20.雑務と私
食の話をしよう。
この国の食事には塩が足りない。それは料理とは別に塩の塊を舐めて塩分を摂取する習慣があるからだ。
代表的な摂取方法は小石大の飴状にした塩飴で、地方によってさまざまなレシピが存在し、都市圏では各商店が様々なフレーバーをつけた都会人としての塩飴を販売していたりもする。この国では塩が採れないので、塩を巡る深い歴史がきっとあるのだろう。
人間は動物の中でも特に塩分を必要とする生物だ。と前世の頃に学んだ。いや、猫の飼い方についていろいろ学ぶうち、ついでに知ったのだったか。この世界にいる猫に近い愛玩動物も、塩分には気をつけなければならないようだ。
では塩以外の食事情はこの世界ではどうなっているか。
私は『庭師』として世界中を駆け巡った。
その成果として、世界各地の料理のレシピを知る機会というのを得ていた。
普通の庭師なら料理のレシピなんて物には目も向けない。しかし、私は庭師の仕事で『商売』というものに深く関わっていた。
私に商才はない。前世の大学時代と社会人時代に嫌と言うほど思い知った。ここでいう商才がないというのは、実際に製品を作り販売にこぎつけたあと“どういう行動を取るか”という発想に柔軟さがないということだ。別の言い方をすると、営業の才能がないということになる。
しかしだ。営業の才能がないことと、商材を考えつく発想の才能がないというのは別だ。何せ私には前世の記憶という唯一無二のものがある。現代日本、そして地球の歴史的知識において『なにが必要とされ売れていたか』という商売に対する圧倒的アドバンテージがあるのだ。前世では何かと世界各国を巡る機会に恵まれていたものもあった。
そういう理由で私は前世の記憶と『庭師』で世界を巡った知識により、料理のレシピを広く得る機会に恵まれていた。
この国では一日朝昼晩の三食の食事を取る風習がある。地球において偉人エジソンが電気とトースターを売るために広めた一日三食というやつだ。それがこの世界、この国での食事情だ。
そしてこの国には茶の文化がある。それは即ち――茶菓子、間食の文化があるということだ。
さて、長くなったが、この最後の菓子を食べるという文化があるというのが重要だ。
そして私には前世と今世で世界を回ったうちに覚えたレシピの数々がある。
料理のレシピだけでなく、菓子のレシピもだ。カーリンの父の商会でレシピ本を出せそうなくらいしっかりと覚えている。
そして今の私の仕事先は近衛騎士団宿舎。調理場には昔なじみで何かと融通の利く料理長がいる。ここに就任してからというもの、一番会話を長くしているのはこの料理長だ。世界の料理というものに興味津々のようだ。
そして宿舎……というか近衛騎士団には騎士の世話をする小姓が多く仕えている。私の今の仕事は宿舎にて騎士に仕えることであり、新米侍女の私と小姓の仕事は割と重複しているが、新米がゆえに小姓達との間に小さな人間関係の溝が存在する。
そこで私が何を考えたかというと――
お菓子を使って小姓君達を懐柔することにした。
「はーい、みんな集まれー」
私の声に、わーっと宿舎の玄関口に小姓達が集まる。小姓の年齢は上限十三歳まで。それ以上は近衛騎士団の従騎士試験を受け従騎士になり、もし試験を落ちた場合は親元へと戻り青の騎士団や緑の騎士団を含めた騎士を目指すための修練をこなすようになる。
つまり小姓は皆幼い。それがはたしてどういうことに繋がるか。
「では、正騎士様と従騎士様のシーツと毛布を集めてください。ちゃんとお仕事をすれば、甘ーいお菓子が貰えますよ。今日はあまあまな砂糖のふわふわほろほろなお菓子です」
「よっしゃー」
「いえーい」
「あまあまだってよ!」
「ほろほろ!」
――甘味を使いある程度の懐柔が可能ということである。
