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怪力魔法ウォーリア系転生TSアラサー不老幼女新米侍女  作者: Leni
第三章 後宮侍女

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49.一味同心ティーンエイジ系探偵不要ティーパーティ<5>

 8月20日。冬も半ばを迎え、一番寒い時期となった今日この頃。

 城下では暖炉に薪なり炭なりを入れて、懸命に暖を取ろうとしていることだろう。だが、ここ後宮では魔法道具の暖房が、魔力を使って簡単に室内を暖めてくれる。

 そんな薔薇の宮、主の私室。パレスナ嬢が、その美しい容姿を侍女三人がかりで磨きあげられていた。

 そう、今日は国王とのお茶会の日。参加者の一人であるパレスナ嬢は、いつもより気合いの入った格好をすべき日なのだ。


「うん、だいぶ絵も煮詰まったわね。良い調子だわ。キリン、そろそろゼリンとの面会の予定を入れておいてくれる?」


 パレスナ嬢は私に髪をいじられながら、そう言った。彼女の視線の先、部屋の壁には彼女が最近描いた複数の線画が貼り付けられている。ゼリンに提出する挿絵サンプルの準備が整ったということだろう。

 だが、今はそれどころではない。


「了解しました。ですが、今はお茶会のことを優先して考えてくださいね」


 私はそう言いながら、パレスナ嬢の美しいブロンドの髪を結わえていく。

 フランカさんが顔に化粧をほどこしているので、できるだけ頭を揺らさないようにしながらだ。ビアンカは指の爪にマニキュアを塗っていっている。


 何故こんなに同時進行になっているかというと、パレスナ嬢が「神が降りてきた」と言って、線画描きを午後になっても続けていたからだ。どんな神か聞いてみたところ、漫画の神らしい。世界超えてきたのかよ漫画神。

