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怪力魔法ウォーリア系転生TSアラサー不老幼女新米侍女  作者: Leni
第一章 新米侍女

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14.性癖改善バイオレンス系トライアングル純愛恋愛事情<3>

 冒険者時代の私は、世界の各地を転々として仕事をこなしていた。

 冒険者である『庭師』の免許は、上の種別になると国境を越えることが可能になる。とは言え熟練の冒険者でも遠くの国までわざわざ働きに出ることは少ない。

 何故か。答えは簡単。この樹の世界も地球と同じく国によって様々な言語が存在するからだ。


 私は前世の頃から外国語をマスターすることが得意だった。そして今の私はどうやら脳の言語野が高度に発達してくれているらしく、驚異的な速度で各国の言語を覚えることができた。十歳という若さで見た目の成長が止まっていることが関係しているかもしれない。

 そういうわけで多言語を習得している私は、庭師の事務局からちょっとあっちの国へ行ってきてなどと、やっかいな国境越えの仕事を幾度となく頼まれていたのだ。


 前世のように交通が発達しているわけでもなく、旅は厳しい。向かった先の国で腰を落ち着けたいと思ったことは何度もあった。

 それでも私は折を見てこの国アルイブキラへと戻るようにしていた。

 私は遊牧民の生まれだがその記憶はない。父とは様々な国を旅していた。だが魔女との二年間の生活は違った。バガルポカル領の魔女の塔で一緒に過ごしていた。だからか、私はこの国を今生での故郷だと思うようになっていたのだ。


 バガルポカル領の領主とも冒険者の駆け出しの頃に知り合った仲であり、国に帰るたびお土産を持って領主館に行ったものだ。彼のことは、親友と言っても過言ではないと私は思っている。

 そんな彼に娘のククルが生まれたときは、まるで姪っ子か何かが生まれたような感覚があった。ククルは昔から可愛らしい子で、言葉を話すようになって私をお姉様と呼んだときは、それはそれは嬉しかったものだ。

 その後、冒険者として名を馳せ世界の中枢『幹』に免許の一等級を授かったときは、無理を言って世界樹の脈を伝う高速移動術の使用許可を貰った。それを使い遠い国で仕事が終わるたび、小さいククルに会いに戻るようになった。


 ククルにはよく前世の話をした。彼女はこの世界の遠い国の話よりも、未知の世界である地球の話を好んでいた。

 あるとき、私はククルに地球のある文化の話をした。

 それは私にとっても未知の文化だった。その名もパジャマパーティである。


 さて、話を現在に戻そう。

 談話室でカーリンとのカード対戦を終え、私、ククル、カヤ嬢のいつもの三人とカーリンが一所に集まり、カーリンの恋の話をはじめた。が、すぐに夕食の時間となりその場は解散せざるを得なくなった。さすがにカーリンを侍女の宿舎の食卓に座らせるわけにはいかない。

 話はまた後日、と思ったところでククルがこんなことを言い出したのだ。


「キリンお姉様のお部屋でパジャマパーティをしましょう」


 と。未知の文化の侵略である。


 そういうわけで夕食と入浴が終わり、私とカヤ嬢の部屋でパジャマパーティの開催である。

 私とカヤ嬢の部屋は二人部屋。家具を除いた床の広さは十四畳ほどだろうか。四人が眠るには十分な広さだ。

 ごめん嘘言った。畳一枚の大きさとかもう覚えてません。まあ日本のまあまあな温泉旅館の二人部屋の本間くらいの広さはあると思う。多分。

 貴族の娘が寝泊まりするには手狭だ。私物も全てこの部屋に収めないとならない。しかしここは王城の敷地内。侍女一人一人に衣装部屋など用意するわけにはいかない。

 なので宿舎には談話室や裁縫室など様々な目的の部屋があるし、細かいサイズに分けられた制服と寝間着、そして宿舎内で過ごすためのカジュアルな服がいつでも借りられるようになっている。わがままは許されない。決められた風習に従うのも花嫁修業の一環だ。

 夜会などでドレスを用意したいときは貸付金を出すので王都に場所を借りてくださいとなるそうだ。どこぞの不動産商会の臭いを感じる。


 なおこの部屋は土足厳禁。

 理由は、私は寝転がるのが好きだから。床には私が城下町から買ってきたカーペットが敷いてある。部屋の広さは有限だが、規則の範囲内で部屋を飾ることは住人の自由だ。ケージがあればペットを飼うことだってできる。