小さい子は甘味に弱い。前世日本での知識であるが、この世界ではそれ以上のものであった。
前世の地球、日本は流通が発達していたためか、甘味はものすごく身近な物であった。ちょっとコンビニに寄れば二十四時間いつでも甘味を口に出来た。喫茶店にでも行けば紅茶やコーヒーと一緒にケーキを楽しめたし、ファミレスには偉大なパフェ様が待ち構えていた。
「急ぎ過ぎて床に引き摺らないようにしましょうねー」
しかし、この世界ではそうもいかない。飛行機も輸送トラックもなく、貴族といえど満漢全席のような贅に贅を重ねた食事を取ることもそうそうできない。それゆえ、料理のレシピも日本のような“何でもあり的”には発達していない。魔法や魔法道具はあれど魔法を十全に活用した料理人など一握りしかいない。
なので、子供は甘味に弱いのではなく、すごく弱い。大人でも弱い。
それに対して、この国では砂糖はさほど貴重な物ではない。砂糖の元になる作物が育つ気候と土壌なのだ。さらには花から蜜を集める蟻による蟻蜜が広く流通している。他にもこの世界の大地そのものである世界樹が地下水ならぬ地下樹液を枝葉から地上へと出していたりもする。砂糖と蟻蜜と樹液は料理に使われ、さらに茶に直接混ぜるために使われる。しかし、茶菓子を甘くするという分野はこの国ではあまり発達していないのだ。
ケーリの実の蟻蜜漬けみたいな甘い王都名物もあるにはあるが、あれはスナック感覚で楽しむにはちょっと甘さのパンチが強すぎる。ケーリジャムをパンにのせて食べるのは子供達に人気の食事メニューだがあれはまた菓子とは違うものだろう。
そこで、茶請けではなく純粋な嗜好品として新しく間食用に甘い菓子を作ればどうなるか。
その答えは、『未知の甘味という刺激に釣られて、打算的に小姓達が私に懐くようになる』だ。
「すっかり馴染まれましたね」
小姓達を待つ間どうでもいい思慮にふけていた私にそう話しかけてきたのは、王城の洗濯担当の下女さんだ。
小姓達が集めてきたシーツと毛布を台車に載せて洗濯場まで運ぶのが彼女の仕事である。名前は……知らない。
話を聞くに近衛騎士宿舎担当のようなので一度聞いてみたのだが、恐れ多いと言われて教えてくれなかった。名を訊ねられて答えないのは、プライドの高い侍女を相手にしたときに大変なことになるのではないだろうか。
いや、プライドの高い侍女というのも前世の創作物から勝手に受けたイメージで、今の仕事を始めてからそういう“いかにも”な貴族の子女にお目にかかったことはないのだが。
勿論私は名を教えてもらえなかった程度で怒るような人間ではないつもりであるし、彼女の今後のために差し障りないようそれとなく指摘してあげてもよいのだが……指摘するにしてもある程度仲良くなっておいた方が良いだろう。
「そうだね。皆と仲良くできたらと思うよ」
私は先ほどからずっと手にバスケットをかかえている。この中身が小姓達に渡すお菓子である。
少々即物的だが、仲良くなるならこれを活用しない手はない。
「というわけで、お近づきの証に一つ、どうぞ」
バスケットにかけていた布を取り、中に入っていた一口大の菓子を一つ下女さんに一つ手渡した。今日はこのためにスパイダーシルク製の白い手袋をしているので、不潔感はないはずだ。多分。トング的なものを使っても良いのだが、受け取る側が素手なのだから手渡しの方が良いだろう。
「わあ! ありがとうございますッッッ!」
おおう、すごい返事だ。そんなに食べたかったか、お菓子。
ここに就任して四日目、菓子を配り始めてまだ二日目だが、配布一日目である昨日はお菓子を頬張る小姓達を横にして、彼女はシーツの台車への積み込み作業をしていたからな。
しかし彼女、それでも受け取った菓子を手に持ったまま食いつかずにこちらをじっと見つめるあたり、王城にあがるだけの育ちの良さを感じる。号令を待つ犬のようだとは言ってはいけない。この世界に犬のような動物はいるが、彼女は違うのだ。
