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怪力魔法ウォーリア系転生TSアラサー不老幼女新米侍女  作者: Leni
第四章 後宮侍女2

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63.会者定離センドオフ系終戦記念ウェディング<1>

 国王が王城に帰還したらしい。町中で凱旋パレードは行われたようだが、王宮ではこれといった式典はなかったため、パレスナ嬢が国王を迎えにいくということはなかった。しかし、パレスナ嬢はよほど国王に会いたかったらしく、後宮に国王が訪ねてこないかそわそわと待ち続けていた。

 ただまあ、国王はきっと戦争が終わったばかりで後処理で忙しいだろうから、今日訪ねてくるのは無理ではないかなと思う。本人にそれは言わないが。


 そんなパレスナ嬢は、現在勉強のお時間。農学についての学習を行なっている。

 ナシーから直接届けられたテキストには、持ち出し厳禁の赤い判子が押してある。後宮で読んでも大丈夫なのかこれは。


 農学については、私もフランカさんも専門外なので、パレスナ嬢の自習に任せるしかない。

 しかし、パレスナ嬢は気が散っているため、少しもテキストは進まない様子だった。


「お嬢様、集中してください」


 そして、とうとうフランカさんがそう苦言を呈した。


「交戦はなされなかったのですから、国王陛下は無事ですよ。前も顔を見せたではないですか」


「解ってるわよー。でも、長らく会えなかったから心配なのよ」


「後宮に来る前は、もっとお会いする頻度が低かったではないですか」


「そうだけどー」


 まあ、こういうのは理屈ではないわな。

 ただまあ、会話は普通にできるようだ。なら、対話式の授業ならばできるだろう。


「テキストを読むのが進まないなら、私が授業を行ないましょうか?」


 そうパレスナ嬢に提案する。


「あら、キリン。農学にも詳しいの?」


「いえ、全く。ただし、アルイブキラの地理ならばそれなりに詳しいですよ」


「地理?」


「どこの地域で、どのような作物が作られているか。そして、どのような気候かなどです」


「あら、面白そうね」


 パレスナ嬢はぱたんとテキストを閉じ、早速話を聞く態勢になった。

 フランカさんが、私に向けて頭を下げてくる。すみませんか、ありがとうか、どちらの意味だろうか。

 そして私は、パレスナ嬢に対して解説を始める。


「どの領がどの位置にあるかの位置関係は頭に入っていますか? まず、私の出身のバガルポカル領から見ていきましょうか。ここは、模範的なアルイブキラの農業領地とでも言うべき場所で、様々な品目が作られている一方、突出した特産品というものもありません」


 領主のゴアードは特産品が作れないか悩んでいるが、そんなもの作らなくても安定した収穫と税収が得られている優等生の領地である。


「主食の向日葵麦、地産地消用の野菜、様々な季節に対応した果物。家畜用の穀物も作られており、牧畜も行なわれています。特産品がないと言いましたが、最近はチーズという乳製品が、この領の村で作られています」


「『王宮侍女タルト』に使われていたやつね!」


「ええ、そうですね。そのチーズを使ったピザという料理が絶品です。今度、料理長に作り方を教えておきますね」


「それは楽しみねー」


 ピザは美味いからな。油断すると太るけれど。


「そこから北上しまして、ゼンドメル領。広大な穀倉地帯です。国内だけではなく国外の食も支えていると言えるでしょう」


 パレスナ嬢の出身領地だ。自分の知っている話題になって、パレスナ嬢の目が輝く。


「そうね、確かに穀物の生産量が特長だわ。もちろん量だけじゃなく、美味しくなるよう品種改良だってしているわ」


「そうですね。そしてその穀物が、さらに北の王族直轄領に運び込まれて消費されます。ここは、王都の他は一面に牧草地が広がっています。地面を掘ると様々な成分が含まれた温泉が出るので、その成分が農業にあまりよい影響を与えないとされています」


「代わりに牧畜が盛んなのよね?」


「はい、その通りです。家畜化した巨獣に牧草と安価な家畜用の穀物を食べさせて、肥え太らせています。天然の巨獣よりも成長が早いのは、これも長年の交配による品種改良の賜物と言えるでしょう」