 なお、扉の前には靴を脱いでの入室を促す張り紙。入口には、私とカヤ嬢が裁縫して作ったスリッパが何足か。この国の人には馴染みのない文化だろうが、私のごろ寝のために受け入れて貰うしかない。


 いやはやしかし、パジャマパーティとは、私もすっかり女子としての生活に染まったものだ。

 冒険者時代は男社会だったので、みんなで集まって寝ると言ったらろくなものじゃなかった。宴会のあと酔ったままその場で雑魚寝したり、魔物や怪獣が跋扈する深い森での野営だったりそんなものだ。

 侍女という職業になった以上は、女の子女の子した生活を今後も続けることにはなるだろうけれども。


「しかしこの分布はどうしたものだろうね」


「分布ですか?」


 私の言葉に首を傾げるククル。

 私はそんなククルを指さして言う。


「十四歳。領主のお嬢様」


 次にカヤを指さす。


「十五歳。領主のお嬢様」


 そしてカーリン。彼女の年齢は、彼女の父ゼリンの話から年齢逆算できる。


「十一歳。豪商のお嬢様」


 そして最後に私。


「……二十九歳。なんなのこれ場違いすぎるよ私」


「いいではないですか。永遠の少女ですし、キリンさんは」


 そうカヤ嬢はフォローしてくれるが、ククルとカーリンは苦笑。

 そりゃ苦笑もするさ。二人はかつて、何年間も私のことを年上の存在として見ていたのだろうから。カーリンについては年上と見られてるか推測でしかないけれど、ククルについては乳幼児の頃から知っている。

 年齢分布だけで言うなら、私の代わりに侍女長を配置しても同じ状況になるのだ。侍女長がパジャマパーティに乗ってくれるかどうかは解らないけれど。いや、乗ってくれるか。あの人、一児の母ながらなかなかにノリが良い。


 なお、今回のメンバーには、下女のカーリンが混ざっている。元々が彼女について話をしようとして始めた集まりなのだ。

 四人という所帯で影に埋もれないよう、カーリンにはその特有の体質を打ち消すために、『注目』という幻影魔法を掛けてある。

 初歩の初歩の初歩の魔法で、満員状態の酒場の中で店員さんに向けて自分の声を通らせたり、数十人規模の人を対象に教師が講義を行うときなどに使う。カーリンにこの魔法を覚えることをお勧めしたが断られた。いいのかい? 後悔しないかい。絶対後悔すると思うよ。


 ちなみにカーリンは下女なので、本来寝泊まりするための下女宿舎が王城内にある。

 王宮勤務の官僚や執務の補助を任される上級侍女など位が高い場合は王都の自宅などから通う者もいるが、一般侍女や下女、小姓などの使用人、長期雇用の工員などは王城の敷地内にある何らかの建物に宿泊している。

 城の人の出入りを減らすための警備上の都合だ。

 王城には強固な外壁があるが、王城の中でも王宮もまた強固な魔法結界がある。そのため、どこに誰がいるかさえ把握されていれば王宮の外の王城敷地内で人が生活する分には、それほど大きな問題はないのだ。工作員を外から新たに招くのが一番よろしくない。


 そういうわけで、ククルとカヤ嬢の二人はパジャマパーティの開催を決めると、ものすごい勢いと速さで下女の宿舎と侍女の宿舎長にカーリンの侍女宿舎への宿泊申請を出した。

 王宮の高官が急に寝泊まりをする場所を変えるとあれば、大事になる。が、元々王城の外周付近の宿舎内に住まう侍女や下女の一人が宿舎を一日変えたところで、警備への負担はさほど増えない。

 増えないのか? 本当か? 今、王城は、スパイを取り締まる厳重態勢だと聞いているぞ? 私が前に壁にへばりついた忍者を吹き飛ばしてからだ。まあ申請がスムーズに通ったなら、私の考えることではないか。


 しかしパジャマパーティか。女子会に並んで、前世の私からすると想像も出来ない催しだ。確かに、そんなものが存在すると昔ククルに話したけれどもさあ。

 前世では三十歳超えてるのに“女子”会とか……などとテレビで見るたび嘲笑っていたのに、実際アラサー女子(永遠の幼女と読む)の自分が女子会だよ。いやパジャマパーティか。