あ、よだれ。
「どうぞこの場で召し上がれ。それと、このお菓子のことは皆には内緒だよ」
「はい!」
返事と共に即座にお菓子を口に入れる下女さん。
まあ今の時間は朝食と昼食の間のお腹のすきはじめる時間だから、仕方のないことかもしれない。
「ふ、ほあぁぁぁ……」
恍惚の笑みを浮かべ空を見上げている下女さん。彼女の口の中では今頃砂糖菓子がほろほろに崩れてとろけているところだろう。
「お味はどうかな。……ええと、名前はなんだったかな?」
勢いで名前を聞いてしまおうとさりげなく訊ねてみたところ。
「南部王族領の大工を束ねる棟梁の娘さんで、エキさんって言うんすよキリン様」
「おおう!?」
突然横から第三者の声があがり驚いて振り向くと、そこにはまた新たな下女が一人いた。
翡翠色の髪を肩口で切りそろえた見覚えのある幼い少女。
「カーリンか……気づかなかった」
「左様で御座いますか」
得意げな顔でカーリンがほほえんだ。
存在感が希薄な魔人らしきカーリンは自分を認識してもらえる人物を好むが、見つけられ慣れると今度は相手を出し抜くことに喜びを見いだすようだ。十一という年相応の子供らしい行動で面白いものである。
「カーリン、仕事はいいのかい」
「午前の分は済ましておきました」
太陽が正午の位置に座するにはまだまだかかるというのに、すでに仕事を終えているとは相変わらず彼女の仕事は謎だ。
「ところで何やらお菓子らしきものを持っているようすね。美味しそうです」
「ああ、騎士団の小姓達に配る用でね。一口大だからさほど腹も膨れないですむ」
「美味しそうです」
私の言葉を聞いているのかいないのか、カーリンの視線が私でなく、私が抱えているバスケットに向いている。
なるほどそういうことか。王城内を飛び回る自由人カーリンの今回の目的はこれか。子供は甘味にすごく弱い。十一歳のカーリンは私規準で言うと子供だ。
「……君も遠慮が無くなってきたね。良い傾向だ、これからも仲良くして欲しい」
そう言って私はバスケットの中の菓子を一つ掴むと、カーリンの前に差し出した。
それをカーリンはハンカチを手の平に広げ、その上で菓子を受け取る。私の手袋と同じスパイダーシルク製の綺麗な刺繍の入ったハンカチだ。そのさりげない所作に王城にあがるだけの育ちの良さを感じる。冒険中の庭師の連中などは、野営で携帯食料代わりの焼き菓子なんて渡しても泥のついた手で掴んで食べていたものだ。
受け取った菓子をまじまじと見つめるカーリン。そして、すでに食べ終えた最初の下女さん、エキ嬢がそれを羨ましそうな目で見つめている。
犬……いや、違う違う。駄目だよ。さすがに一人一個だ。
「貿易商人の娘として様々な菓子を食してきましたが、見覚えのない菓子ですね。これはどこのものでしょうか?」
未知の菓子を前にそんなことを聞いてくるカーリン。彼女の家柄を考えるとまさに彼女らしい反応だ。
「上の枝の国トラキオの砂糖の飴菓子だ」
「これが…砂糖飴ですか」
菓子を前に首を傾げるカーリン。
その菓子は、大人の親指二つ分ほどの大きさで四角いブロック状の形をしており、ガラス繊維のようなとても固めた飴とは思えない質感をしている。色は薄い黄色だ。
「飴細工は作るときに細く引き延ばすと糸のようになりますが、それをまさか織るわけでもないでしょうし……摩訶不思議です」
「ふむ、織ってはいないけれど折ってはいるな」
その菓子の見た目を前世の日本人になじみ深い言葉で表わすと、固形のインスタント卵スープの素だ。
前世のインド人になじみ深い言葉で表わした場合は、砂糖菓子ソーンパプディである。
そう、遠い国トラキオで私が見つけた菓子は、前世の頃インドで食べたソーンパプディそのものだったのだ。
