プロローグ - 4000年目の空っぽ
私はヴァイオレット・クレイドルで生まれた。
私の星では、それはごく普通の技術だ。
私の星の名前は、紫霧の星。
地球の人間は、Kepler-452bと呼んでいるらしい。
地球の人間と違って、ここには人種なんてない。
みんな、たった一つの種族で、みんな赤い目をしている。
父の赤い目と、ブトン出身の母の青い目が混ざって、私と妹だけが持つ新しい色が生まれた。
紫霧の星では、痛みを感じることはない。
シーンと静まり返った世界で、ヴァイオレット・クレイドルの技術のおかげで、老化はとてもゆっくりだ。
食べ物だって、畑で育てるんじゃない。
3Dプリンターから出てくるだけだ。
母は、この星の平均寿命からすれば、ずっと早く死んだ。
母はよそ者だった。
母の細胞は、スッと、60歳で再生をやめた。
その病気は、今、妹のグレイも苦しめている。
母と父と妹が、目から水を流すのを見て、私は不思議に思った。
ポロポロと、どうして、みんな目から水を出すんだろう。
私は?
私は、この星のほとんどの人間と同じで、愛も、悲しみも、喜びも、感じたことがなかった。
母が去ったとき、どうして父と妹は、いつもと違う顔をするんだろうって、不思議に思った。
生き物の細胞が死ぬなんて、当たり前のことなのに。
3000歳になった父が、私を抱きしめて、感情とは何かという私の質問に答えてくれた。
そのとき、胸がドクンと鳴った。
初めての感覚だった。
紫霧の星の人間が、細胞の0.2パーセントの損傷を経験するのは初めてだった。
本来より1000年も早いことだった。
そして、それは父に起きた。
「地球へ行きなさい。お母さんが生まれた場所だ」
父はそう言った。
母と出会ってから、父の細胞は壊れ始め、「感情」という病気にかかったのだ。
紫霧の星では、普通の人間は4000年から5000年生きる。
その後、細胞は再生をやめ、生命のサイクルは何百万年も繰り返される。
母の細胞は「感情」で壊れた。
父も今、同じ病気だ。
私たちの技術なら、DNAを編集してそれを消し、母の寿命を延ばすこともできた。
でも、母は断った。
母は言った。
感じることの方が、時間よりも永遠なんだ、と。
今、私は地球へ行く。
心の中の問いへの答えを探しに。
胸の奥が、まだジーンと響いている。
私は、紫霧の星から来た、ノラ・ヴァイオレット・リエン。