 ちなみに、女子とは女の子という意味ではなくて女性全般を指す言葉だと、前世の女子の親友に怒られたことがある。スポーツで女子シングルスとか言うものな。


「パジャマで集まるとこう、わくわくしてきますね」


 カーペットの上に敷物を用意しながらカヤ嬢は言う。床の上で飲み食いするための敷物である。


「でしょうでしょう。お姉様に聞いて一度やりたいと思ってましたの!」


 クッションを胸に抱えて転げ回りながらククルが言う。

 ああ、こんなにはしゃぐククルを見るのは何年ぶりだろうか。


「普段はなかなかできないね。基本、寝間着姿で部屋の外を歩き回るのはいけないことらしいから」


 とは言っても部屋にトイレがあるわけでもないので、夜中に用を足すときは寝間着姿でも可だ。

 だから規則というわけでもなく、口で交わされるマナー程度のものだ。それでもカヤ嬢が夜中に寝間着で出歩いたり、寝間着のククルが部屋に訪ねてきたりしたのを見たことはない。

 行儀の良いお嬢様方だ。


「カーリンはどう? 堅苦しくならなくていいのよ、ここには私達しかいないのだし」


 カーリンにお酒のグラスを渡しながらカヤ嬢が言った。この国で飲酒が認められるのは十二歳からだ。誰だカヤ嬢の行儀がいいと言ったのは。

 そういえばカヤ嬢はカーリンと前々から親しい様子だったなぁ。私とカーリンが王城で知り合ったのは、カヤ嬢とは関係ないところだったのだが。


「ええと、そもそもこの寝間着が着慣れないっす……。いいのかな、こんないい物着て……」


 カーリンが着ている寝間着は、私やククル達が着ているものと同じで、この侍女の宿舎で用意されるものだ。先ほども述べたとおり、王城内や宿舎内で着る物は全て宿舎側が用意してくれる。


「とてもお似合いですわ。それにそもそもこのパジャマは、ティニク商会が用意したものですの」


 カーリンに笑いかけるククル。ちなみにティニク商会とはカーリンの実家だ。


「え、うちですか? 娯楽品でもないのに?」


「確かに私の家のバガルポカル方面だと、世界向けの娯楽品を扱っていることが多いですわね」


 そう話しながらククルは私の荷物から、お酒のつまみやお菓子を勝手知ったるなんとやらのごとく次々と取り出していく。

 確かに塩気のあるおつまみは休みのときに王都の町から補給するようにしたけどさあ! 同室のカヤ嬢でもあるまいし、なんでそんなに物の配置を把握しているのこの姪っ子ちゃんは。


「でも王都のお店は高級品なら何でも扱ってますの。特にこういった衣料品には強いですわ」


「そうだったんですか。自分の家なのに知らないと恥ずかしいっすね……」


「君の父は家長候補以外は家のことに関わらせない方針だから、知らなくても仕方ないさ」


 まあよくあることである。慰めるように彼女のグラスに梅酒を注いでやる。

 ああ、今年の梅酒はどうするかなぁ。正確にはケーリ果実を氷砂糖で長期間漬けた酒だが、手順は梅酒と同じ。来月がケーリの果実が実る時期なので、漬けたものをどこかに保存しておきたいのだ。

 塔まで戻るか? でも侍女生活を続けるのだからこの部屋の戸棚でもいいか?