「後宮に来て、お肉がよく食事に出るようになったのは驚いたわー」


「そうですね。王都の民は肉ばかり食べます。食事には栄養バランスというものが大切なので、新鮮な野菜をいかにして王都に運んでくるかが、王族が抱える現在の課題と言えるでしょう」


「野菜ねえ。王都に近い地域で、野菜を特産品としている領地を把握する必要があるってことね」


「そうですね。特産品の把握は大切です。流通を考える以外にも、その知識が必要な場面があります。王妃になられる以上、視察や慰問の機会はたびたびあるでしょう。ならば、各領地の特長を把握し、特産品を知ることは大事かと思われます」


「確かに、自分の領の特産品をお客様が把握していたら、嬉しくなるものね」


「ええ、その通りです。さすがは領地に来た陛下をもてなして、その心を射止めただけありますね」


「うふふ、そうね」


「それではさらに北上してみましょう。バルクース家のスイーヌ領がありますね。バルクースという名の通り、芋が特産で――」


 そんなこんなで地理の勉強は進み、パレスナ嬢は国内の領地についてさらに詳しくなった。

 この知識が王妃の仕事に役立つこともきっとあるだろう。


 なお、国王が今日パレスナ嬢を訪ねてくることはなかった。




◆◇◆◇◆




 明くる日の正午、『女帝ちゃんホットライン』から連絡が入る。

 どうやら女帝は、今もまだ鋼鉄の国にいるようだった。


『これは駄目じゃなあ……。政府の上層部は軒並み洗脳されておるし、貴族院は機能しておらん』


「国として終わってないかそれ」


『終わっておるなあ。これじゃから悪魔は好かんのじゃ』


 鋼鉄の国は、大総統を名乗る男によって十五年間支配されていた。独裁政権ってやつだ。それによって、共和国を成り立たせていた貴族院は衰退した。その大総統と大総統府が、悪魔によってアルイブキラ討つべしとの洗脳を受けた。洗脳を受けた者を排除すると、そこには国を成り立たせる政府が何も残っていない状態となる、とのことだ。


『なので、大総統府を解体して、隣の国に併合させることにしたのじゃ。幸い、隣の国は王政で【幹】との関わり合いも深いのじゃ。同じ大陸なので、鉱物が産出する特長も近いしのう』