「砂糖とバターを煮詰めて作った飴を引き延ばして折りたたみ、また伸ばしては折りたたみを何度も続けて作ったものだよ」
「なるほど、そのようにして作るパンが祭りでよく売られていますね。見た目はとても似ていませんが」
彼女が言っているのはクロワッサン風に作る菓子パンのことだろう。この国では砂糖は茶に混ぜるだけではなく、パンに混ぜることもある。パンは砂糖を混ぜることによって、発酵してより美味しくなるものだが、農業大国であるこの国以外ではあまり使われることはない。なので、この国のパンは平べったいが砂糖のおかげでより美味しくなっている。しかしそこから向日葵麦を使った菓子作りという方面には、どうしてかいまいち発展していないのだが……。
「では失礼して」
手で聖印を切り、菓子を口にするカーリン。ニュートラルな表情で顎を動かすが、やがてゆるゆると頬が落ちていくのが見てとれた。
砂糖の塊のような菓子だ。甘さそこそこの甘味を食べ慣れていると甘すぎて拒否感を起こしてしまうかもしれないが、商家の娘と言えどそこまで繊細ではなかったようだ。
「これは……未知の体験です。砂糖をまるごと食べたような甘さの中に、香料とバターの香りがまざり、甘すぎるのにくどくはない絶妙な美味しさを保っているっす……」
左様で御座いますか。
他国の料理というものにとことん縁がないこの世界の人々は、未知の美味しい料理を目の前にしたとき、まるで前世のグルメ漫画のようなリアクションを取ってくれるのが面白い。大商人であり貿易商でもある家の娘であるカーリンも、その例には漏れないようだ。
この国の食事は砂糖が十分足りている。だがそれは単純に砂糖が足りているからと言って、甘い菓子に慣れていることとイコールとは言えない。
「口の中で砂糖の繊維が溶けていくのはまさに一口大にしたからこその食感……。作り手の思慮深さもまたよしっす……」
あ、いや、この大きさなのは小姓達全員に配るからあまり大きくできないのであってね?
まあいいか。
「キリンさん! 持ってきた!」
と、丁度いいタイミングで小姓達の集団が宿舎の奥から戻ってきた。良いタイミングだ。サッカーで逆転シュートを決めた瞬間にホイッスルが鳴るくらいの絶妙なタイミングである。下女に先に菓子を渡していたのを見られたら何を言われるかわかったものではない。
小姓達が玄関の横に抱えたシーツと毛布を積み重ねていく。シーツは毎日洗濯するのがこの宿舎の習わしだ。水の豊富なこの地域周辺らしい習慣だ。
昨日のシーツ集めは、間食を支給すると言ったら我先にと競争するように小姓達が一人一人やってきたものだが、今日はどうやら全員で協力して一斉に終わらせる方向でまとまったようだ。協調性や集団行動を求められる騎士候補生としていい傾向と言えるかもしれない。
「はいじゃあー整列!」
まあそれも、昨日私が小姓全員揃った後に菓子を配るようにしたからかもしれない。
勿論ここにいる者達が小姓の全人員というわけではない。外に出かけたり、訓練に出かけた近衛騎士に付いていき身の回りの世話をするのも小姓の仕事の一つなわけで、欠員も割と多い。その子達へも菓子が渡るようにしないと不満が出るかもしれないが……今のところは小姓達が私と馴染むための一つの材料になってくれればという程度なので、深くは考えていない。
「では配りますよー」
バスケットから一つ一つ砂糖菓子を渡していく。
カーリンのようにハンカチの上で受け取ろうとする紳士はいない。今の近衛騎士団というのはそういう場だ。家柄や姿勢よりも実力重視、そんな態度で騎士達がいるため小姓達もとてもわんぱくだと、この四日間で実感した。
「はいどうぞ」
「うおー、なんだこれー。光ってる!」
「まだ食べちゃ駄目ですよー」
そうしてやがて菓子が全員に配り終える。
