのだが……。

 そして、ハルエーナ王女はパレスナ嬢に向けて言葉を続ける。


「エイテンとアルイブキラの交易が活発になる。だから、親善大使になった」


「親善大使って、貴女の幼さでこれ以上親元から離れていていいの? 寂しくないの?」


「月の半分はこっちで過ごして、もう半分は向こうで過ごす」


「それって、移動時間でほとんどが埋まりそうなのだけれど……」


「大丈夫。地下の潜航艇を使えるから」


 やはり、潜航艇を使っているようだ。そうでもないと、日数的に塩の国からすぐさまここまでやってこれないからな。


「潜航艇……何それ?」


「『幹』の超技術を使った乗り物ですよ。半日もかからずこの国とエイテンを往復できます」


 私は、そうパレスナ嬢に説明を入れてあげた。

 王族になったばかりだから、まだ王城の地下深くの駅のような施設も知らないのだろう。

 ただ、一つ気になることがある。私はハルエーナ王女に尋ねた。


「しかし、よく潜航艇の許可が下りましたね。あれ、厳格な使用規定があると国王陛下から言われたのですが……」


「結婚披露宴の時に『幹』の女帝陛下と仲良くなった。それで、許可をもらった」


 おおう、そんなことが。友達作り上手いなあ、この王女様は。


「……つまり、ハルエーナとはまた何度も会える?」


「うん、会える」


 ぼんやりとした声で聞くパレスナ嬢に、ハルエーナ王女はそう答えた。

 やがて、事態を理解したのか、私の見つめるパレスナ嬢の背中に元気が戻ってくる。


「嬉しい! 離ればなれにならずに済むのね!」


「うん、私も友達とは別れたくない」


 その友達という言葉は、パレスナ嬢だけでなく、ビアンカや後宮の仲間達にも向けられているだろう。

 パレスナ嬢の後ろで待機していたビアンカも、涙ぐんで喜んでいた。


「これからも仲良くしましょう!」


 そう言って、パレスナ嬢はハルエーナ王女の前へと立つ。

 ハルエーナ王女は、その様子ににこりと笑みを浮かべた。

 そして、二人は高らかに手を掲げ、勢いよくハイタッチを交わしたのだった。




 会者定離センドオフ系終戦記念ウェディング<完>


以上で第四章は終了です。

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