「鋼鉄の国の、隣の国……塩の国、エイテンか!」


『うむ、それじゃな。王族は温厚で、他者の機微を察するのに優れておる。よい指導者となるじゃろう』


 ハルエーナ王女の身内か。そりゃあ機微を察するのにも優れているだろうよ。おそらく、そういう異能力があるんだろうから。


「隣の大陸に一大国家が生まれるなあ」


『うむ。じゃが、エイテンの王族ならば戦争など行なわずに、上手く外交をしてくれるじゃろう』


「エイテンならうちの国とも関わり合いが深いし、その同盟を前面に押し出して睨みを利かせることもできるだろうさ」


『睨みを利かせすぎて周辺諸国と敵対しなければいいがの』


「そこは大丈夫だと思うぞ」


 私はハルエーナ王女を想像しながら言った。他者との調和が取れるいい子である。その親ならば、きっとバランス感覚にも優れていることだろう。


『それと、取り急ぎ、食糧の輸入が必要じゃな。このままではハイツェンは次の収穫まで持たんぞ』


「そりゃあ大変だ。国王に具申しとく」


 今日後宮で国王が来るのを待って、それでも来ないなら侍女長か女官長経由で国王に連絡しよう。

 そんなこんなで通話が終わり、私は午後の仕事に向かうことにする。

 季節は雨期。見事な雨模様なので、傘を持参して後宮に向かうことになる。

 その後宮への道すがら、王宮の廊下で女性近衛騎士を連れた国王に鉢合わせた。


「これは陛下。ご機嫌うるわしゅう」


 廊下の隅っこに寄って、侍女の礼を取ろうとする私。


「ああ、いいからいいから。薔薇の宮に向かうんだろう? 俺っちも目的地そこだからさ、一緒に行こうぜー」


 そういうことになった。

 私は、国王と隣り合って会話しながら歩く。


「女帝陛下からの連絡によると、鋼鉄の国の大総統府が解体され、塩の国に併合されるそうです」


「マジ!? 最新情報じゃーん。なに、キリリン、女帝陛下と連絡とれるの?」


「専用の連絡用通話魔法道具を渡されました」


「なにそれすっごい。『幹』の最高指導者と直通会話とか、とんでもないよそれー」


 そうか。あまりそういう実感はないのだけれどな。女帝やたらとフランクだし。


「それと、女帝陛下から伝言のようなものです。鋼鉄の国は次の収穫まで食糧が持たないので、輸出してほしいと」


「了解。かたくなな姿勢の政府がいなくなるのなら、じゃんじゃん輸出しちゃうよー。ちょうど農具刷新用の鉄が欲しかったんだ。輸入もするぜー!」


 傘を差しながらそんな会話をして後宮の道を進み、薔薇の宮へ。

 入口すぐの広間では、フランカさんが国王の到着を待っていた。


「私がご案内しますので、キリンさんは来客室でお茶をお願いします」


 おっ、フランカさんが私にお茶を任せてくれるのって初めてじゃないか。

 私は厨房へと向かい、料理長にお湯を用意してもらう。

 そして手を洗い、茶器と茶葉を用意し、ワゴンに載せる。お湯をもらって、来客室へ出発だ。


 ノックをし、来客室へと入室する。するとそこには、元気よくハイタッチをする二人の姿が!

 相変わらず変な二人である。恋人が再会を喜ぶのって、抱き合うとかじゃないのか。

 私はそんなことを思いながらワゴンを押し、テーブルの横でお茶を淹れる。


 お茶は、侍女宿舎で普段から淹れているから、割と慣れたものだ。


「結婚式の日取りが決まったよ」


 二人にお茶を配っていると、国王がそう話を切り出した。


「終戦式典と合わせて、今月の二十日。大披露宴は二十一日。ゼンドメル領での結婚式は二十八日だ」


 この国の貴族は、結婚式を複数回行う。

 夫婦それぞれの出身領地でやったり、人の集まる王都でやったりと、場所を変え人を変え何度もやるのだ。そのぶん、一回の結婚式はこじんまりとしたものになったりする。だが、王族の結婚式の場合はどれも盛大に開かれることになるだろう。


「終戦式典と一緒にやるにしては、思ったよりも余裕のある日程ね!」


「これでも、国の端っこから結婚式に参列する貴族にとってはぎりぎりさ。知らせは陸鳥便で送ったよ」


 陸鳥とは、馬のような四つ足の動物であるメッポーよりも足が速く、体力のある二本足の巨大な鳥だ。メッポーよりも激しく揺れるので、乗りこなすには熟練の腕が必要となる。繁殖も難しいので、日頃あまり目にすることも少ない存在だ。


「確かに、王都が国の中心にあると言っても、端の領地からは馬車で何日もかかるわね。準備を考えたら日はそう多くない、か……」


 昨日勉強した、アルイブキラの地理を思い出しているのだろうか、そんなことをパレスナ嬢が言った。

 国王も頷いて、さらに言葉を続けた。


「戦争が終わったら結婚するってことは全土に知らせてあったけど、今回の戦争はひとあてもしないで終わったからね。衣装を新調した人は作るの間に合わなかったりもしそうだねー。終戦式典を遅らせすぎるのもよくないから、この日程になったけど」


 終戦式典と結婚式を分けるわけにはいかないのだろうか。

 そこが気になったので、侍女の立場ながら失礼なことだが、国王に尋ねてみた。

 すると。


「んー、鋼鉄の国との戦いが終わったというのは、この国にとって大きな節目なんだ。だから、式典と一緒に結婚式を行うことで新しい体制を貴族と国民に向けて演出したいのさ。鋼鉄の国が塩の国に併合されるなら、なおさらね」


 ふむ。なにやら難しい政治的意図があるのだろう。私にはよく解らないが。


「で、衣装は間に合いそうなのかい? 針子室からは問題ないって返答が来てるけどさ」


「予定が決まってからすぐに針子室に連絡を取ったから、一回目の披露宴までの衣装ならできてるわ」


 そう、あの前世の白いウェディングドレスはすでに完成しているのだ。頭に被る白いベールも当然セットである。


「それは楽しみだねー。俺っちはなんか、披露宴で大収穫祭の衣装みたいなのを着ることになってたけど」


「私のドレスが白なの。お揃いよ」


「白かー。いいねー」


 国王はドレスに関心がある様子。まあ、試着のときなど、事前に見る機会もあるだろう。


「キリリンもドレスの準備はできているのかな?」


「ええ。新調しましたが、間に合います」


「キリンのドレスはすごいわよ。まさに魅惑の妖精!」


「ぷっ、キリリンが妖精て。妖怪の間違いじゃないの」


 失礼な奴だなこいつ!