「ちなみにこのパジャマに使われているスパイダーシルクは、ティニク商会の独占品で他では見られないもの、らしいの」


「あらククルさん詳しいですのね」


「ティニク商会は我が家の領地発の世界的商会ですから」


 世界的商会かぁ。もう世界中を旅することがなくなったから、この国で手に入りにくい干物とかはゼリンに発注して取り寄せてもらうのもいいな。

 ああ、世界の旅と言えば。


「そうそう、スパイダーシルク。私がティニクのところのゼリンに教えたものだった、そういえば」


「え、キリン様が父さんにですか?」


「ああ、やつからは何か面白そうな商材があれば、教えてくれと言われてたからな」


 あれはいつだったか。この国で氷の巨獣退治を請け負っていた頃、戦いで後れを取って巨獣から氷の吐息をくらってしまったことがあった。

 巨獣は何とか退治したものの、巨獣の影響で周囲はまるで氷の国。身体も吐息を受けたせいで体温が急低下。おまけに人里からはずいぶんと離れていた。

 魔法の火で暖を取るも身体の芯は冷えたまま。毛皮にでもくるまって眠りたいところだったが、私と巨獣の戦いで賢い獣は皆逃げていた。


 そんなとき発見したのが、氷蜘蛛の巣だった。

 氷蜘蛛はこの国にいないはずの寒冷地に住む肉食性の蜘蛛で、自分より小さな獲物しか食べず人間には害のない種類の大型の虫だ。サイズは成人した人間の頭くらいである。

 この世界では、親となる者が居なくても環境さえ合っていれば、世界樹が直接動植物を生み出すことがある。陸の上にあるあらゆるものは世界樹の枝が咲かせる花であり芽吹く葉なのだ。


 氷蜘蛛は付近で暴れ回る氷の巨獣の影響で一時的に発生したのだろう。巨獣自体も三匹しかいなかったので、同じように世界から直接産み落とされたものだったのだろう。

 糸でできた氷蜘蛛の巣に触れてみると、粘つかない。しかもなんと冷たくない。氷蜘蛛は直接獲物に襲いかかるタイプの蜘蛛で、糸はあくまで住居を作るためのもの。そして巣を冷たく保つために糸は断熱性に優れた素材なのだと推測できた。

 そこで、私は魔法で周りにいた氷蜘蛛を操り、糸を吐かせた。そして雪のかまくらのような糸の住処を作らせた私は、魔法の火で暖まりながらその中で一晩過ごした。


 氷の巨獣達が死んだことで、生息に必要な環境を失うであろう氷蜘蛛。私は魔法で操った十数匹の蜘蛛達を魔女の塔まで連れ帰り、人工的に用意した環境で彼らを飼育した。蜘蛛糸は細くきめ細やかで魔法の織物を作るのにとても役立った。


「人を襲わないので家畜化が容易だと思ったから、その後ゼリンのやつに売ったんだ。毎年相当の額がそのときの契約金として送られてくるから、スパイダーシルクは結構な人気の織物になったみたいだ」


 何せ本来なら、寒い枝葉の国でしか生産できない糸なのだ。

 肌触りは前世の絹に近く、高級感たっぷりである。そして断熱性に優れているため防寒具として使える。暑い季節には使いにくいが、そこは糸の織り方の工夫でまた違ってくる。


「はあー、そんな取引が父さんとの間に。家でそんな蜘蛛なんて見たことないですけど」


 糸よりも蜘蛛に興味ありげなカーリンである。


「魔法で作った氷室じゃないと飼えないからね。蜘蛛にとって人間は体温が高すぎるのか中々寄ってこないけれど、こちらに害意がないとわかれば人懐っこくて可愛いやつだよ」


 そんな蜘蛛への思いを受け入れられないのか、カヤ嬢は言う。


「私、蜘蛛って少し苦手ですの」


 それでもスパイダーシルクの寝間着はちゃんと着ているあたり、カヤ嬢の中で蜘蛛と蜘蛛糸は別物として扱われているのだろう。

 可愛いんだけどな、蜘蛛。特にべたべたした糸を吐かないやつ。

 蜘蛛は基本的に、人間に害のある虫を食べてくれる益虫だ。前世でも学生時代、一人暮らししていたアパートにアシダカグモが住み着いていた。物音にすぐ怯える小心者なところが可愛くて仕方なかった。


「蜘蛛、可愛いんだがなぁ……」


「それよりもキリンお姉様、スパイダーシルクのパジャマを着たカーリンさんの方が可愛らしいですわ」


 きゃーっとカーリンに抱きつきながらククルが言う。

 まだ酒も回ってないのに何をしているんだこの娘は。もしかして、自分より小さい子を抱きしめるのが好きなのかククルは。私はよく抱きつかれるのにカヤ嬢(一歳年上、巨乳)にはそんなことしないし。