 せっかく私も昼に侍女宿舎に戻らずに、薔薇の宮にずっと詰めていたというのに、この始末である。


 ただ、一応まだ時間に余裕はある。でも、フランカさんとしては、早めに現地入りを済ませたいらしかった。

 次期王妃として、他の令嬢を現地で迎えるのが大事だとかなんとか、私にはよく解らないことを言っていた。


 よし、髪の毛終わり。

 魔法で鏡を作り、それをパレスナ嬢の周囲に漂わせて様々な角度からチェックする。

 うん、問題なしだ。私は化粧を続けるフランカさんへと報告する。


「フランカさん、終わりました」


「では、キリンさんも自分の身だしなみを再度確認してください」


「了解しました」


 私は部屋に据え付けられている姿見の前に立ち、毎日朝昼やっているのと同じように身だしなみのチェックをした。

 うん、服装に問題なし。三つ編みにほころびなし。化粧はしていないので顔色は問題なし。主より目立つ要素もなし。ばっちりだ。


 私は姿見の前から、パレスナ嬢のもとへと戻る。

 そこには、化粧を終えてドレスも完璧に整えられた美しい次期王妃がいた。

 はー、いつもは薄いメイクだけど、ばっちり決めたら年齢がいくつか上の大人の女性に見えるんだな。二十代後半の国王と並ぶには、こちらの方が似合うだろう。


 そうして準備を整えた私達は薔薇の宮を出発した。

 外は雪模様。さすがにお茶会のためだけに、天候を整えることはしてくれないらしい。

 パレスナ嬢が雪で濡れないように、フランカさんは大きな傘を掲げている。侍女らしい行為だが、こればかりは私とビアンカでは背が足りないので代役になれない。


 お茶会には侍女三人までの同行が許されている。護衛はなし。まあ、私が護衛の代わりになるので問題はない。


 薔薇の宮から歩いてすぐ、青百合の宮に辿り付く。

 今日は珍しく、青百合の宮の前には門番が立っていた。エスコート役なのか、はたまた国王が来るから一応の警戒をしているのか。

 私達は門番に促され、青百合の宮へと入場した。入口すぐの広間では、お茶会のセッティングがすでに整えられていた。


 四角く囲むように設置された長テーブル。そこに豪華な椅子が並べられている。

 私も昨日は力仕事をするための要員として駆り出され、ここで設置を手伝っていた。

 普段宮殿の外で使われている七人座れる巨大な円卓は、宮殿内に通せる大きな搬入口がない。

 そのため、仕方なく長テーブルを組み合わせている。まあ、機能に問題はない。


「ようこそいらっしゃいました」


 主催のハルエーナ王女がパレスナ嬢を迎え入れる。それを受けたパレスナ嬢はにっこりと笑いかけると、王女に向けて言った。


「今日はよろしくね。故郷の味、楽しみにしているわ」


 そして私達はコートを脱ぎ、青百合の宮の侍女に渡す。入口すぐの広間だが、暖房のおかげか中は暖かい。

 その場でパレスナ嬢のドレスのチェックを簡単に行い、私達は席へと案内される。


 薔薇の彫刻がなされた椅子。それがパレスナ嬢の席だ。テーブルに添えられたいくつかの椅子には、それぞれの宮殿の花が彫られている。

 薔薇の彫刻の椅子の隣は、モルスナ嬢のものと思われる紫陽花の彫刻の椅子だ。

 他にも、青百合の隣は白詰草。牡丹の隣は白菊となっている。


 ただし、唯一隣り合った席のない一つだけの椅子には、花が彫られていない。

 代わりに彫られているのは国章だ。国王の座る席ということだろう。それら合わせて全部で椅子は七つだ。


 フランカさんが椅子を引き、パレスナ嬢が着席する。そして、他の王妃候補者の方々がやってくるのを待った。


「ごきげんよう。お元気ですか?」


 まず初めにファミー嬢が登場した。着席したファミー嬢に、パレスナ嬢が話しかける。


「挿絵の参考本助かったわ。おかげで良い挿絵サンプルが描けたわ」


「左様でございますか。またご所望の本があればいつでもおっしゃってくださいね」


 そう言葉を交わすうちに、モルスナ嬢がやってきた。

 席へと案内された彼女に、またパレスナ嬢が話しかける。


「モルスナお姉様、ゼリンへ見せる線画が揃ったわ」


「あらそう。じゃあ、会いに行く日取りが決まったら教えてね。私も同行したいわ」


 次にやってきたのはミミヤ嬢である。

 着ているのはいつものような古風なドレスではなく、それを冬に着るのかという感じの大胆なドレスだった。


「ミミヤ、今日は色っぽいわね。大人って感じ」


「皆様の中で私が一番年上ですもの。大人っぽいのは当然ですわよ」


 パレスナ嬢の言葉に、ミミヤ嬢はそう言って微笑んだ。色っぽい。

 そして最後にやってきたのはトリール嬢だ。緊張しているのかやや動きが硬い。そんなトリール嬢にパレスナ嬢は優しく声をかけた。


「あら、新しいドレスかしら。似合っているわよ」


「ありがとうございますー。成長期なのか、前のドレスがとうとう合わなくなりましてー」


 そう言ってトリール嬢は笑った。緊張はいくらか解けたようだ。

 王妃候補者が全て揃った。パレスナ嬢が話を振って、皆で歓談するうちに一人入口横で立ったままだったハルエーナ王女が言った。


「これより国王陛下がご入場なされます。皆様、お立ちになってお待ちください」


 その言葉を受けて、令嬢達が立ちあがる。皆の間に緊張が走った。

 宮殿の扉が開かれ、まずは女性の近衛騎士が入室する。その後に、国王が革製の格好良いコートを着て宮殿に入ってきた。

 それを王妃候補者達は淑女の礼でもって迎え入れる。私も、パレスナ嬢の席の後ろで、国王に向けて侍女の礼を取ってじっとしていた。


「やあやあ、皆揃っているね。寒い中ご苦労様だよー」


 そう言いながら、近衛騎士達の手を借りてコートを脱いでいく国王。

 コートの下はいつもの下町貴族風ファッションではなく、豪華な国王らしい衣装を着ていた。さすがに奴でも場はわきまえるらしい。


 そして国王はハルエーナ王女にエスコートされ、指定の席へと向かう。

 国章が彫られた椅子に着席し、皆に向けて言った。


「さ、みんな座っていいよ。あとは殿下、よろしくね」


 国王に促され、王妃候補者達は一斉に着席した。

 と、そのときどこからか猫がやってきて、ハルエーナ王女の腕の中に収まった。

 それを見て、国王は面白そうに笑う。


「ははっ、それが『ねこ』かい? 最後のお客さんの登場だねー」


 その言葉に、皆の表情に笑みが伝わった。

 そしてハルエーナ王女は猫を抱えたまま侍女に指示を出し、お茶の準備が始められた。

 椅子と同じく王妃候補者それぞれの花の意匠がなされたカップに、お茶が注がれていく。ハルエーナ王女が先日言っていたが、この国で使われる茶葉カーターツーではなく、今回は塩の国で王侯貴族が用いている茶葉を使用しているらしい。

 さらに、トリール嬢が作ったお茶請け、ピピン・チャーが皆の前に並べられていく。


「お、これが話に聞いていた、殿下の国のお菓子かな?」


 国王がそう問いかけると、ハルエーナ王女は猫を抱えたまま頷く。


「ん、自信作」


「私がお菓子作りを担当させていただきましたー」


 トリール嬢が国王に向けてそうアピールをした。

 それを受けて、国王はにっこり笑う。


「これ絶対美味しいやつじゃん!」


 そして全員に茶が行き渡り、主催のハルエーナ王女が「アル・フィーナ」と食前の聖句を唱える。そして他の王妃候補者と国王も聖句を唱えた。聖なる光がテーブルの上に舞う。

 通常、お茶を飲むときにはわざわざ聖句を唱えないが、この国のお茶会の作法では聖句を唱えるのが正しいのだろう。

 皆、カップを持ち上げ、茶を一口飲む。


「!? がはっ!」


 すると突然パレスナ嬢がカップを取り落とし、その場でうずくまった。

 カップがテーブルの上に落ち、音を立てて割れる。

 何だ!? 毒か!?