軽い砂糖菓子なのでバスケットはあまり軽くなった感じはしないが、餌付けの準備はこれで完了だ。
「それでは皆でいただきましょう」
私がそう言うと、食前の聖句を小姓達が唱え、一斉に菓子を口にする。
「ほあぅ!?」
「んー!」
「あんまー」
シーツと毛布を集めるという至極簡単な仕事の報酬。それに小姓達が様々な反応を返してくる。
確かに洗濯物回収は容易な仕事だ。しかし、集団となるとそうではないと気づいたのは、就業二日目である一昨日のこと。
宿舎付きの侍女としての任務に就いた初日の私は、近衛騎士達に用意された侍女席でただ仕事がやってくるのを待っていただけだった。
この初日の仕事を同室のカヤ嬢に話したところ、侍女としては未熟とはっきり断言された。
この宿舎には侍女どころか下女すらいない。お菓子を渡した下女エキ(が本名だと信じたい。愛称だったら困るな)のように洗濯担当は居るが、彼女はあくまで宿舎の玄関で洗濯物を受け取っているだけで、宿舎の中に給仕として直接足を踏み入れているわけではないのだ。
ただの侍女ではなく、騎士宿舎唯一の女官長として頑張らなければいけないと、カヤ嬢にはっきりと言われたのである。
「はー、うんめー」
「とろとろしてた!」
「とろとろ?」
「とろとろ!」
女官長、つまりまとめ役。その座に着くには、菓子で釣るなどという即物的な手段を用いてまで、なるべきものなのか。
横目でシーツを畳む下女エキを見る。シーツを勢いよく畳んでは軽やかに荷台に載せていく。二日前は小姓達の働きがばらばらだったため彼女が一人玄関口でじっと小姓達を待つ時間が長かったことを思うと、まあ悪くない結果ではないかと。食材の消費というものもあるが、ここは王城であるし、なにより小姓達全員の菓子を作ってなお、この宿舎の厨房施設では時間が十分有り余るほどの余裕があるようである。料理長が言うには、仕事の大半は料理研究の時間だとか。無駄に広い王城様々である。
「美味しかった!」
「美味しかったですか。午後の仕事も頑張れそうですか」
「やってやるさ!」
リーダー格の小姓の一人が元気に返事をしてきた。よきかな。彼らとの関係はどうやら良好な状態で開始できたようだ。多分。きっと。おそらく。
勿論午前の仕事はこれで終わりではないし、昼食も皆交代で取るわけだが。
「なあなあ侍女さん」
と、さきほどのリーダー小姓が話しかけてくる。
「はい、なんでしょう」
「従騎士になったら菓子貰えなくなるのか?」
「あー……それは……」
まあ従騎士の方々には何も差し上げてませんが。
「従騎士になればお給金で好きな菓子を自分で買い放題ですよ」
「そうかー」
「そうか?」
「そうですよ。お菓子もお料理も買い溜めて好きなだけ食べて良いんです」
そう答えるが、太めの声がすぐに疑問の声を出す。
「街でこんなの食えるとこってあるか?」
「知らん」
「ないよな」
「ないぞ」
「ないよなぁ。不公平だよなぁ」
「なぁ! 小姓限定の報酬ってちょっとないよな!」
「俺達にご褒美があってもいいんじゃねえか!」
……うん?
「姫さんよう、見習いの小姓よりも、俺達はさ、王国の平和と陛下の安寧のため日々頑張ってるんだぞ? わかる?」
そう私を頭上から見下ろして言葉を放ってくるのは、幼い小姓ではなく筋肉に包まれた巨体の成人男性だった。
いつの間にやら小姓達に混ざって正騎士の方々が宿舎の前に集まっていたのだ。
これはどういうことだろうか。今日は多くの近衛騎士が王城の外の騎士訓練場に汗をかきに行っているはずでは。
「みんな! 侍女さんのお菓子食べたいよな!」
副隊長……小姓達に菓子出すのに許可出したのに何で騎士達を煽っているんですか。
「食べたいです!」
大の大人達が一斉に返事をする。
副隊長も食べたかったなら相談したときに言ってくれればいいのに。どうしたものかな。