「確かに可愛らしいわねぇ。この短い髪も侍女ではあまり見ないから新鮮よね」


 ククルの腕の中にいるカーリンの髪を手櫛で梳きながらカヤ嬢も話に乗ってくる。カーリンはエメラルドグリーンに輝く髪をセミショートにしている。


「さ、お姉様」


 何かを期待するかのようにククルが私を促してくる。

 もう何だ。乗らなければ駄目なのか。


「……ああ、寝間着、よく似合っているよ」


「ですって。きゃー」


「あ、ありがとうございます」


 ククルの腕の中でぺこりとお辞儀してくるカーリン。

 きゃーじゃないよククル。まあ、まあまあ、じゃないよカヤ嬢何が嬉しいんだよ。


 何この私のホスト的な役割は。

 まあ他人行儀じゃ、場が始まらないのもわかるけれどもさあ。

 そもそもが、寝間着姿で一緒に夜を過ごすほど仲の良い友人達によって行われるのが、本来のパジャマパーティなわけだ。


 それにしてもカーリンよりククルとカヤ嬢の方が、この状況にすんなり馴染んでいるのが面白いな。

 寝間着で一室に集まるというのは、領地が離れていたり、王都で隣の屋敷と距離が離れていたりする貴族には馴染みが薄いだろう。

 前世では単語くらいしかまともに知り得なかったが、やはり気軽に一つの家に集まれる者同士で行うのが普通なのだろうか、パジャマパーティは。

 そうするとパジャマパーティが流行る下地は、この国でも市井の一般女子ならあるだろうな。


「はいカーリンさん、あーん」


「あ、あーん」


 ククルが自分お気に入りのチーズを手ずから食べさせようとしている。

 ふむん。

 やはりこういうもののブームは、雑誌などの広報が広めることによって流行が作られるのだろう。

 そういう意味ではパジャマパーティ――複数の友人達を集めてのお泊まり会という概念自体、この国には存在しない可能性も高い。


 広報の媒体と言えば、娯楽として私がゼリンに教えた漫画文化が広まってきている。やつの商才は恐ろしい。

 ただ、印刷技術の問題でまだ割高。紙の質が高い単行本は、成人男性一人の給料一日分程度の価格はする。

 安い粗悪な紙とインクで印刷される少女向けの娯楽漫画や、娯楽雑誌にパジャマパーティについて載れば流行るだろうか。いや、流行るな。ティニク商会のゼリンとはそういう男だ。


 と、なんで楽しいパーティで私は小難しいことを考えているんだ。

 しかし、だ。


「実際、パジャマパーティって何をすればいいのだろうね」


「ええー、パジャマパーティの大元はキリンお姉様ですよ?」


「私はククルから初めて聞きましたわ」


「私、商家の娘なので貴族の風習はそこまで詳しくないです」


「いや、貴族より市民向けの文化だと思うがね……」


 パジャマパーティ。前世男の私が知るのは、まず夜女子達が集まってパジャマに着替える(ここは合っている。アラサーも女子に含まれるところまで合ってる)。

 スナック菓子やジュースを広げたりする(目の前に広がるのは、どう見ても酒とおつまみばかりである)。

 夜の仲間内でしかできない噂話や遊びで盛り上がる(ここが不明。遊びはトレカがあるが前世の女子はやりそうにない。巨獣退治と蜘蛛の家畜化も女子がしそうな話ではない)。


「まあまあ、年若い女子が四人も集まってする話と言えば――」


「年若いに私も含めていいのか」


 一応カヤ嬢にツッコミを入れておく。

 年配の人からすると二十九などまだまだ若造だろうが、カヤ嬢達からすると立派なおばさんだ。


「話と言えば――もちろん恋バナですわ!」


 こ、恋バナかぁー。

 いやいや、そもそもこの集まりはカーリンの恋について話し合う場だった、そういえば。

 夕食を食べてお風呂でゆったりしている間に、頭から抜け出ていた。


「もちろん、キリンさんの恋の話ですわね」


「何故そうなる。カーリンの恋の話だ」


「つまりキリンさんにまつわる、恋の三角関係の話ってことですわね!」


 もうこの娘は……。

 青の騎士団長のところに収まれば大人しくなるのかなぁ、これ。

 親戚の婚姻話にもの凄い絡んでくるおばちゃんに将来なりそうで怖いぞ。


「キリンお姉様は、私の目が黒いうちはお嫁にやりません!」


 ククル、私か腕の中のカーリンかどっちかにしなさい。


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