「パレスナ様!」


 私はパレスナ様に駆け寄り、その身を抱えた。

 毒だとしたら、やるべきことは? 茶に毒が含まれていたとしたら、やるべきは胃洗浄!

 私は魔法で水を作りだし、水を操作しパレスナ嬢の口の中に注ぎ込む。さらには妖精を複数呼び出して、体調の調整を行わせた。


 かつて、私は王城侍女になるときに侍女長に言った。

 解毒魔法などこの世に存在しないと。

 毒は自然界に星の数ほど存在していて、様々な効果を人体に及ぼす。全ての毒を払える解毒魔法なんて万能魔法は、夢のまた夢だ。前世でやったTRPGなら、神官の解毒魔法で一発解消だったのになあ!


 パレスナ嬢の胃を洗浄する間にも、私は割れたカップに妖精を放ち、成分分析させる。

 毒の種類を特定できたら、対処できることもあるかもしれない。


「ど、毒!?」


 そんな誰かの呆然とした声が聞こえた。


「皆、お茶を飲むのを止めるんだ!」


 国王の注意の声が広間に響く。

 そう、毒を盛られたのがパレスナ嬢だけとも限らない。皆の間に、緊張が走る。


 胃の洗浄が終わり、パレスナ嬢が咳き込む。今すぐ命に別状はないようだ。

 いったい何を盛られたのか――え!?


 妖精が、分析結果を知らせてくる。

 その結果に、私は呆れ、そしてキレた。色々台無しにして、絶対に許さない。


「皆様、お静まりください。パレスナ様の命に別状はありません」


 私は皆にそう告げる。

 どよどよと場がざわめく。侍女や近衛騎士も合わせると、広間には相当な人数が詰めかけている。

 その中の一人、フランカさんが私に問いかけてきた。


「どのような毒か判ったのですか?」


 私はそれに大きく首を横に振った。


「いいえ、これは毒ではありません。――これは苦苦芋です」


 私の言葉に、一同は怪訝な顔をした。さらに私は言葉を続ける。


「おそらく、苦苦芋の苦味を何十倍にも濃縮したものが、カップに付着していました。それでパレスナ様は思わず咳き込んでしまったのでしょう」


 今もパレスナ嬢は大きく咳き込んでいる。いや、これは胃洗浄をした違和感からくるものだろうが。


「そして、この中にこんなことをしでかした輩がいます」


「待って、キリン!」


 私の言葉を遮るように、パレスナ嬢が叫んだ。


「こんなのただのいたずらでしょ。犯人捜しはいらないわ」


 犯人捜しなんてしても、誰も得はしない。いつだか、パレスナ嬢はそんなことを言っていた。

 探偵はいらない。平和に皆仲良く過ごすためには、それが一番だと。


 だが、頭にきている私はそんな言葉では止まらない。それにこれは、違うのだ。


「いいえ。犯人捜しではありません。これからするのは――悪魔狩りです」


 そう私は言った。悪魔。その言葉に、また場がどよめく。

 ああ、そうだ。悪魔なのだ。カップに付着した苦苦芋の液体には、悪魔を示す火の神の残り香が、これでもかとこびりついていた。小説みたいに、探偵の真似事をして推理をしようっていうんじゃない。状況証拠がいくつか揃っただけの話だ。

 だから、私は言う。


「私の考えが間違っていなければ、悪魔がこの中にいます」


 国王の護衛の近衛騎士達に緊張が走る。

 悪魔は人類の敵。火の神の無数に存在する分割思考のうち、人類に害をもたらす思考がこの世界に送り出している端末である。

 天使と悪魔は本来、火の神の端末という同列の存在だが、善悪を判断する世界樹の手によって見た目に判別が付けられるようになっている。

 しかし、天使や悪魔には変身能力がある。人の中に紛れ込むのだ。


 見分けの付かない害悪が人に混じっている。人々にとって、それは恐怖でしかない。

 だが、私は特別な感覚でその存在を探知できた。


「ハルエーナ様」


 私はそうハルエーナ王女に話しかける。

 皆の視線が王女に集中する。

 視線を向けられた王女は、猫を胸にかき抱いて身構えた。

 でも、大丈夫。貴女を悪魔扱いしようとしているわけではない。私は言葉を続けた。


「腕の中のそいつに問いかけてください。お前は悪魔かと」


 私の推測が正しければ、猫は悪魔だ。


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