 私だって、中身は男だが外見はいいはずなのだ。着飾れば妖精にだってなってみせるさ。

 なんなら、妖精魔法で妖精郷を現世に作りだしてみせるぞ。大魔法だ。


「キリンのドレス姿は、当日を楽しみにしててね! なんなら二人でダンスを踊ってみる?」


 そんな提案をパレスナ嬢がしてくる。

 その言葉に国王はいぶかしげな表情になり、言った。


「ダンス踊れるの? キリリンの体重で足踏まれたら、俺っち死んじゃうよ」


「……大丈夫です。ミミヤ様に習いましたから」


「ミミヤかー。そうだ、彼女、後宮から出た後どうするか知ってる?」


 国王がパレスナ嬢の方へと向き直ってそう尋ねた。


「いえ、知らないわ。陛下は知っているの?」


「人伝で聞いたけど、王都の屋敷に留まって、王都の貴族向けにマナー教室開くんだってさ。王妃教育に王宮へも通ってくれるみたいだよ」


「あら、本当?」


「ファミーは王宮図書館の司書に内定したし、トリールは王宮菓子職人に抜擢したよ。モルスナは元々王都在住だし、後宮解散しても、意外とみんな近くにいるね」


「私のところからも護衛のビビとフヤが近衛入りするみたい」


 ビビだけでなく、ちゃっかりフヤも近衛入りしている。彼女の生態が謎すぎる。

 そして、国王がなるほどと頷き、言葉を続ける。


「フランカとビアンカの侍女親子は引き続き内廷でパレスナの侍女をしてもらうし、馴染みの深い顔が揃っているね。安心した?」


「そうね。でも、キリンは?」


「キリリンは……未定ー」


 未定なのか。今度はどこに飛ばされるのやら。

 だがしかし、パレスナ嬢はその言葉が不満だったのか、国王に言う。


「キリンは私の侍女でしょ。私が王妃になっても変わりなく」


「でも、王宮の各所から、キリリンを侍女にくれって言われているんだよねー……。後宮侍女を勤め上げた実績に加えて、護衛としても超優秀なのを示しちゃったから」


 そんな話になっていたのか。確かに、少人数で鋼鉄の国の襲撃犯を制圧したが。


「それでもキリンは私の侍女なの」


 パレスナ嬢が国王の目をじっと見つめる。

 そうして数秒経ち、国王は根負けしたかのように言った。


「分かったよ。できるだけそうなるように、女官長と侍女長には話を通しておくよ」


「やったわ! キリン、貴女の仕事は守られたわよ」


 別にパレスナ嬢から仕事先が変わっても、仕事にあぶれるわけではないんだけれどなぁ。

 まあ、彼女が喜んでいるなら何よりだ。


「そうなると地元に帰るのは、護衛の残り二人と、料理長達と、あとはハルエーナね……」


 そうパレスナ嬢が指折り数えて言う。

 ハルエーナ王女か。彼女は塩の国から来ているから、後宮が解散するとなると国元に戻ることになる。


「殿下を引き留めることはできないね。さすがの俺でも他国のことまでは口だしできないよ」


「ええ、そうね。寂しくなるけど、お別れしなくちゃ」


 国王の言葉を受けて、パレスナ嬢がしんみりとした感じでそう言った。

 楽しい結婚式の後には、悲しい別れか。


「ま、そうなるなら、残りの日数を楽しく過ごしましょうか」


 そうパレスナ嬢は、無難に話をまとめた。

 人の出会いは一期一会なんて前世では言ってたりしたが、いつもと変わらぬ日常を過ごすなら、できれば別れは少ない方がいい。

 それでも別れはどうしてもやってきてしまう。


 今、私は王城侍女として働いているが、花嫁修業に来ている侍女宿舎の侍女達も、いつか侍女を辞めてお嫁に行ったりするんだろうな。そう考えると、私ってお局様コースまっしぐらなのかね。見た目は幼い新米侍女だが、中身はアラフィフ。そんな未来が見えた。

 などと馬鹿なことを考えて、別れの寂しさを紛らわす私であった。


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