1-5 風スライムと水スライム
翌朝、再び『星屑の洞穴』へ向かった。
市場を見て回るのは午後にする。まず仕入れだ。早く素材を喰わせろとせっつくブラクベンに押し負けたのもあった。
洞穴の入口に立つと、昨日と同じひんやりとした空気が出迎えた。青白い光が、岩肌を照らしている。
『行くぞ、行くぞ!今日はたんまり喰わせろよ!』
「わかったよ。ほら、行くよ。」
小刀を左手に持ち直して、奥へ進んだ。
昨日と同じスライムが、今日も洞穴の中をゆらゆらと這っていた。
ブラクベンが動く。天井に張り付き、真上から落下し、壁を伝って回り込む。昨日覚えた動きを、今日はさらに迷いなく繰り出していた。スライムは次々と弾けて魔力の粒子に変わり、戦利品を床に残していく。
六体仕留めたところで、ブラクベンが止まった。
『おい、あっちに変なのがいるぞ。』
洞穴の奥を指している。昨日はただの壁に見えた場所に、人一人がどうにか通れるくらいの岩の裂け目が開いていた。ぽとり、ぽとりと水温が響いていた。
「そっちに行った方が良い?」
『新しいスライムだ!ギャハハハ!』
「ちょ、ちょっと!」
はしゃぐブラクベンに引っ張られるようにして、裂け目をくぐった。
空間が広がっていた。天井が高く、岩の隙間から外気が流れ込んでいるのか洞穴の奥とは思えない風が吹いている。水音の正体は、岩肌を伝って流れ落ちる細い滝だった。小さな水溜まりが、洞穴の端に光っている。
そして、いた。
通常のスライムよりひと回り大きい。薄緑の体の周囲にうっすらと気流が揺れているものが四体。透明に近い青で、体表が常に濡れているように光っているものが四体。
「風スライムと、水スライム……。」
素材図鑑で名前を見かけた、スライムの亜種だった。
『倒すぞ!喰うぞ!』
「やるか。」
風スライムが、先に動いた。
速い。通常のスライムとは比べ物にならない。体が空気を纏い、滑るように床を移動する。ブラクベンが天井に張り付く。迎撃しようとすると、風スライムはそれを読んだように軌道を変えた。
『しゃらくせぇ!』
ブラクベンがスライムを生成する。張り付いたブラクベンと天井との間に生成されたスライムは、行き場なく圧縮され、爆発した。そのエネルギーを利用して、吹き飛ぶように空を駆ける。
身体で風を感じながら、一気に距離を詰める。眼前の風スライムに小刀を突き刺す。勢いの乗った一撃は、風スライムを一撃で葬った。風スライムは粒子と化し、その場に薄緑のゼリーが残された。
『まだまだいくぜ!』
二体目は逃げようとして壁際に向かった。ブラクベンが天井を伝って真上に回り込み、落下して仕留める。
『次はオマエらだァ!』
三体目と四体目は固まって動いていた。二体同時に風を纏い、僕に向かって突進してくる。横に跳んで躱し、勢い余って壁に激突した二体に、右腕のブラクベンを叩きつけた。
『あっけねェ!ギャハハハ!』
風スライムは全滅した。
次は水スライムだ。
こちらは動きが遅い代わりに、体表から水を噴射してくる。ブラクベンがゼリーを使って天井へ向かうと、スライムは水を飛ばしてきた。体を大きく揺らして躱す。そのまま真上から落下して仕留めた。
『ヒュー!いい連携だァ!』
「ちょっとはやるでしょ?」
『これくらいは軽くこなしてもらわねェとなァ!ギャハハハ!』
ブラクベンとの迷宮探索もこれで二日目。彼——もしかしたらは彼女?——の意図も、ある程度理解できるようになってきた。
二体目は壁際で水を溜めていた。正面から突っ込むと見せかけて横に流れ、壁に右腕のブラクベンを張り付けさせる。そこを支点に、円を描くように大きく旋回し、水スライムの真横に回ると小刀を突き立てた。
『コソコソ、コソコソォ!』
三体目は岩陰に隠れていた。前回の戦闘でも使ったあれ。右手の指先をスライム状に変質させて裂け目に差し込み、引きずり出す。引きずり出した瞬間にブラクベンが押さえ込んで潰した。
『ラスト!』
四体目は水溜まりの近くにいた。慎重に間合いを詰め、水の噴射を横に躱した瞬間にブラクベンを。
『ギャハハハ!全滅だ!』
洞穴が静かになった。青白い光だけが、変わらず岩肌を照らしていた。
素材を一つずつ丁寧に回収した。
通常スライムの分。魔核がニ個、スライムゼリーが六個、粘液嚢が三個、スライム液が五個。
風スライムの分。風スライムの魔核が一個、風スライムゼリーが二個、軽量粘液嚢が一個、風スライム液が四個。
水スライムの分。残念ながら水スライムの魔核は確保できなかった。水スライムゼリーが三個、水性粘液嚢が二個、水スライム液が二個。
合計三十一個。麻袋がずしりと重くなった。
『おい、わかってるよな?早く喰わせろ!』
「もちろん。ちょっと落ち着いて……。」
袋を漁る。これと、これと、あとこれも……。七種類の素材を取り出した。
『美味い!』
「あっ、もう食べてる!」
ブラクベンは、僕の目を盗んで風スライムゼリーを捕食していた。どくりと右腕が熱を持った。
『ほら、ほら!さっさと次を寄越せ!』
「わかった、わかったから。」
風スライムの魔核、軽量粘液嚢、風スライム液を、するりと飲み込んだブラクベン。右腕の熱はさらに増し、びくりと一瞬痙攣した。
『――ギャハハハハハ!!いいぞいいぞいいぞォ!』
「随分はしゃいでいるね。」
『まだあるだろ?おれ、それだ!はやく!』
水スライムゼリーを食べさせる。どくりと熱が増す。
『ギャハハ!』
水性粘液嚢を食べさせる。どくん、どくんと鼓動する。もはや熱いほどブラクベンは興奮していた。
『ギャハハハ!』
水スライム液を——食べない。
『ギャハハハハハハ!!』
「熱っ……!」
右腕が、爆発するように熱くなった。
『ギャハハハ!マヌケめ!』
ぶちり。
右腕が剥がれ落ちた。ブラクベンが鎌首をもたげこちらを睨む。
『もう一回!反抗の時間だァ!』
【Tips】
『素材喰らいのブラクベン』捕食能力
風スライムゼリー:スライムを軽量化することができる。
風スライムの魔核:スライムに風属性を付与できる。
軽量粘液嚢:スライムの生成量が少し増える。
風スライム液:軽量化スライムを射出することができる。




