第二章 記憶と真実
ーー私はあの少女を知っている。
心の中の小さな自分がそう告げた。同時に世界が暗転していく…
視界が晴れた。磯の匂いが仄かにまじった春の風が、髪を頬に纏わり付かせる。太陽は星屑のように小さく、辺りには背の高い草花が犇めき合っており、風がふくたびに大袈裟に笑いあう。
…なんとも不思議な光景だった。まるで体だけが小さくなってしまったような奇妙な光景。ただただ、ぼうっと眺めるしか成すすべはなかった。
見つめた先の、その向こうに、あの外国人の様な外見の少女が見えた。その横には紅色混じりの茶色の髪に、簡素なワンピースを身に着けた少女……私の姿も見える。二人とも草のカーテンに隠れるように鎮座している。
…いや、二体とも、といった方が正確であろう。
私は私の正体を思い出した。記憶のパズルの1ピースが繋がった。だがあまりにも受け入れがたい…あまりにも。
同時に魅入られたような瞳をした目の前の少女達の声が胸の中に響く。
「ミルはどこに行ったのかしら?」
あの外国人のような出で立ちをした少女の声。春の風に紛れるようにして消えていく。その声に呼応する、声。
「さぁ…?潮の匂いがするんだから海なんじゃない?きっと。」
「海…!なんて素敵なんてでしょう!私も行きたかったわ!」
会話が続く中、穏やかな春の風に一筋の不安が生まれた。辺りの草花が不穏にざわめきその音が心の隙間に染みる。
目が覚めた。目の前には一対の碧の瞳。目尻の涙に淡い輝きを讃えながらこちらを見下ろしている。金色の髪が顔にかかってくすぐったい。
「よかった…!死んじゃったかと思ったわ…!」
「……だったのね?」
声を絞り出して必死に私は問い掛ける。少女はあまり聞き取れなかったようで小首を傾げてこちらを見つめている。
「私達は…そう…あの少女…ミルの遊び道具。お人形…この事実に間違いはないのよね?」
スランプに陥りました作者です。文章構成、展開などおかしなところが多々ありますがお許し下さい。