第四章 二つの人影
だらだらと書いてみました…寝ぼけながら書いたので誤字脱字にご注意を
…ぴたっ
突如、目の前を風の如く翔けていた少女が動きを止めた。ぱっと砂埃が舞い上がる。
「あの場所に、誰かいる…」
フランス人形が指差した方向を見ると、二つの影が落ちていた。一つ目は、長い黒髪を風に靡かせながら、もう一つの影の方を見下ろしており、二つ目は明るい茶色の髪を耳の上あたりで、右と左に二つ、シニヨンに結っており、一つ目の影に闘志を剥き出しにしている。目を凝らすと両手両足は紐で縛られており、その近くに、小さな玉宝の様なものがついた、杖が転がっている。そして頬を伝う赤い雫…
「…隠れないと」
フランス人形が口を開いた。蒼く光る目は不安に揺れ動いている。
「あれは…あの縛られている女の子は中国人形よ…私達も見つかったら大変な事になるわ…あの女性はまだ幸い気付いていないようだから…」
その時、中国人形を見下ろしていた女が、鮮血の如く真っ赤に彩られた口元を吊り上げた。
「…こんなところで何をしているのかしら、お嬢さん達?」
ふふっ、と笑いながら女はこちらに近づいてきた。周りを巡っていた潮風が、氷の様に凍てつき、背中を撫でていく。隣に立つフランス人形も、顔を真っ青にして、その場に立ち尽くしている。
女が目の前までやってきた。改めて見ると、相手はこちらより年増のようだ。
「…嫌ねぇ、そんなに怯えないでちょうだいよ、まだ何もしてないじゃない!」
フランス人形の瞳はいつもの神秘的な蒼とは逆に怒りの感情を映し出したかのように赤色に染まったように見えた。そして、ついさっきまでの口調とは一転させて、感情的になって、答えた。
「何もしてないですって!?じゃあ、あの子は何?何なの!?」
フランス人形の声は、うわづっている。女は高らかに笑い声を上げた。それに呼応するように、波がより一層激しくなる。
「アハハハッ!!!あの子が暴れたから痛めつけてやっただけよ…それより…」
不敵な笑みが、顔いっぱいに広がる。ハッと息を呑む声が隣から聞こえた。
「お嬢さん達、戦士のお人形の事を知ってるかしら?私達にはそれが必要なの。それをこっちに渡してくれれば…そうねぇ、ミルは返してあげるわ」
「ミ…ミルをさらったのはあなたなのね!?」
女は、不敵な笑みを残したまま、頷いた。フランス人形の声は不安に曝されてどんどん崩れていく。
「だって、例の人形もあの子の持ち物だもの。持ち物のことは持ち物に聞いたほうが早いと思ってね、ねぇ、フランス人形さん?」
フランス人形陶器のように美しい顔を、強張らせたのがわかった。自分が元は人形だと悟られたのに恐怖を覚えたのか、それともこの問いには答えがたいのか……
「…そんな子は私の知ってる人形達の中には居なかったわ…」
「…あら、そう。ならもうあなたたちに興味は無いわ。さっさと目の前から消えてくれると有り難いんだけど?」
そういって、女は懐から短剣を取り出した。僅かに覗いた太陽が、刃先を鈍く輝かせる。私達は、一歩、また一歩と後退りした。焦燥が体の中を忙しく駆け回り始め、冷や汗となり、頬を伝った。
「…なーんてね」
また、紅に染まった口元を歪めて短剣を懐にしまい込んだ。
「あなたたちの為にこの大事なナイフを汚すわけにはいかないのよ。じゃあ、ここでサヨナラね。でもこの調子じゃ、また会うことになりそ……!?」
女が言葉を言い終える寸前に、地面が揺れ始めた。砂達がざわめき、まず、円を描き、その次に、円の内側に星の模様が描き出される。魔法陣だ。その中心には、例の女。魔法陣が徐々に熱を帯びていき、遂には、星の模様の部分から火柱が天に向かってそびえ立った。
「ふっ…最後まで貴女は悪ふざけがすぎるようね。折角、縛ってあげたのに台無しじゃないの。じゃ、アタシ、時間が無いからここで失礼するわ!ああ、またあの人に怒られちゃう…!」
女はその言葉を最後に、目の前から煙のように姿を消した。辺りに静寂が蘇り、ただ寄せる波の音が心の穢れを落としてくれているような錯覚に陥った。
「…くそっ逃げられた!!もう少しだったのに…」
中国人形が悔しそうに声を搾り出した。見ると、両手両足を縛っていた紐から抜け出し、手にはあの杖を持って、唇を強く噛んでいる。どうやらあの魔法陣を張ったのはこの少女のようだ。
「まったく…次会ったら殺してやるっ!…あっ、でもミルを返して貰えなくなっちゃうな…」
…どうやら、この少女に話を聞く必要がありそうだ。